国家支援によるサイバー諜報行為 1

(1)インテリジェンス活動の範囲

現在(2014年)において、一番、情報セキュリティのなかで注目を浴びていることの一つは、国家支援によるサイバー諜報行為の法的な取り扱いということになるかと思います。

この点については、その背景に国家の関与がうかがわれることも関係して、「サイバー戦争」であるとか「サイバースパイ」「サイバーテロ」などの表現がなされています。また、「あらたな」攻撃手法であるという認識も示されることがあります。しかしながら、高橋としては、これらの攻撃は、国家に帰属しうる「(最広義の)インテリジェンス行為」たる性質をもつものであると認識することが重要であると考えます。

すなわち、「新たな」サイバー攻撃の種類と認識するもののではなく、従来から議論されてきた「(最広義の)インテリジェンス行為」が、社会の情報社会化にともなって情報通信技術を伴ったものに進化(いわゆるサイバー化といえよう)したという本質をもつものととらえるのです。

「(最広義の)インテリジェンス行為」(以下、「インテリジェンス行為」という)の位置づけを考える必要があります。「インテリジェンス」という概念は、きわめて広い概念です。

「サイバースペースの脅威に関する情報の収集、加工、統合、分析、評価、解釈の結果またはそのプロセス」をサイバーインテリジェンスと定義することができます。そして、この情報に関するプロセスを超えた部分であって、従来、諜報活動として議論されている分野については、非公然活動という分野として議論されています。

そして、実際に、現実社会における国家の非公然活動としては、「軍事的活動」「クーデター」「経済活動」「政治的活動」「プロパガンダ」などの段階の行為があり、

具体的には

(あ)軍事的・准軍事的非公然活動

機密情報収集(盗聴、探知等)・間接的行動(諜報活動支援、武器販売、助言、心理作戦等)・直接的行動(爆弾テロ、暗殺、急襲、サボタージュ、侵入)

(い)経済的非公然活動

機密情報収集、虚偽国旗掲揚船舶による迂回輸出、情報攪乱、情報システムへの侵入その破壊、通貨不安の惹起

(う)イデオロギー的非公然活動

放送、技術支援、ジャミング、情報攪乱、ジャーナリストと新聞の買収

(え)外向的・政治的非公然活動

公然の情報収集、機密情報収集、間接的行動、直接行動

などを含むものです。(Wマイケル・リースマン、ジェームズ・E.ベーカー著 宮野洋一・奥脇直也訳「国家の非公然活動と国際法 秘密という幻想」(中央大学出版部、1999)19頁による。 なお、松隈清「平和時におけるスパイ活動の国際法的側面」(八幡大学法律研究所報、1968)は、他国の領域に侵入して行うスパイ活動(諜報活動と謀略活動)、他国への領域へ潜入せずして行うスパイ活動にわけて論じる(同59頁)。)

(2)概念の相違

「インテリジェンス」に類似する概念として、「スパイ」「エスピオナージ」などがあります。

「スパイ」とは、「秘密に敵もしくはライバル国の秘密もくしは機密の情報を取得する行為もしくはそれに従事する者」といえます。サイバースペース上を通じて(法的には、電気通信回線を用いて)、「スパイ」をする行為を「サイバースパイ」ということができます。これは、「サイバーエスピオナージ」というのとほとんど同義です。「エスピオナージ」は、敵もしくはライバル国の秘密もくしは機密の情報を取得する行為と定義され、上記のスパイのうち、行為の部分を指し示すものとなります。

これらの行為は、通常は、非公然行為としてなされますが、必ずしもそのような場合のみをいうわけではありません。

また、これらの用語が、情報収集のみを意味するものにたいして、上記のインテリジェンスが最広義においては、準軍事的・政治的な動き(暗殺、クーデター、選挙改変)なども含む点が大きく異なることになります。

また、インテリジェンスは、取得のみならず分析を含むのに対して、エスピオナージは、取得のみを対象とする用語になります。

国家もしくは、その支援を受けた組織が、サイバー的な手法を用いて国防産業などの重要な秘密を奪っていくというのは、サイバーエスピオナージでもあり、サイバーインテリジェンスでもあります。その一方で、発電所を誤運用させて、爆発させて、被害をもたらすとか、軍事用にも利用できる救急車の運用システムを混乱させるという行為は、サイバーエスピオナージには該当しないが、サイバーインテリジェンスになるということになるでしょう。

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