コロナウイルス(Covid-19)とGDPR (28) 事業場と新型コロナウイルス(2)

前のエントリで、事業場とGDPRの関係をみてみました。
ところで、わが国で検討する際に、前提となる事項を、(順序が逆ですが)押さえておきたいと思います。

雇用主の義務

これについては、労働契約法5条

 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。

が根本的な定めになります。(なお、NBL1166 五三智仁 論文において、この部分が強調されています)
労働安全衛生法第22条も、

事業者は、次の健康障害を防止するため必要な措置を講じなければならない。
一 原材料、ガス、蒸気、粉じん、酸素欠乏空気、病原体等による健康障害

とさだめていますので、雇用主の義務として、新型コロナウイルスが事業場で蔓延したり、濃厚接触者が増えることを防止しなくてはならないというのが法的な義務であるということになるのは、当然ですね。

感染症に対する法的枠組

「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(以下、感染症法といいます)の12条

第十二条 医師は、次に掲げる者を診断したときは、厚生労働省令で定める場合を除き、第一号に掲げる者については直ちにその者の氏名、年齢、性別その他厚生労働省令で定める事項を、第二号に掲げる者については七日以内にその者の年齢、性別その他厚生労働省令で定める事項を最寄りの保健所長を経由して都道府県知事に届け出なければならない。
(略)

は、陽性患者の情報がどのような位置づけになるのかという観点から覚えておくべき情報ですね。
また、同法15条

(感染症の発生の状況、動向及び原因の調査)
第十五条 都道府県知事は、感染症の発生を予防し、又は感染症の発生の状況、動向及び原因を明らかにするため必要があると認めるときは、当該職員に一類感染症、二類感染症、三類感染症、四類感染症、五類感染症若しくは新型インフルエンザ等感染症の患者、疑似症患者若しくは無症状病原体保有者、新感染症の所見がある者又は感染症を人に感染させるおそれがある動物若しくはその死体の所有者若しくは管理者その他の関係者に質問させ、又は必要な調査をさせることができる。

となっているのもマストな条文です。これによって保険所の調査が、法的な根拠をもった調査ということになります。前のエントリでは、これによって「国の機関等からの情報提供の要請のある場合」となるので、「公衆衛生の目的のために当局と健康データを共有することができますか?」という質問に対して、「Yes」となるわけですね。
あと、新型コロナウイルスの法的な位置づけです。これについては、新型コロナウイルス感染症を指定感染症として定める等の政令(令和2年政令第11号) などによって 疑似症患者への適用 無症状病原体保有者への適用 診断、死亡したときの医師による届出、積極的疫学調査の実施、健康診断受診の勧告・実施 就業制限、入院の勧告・措置 検体の収去・採取等 汚染された場所の消毒、物件の廃棄等、死体の移動制限 などの適用かなされることになりました。
これらの情報をもとに、個別の質問について考えていきましょう。
Bird&Bird のチャートでは、個別の質問として

  • 従業員/訪問者/ギグワーカー(以下、同じ)に症状があるかどうかを聞いてもいいのでしょうか?
  • 従業員等の旅行歴について尋ねることはできますか?
  • 従業員等の体温を測定することを義務づけることは可能ですか?
  • 従業員等の家庭に陽性者がいるか、もしくは症状を有している者があるかということについて質問することはできますか?
  • 従業員等が、新型コロナウイルス感染症で陽性であると診断された場合、通知を求めることはできますか?
  • オフィスが開いていても、従業員等に在宅勤務を要求することはできますか?

という質問がなされています。
これらの質問について、どのように考えていくのか、というのは、次のエントリでみていきましょう。

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