ポーランドのDuda 大統領が、“Polish president calls war in Ukraine “terrorism”, demands justice”と発言したとのことなので、武力紛争におけるテロリズムについて、ちょっとメモします。
なお、CNNは「ポーランド大統領、ロシアのウクライナ侵攻は「戦争ではなくテロ」」としてツイッターへの投稿で、
これは戦争ではない。兵士が民間人を殺害するために送り込まれているとき、これはテロ行為だ
とし、戦争として受けとることはできないと指摘した。としていますが、同大統領のツイッターアカウントでは、そのようなツイートはわかりませんでした。
CNN の用語法だと、戦争とテロ行為とは、択一的(selective)な概念とされていますが、これは、法的には、両立しうる概念になります。
以下、国際法におけるテロリズムの概念をみていきます。
「テロリズムに対する資金供与の防止に関する国際条約」”International Convention for the Suppression of the Finanncing of Terrorism”(1999年12月9日採択、2002年4月10日発効)があります。
この条約の意義としては
この条約は、一定のテロリズムの行為を行うために使用される資金を提供し又は収集する行為を犯罪として定め、その犯罪につい ての裁判権の設定、その犯罪に使用された資金の没収等につき規定するものである。我が国がこの条約を締結することは、テロリズ ムに対する資金供与の防止に関する国際協力の強化に資するとの見地から有意義であると認められる。
条約の締結により我が国が負うこととなる義務
この条約の締結により我が国は、以下の主要な義務を負うことになります。
- 一定のテロリズムの行為を行うために使用されることを意図して又は知りながら資金を提供し又は収集する行為、その未遂、そ のような行為に加担する行為等について、その重大性を考慮した適当な刑罰を科することができるようにする。これらの行為が我が国の領域内で行われる場合、これらの行為が我が国の船舶内又は航空機内で行われる場合、これらの行為が我が国の国民によっ て行われる場合及び容疑者が我が国の領域内に所在し、かつ、この条約に従って裁判権を設定した他の締約国にその容疑者を引き 渡さない場合において、我が国の裁判権を設定するため、必要な措置をとる。
- 我が国の法的原則に従い、の犯罪の実行を目的として使用された資金等の没収等を行うための適当な措置をとる。
- 容疑者が我が国の領域内に所在し、かつ、この条約に従って裁判権を設定したいずれの締約国に対してもその容疑者を引き渡さ ない場合には、訴追のため我が国の権限のある当局に事件を付託するの犯罪を引渡犯罪とする。
テロリズムの概念
同2条が、犯罪の構成要件になります。
1その全部又は一部が次の行為を行うために使用されることを意図して又は知りながら、手段のいかんを問わず、直接又は間接に、不法かつ故意に、資金を提供し又は収集する行為は、この条約上の犯罪とする。
(a)附属書に掲げるいずれかの条約の適用の対象となり、かつ、当該いずれかの条約に定める犯罪を構成する行為
(b)文民又はその他の者であって武力紛争の状況における敵対行為に直接に参加しないものの死又は身体の重大な傷害を引き起こすことを意図する他の行為。ただし、当該行為の目的が、その性質上又は状況上、住民を威嚇し又は何らかの行為を行うこと若しくは行わないことを政府若しくは国際機関に対して強要することである場合に限る。
(b)の用語法は、テロリズムの行為が、武力紛争の際になされることが前提とされています。
ちなみに付属書の条約は、
- 航空機の不法な奪取の防止に関する条約
- 民間航空の安全に対する不法な行為の防止に関する条約
- 国際的に保護される者(外交官を含む。)に対する犯罪の防止及び処罰に関する条約
- 人質をとる行為に関する国際条約
- 核物質の防護に関する条約
- 民間航空の安全に対する不法な行為の防止に関する条約を補足する国際民間航空に使用される空港における不法な暴力行為の防止
に関する議定書 - 海洋航行の安全に対する不法な行為の防止に関する条約
- 大陸棚に所在する固定プラットフォームの安全に対する不法な行為の防止に関する議定書
- テロリストによる爆弾使用の防止に関する国際条約
があげられています。
1995年2月17日「国際テロリズム撲滅のための方法」決議
国際連合は、1995年2月17日に「「国際テロリズム撲滅のための方法」決議において、
国連加盟国は,全てのテロ行為、方法、実行を犯罪として、そして正当化不能なものとして、誰によってなされたものであろうと、国家そして人民間の友好関係を脅かすもの、国家の安全および領土的一体性を脅かすものを含み、その無条件の非難を厳粛に承認する。
としています。
学説的には、
- 清水隆雄「テロリズムの定義-国際犯罪化への試み」レファレンス55巻10号(2005) 38頁
- 五十嵐宙「テロリストに対する武力行使と国際法」青山法学論集第51巻第1・2号合併号(2009)223頁
があります。
第一に、当該行為が囲内法システムにおいて犯罪行為を構成すること、第二に,政府の政策を脅かす・強制する・もしくは影響を与えるために,文民の聞に恐怖を広げる目的でなされること、第三に、それが政治的・イデオロギー的な動機に基づくことが要件であるとまとめられています。
おまけ 戦争という用語は、法律用語としては使われないこと
上の記者会見で「戦争」という用語が使われたのに関して
「戦争」、「紛争」、「武力の行使」等の違いに関する質問主意書が国会で出ていました(平成13年12月3日)。答弁はこちらです。
憲法9条1項の
「戦争」とは、伝統的な国際法上の意味での戦争、すなわち、国家の間で武力を行使し合うという国家の行為をいう
とされています。が、現在、国際法では、武力紛争という用語を用いるようになってきています。国連憲章が、もはや戦争という用語を用いていないこと、1949年のジュネーブ諸条約でも同様でること、宣戦布告などの形式的意味での戦争をもとに考えていたのが、そのような形式を求めることが意味がないという認識が一般化したこと、などによると理解しています。
ということで、日本国憲法では戦争という用語が残っていますが、専門家的には、使わない方がいいだろうという認識をしています。