安全保障推進法案のスライドを作ってみる

「シン・経済安保」(日経BP社)が好評発売中です。が、時間的な制限から、「経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律」案(経済安全保障推進法案)を、その内容について詳細に追加することはできませんでした。

国会提出法案に関して、リンクは、以下になります。

具体的な検討として、条文をみていくことにします。もっとも、経済安保というのは、アンブレラ的な概念になりますので、この法案で議論されているのは、ほんの一部ということがいえるかと思います。さらに、ロシアのウクライナ侵略によって、また、経済安保の様相が変化しているのではないかということもいえるかもしれません。その点については、また、日を改めて議論したいと思います。

構造は、第1章 総則 、第2章 特定重要物資の安定的な供給の確保、第3章 社会基盤役務の安定的な提供の確保、第4章特定重要技術の開発支援、第5章 特許出願の非公開 、第6章 雑則、第7章 罰則となっています。これをすると以下のような感じに思えます。

総則

目的(1条)で、目的を特定して、その背景が具体的な示されています。そのために4つのの施策をこの法の中に記載しています。

背景

  • 国際情勢の複雑化、社会経済構造の変化等

安全保障を確保する

  • 経済活動に関して行われる国家及び国民の安全を害する行為を未然に防止する重要性が増大している、

目的

安全保障の確保に関する経済施策を総合的かつ効果的に推進すること

手段

経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する基本的な方針を策定す

安全保障の確保に関する経済施策

  • 特定重要物資の安定的な供給の確保
  • 特定社会基盤役務の安定的な提供の確保に関する制度
  • 特定重要技術の開発支援
  • 特許出願の非公開に関する制度創設

第2条は、基本方針です。

政府は、経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する基本的な方針(以下「基本方針」という。)を定めなければならない。(2条1項)

としています。この基本方針は、

  1. 経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する基本的な事項
  2. 特定重要物資(第七条に規定する特定重要物資をいう。第六条において同じ。)の安定的な供給の確保及び特定社会基盤役務(第五十条第一項に規定する特定社会基盤役務をいう。第四十九条において同じ。)の安定的な提供の確保並びに特定重要技術(第六十一条に規定する特定重要技術をいう。第六十条において同じ。)の開発支援及び特許出願の非公開(第六十五条第一項に規定する特許出願の非公開をいう。)に関する経済施策の一体的な実施に関する基本的な事項
  3. 安全保障の確保に関し、総合的かつ効果的に推進すべき経済施策(前号に掲げるものを除く。)に関する基本的な事項
  4. 前三号に掲げるもののほか、経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関し必要な事項

を定めるものとしています。

3条においては、閣総理大臣は、安全保障の確保に関する経済施策の総合的かつ効果的な推進のため特に必要があると認めるときは、関係行政機関の長に対し、必要な勧告をし、又はその勧告の結果とられた措置について報告を求めることができるという権限(2項)を中心に、関係行政機関の長に対し、必要な資料又は情報の提供、説明、意見の表明その他必要な協力を求めることができる権限(1項)、情報提供の権限(3項)が明らかにされています。

4条は、安全保障の確保に関する経済施策を総合的かつ効果的に推進する責務をおうことを明らかにし(1項)、関係行政機関の相互の協力義務(2項)、資金の確保その他の措置の努力義務(3項)が定められています。

留意事項(5条)は、安全保障を確保するため合理的に必要と認められる限度において行わなければならないとされています。

第2章 特定重要物資の安定的な供給の確保

国民の生存や、国民生活・経済活動に甚大な影響のある物資の安定供給の確保を図るため、特定重要物資の指定、民間事業者の計画の認定・支援措置、特別の対策としての政府による取組等を措置。

構造としては、安定供給確保基本指針等(第1節)、供給確保計画(第2節)、株式会社日本政策金融公庫法の特例(第3節)、中小企業投資育成株式会社法及び中小企業信用保険法の特例(第4節)、特定重要物資等に係る市場環境の整備(第5節)、安定供給確保支援法人による支援(第6節)、安定供給確保支援独立行政法人による支援(第7節)、特別の対策を講ずる必要がある特定重要物資(第8節)、雑則(第9節)からなります。

概要によると、

  • 特定重要物資の指定
  • 事業者の計画認定・支援措置
  • 政府による取組
  • その他

からなります。

2.1 特定重要物資の指定

第7条は、「特定重要物資の指定」をなしています。

ここで、「特定重要物資」というのは、

国民の生存に必要不可欠な若しくは広く国民生活若しくは経済活動が依拠している重要な物資(プログラムを含む。以下同じ。)又はその生産に必要な原材料、部品、設備、機器、装置若しくはプログラム(以下この章において「原材料等」という。)

であって、

外部に過度に依存し、又は依存するおそれがある

ものをいいます。この場合、

外部から行われる行為により国家及び国民の安全を損なう事態を未然に防止する

必要があるので、

当該物資等の安定供給確保を図ることが特に必要と認められるときは、政令で、当該物資を特定重要物資として指定するものとする。 

とされています(以上7条)。なお、以下の仕組みでも安定供給確保を図ることが困難であると認める場合には、特別の対策を講ずる必要がある特定重要物資として指定の規定が準備されています(44条)。

このために

当該物資若しくはその生産に必要な原材料等(以下この条において「物資等」という。)の生産基盤の整備、供給源の多様化、備蓄、生産技術の導入、開発若しくは改良その他の当該物資等の供給網を強じん化するための取組又は物資等の使用の合理化、代替となる物資の開発その他の当該物資等への依存を低減するための取組

が必要となるのです。

2.2 事業者の計画認定・支援措置

このためにひとつの柱は、事業者の計画認定と、そのための支援措置になります。

事業者の計画認定

この事業者の、支援措置その実施しようとする特定重要物資等の安定供給確保のための取組に関する計画は、「供給確保計画」と呼ばれます。そして、これは、主務省令で定めるところにより、主務大臣に提出して、その認定を受けることができるとされます(9条1項)。

この認定を受けた事業者は、認定供給確保事業者となります。

この計画の記載事項は、

  1. 安定供給確保を図ろうとする特定重要物資等の品目
  2. 取組の目標
  3. 取組の内容及び実施期間
  4. 取組の実施体制
  5. 取組に必要な資金の額及びその調達方法
  6. 取組を円滑かつ確実に実施するために行う措置
  7. 取組に関する情報を管理するための体制
  8. 供給確保計画の作成者における当該特定重要物資等の調達及び供給又は使用の現状
  9. 前各号に掲げるもののほか、主務省令で定める事項

になります。

認定供給確保事業者の支援措置

安定供給確保支援法人等による助成やツーステップローン等の支援が準備されています。

安定供給確保支援法人等による助成

安定供給確保支援法人というのは、一般社団法人、一般財団法人その他主務省令で定める法人であって、「安定供給確保支援業務」に関して、

  1. 安定供給確保支援業務を適正かつ確実に実施することができる経理的基礎及び技術的能力を有するものであること。
  2. 安定供給確保支援業務の実施体制が安定供給確保基本指針に照らし適切であること。
  3. 安定供給確保支援業務以外の業務を行っている場合にあっては、その業務を行うことによって安定供給確保支援業務の適正かつ確実な実施に支障を及ぼすおそれがないものであること。
  4. 前三号に掲げるもののほか、安定供給確保支援業務を適正かつ確実に実施することができるものとして、主務省令で定める基準に適合するものであること

適合すると認められるものをいいます(31条1項)。

この「安定供給確保支援業務」というのは、

  1. 認定供給確保事業者が認定供給確保事業を行うために必要な資金に充てるための助成金を交付すること。
  2. 認定供給確保事業者が認定供給確保事業を行うために必要な資金の貸付けを行う金融機関(第三十三条第二項第四号において「貸付金融機関」という。)に対し、利子補給金を支給すること。
  3. 安定供給確保支援業務の対象とする特定重要物資等の安定供給確保に関する情報の収集を行うこと。
  4. 安定供給確保支援業務の対象とする特定重要物資等の安定供給確保のために必要とされる事項について、当該特定重要物資等の安定供給確保を図ろうとする者の照会及び相談に応ずること。
  5. 前各号に掲げる業務に附帯する業務を行うこと。

この主務大臣は、安定供給確保基本指針及び安定供給確保取組方針に基づき、主務省令で定めるところにより、安定供給確保支援法人として、申請により、特定重要物資ごとに指定することができるとされています(31条3項)。

「安定供給確保支援法人基金」がもうけられて、交付を受けた補助金をもって充当されます。この基金は、

  • 外部から行われる行為により国家及び国民の安全を損なう事態を未然に防止するために実施する特定重要物資等の安定供給確保のための取組に係る業務であって、特定重要物資等の安定供給確保のために緊要なもの、
  • 複数年度にわたる業務であって、各年度の所要額をあらかじめ見込み難く、弾力的な支出が必要であることその他の特段の事情があり、あらかじめ当該複数年度にわたる財源を確保しておくことがその安定的かつ効率的な実施に必要であると認められるもの、

にあてられる基金になります。

2.3 政府の支援措置

これは、上記でふれた特別の対策を講ずる必要がある特定重要物資についての取組をさします。

この場合には、主務大臣は、指定の権限を有しており、指定がなされたときは公示がされます(同3項)。主務大臣は、このような特定重要物資又はその生産に必要な原材料等について、備蓄その他の安定供給確保のために必要な措置を講ずるものとされます(同6項)。

また、この仕組み以外にも、日本政策金融公庫や指定金融機関等による供給確保促進円滑化業務や供給確保促進業務についての定め(13条-25条)、中小企業投資育成株式会社法の特例(27条)、中小企業信用保険法の特例(28条)などの定めがなされています。

また、

  • 特定重要物資(国民の生存に必要不可欠なものとして政令で定めるものに限る。以下この項において同じ。)又はその生産に必要な原材料等の供給が不足し、又は不足するおそれがある場合
  • 価格が著しく騰貴したことにより、国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きい場合

当該事態に対処するため特に必要があると認めるときは、

政令で定めるところにより、必要な条件を定めて第六項の規定に基づき保有する当該特定重要物資又はその生産に必要な原材料等を時価よりも低い対価であって、価格が騰貴する前の標準的な価格として政令で定める価格で譲渡し、貸し付け、又は使用させることができる

ものとされています。

また、備蓄についての施設管理者の規定も整備されています(45条)。

2.4 その他

第2章 第9節は、雑則として、資料の提出等の要求(46条)、物資の生産、輸入又は販売の事業を行う個人又は法人その他の団体に対し、当該物資又はその生産に必要な原材料等の生産、輸入、販売、調達又は保管の状況/調査の求めに必要な事項に関し必要な報告又は資料の提出を求めることができるとされています(48条)

第3章 特定社会基盤役務の安定的な提供の確保

これは、基幹インフラの重要設備が我が国の外部から行われる役務の安定的な提供を妨害する行為の手段として使用されることを防止するため、重要設備の導入・維持管理等の委託の事前審査、勧告・命令 等を措置をさだめるものです。

3.1 基礎

基礎的な仕組みとしては、特定社会基盤役務基本指針、特定社会基盤事業者の指定があります。

3.1.1 特定社会基盤役務基本指針

政府は、以下の事項を特定社会基盤役務基本指針として定めるものとされています(49条1項)。

  1. 特定妨害行為の防止による特定社会基盤役務の安定的な提供の確保に関する基本的な方向に関する事項(特定妨害行為の具体的内容に関する事項を含む。)
  2. 特定社会基盤事業者の指定に関する基本的な事項(当該指定に関し経済的社会的観点から留意すべき事項を含む。)
  3. 特定社会基盤事業者に対する勧告及び命令に関する基本的な事項
  4. 特定妨害行為の防止による特定社会基盤役務の安定的な提供の確保に当たって配慮すべき事項(重要維持管理等を定める主務省令の立案に当たって配慮すべき事項を含む。)
  5. 特定妨害行為の防止による特定社会基盤役務の安定的な提供の確保に関し必要な特定社会基盤事業者その他の関係者との連携に関する事項
  6. 前各号に掲げるもののほか、特定妨害行為の防止による特定社会基盤役務の安定的な提供の確保に関し必要な事項

ここで、キーとなる概念が、特定妨害行為となるわけですが、これは、

特定重要設備の導入又は重要維持管理等の委託に関して我が国の外部から行われる特定社会基盤役務の安定的な提供を妨害する行為をいう。

とされています(52条2項2号ハ)。

3.1.2 特定社会基盤事業者の指定

今一つの重要な概念は、特定社会基盤事業者です。これは

国民生活及び経済活動の基盤となる役務であって、その安定的な提供に支障が生じた場合に国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれがあるものをいう

とされます。これらの事業者のうち、特定重要設備の機能が停止し、又は低下した場合に、その提供する特定社会基盤役務の安定的な提供に支障が生じ、これによって国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きいものとして主務省令で定める基準に該当する者を特定社会基盤事業者として指定するとされています(50条)。

ここで、特定重要設備とは

特定社会基盤事業の用に供される設備、機器、装置又はプログラムのうち、特定社会基盤役務を安定的に提供するために重要であり、かつ、我が国の外部から行われる特定社会基盤役務の安定的な提供を妨害する行為の手段として使用されるおそれがあるものとして主務省令で定めるもの

をいいます。

上で指定される事業は、具体的には、以下の14の事業です。

  1. 電気事業法(昭和三十九年法律第百七十号)第二条第一項第十六号に規定する電気事業
  2. ガス事業法(昭和二十九年法律第五十一号)第二条第十一項に規定するガス事業
  3. 石油の備蓄の確保等に関する法律(昭和五十年法律第九十六号)第二条第五項に規定する石油精製業及び同条第九項に規定する石油ガス輸入業
  4. 水道法(昭和三十二年法律第百七十七号)第三条第二項に規定する水道事業及び同条第四項に規定する水道用水供給事業
  5. 鉄道事業法(昭和六十一年法律第九十二号)第二条第二項に規定する第一種鉄道事業
  6. 貨物自動車運送事業法(平成元年法律第八十三号)第二条第二項に規定する一般貨物自動車運送事業
  7. 海上運送法(昭和二十四年法律第百八十七号)第二条第四項に規定する貨物定期航路事業及び同条第六項に規定する不定期航路事業のうち、主として本邦の港と本邦以外の地域の港との間において貨物を運送するもの
  8. 航空法(昭和二十七年法律第二百三十一号)第二条第十九項に規定する国際航空運送事業及び同条第二十項に規定する国内定期航空運送事業
  9. 空港(空港法(昭和三十一年法律第八十号)第二条に規定する空港をいう。以下この号において同じ。)の設置及び管理を行う事業並びに空港に係る民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律(平成十一年法律第百十七号)第二条第六項に規定する公共施設等運営事業
  10. 電気通信事業法(昭和五十九年法律第八十六号)第二条第四号に規定する電気通信事業
  11. 放送事業のうち、放送法(昭和二十五年法律第百三十二号)第二条第二号に規定する基幹放送を行うもの
  12. 郵便事業
  13. 金融に係る事業(イ 銀行法第二条第二項各号に掲げる行為のいずれかを行う事業、ロ保険業法(平成七年法律第百五号)第二条第一項に規定する保険業、ハ 金融商品取引法(昭和二十三年法律第二十五号)第二条第十七項に規定する取引所金融商品市場の開設の業務を行う事業、同条第二十八項に規定する金融商品債務引受業及び同法第二十八条第一項に規定する第一種金融商品取引業、ニ 信託業法(平成十六年法律第百五十四号)第二条第一項に規定する信託業、ホ 資金決済に関する法律(平成二十一年法律第五十九号)第二条第十項に規定する資金清算業及び同法 第三条第五項に規定する第三者型前払式支払手段(同法第四条各号に掲げるものを除く。)の発行の業務を行う事業、ヘ 預金保険法(昭和四十六年法律第三十四号)第三十四条に規定する業務を行う事業及び農水産業協同組合貯金保険法(昭和四十八年法律第五十三号)第三十四条に規定する業務を行う事業、ト 社債、株式等の振替に関する法律(平成十三年法律第七十五号)第三条第一項に規定する振替業、チ 電子記録債権法(平成十九年法律第百二号)第五十一条第一項に規定する電子債権記録業)
  14. 割賦販売法(昭和三十六年法律第百五十九号)第二条第三項に規定する包括信用購入あっせんの業務を行う事業

3.2 特定重要設備の導入・維持管理等の委託の事前審査

3.2.1 導入等計画書の届出

特定社会基盤事業者は、

  • 他の事業者から特定重要設備の導入を行う場合、又は
  • 他の事業者に委託して「重要維持管理等」を行わせる場合

には、主務省令で定めるところにより、あらかじめ、当該特定重要設備の導入又は重要維持管理等の委託に関する計画書(「導入等計画書」)を作成し、主務省令で定める書類を添付して、これを主務大臣に届け出なければならない、とされています(52条)

ここで、重要維持管理等というのは、

特定重要設備の維持管理若しくは操作(当該特定重要設備の機能を維持するため又は当該特定重要設備に係る特定社会基盤役務を安定的に提供するために重要であり、かつ、これらを通じて当該特定重要設備が我が国の外部から行われる特定社会基盤役務の安定的な提供を妨害する行為の手段として使用されるおそれがあるものとして主務省令で定めるもの)

をいいます。

この導入等計画書の記載事項は、

一特定重要設備の概要

二特定重要設備の導入を行う場合にあっては、次に掲げる事項

          • イ 導入の内容及び時期
          • ロ 特定重要設備の供給者に関する事項として主務省令で定めるもの
          • ハ 特定重要設備の一部を構成する設備、機器、装置又はプログラムであって特定妨害行為(特定重要設備の導入又は重要維持管理等の委託に関して我が国の外部から行われる特定社会基盤役務の安定的な提供を妨害する行為をいう。以下この章において同じ。)の手段として使用されるおそれがあるものに関する事項として主務省令で定めるもの

三 特定重要設備の重要維持管理等を行わせる場合にあっては、次に掲げる事項

          • イ重要維持管理等の委託の内容及び時期又は期間
          • ロ重要維持管理等の委託の相手方に関する事項として主務省令で定めるもの
          • ハ重要維持管理等の委託の相手方が他の事業者に再委託して重要維持管理等を行わせる場合にあっては、当該再委託に関する事項として主務省令で定めるもの

四 前三号に掲げるもののほか、特定重要設備の導入又は重要維持管理等の委託に関する事項として主務省令で定める事項

となります。

3.2.2 主務大臣の審査

主務大臣は、当該導入等計画書に係る特定重要設備が特定妨害行為の手段として使用されるおそれが大きいかどうかを審査します(52条4項)。

上記届出以降、主務大臣が当該届出を受理した日から起算して30日を経過する日までは、当該導入等計画書に係る特定重要設備の導入を行い、又は重要維持管理等を行わせてはならないとされています(同条3項)し、勧告・命令のため必要があると認める時は、この期間を延長することができます(同条4項)。

3.3 勧告・命令
3.3.1 勧告

審査の結果、特定妨害行為の手段として使用されるおそれが大きいと認めるときは、当該届出をした特定社会基盤事業者に対し、当該導入等計画書の内容の変更その他の特定妨害行為を防止するため必要な措置を講じた上で当該導入等計画書に係る特定重要設備の導入を行い、若しくは重要維持管理等を行わせるべきこと又はこれらを中止すべきことを勧告することができる(52条6項)。

勧告がなされた場合、特定社会基盤事業者は、勧告を応諾するかしないか及び応諾しない場合にあってはその理由を通知しなければならないを通知します。

応諾する場合
  • 勧告に係る変更を加えた導入等計画書を主務大臣に届け出た上で、当該導入等計画書に基づき特定重要設備の導入を行い、若しくは重要維持管理等を行わせる
  • 当該勧告に係る導入等計画書に係る特定重要設備の導入若しくは重要維持管理等の委託を中止する
応諾しない場合
  • 正当な理由のある場合
  • 正当な理由のない場合->中止命令(3.3.2)ができる

なお、経過措置(53条)、導入計画書の変更(54条)等の規定がある。

3.3.2 命令

勧告に応じない場合

  • 当該勧告に係る変更を加えた導入等計画書を主務大臣に届け出た上で、当該導入等計画書に基づき特定重要設備の導入を行い、若しくは重要維持管理等を行わせるべきこと、又は
  • 当該勧告に係る導入等計画書に係る特定重要設備の導入若しくは重要維持管理等の委託を中止すべきこと

を命ずることができる(52条10項)。

3.3.3 導入後の勧告および命令

導入後について

国際情勢の変化その他の事情の変更により、当該導入等計画書に係る特定重要設備が特定妨害行為の手段として使用され、又は使用されるおそれが大きいと認めるに至ったとき

必要な措置をとる勧告の権限がある(55条)。緊急導入等届出書の場合も同様。

3.3.4 報告徴収および立入検査等

主務大臣の権限

  • 特定社会基盤事業を行う者に対し、当該特定社会基盤事業に関し必要な報告又は資料の提出を求めることができる (58条1項)
  • 特定社会基盤事業者の事務所その他必要な場所に立ち入り、当該特定社会基盤事業に関し質問させ、若しくは帳簿、書類その他の物件を検査させることができる(同条2項)

第4章 特定重要技術の開発支援

先端的な重要技術の研究開発の促進とその成果の適切な活用のため、資金支援、官民伴走支援のための協議会設置、調査研究業務の委託(シンクタンク) 等を措置

趣旨としては、民間部門のみならず、政府インフラ、テロ・サイバー攻撃対策、安全保障等の様々な分野で今後利用可能性がある先端的な重要技術の研究開発の促進とその成果の適切な活用は、中長期的に我が国が国際社会における確固たる地位を確保し続ける上で不可欠、ということです。

4.1 国の支援

特定重要技術研究開発基本指針

政府は、特定重要技術研究開発基本指針を定めるものとされています(60条1項)。

特定重要技術研究開発基本指針というのは、

特定重要技術の研究開発の促進及びその成果の適切な活用に関する基本指針

をいいます(60条1項)。

そこでは、

  1. 特定重要技術の研究開発の促進及びその成果の適切な活用に関する基本的な方向に関する事項
  2. 第六十二条第一項に規定する協議会の組織に関する基本的な事項
  3. 第六十三条第一項に規定する指定基金の指定に関する基本的な事項
  4. 第六十四条第一項に規定する調査研究の実施に関する基本的な事項
  5. 特定重要技術の研究開発の促進及びその成果の適切な活用に当たって配慮すべき事項
  6. 前各号に掲げるもののほか、特定重要技術の研究開発の促進及びその成果の適切な活用に関し必要な事項

が定められます。

特定重要技術

先端的な重要技術の研究開発の促進といっていますが、この概念は、法案では、特定重要技術という用語になって特定されています。特定重要技術とは

将来の国民生活及び経済活動の維持にとって重要なものとなり得る先端的な技術のうち、当該技術若しくは当該技術の研究開発に用いられる情報が外部に不当に利用された場合又は当該技術を用いた物資若しくは役務を外部に依存することで外部から行われる行為によってこれらを安定的に利用できなくなった場合において、国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれがあるもの

をいいます。ここで、先端技術が、「将来の国民生活及び経済活動の維持にとって重要なものとなり得る先端的な技術」と定義されているのも注目されます。

そして、国は、特定重要技術について、上の特定重要技術研究開発基本指針に基づき、必要な情報の提供、資金の確保、人材の養成及び資質の向上その他の措置を講ずるよう努めるものとされています(61条)。

4.2 官民パートナーシップ(協議会)

科学技術・イノベーション創出の活性化に関する法律第十二条第一項の規定による国の資金により行われる研究開発等に関して当該資金を交付する各研究開発大臣

  • 当該研究開発等により行われる特定重要技術の研究開発の促進及びその成果の適切な活用を図るため
  • 特定重要技術研究開発基本指針に基づき、
  • 当該特定重要技術の研究開発等に従事する者のうち当該研究開発等を代表する者として相当と認められる者の同意を得て

当該者及び当該研究開発大臣により構成される協議会(以下この条において「協議会」という。)を組織することができる(62条1項)。

構成員は、国の関係行政機関の長、当該特定重要技術の研究開発等に従事する者、特定重要技術調査研究機関(第六十四条第三項に規定する特定重要技術調査研究機関をいう。第六項において同じ。)その他の研究開発大臣が必要と認める者、です(同3項)。

この協議会の協議事項は、以下のとおりです

  1. 当該特定重要技術の研究開発に有用な情報の収集、整理及び分析に関する事項
  2. 当該特定重要技術の研究開発の効果的な促進のための方策に関する事項
  3. 当該特定重要技術の研究開発の内容及び成果の取扱いに関する事項
  4. 当該特定重要技術の研究開発に関する情報を適正に管理するために必要な措置に関する事項
  5. 前各号に掲げるもののほか、当該特定重要技術の研究開発の促進及びその成果の適切な活用に必要な事項

この協議会は、お互いの了解の下で共有される機微な情報について、協議会構成員に対し、適切な情報管理と国家公務員と同等の守秘義務を求める(62条7項)もと、研究開発の推進に有用なシーズ/ニーズ情報の共有や社会実装に向けた制度面での協力など、政府が積極的な伴走支援を実施すること、が可能になるとされています。

なお、この協議会については、研究者を含む協議会が、研究開発の進展や技術の特性、政府インフラ、テロ・サイバー攻撃対策、安全保障等での利用において支障のある技術に関し、研究開発の促進方策や個々の技術の成果の取扱等を決定するとされています

4.3 調査研究業務の委託

特定重要技術の見定めやその研究開発等に資する調査研究を、内閣総理大臣が一定の能力を有する機関(特定重要技術調査研究機関)に委託し、守秘義務を求める。

内閣総理大臣の権限

特定重要技術研究開発基本指針に基づき、特定重要技術の研究開発の促進及びその成果の適切な活用を図るために必要な調査及び研究を行うものとする。

シンクタンクへの委託

内閣総理大臣は、次に掲げる基準に適合する者(法人に限る。)に委託することができる。

  1. 先端的技術に関する内外の社会経済情勢及び研究開発の動向の専門的な調査及び研究を行う能力を有すること。
  2. 先端的技術に関する内外の情報を収集し、整理し、及び保管する能力を有すること。
  3. 内外の科学技術に関する調査及び研究を行う機関、科学技術に関する研究開発を行う機関その他の内外の関係機関と連携する能力を有すること。
  4. 情報の安全管理のための措置を適確に実施するに足りる能力を有すること。
守秘義務

特定重要技術調査研究機関の役員若しくは職員又はこれらの職にあった者は、正当な理由がなく、当該委託に係る事務に関して知り得た秘密を漏らし、又は盗用してはならない

第5章 特許出願の非公開

特許出願の非公開制度を導入することにより、

  •  公にすることにより国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きい発明が記載されている特許出願につき、出願公開等の手続を留保するとともに、その間、必要な情報保全措置を講じることで、特許手続を通じた機微な技術の公開や情報流出を防止。
  • これまで安全保障上の観点から特許出願を諦めざるを得なかった発明者に特許法上の権利を受ける途を開く。

5.1 特許出願非公開基本指針

特許出願非公開基本指針の制定が定められています。(65条1項)

ここで、この特許出願非公開基本指針というのは、

政府は、基本方針に基づき、

  • 特許法(昭和三十四年法律第百二十一号)の出願公開の特例に関する措置
  • 同法第三十六条第一項の規定による特許出願に係る明細書
  • 特許請求の範囲又は図面に記載された発明に係る情報の適正管理その他公にすることにより

(1)外部から行われる行為によって国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きい発明

(2)情報の流出を防止するための措置に関する基本指針ということになります。

この特許出願非公開基本指針において定められる事項は、以下のとおりです。

  1. 特許出願の非公開に関する基本的な方向に関する事項
  2. 次条第一項の規定に基づき政令で定める技術の分野に関する基本的な事項
  3. 保全指定(第七十条第二項に規定する保全指定をいう。次条第一項及び第六十七条において同じ。)に関する手続に関する事項
  4. 前三号に掲げるもののほか、特許出願の非公開に関し必要な事項
5.2 技術分野等によるスクリーニング(第一次審査)

特許庁長官

特許出願を受けた場合において、その明細書等に、「特定技術分野」が含まれている場合、特許出願に係る書類を内閣総理大臣に送付するものとする。

「特定技術分野」とは

公にすることにより外部から行われる行為によって国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きい発明が含まれ得る技術の分野として国際特許分類、又はこれに準じて細分化したものに従い政令で定めるものに属する発明(その発明が特定技術分野のうち保全指定をした場合に産業の発達に及ぼす影響が大きいと認められる技術の分野として政令で定めるものに属する場合にあっては、政令で定める要件に該当するものに限る。)

をいうとされます。また、特許出願人から、保全審査に付することを求める旨の申出があったときも、同様です

5.3 保全審査(第二次審査)

保全審査とは、情報の保全をすることが適当と認められるかどうかについての審査をいいます。

ここで、情報の保全とは、当該情報が外部に流出しないようにするための措置をいいます

この保全審査の考慮事項は

  • 当該特許出願に係る明細書等に公にすることにより外部から行われる行為によって国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれの程度
  • 保全指定をした場合に産業の発達に及ぼす影響
  • その他の事情

になります(67条1項)。

内閣府は、審査に当たり、国の機関(同3項)や外部の専門家の協力(同4項)を得、また、国の関係機関に協議(6項)

保全指定をする前に、出願人に対し、特許出願を維持するかの意思確認を実施(同9項)

また、保全審査中の発明公開の禁止の規定がある(68条)。

5.4 保全指定

内閣総理大臣は、保全審査の結果、発明が、

  • 明細書等に公にすることにより外部から行われる行為によって国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きい
  • 指定をした場合に産業の発達に及ぼす影響
  • その他の事情

当該発明に係る情報の保全をすることが適当と認めたとき

内閣府令で定めるところにより、当該発明を保全対象発明として指定する。そして、特許出願人及び特許庁長官に通知するものとされています(70条1項)。

指定期間については、当該保全指定の日から起算して一年を超えない範囲内においてその保全指定の期間を定めるものとする(同条2項)とされていますが、継続も可能です(3項)。

指定の効果としては、

  1. 出願の取下げ禁止(72条)
  2.  発明の実施の許可制(73条)
  3. 発明内容の開示の原則禁止(74条)
  4.  発明情報の適正管理義務(75条)
  5.  他の事業者との発明の共有の承認制(76条)
  6.  外国への出願の禁止(78条)

があります。

5.5 外国出願の禁止(第一国出願義務)

指定された場合の外国出願の禁止の規定にふれましたが、むしろ、一般的に上述のような「特定技術分野」についてはまず日本に出願しなければならないことと
する第一国出願義務が規定されています。

対象

何人も、日本国内でした発明であって公になっていないものが、第六十六条第一項本文に規定する発明

例外
  • 我が国において明細書等に当該発明を記載した特許出願をした場合であって、当該特許出願の日から十月を超えない範囲内において政令で定める期間を経過したとき
  • 第六十六条第一項本文に規定する期間内に同条第三項の規定による通知が発せられなかったとき
  • 及び同条第十項、第七十一条又は前条第二項の規定による通知を受けたときにおける当該特許出願に係る明細書等に記載された発明

また、事前確認の制度があります(79条)。

5.6 補償

発明の実施の不許可等により損失を受けた者に対し、通常生ずべき損失を補償

国は、保全対象発明について、第七十三条第一項ただし書の規定による許可を受けられなかったこと又は同条第四項の規定によりその許可に条件を付されたことその他保全指定を受けたことにより損失を受けた者に対して、通常生ずべき損失を補償する(80条1項)

5.7 その他

  • 保全対象発明にかかる情報の漏洩を防ぐため必要があると認めるとき、情報保全の規定する措置を勧告できる(83条1項)。応じない場合/緊急の場合は、命令も可能(同2項、3項)
  • 指定特許出願人及び発明共有事業者に対し、保全対象発明の取扱いに関し、必要な報告若しくは資料の提出を求め、又はその職員に、当該者の事務所その他必要な場所に立ち入り、保全対象発明の取扱いに関し質問させ、若しくは帳簿、書類その他の物件を検査させることができる(同84条1項)

第6章 雑則

(1)罰則(刑事罰)について、2年以下の懲役若しくは100万円以下の罰金に処し、又はこれを併科

  • 届出をせず、又は虚偽の届出をして、特定重要設備の導入を行い、又は重要維持管理等を行わせたとき
  • 期間中に特定重要設備の導入を行い、又は重要維持管理等を行わせたとき。
  • 規定に違反して特定重要設備の導入を行い、又は重要維持管理等を行わせたとき
  • 命令違反など

(2)報告又は資料の提出の求めに係る事務に関して知り得た秘密を正当な理由がなく漏らし、又は盗用した者

(3)規定に違反した外国出願

など

 

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