訴訟ホールド

訴訟ホールドというのは、、文書の保全義務が発生する(リティゲーションホールド/訴訟ホールド)一定の状態をいいます。これは、訴訟が合理的に予測される時に、発生すると考えられています。

もっとも、何が「訴訟が合理的に予測される」というかという問題があります。具体的には、(1)相手方弁護士もしくは政府機関からの保全要請の手紙(2)訴状のファイル(3)同業の会社が訴えられた、もしくは、調査を受けるなどの訴訟もしくは調査の脅威がある場合(4)訴訟に展開しうる問題があることを知った場合、がこの場合に該当すると考えられています。

訴訟ホールドは、以下に述べるように、「積極的に(affirmative)」手元の証拠を保全すべき義務というものです。

積極的に、というのは、手元のESIの範囲にわたって、その管理者に対して、積極的に、その保全義務を周知させ、保存を実際にさせなければならず、また、弁護士は、その手続を監視しなければならないということになります。そして、改変・消去が容易であるという性質をもつ電子的証拠であることに留意し、真正性についての異議に対応しうるようにしなければいけません。その上、どの範囲まで、これが及ぶのかというのについては、細心の注意を払わないといけません。

訴訟ホールドがどの範囲におよび、それをどのような手順で識別するのか、及んだ文書について、どのような手順を経て、提出までいくか、という点については、むしろ、実務編としてEDRMなどの標準的な手順を説明する時にふれるのがいいだろうと思われます。

民事訴訟規則に従った形で、開示を行わない場合、証拠の隠滅(Spoliation)とされることになります。

e-ディスカバリーにおいて適正な開示がなされていないと裁判所が認識した場合に、当事者は、開示を強制する申立をするとともに、種々の制裁を課すことを求めることができます(FRCP37条(a)3(A))。

具体的にe-ディスカバリーにおいて、

(あ)依頼者にたいして、開示の義務についての適切な指示をださなかったこと

(い)電子的文書を含む文書保存規定をもたないことを知っていたこと

(う)文書の提出を一般人になさしめたこと

場合などについては、隠滅と判断される可能性があります。

ここで、もっとも一般的に隠滅とされうる可能性のある場合についてみていきましょう。

上述の訴訟ホールドの時期に達して、保全義務が発生した以降は、コンピュータ文書については、現状を維持することじたい(上書き保存の場合など)でも文書の破壊が発生する点に注意しなければなりません。そして、たいていの企業は、バックアップ手続を採用しており、そのテープに対しても保全義務の対象となります。ですから、訴訟ホールドになったら、企業のIT管理者は、法律関係者と密接な関係を維持して、すみやかに訴訟ホールドを達成しないといけません。

また、これらの問題に対して、紛争状態に達した場合に、弁護士は、依頼者に対して具体的に保全すべき行為を教示しないといけないとされています。ですから、どのような場合に、この訴訟ホールド状態に達するのか、どのようなデータに対して、どのような保全を教示するのかということが問題になります。

一方、当事者とすると普段のコンプライアンス対応体制が、どれだけ整備されているのかを試されるということになります。たとえば、個人所有のハードウエアを会社の業務に用いるとしている場合に、その所有物に対しても、十分なホールドをなすことができるか、また、業務との関係で、SNSなどを公式の企業の意思公表システムとして利用しているとすれば、そのSNSなどでの活動を保全し、それこそ、上書き保存がなされないようにしなければなりません。どのようなハードにデータが記録されているのかという問題に加えて、どのようなデータが保全の対象となるのかということも考えないといけません。基本的には、事件に関連性あるすべてのデータが保全の対象になるので、メタデータなどについても、そのままの状態で保全されないといけないことになります。

また、保全方法についての教示という点からいえば、上述したように上書き保存じたいが、消去として認識されることは十分に注意しなければなりません。

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