「信書の秘密」の数奇な運命、そして、「通信の秘密」-「裸の王様」としての「通秘論」

総務省で、「郵便局データの活用とプライバシー保護の在り方に関する検討会」が開催されています。そこで、郵便法などで定められている秘密の保護というのがとのような意味のか、というのが議論されているわけですが、その内容をみる前に、個人的に、研究等の成果もある電気通信事業法の秘密の保護をみていきたいと思います。

1 電気通信事業法

個人的には、「通信の秘密の数奇な運命」として、電気通信事業法4条の「秘密の保護」の1項が、通信の内容の保護を意味しており、2項は、いわゆるメタデータの秘密の保護をはかっていたのではないか、とかんがえているところです(海外の立法との整合性などを理由としています)。まず、条文をみます。

(秘密の保護)
第四条 電気通信事業者の取扱中に係る通信の秘密は、侵してはならない。
2 電気通信事業に従事する者は、在職中電気通信事業者の取扱中に係る通信に関して知り得た他人の秘密を守らなければならない。その職を退いた後においても、同様とする。

ところが通説は、

  • 1項の「通信の秘密」について、従来からの「通信内容にとどまらず、通信当事者の住所、氏名、発信場所等通信の構成要素や通信回数等通信の存在の有無を含むものである」と解しており、
  • 「通信に関して知り得た他人の秘密」とは、「通信の内容、通信の構成要素、通信の存在の事実等「通信の秘密」のほか、通信当事者の人相、言葉の訛りやプッシュホンに記憶された相手番号等直接の通信の構成要素とはいえないが、それを推知させうるものも含む」

と解していたりします。

この解釈は、意識的なものであって、「電気通信事業という他人の通信を扱う公共性の高い事業に従事する以上、より幅広い義務を課して、通信の秘密の保護に万全を期したものである」とされています。

2 郵便法

2.1 条文

(秘密の確保)
第八条 会社の取扱中に係る信書の秘密は、これを侵してはならない。
② 郵便の業務に従事する者は、在職中郵便物に関して知り得た他人の秘密を守らなければならない。その職を退いた後においても、同様とする。

ここでも「信書の秘密」という概念と他人の秘密という概念が区別されていて、その点は、電気通信事業法と同様であったりします。

2.2 立法時の解釈

衆議院通信委員会昭和22年11月11日は、制定時の国会での議論であり、逐条的な解釈をなしています。

そこでは、「第9條は秘密の確保についてでございます。これもただいま言いました憲法の21条の第2項に、「通信の秘密は、これを侵してはならない。」と規定されております。その趣旨によりまして「遞信官署の取扱中に係る信書の秘密は、これを侵してはならない。郵便の業務に從事する者は、在職中郵便物に關して知り得た他人の秘密を守らなければならない。その職を退いた後においても、同様とする。」といたしました。すなわち第一項は郵便の業務に從事する者竝びにそれ以外の者すべてにつきまして一般的に規定し、第二項は郵便の業務に從事する者だけ、在職中郵便物に關して知り得た他人の秘密、たとえば何某からだれそれあてにどれくらいの量の郵便がいつ送られているといつたようなことも、郵便物に關して知り得た他人の秘密ということに なるものと考えております。」

という解説がなされています。

ここで、あえて2項の解説として、発信人・受信人の氏名等の問題をあげているところに、この第2項について、信書の内容以外のことを2項で保護しているという解釈をとっていたのではないかと示唆していると考えています。

2.3 公権的解釈などについて

「信書の秘密」に関する公権的解釈としては、内閣法制局意見・昭和28年1月30日をあげることができます。

この意見は、捜査官憲が、郵政省の取扱中にかかる郵便物について差出人または受取否認の居所、氏名および差し出しこす右通信文の意味内容以外の事項の照会を受けた場合、郵便事業に従事するものが、これらの事項を報告することが郵便法9条の規定に反することにならないかという問題についての解答になります。

この意見は、上記のような事項について報告することは、当事者の承諾がない以上、郵便法9条の規定に違反するとしているのですが、その理由として、

郵便物の差出人または受取人の居所、氏名および差し出し個数等は、もとより通信の意味内容をなすものではないけども、通信そのものの構成要素であり、実質的にみてもこれらの事項をしられることによって通信の意味内容が推知されることもありうるのである

ということがあげられています。そして、これらの事項が通常、郵便法第9条にいう「他人の秘密」に包含されるとしています。

ここで、注目すべきは、当然のように「他人の秘密」としているところだろうと思います。しかも、「もとより通信の意味内容をなすものではないけども、」と述べた上で「同法1項の「信書の秘密」とは別個に「他人の秘密」としており、しかも、その言辞については、「包含されることについては大なる疑問はないといってよかろう」としているところが興味深いです。

この回答も、具体的に「他人の秘密」(9条2項)に包含されるとして、1項の「信書の秘密」をだしていません。

これは、当時は、1項を「信書の内容」として2項をそれ以外の発信人・受信人の住所氏名その他の事実として考えていたのではないか、という疑問を強くもたせると考えています。

2.4 上田市公安調査官郵便物調査事件

昭和28年12月および昭和29年3月に、長野県で、公安調査庁に勤務するAが、郵便集配人に対して特定の機関紙(朝鮮関係の非公然の機関紙類)の発行部数や特定の人間への郵便の存否などを問いただしたという事実があり、この事実が朝日新聞の声の欄に載ったという事件がありました。そして、国会で、果たして、このような公安調査庁のAの行為は、郵便法との関係で、どのように考えられるのかという点が大きな問題になりました。

この点が論じられたのは、昭和29年04月03日の衆議院の郵政委員会での議論になります。

齋藤政府委員は、明確に

本件のような郵便物の発受人の住所氏名等を漏らしますことは、もちろん郵便法の第九条第一預にいう信書の秘密を侵すということにはならないと存じますが、 第二項における郵便物に関して知り得た他人の秘密を提供するということに該当いたしますので、郵便業務に従事しておる者といたしましては、かたくこれを守らなければならないところでありますので、今後ともこのような事案が再発して法律違反に該当するようなことのないように、最近におきまして一般関係局に対 しまして、それぞれその規定に違反することのないよう厳重注意するよう通達をいたしまして、注意を喚起いたしておる次第であります。

という回答をしています。また、この議論の関連で、齋藤政府委員は、郵便法9条について「信書の内容を知る意図をもつて、その内容を知ることによつてであります。」と発言しています(発言12)。

もっとも、政府からの回答も、混乱しています。これらについては、省略します。

2.5 最高裁の判決例

郵便局データの活用とプライバシー保護の在り方に関する検討会報告書骨子(案)」においては、

転居届に係る情報については、最高裁判決(平成28年10月18日)において、「転居届に係る情報は、信書の秘密ないし通信の秘密には該当しないものの、郵便法8条2項にいう「郵便物に関して知り得た他人の秘密」に該当」するとの補足意見が付された。
また、差戻審高裁判決(平成29年6月30日)においては、「転居届は、通信や信書そのものではなく、個々の郵便物とは別個のものである。」とし、郵便法第8条第2項関係については「…照会事項ごとに、これを報告することによって生ずる不利益と報告を拒絶することによって犠牲となる利益との比較衡量により決せられるべきである。」と判示された。

となるので、これをみていきます。

平成28年10月18日 裁判所名 最高裁第三小法廷 裁判区分 判決 事件番号 平27(受)1036号 事件名 損害賠償請求事件 になります。

事案としては、

弁護士法23条の2第2項に基づく照会(以下「23条照会」という。)をC株式会社(以下「本件会社」という。)に対してした弁護士会である被上告人が,本件会社を吸収合併した上告人に対し,主位的に,本件会社が23条照会に対する報告を拒絶したことにより被上告人の法律上保護される利益が侵害されたと主張して,不法行為に基づく損害賠償を求め,予備的に,上告人が23条照会に対する報告をする義務を負うことの確認を求める事案

ということになります。

弁護士が、 Bに対する強制執行の準備のため,平成23年9月,所属弁護士会である被上告人に対し,弁護士法23条の2第1項に基づき,B宛ての郵便物に係る転居届の提出の有無及び転居届記載の新住所(居所)等について本件会社に23条照会をすることを申し出、弁護士会が、これについて23条照会をしたのですが、郵便会社が、これを拒絶したという事実関係のもと、弁護士会が、上記請求をなしたということになります。

これについて結局、

23条照会をすることが上記の公務所又は公私の団体の利害に重大な影響を及ぼし得ることなどに鑑み,弁護士法23条の2は,上記制度の適正な運用を図るために,照会権限を弁護士会に付与し,個々の弁護士の申出が上記制度の趣旨に照らして適切であるか否かの判断を当該弁護士会に委ねているものである。そうすると,弁護士会が23条照会の権限を付与されているのは飽くまで制度の適正な運用を図るためにすぎないのであって,23条照会に対する報告を受けることについて弁護士会が法律上保護される利益を有するものとは解されない。
したがって,23条照会に対する報告を拒絶する行為が,23条照会をした弁護士会の法律上保護される利益を侵害するものとして当該弁護士会に対する不法行為を構成することはないというべきである。

としたのが、最高裁判所の判断になります。

これだけだと、信書の秘密についての解釈論とかはでてきません。しかしながら、岡部喜代子裁判官は補足意見のなかで、

転居届に係る情報は,信書の秘密ないし通信の秘密には該当しないものの,郵便法8条2項にいう「郵便物に関して知り得た他人の秘密」に該当し,上告人はこれに関し守秘義務を負っている。この場合,23条照会に対する報告義務の趣旨からすれば上記報告義務に対して郵便法上の守秘義務が常に優先すると解すべき根拠はない。各照会事項について,照会を求める側の利益と秘密を守られる側の利益を比較衡量して報告拒絶が正当であるか否かを判断するべきである。

といっています。

事件としては、その後、差戻後控訴審 平成29年 6月30日 名古屋高裁 判決 平28(ネ)912号 損害賠償請求控訴事件になり、また、さらに差戻後上告受理審 平成30年12月21日 最高裁第二小法廷 判決 平29(受)1793号 損害賠償請求事件となります。

2.6 平成29年 6月30日 名古屋高裁

この判決において、転居届に係る情報は,憲法21条2項後段の「通信の秘密」及び郵便法8条1項の「信書の秘密」に当たるか。ということが争われています。この点について判決は

憲法21条2項後段は,「通信の秘密は,これを侵してはならない。」と規定し,これを受けて,郵便法8条1項は,「会社(被控訴人)の取扱中に係る信書の秘密は,これを侵してはならない。」と規定している。しかしながら,本件で問題となっている転居届は,通信や信書そのものではなく,個々の郵便物とは別個のものである。そして,そこに記載された情報について報告がされても,個々の通信の内容が推知されるものではない。したがって,転居届に係る情報は,憲法21条2項後段の「通信の秘密」にも郵便法8条1項の「信書の秘密」にも該当しないと解するのが相当であるから,被控訴人は,本件照会事項について,「通信の秘密」や「信書の秘密」に基づく守秘義務を負うものではない。

としています。ただし、

「通信の秘密」の保障が,通信・信書の差出人・受取人の氏名・住所・居所に及ぶとしても,それは,当該信書等を通じて得た情報に関する積極的知得行為や漏えい行為の禁止を意味すると解されるから,転居届に記載された新住居所と同列に考えることはできない。したがって,転居届に係る情報について現実に転送された具体的な郵便物に関連する情報(個々の通信と結び付いている情報)に準じて取り扱われる必要があるとはいえない。

これに対して郵便法8条2項に基づく守秘義務に関しては、

23条照会の制度は,事件を適正に解決することにより,国民の権利を実現するという司法制度の根幹に関わる公法上の重要な役割を担っているというべきである。そうすると,照会先が法律上の守秘義務を負っているとの一事をもって,23条照会に対する報告を拒絶する正当な理由があると判断するのは相当でない。被控訴人は,郵便法8条2項の守秘義務が,憲法21条2項後段を受けて定められていることを殊更に強調するが,国民の権利の実現や司法制度の適正な運営もまた,憲法上の要請にほかならない。したがって,報告を拒絶する正当な理由があるか否かについては,照会事項ごとに,これを報告することによって生ずる不利益と報告を拒絶することによって犠牲となる利益との比較衡量により決せられるべきである。

としています。

なお、結論的なものとしては、訴えの確認の利益について,上記訴えが適法であることを前提として,本件確認請求の一部を認容し,その余を棄却しています。

2.7 平成30年12月21日最高裁判決

最高裁判所は、確認請求の一部を認容した原判決を破棄し、却下としました(自判)。

弁護士法23条の2第2項に基づく照会(以下「23条照会」という。)の制度は,弁護士の職務の公共性に鑑み,公務所のみならず広く公私の団体に対して広範な事項の報告を求めることができるものとして設けられたことなどからすれば,弁護士会に23条照会の相手方に対して報告を求める私法上の権利を付与したものとはいえず,23条照会に対する報告を拒絶する行為は,23条照会をした弁護士会の法律上保護される利益を侵害するものとして当該弁護士会に対する不法行為を構成することはない(最高裁平成27年(受)第1036号同28年10月18日第三小法廷判決・民集70巻7号1725頁)。これに加え,23条照会に対する報告の拒絶について制裁の定めがないこと等にも照らすと,23条照会の相手方に報告義務があることを確認する判決が確定しても,弁護士会は,専ら当該相手方による任意の履行を期待するほかはないといえる。そして,確認の利益は,確認判決を求める法律上の利益であるところ,上記に照らせば,23条照会の相手方に報告義務があることを確認する判決の効力は,上記報告義務に関する法律上の紛争の解決に資するものとはいえないから,23条照会をした弁護士会に,上記判決を求める法律上の利益はないというべきである。

としています。

2.8 郵便分野ガイドラインの解説の改正

郵便局データの活用とプライバシー保護の在り方に関する検討会報告書骨子(案)」において、郵便分野ガイドライン(郵便事業分野における個人情報保護に関するガイドライン及び並びに信書便事業分野における個人情報保護に関するガイドライン)の解説の改正がなされているということです。郵便事業分野ガイドラインは、こちらです。 解説はこちらです。

信書の秘密に関する規定としては、

ア)ガイドライン5条4項

4 前項の規定にかかわらず、事業者は、同項各号に掲げる場合であっても、利用者の同意がある場合その他の違法性阻却事由がある場合を除いては、信書の秘密に係る個人情報を取り扱ってはならない。

ところで、この条項の意味ですが、解説によると、

利用者の同意がある場合のほか、裁判官の発付した令状に従う場合、緊急避難の要件に該当する場合等を指す。

とされています。つまり、

3 前 2 項の規定は、次に掲げる場合については、適用しない。
一 法令に基づく場合
二 人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき。
三 公衆衛生の向上又は児童の健全な育成の推進のために特に必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき。
四 国の機関若しくは地方公共団体又はその委託を受けた者が法令の定める事務を遂行することに対して協力する必要がある場合であって、本人の同意を得ることにより当該事務の遂行に支障を及ぼすおそれがあるとき。
五 当該事業者が学術研究機関等である場合であって、当該個人情報を学術研究の用に供する目的(以下「学術研究目的」という。)で取り扱う必要があるとき(当該個人情報を取り扱う目的の一部が学術研究目的である場合を含み、個人の権利利益を不当に侵害するおそれがある場合を除く。)。
六 学術研究機関等に個人データを提供する場合であって、当該学術研究機関等が当該個人データを学術研究目的で取り扱う必要があるとき(当該個人データを取り扱う目的の一部が学術研究目的である場合を含み、個人の権利利益を不当に侵害するおそれがある場合を除く。)。

となっています。ので、この解説をよむ限り、「一 法令に基づく場合」は、違法性阻却事由ではないと解されているようです。

イ)ガイドライン 7条3項

3前項の規定にかかわらず、事業者は、利用者の同意がある場合その他の違法性阻却事由がある場合を除いては、信書の秘密に係る個人情報を取得してはならない。

これも上と同様です。

ウ) 第三者提供の制限における信書の秘密に係る個人データの例外(第 15 条第 10 項関係)

第 15 条(第 10 項)
10 前各項の規定にかかわらず、事業者は、個人データを第三者に提供するに当たっては、信書の秘密の保護に係る郵便法第 8 条その他の関連規定を遵守しなければならない。

の規定もあります。

この解説は、

法律上の照会権限を有する者からの照会(刑事訴訟法第 197 条第 2 項、少年法第 6 条の 4、弁護士法第 23 条の 2、空家等対策の推進に関する特別措置法第 10 条第3項等)がなされた場合であっても、信書の秘密等に該当する事項については、原則として提供することはできないと考えられる。
ただし、信書の秘密等に該当する事項のうち、郵便法第 8 条第 2 項に規定する、郵便物に関して知り得た他人の秘密については、比較衡量の結果、それらの情報を用いることによる利益が秘密を守られる利益を上回ると認められたときには、第三者提供が可能となると考えられる。
例えば、地方自治体が、空家等対策の推進に関する特別措置法第 10 条第3項の規定に基づき、空家等の所有者又は管理者(以下「所有者等」という。)の転居先の情報を照会してきた場合であって、以下の2点を明らかにした場合には、日本郵便株式会社は、当該所有者等の同意を得ることなく、郵便物の転送先の情報を提供することが可能と考えられる。

となっています。この部分が改正がなされたということかと思います。

エ)信書の秘密と他人の秘密の概念について

解説では、10ページで

憲法第 21 条第 2 項が定める「通信の秘密」の保護に基づき、信書の秘密の保護について規定している。保護の対象には、信書の内容のみならず、差出人や受取人の住所や氏名等、信書に関する一切の事項が含まれる

としています。また、33ページは、定義的な記述があって

信書の秘密等(信書の内容にとどまらず、差出人及び受取人の住所又は居所・氏名並びに信書の存在の事実の有無等、信書に関する一切の事項及び郵便物に関して知り得た他人の秘密)

もっとも、この信書の秘密「等」と記載されています。これは、「信書の秘密」と「他人の秘密」とをあわせていっており、多分、

信書の内容にとどまらず、差出人及び受取人の住所又は居所・氏名並びに信書の存在の事実の有無等、信書に関する一切の事項

が信書の秘密であり

郵便物に関して知り得た他人の秘密

が他人の秘密である、ということになるだろうと思います。

「他人の秘密」については

信書に限らず、郵便物すべてについて、通信文などの内容のみならず、差出人・受取人の氏名、住所又は居所、取扱年月日、差出通数その他通信そのものの構成要素を成す一切の事項を指し、転居情報も含まれる。

とされています(62頁)。

上の資料の7頁は、この総務省のガイドラインによって整理された解釈の立場を整理しています。

ここで、ポイントとなるのが、「信書」という概念です。信書とは

特定の受取人に対し、差出人の意思を表示し、又は事実を通知する文書

となります。定義としては、郵便法4条2項で「信書」の説明として与えられています。具体的な説明については、こちらのページ(「信書のガイドライン」)があります。

これをもとに纏めると、こんな感じになるかと思います。

概念 定義・内容 法的効果
8条1項 信書 「特定の受取人に対し、差出人の意思を表示し、又は事実を通知する文書」 会社(契約により会社から郵便の業務の一部の委託を受けた者を含む。)以外の者は、何人も、他人の信書(特定の受取人に対し、差出人の意思を表示し、又は事実を通知する文書をいう。以下同じ。)の送達を業としてはならない。(郵便法4条2項ほか)
信書の秘密 信書の内容にとどまらず、差出人及び受取人の住所又は居所・氏名並びに信書の存在の事実の有無等、信書に関する一切の事項をいう。 利用者の同意が ある場合その他の違法性阻却事由がある 場合を除いては、信書の秘密に係る個人情報を取り扱ってはならない。法律上の照会権限を有する者からの照会がなされた場合で あっても、同様である 。
8条2項 郵便物 信書以外にも受取人に対して業として送付される有体物(定義不明)
「郵便物に関して知り得た他人の秘密」 信書に限らず、郵便物すべてについて、通信 文などの内容のみならず、差出人・受取人 の氏名、住所又は居所、取扱年月日、差出 通数その他通信そのものの構成要素を成す 一切の事項を指し、転居情報も含まれる。  「郵便物に関して知り得た他人の秘密」については、法律上の照会権限を有する者からの照会がなされた場合であっても、原則として提
供することはできない。
ただし、比較衡量の結果、それらの情報を用いることによる利益が秘密を守られる利益を上回ると認められたときには、第三者提供が
可能となる。
個人情報保護法 個々の信書または郵便物の 送達には関連しない個人情 報(契約者情報、料金の支 払状況等)に 個人情報保護法に基づく規律は及ぶ。

3 「信書の秘密」と「通信の秘密」の解釈は、異なっているのか

3.1 「信書の秘密」の解釈の肥大化と現代社会への適応について

ここまでみたときに、現代では、

  • 「信書」における秘密たるべき事項については、8条1項および2項で、ともに保護されており、そして、そのなかで一般の郵便物の「秘密」のうち、「他人の秘密」に関する事項については、2項で保護されていること
  • そして、「他人の秘密」に関する事項については、比較衡量の結果、それらの情報を用いることによる利益が秘密を守られる利益を上回ると認められたときには、第三者提供が可能となる。

とされています。これは、説明を聞いただけでもわかるように、きわめて技巧的・トリッキーな解釈論であるといえるように思えます。

上述のような立法時の説明/上田市公安調査官郵便物調査事件の齋藤政府委員の説明を前提とすれば、

概念 定義・内容 法的効果
8条1項 信書 「特定の受取人に対し、差出人の意思を表示し、又は事実を通知する文書」 会社(契約により会社から郵便の業務の一部の委託を受けた者を含む。)以外の者は、何人も、他人の信書(特定の受取人に対し、差出人の意思を表示し、又は事実を通知する文書をいう。以下同じ。)の送達を業としてはならない。(郵便法4条2項ほか)
信書の秘密 信書の内容を意味する 信書の内容に対する知得・開示・窃用を禁止する
8条2項 郵便物 信書以外にも受取人に対して業として送付される有体物(定義不明)
「郵便物に関して知り得た他人の秘密」 通信文などの内容以外の個々の郵便物について、差出人・受取人 の氏名、住所又は居所、取扱年月日、差出 通数その他通信そのものの構成要素を成す 一切の事項を指す。  「郵便物に関して知り得た他人の秘密」については、法律上の照会権限を有する者からの照会がなされた場合について、契約によって定められた義務の限界として比較衡量の結果、それらの情報を用いることによる利益が秘密を守られる利益を上回ると認められたときには、第三者提供が可能となる。

と整理した方が、はるかにすっきりしています。

これは、上述の立法時の経緯に加えて

  • communicationというのは、内容の伝達という意味であって、その伝達に伴う事実関係は、含まない
  • 諸外国の内容と伝達の事実の保護に差異をもうけるという立法例とも一致する

というメリットがあります。ただし、この場合、差出人・受取人の氏名、住所又は居所、取扱年月日、差出通数その他通信そのものの構成要素に対してのの刑事罰がないことになってしまいます。その意味で、上田市公安調査官郵便物調査事件に対しての抑止効果が不十分ではないか、ということはいえるかもしれません。また、郵便(および電話)が、盗聴・傍受から安心であるということを強調したいという現場の要求が、このようなメタデータ部分についての保護にまで及ぶ解釈をとらせたのかもしれません。

実は韓国は、電気通信事業法に関して、我が国と全く同一の条文構造をとっており、そこでは、ここで論じたように内容・メタデータ分離論をとっているのですが、メタデータ部分についても刑事罰を加えています。

このエントリでは、この肥大化をどう考えるかというのについては、ふれません。ただし、立法時においては、郵便法は、内容とメタデータ峻別論にたっていた可能性が高いということは認識しておくべきだと思います。

3.2 委員会の議論

このようにまとめたときに、郵便法/信書便法(以下、便宜的に郵便法という)の「秘密の確保」の条文の解釈を巡っては、

  1. 8条2項の「郵便物に関する」とは、識別された「個々の」郵便に関することを要するのか、
  2. 郵便法の「秘密の確保」と電気通信事業法の「秘密の保護」の条文の解釈が異なっているのは、おかしくはないか

という二つの論点があることがわかります。では、この論点については、「郵便局データの活用とプライバシー保護の在り方に関する検討会」においてどのような議論がなされてきたのか、ということになります。

なお、「郵便局データの活用とプライバシー保護の在り方に関する検討会」の下には、「データの取扱いWG」と「データ活用推進WG」がもし受けられており、この検討会は、親会としてし、これらの検討をもとに報告書をまとめたということになります。

3.2.1 「郵便物に関する」の議論について

通信の内容以外のデータを語るときには、個別の通信に関するデータであるか、というのが、ポイントになります。この点を示しているのが、「通信の秘密」の比較法的研究・序説になります。そこでは、英国の(当時)RIPA200の表現である

  • トラフィックデータ
  • サービス利用データ
  • 加入者データ

という表現を紹介しています。

ここで、トラフィックデータ・サービス利用データは、個別の通信に関するデータですが、加入者データは、そのような通信を識別しうるデータという性格がありません。これををもとに、この議論を考えていきましょう。

この問題は、郵便事業で保有している主な郵便局データに関するものです。上記の報告書(案)によるとき

    •  配達原簿(配達総合情報システム)
    •  転居届に係る情報
  • 郵便番号データ
  • テレマティクス端末Dcatにより取得する走行データ

などがあることがわかります。

特に、議論されたものとしては、転居届(転居に伴い旧住所あての郵便物等を新住所に無料で転送することを希望する利用者からの届出)の取扱が議論されています。上の研究会の議論をみていきたいと思います。もっとも、上記の二つのWGの議論については、議事概要のみが公開されているのみです。また、議論も、取扱の法的位置づけと活用という二つの分野でわかれているようです。

ということで、まず、「データの取扱いWG」の議論をおいます。第1回概要第2回概要第3回概要第4回概要第5回概要第6回概要です。

この点については、第1回で問題提起として

弁護士会照会に対し、郵便の転居届情報の提供が一律に拒否されている理由について、郵便法第8条第1項および第2項の条文の書き方に照らして具体的に説明できるかが問題である。

とされています。

第2回になると具体的な説明がなされてきます。

現行の郵便分野ガイドラインでは、転居届に係る情報は、②「郵便物に関する他人の秘密」であって、比較衡量の結果、提供する利益が秘密を守る利益を上回る場合に提供可能と整理されているが、提供の可否を比較衡量により判断する必要があることから、事業者は判断に窮し、照会者側も提供をなかなか受けられず困るだろう。むしろ、転居届に係る情報は、②「郵便物に関する他人の秘密」ではなく、③「個々の信書の送達には関連しない個人情報」として、郵便法第 8 条の保護の対象外であるが個人情報保護法によって保護されるもの(個人情報保護法が定める例外事由に該当する場合は提供可能)と整理できるのではないか。

とされています。これをもとに上の「個別の通信に関するデータであるか」という論点については

信書の秘密、通信の秘密は、特定の個々の通信との紐付きとの関係を考慮するべきであり、転居届に係る情報の場合分けが発生するのではないか。個別の郵便物が転送されたときに、その転送先を照会された場合は、②「郵便物に関して知り得た他人の秘密」に該当し、一般論として出されている転居届情報を照会された場合は、個別の郵便物とは関連性がないので、③「個々の信書の送達には関連しない個人情報」に該当するものと考える。

とか

郵便法第 8 条第 2 項の②「郵便物に関して知り得た秘密」の「郵便物」は、抽象的な郵便物ではなく、「ある(特定の)郵便物」に関して知り得た秘密を意味するものと条文解釈できる。このため、抽象的に郵便に使われるだけの情報である転居情報は、③「個々の信書の送達には関連しない個人情報」ではないか。

という説が強調されています。

これに対して

郵便法第 8 条第 1 項は個々の信書の秘密、第 2 項は、業務上の秘密を守らなければならないという趣旨から、全般的な信書の秘密と個々の郵便物の秘密、全般的な郵便物の秘密という解釈もありえるのではないか。

という8条2項における他人の秘密を、きわめて、広範に解する立場も主張されています。

なお、第3回(令和4年1月11日)においては、結局、

前回の WG での議論を踏まえ、転居届に係る情報を、個々の郵便物の送達に関連する場合と、個々の郵便物の送達に関連しない場合とに分けて、郵
便法第 8 条第 2 項(郵便物に関して知り得た他人の秘密の守秘義務)の適用の有無を決めるとする案(以下「本案」という。)に基づき、「郵便事業分野における個人情報保護に関するガイドラインの解説」(以下、「郵便分野ガイドラインの解説」という。)を改正する際の骨子案について説明があった。

となります。となって、結局、個々のデータを識別するための情報が、「他人の秘密」ということになると整理されました。

また第5回では、

転居届に係る情報等は郵便法第8条第2項に属することを維持しつつ、郵便物に関して知り得た他人の秘密について、情報を用いることによる利益が秘密を守られる利益を上回ると認められるため情報提供が可能な事例として、新たに、大規模災害や事故等の緊急時の被災者情報等の提供、税の滞納整理事務に協力する場合及び弁護士会照会における転居届に係る情報の照会を郵便事業分野における個人情報保護に関するガイドラインの解説(以下「ガイドライン解説」)に追記していく方向で検討する。

となりました。

これをガイドライン案でみていきましょう。

郵便事業分野における個人情報保護に関するガイドライン(平成29年総務省告示167号)の解説改正案です。

新旧対照表もあります

ここで、この議論に該当するのは、11条です。この整理案は、

郵便法第 8 条第 2 項では、郵便の業務に従事する者に対し、郵便物に関して知り得た他人の秘密を守るべき義務を課されている。ここでいう「他人の秘密」とは、信書に限らず、郵便物すべてについて、通信文などの内容のみならず、差出人・受取人の氏名、住所又は居所、取扱年月日、差出通数その他通信そのものの構成要素を成す一切の事項を指し、転居情報も含まれる。(※)
一方、例えば、事業者が個々の信書の送達には関連しない個人情報(契約者情報、料金の支払状況等)を個人データといった形で保有している場合には、かかる守秘義務は及ばないと考えられるものの、個人情報保護の観点から同様に保護することが適当であることから、このような規定を置くこととしたものである。
第 2 項でいう「みだりに他人に知らせ」るとは、自己の権限に含まれない場合や含まれる場合であっても正当な理由なく他人に知らせることをいう。また、「不当な目的に使用」するとは、自己の利益を図るために利用する場合や他人の正当な利益に反して利用する場合をいう。

とされています(3-4-4 62条)。

文脈から、この案は、解釈論として、郵便物AないしBの 送達に関連する情報を8条2項の取り扱うものとしたと考えられます。そうだとすると、転居情報は、およそ郵便物であるので、それについては、むしろ、郵便法8条2項の整理ではなく、個人情報保護法の守備範囲ではないかと考えられるのですが、そうではなく、8条2項の「他人の秘密」に該当するとさています。

照会権限を有するものからの照会については、同案(3-7-4) 99ページです。

信書の秘密等に該当する事項のうち、郵便法第 8 条第 2 項に規定する、郵便物に関して知り得た他人の秘密については、比較衡量の結果、それらの情報を用いることによる利益が秘密を守られる利益を上回ると認められたときには、第三者提供が可能となると考えられる。

例えば、地方自治体が、空家等対策の推進に関する特別措置法第 10 条第3項の規定に基づき、空家等の所有者又は管理者(以下「所有者等」という。)の転居先の情報を照会してきた場合であって、以下の2点を明らかにした場合には、日本郵便株式会社は、当該所有者等の同意を得ることなく、郵便物の転送先の情報を提供することが可能と考えられる。
① 当該空家等がそのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険又は著しく衛生上有害となるおそれのある状態にあり、その除去等が周辺住人や通行人の生命、身体の保護のために必要であることから、これらの措置を所有者等に実施させるためにその連絡先を把握する必要があること
② 当該自治体が他に取り得る合理的な手段や方法では、空家等の所有者等に関し、必要な情報が入手できないこと

なお、この場合において提供できる個人データは、その目的の達成に必要な最小限の範囲のものでなくてはならず、例えば個別の信書に関する情報や内容等を提供することまでを許容するものではない。
(※1)郵便に関して知り得た他人の秘密に係る個人情報に関する従業者の義務については、3-4-4(従業者の義務)を参照のこと。
(※2)個人データの第三者への提供の原則については、3-7-1(第三者提供の制限の原則)を参照のこと。

転居情報というのは、およそ、個々の郵便物(信書でなくても関連する)とは、別個のおよそ郵便に関する情報にすぎないのですが、「他人の秘密」とされる関係で、具体的な利益考量(ただし、これについては、実務的には、担当課の抽象的なお許しをえる)を経て許諾さることになるというのがガイドライン案です。

その意味で、個々の郵便物に関する秘密が、「他人の秘密」であるとした解釈は、非常に理解しやすいのですが、個々の記述は、私として、理由が齟齬しているような気がします。

3.2.2 郵便法と電気通信事業法の解釈の齟齬

この検討会では、郵便法の「秘密の確保」と電気通信事業法の「秘密の保護」との解釈に際して、齟齬があるのではないのか、という議論がなされています。「通信の秘密の肥大化」を2004年から、主張してきた筆者としては、非常に興味深い議論です。

まず、上でみたように、wg の議論からみていきます。

第1回

電気通信事業法第4条は、第1項も第2項も通信に係る秘密ということで対象が同じように見えるが、郵便法第8条は、第1項は信書の秘密であるのに対して、第2項は郵便物に関する秘密となっている。

という議論がみえます。また、

電気通信事業法第4条の1項も2項も対象としているものは通信の秘密に関係するものである。そのため電気通信事業ガイドラインに基づき、通信の秘密と関係がない契約者情報、加入者情報のようなものについては、適切な手続きで弁護士会照会をいただいた場合、必要な場合には開示されうる位置づけと認識している。

という発言もあります。後者は、弁護士でしょうか。さすが有識者ですね。

しかしながら、「第1項も第2項も通信に係る秘密ということで対象が同じように見える」とか、「電気通信事業法第4条の1項も2項も対象としているものは通信の秘密に関係するものである」いうのは、総務省解釈的には、間違いです。だれがいったのでしょうか。

もっとも、昭和40年代から昭和57年までは、電気通信事業法の1項「通信の秘密」と2項「他人の秘密」とは同一であるという解釈が電電公社の立場だったので、それを念頭においていれば、そうはなります。(もっとも、そこまで勉強している人の発言にはみえませんが)

第2回では、特別の議論は、内容ですが第3回(令和3年12月15日)では

電気通信事業法第4条第 2項と異なる整理。電気通信事業法第4条第 2 項は個々の通信に関連しないものも含んでいる。

本案に関しては、電気通信の場合と郵便の場合をどこまでパラレルに平仄を整えていくべきかが論点。ただ、郵便法第 8 条は第 1 項が「信書」の秘密、第 2 項が「郵便物」の秘密と、1 項と 2 項で対象が違っており、電気通信事業法とは異なる側面がある。基本的に別の法律だというところから議論するという考え方もある。

という発言があります。

条文では、事業法2項は、「他人の秘密」となっており、郵便法と文言はきわめて類似しています。逐条解説書によると

「通信に関して知り得た他人の秘密」とは、通信の内容、通信の構成要素、通信の存在の事実等「通信の秘密」のほか、通信当事者の人相、言葉の訛や契約の際に入手した契約者の個人情報、営業秘密、料金滞納情報、電話帳掲載省略電話番号等、個々の通信の構成要素とはいえないが、それを推知させる可能性のあるものも含む。

となっています。

これについては、多分事務局が有識者産の有識な状況に感銘を受けて、1月に上記のようなレクチャーをします。「公的機関等への情報提供の可否に関する検討の進捗状況 令和4年1月 データの取扱いWG」資料 11頁。あと、

あと、この有識者会議とかできわめて不思議なのは、だれも、電気通信事業法4条を「秘密の保護」と読んだり、郵便法8条を「秘密の確保」と読んだりしないことです。

なお、第4回ないし第6回では、特にこの点についての議論はないようです。

でもって、この議論をどう考えるかということです。この検討会自体が郵便法の議論であり、また、第2回で議論がとまってしまったこと、上でみたように出席者が、正確な理解に基づいて議論しているようにはみえないこと、などから、これらの議論が、何らかの意味を持つとは考えにくいです。しかしながら、同様の構造をもっている条文が、なぜにこのように違って解されなければならないのか、というのは、根本的な問題であるといえるでしょう。

4 「信書の秘密」対「通信の秘密」

4.1 電気通信事業法の「秘密の保護」の条文の(総務省消費者行政一課的)解釈

上で郵便法の立法時の解釈を見ました。実はこれと、全く同様のことがいえる、そして、そもそも、憲法の「秘密」は、(遠隔)通信の秘密ではなく、意思伝達の機密性の保護であったのではないか、ということが私の「通信の秘密の数奇な運命」の論文のシリーズの基本的な考え方です。

  • 「通信の秘密」の数奇な運命(要旨) (総務省の「次世代の情報セキュリティ政策に関する研究会」で発表)
  • 「ネットワーク管理・調査等の活動と『通信の秘密』」(平成17年12月発表) 吉田一雄助教授(当時)と共著
  • 「通信の秘密の数奇な運命(国際的な側面)」情報ネットワーク・ローレビュー第15巻17頁(情報ネットワーク法学会、商事法務、平成29年)
  • 「『通信の秘密』の数奇な運命(制定法)」情報ネットワーク・ローレビュー(第8巻)(情報ネットワーク法学会、商事法務、平成21年)
  • 「『通信の秘密』の数奇な運命(憲法)」情報ネットワーク・ローレビュー(第5巻)(情報ネットワーク法学会、商事法務、平成18年)

もっとも、ここでは、そのようなかなから人気のない説を再度、論じようとは思いません。

総務省の個人情報保護ガイドライン等で明らかにされている消費者行政一課的な解釈論をもとに考えています。これについては、上述の「公的機関等への情報提供の可否に関する検討の進捗状況 令和4年1月 データの取扱いWG」資料 10頁、11頁で纏められているところです。

この表を私なりに纏めてみました。

概念 定義・内容 法的効果
4条1項 通信 電気通信 有線、無線その他の電磁的方式により、符号、音響又は影像を送り、伝え、又は受けることをいう。 問題点-信書的な「通信」というのがあるのでははないか。
通信の秘密 個人情報が通信の秘密に該当する場合、第三者提供が許されるのは、通信当事者の同意がある場合のほか、裁判官の発付した令状に従う場合、緊急避難の要件に該当する場合、その他の違法性阻却事由がある場合に限られる。 「通信の秘密」に対する知得・開示・窃用を禁止する
4条2項 通信  同上
「他人の秘密」 「通信に関して知り得た他人の秘密」とは、通信の内容、通信の構成要素、通信の存在の事実等「通信の秘密」のほか、通信当事者の人相、言葉の訛や契約の際に入手した契約者の個人情報、営業秘密、料金滞納情報、電話帳掲載省略電話番号等、個々の通信の構成要素とはいえないが、それを推知させる可能性のあるものも含む。  「通信に関して知り得た他人の秘密」については、契約によって定められた義務の限界として比較衡量の結果、それらの情報を用いることによる利益が秘密を守られる利益を上回ると認められたときには、秘密の保護に限界が生じる
上記以外の情報 個々の通信とは無関係の加入者の住所・氏名等 個々の通信とは無関係の加入者の住所・氏名等は、通信の秘密の保護の対象外であるから、基本的に法律上の照会権限を有する者からの照会に応じることは可能である。
また、個々の通信を識別しえない統計処理されたデータ、電電公社用語でトラヒック・データは、電気通信事業法4条の「秘密の保護」・個人情報保護法の取扱規定とも無関係に利用しうる。

これを比較したときに相違する論点としては、3つあることになります。

  1. 郵便法等においては、「信書」として「特定の受取人に対し、差出人の意思を表示し、又は事実を通知する文書」として限定がなされているのに比して、電気通信事業法が限定が付されていないようにみえるが、そのような解釈でいいのか
  2. 「個々の通信」を識別しうる情報でなくても、「契約の際に入手した契約者の個人情報、営業秘密、料金滞納情報、電話帳掲載省略電話番号等、個々の通信の構成要素とはいえないが、それを推知させる可能性のあるものも含む。」というのは、妥当か
  3. 「通信に関して知り得た他人の秘密」については、契約によって定められた義務の限界として比較衡量の結果、それらの情報を用いることによる利益が秘密を守られる利益を上回ると認められたときには、秘密の保護に限界が生じる

これらについてコメントをなしていきましょう。

4.2 個々の論点についての考え方
4.2.1 「非公然たる通信」の論点

郵便法等においては、「信書」として「特定の受取人に対し、差出人の意思を表示し、又は事実を通知する文書」として限定がなされているのに比して、電気通信事業法が限定が付されていないようにみえるが、そのような解釈でいいのか、という論点について考えてみます。この点は、ほとんどの論者が、無視している論点ですが、実は、電気通信事業法4条1項の解釈において、既に、議論されているのです。

「公然性ある通信」という用語を聞いた人もいるかと思います。プロバイダ責任制限法の立法に関して、「電気通信における利用環境整備に関する研究会」(1996年)、「電気通信サービスにおける情報流通ルールに関する研究会」(1997年-報告書は、1998年1月)、「インターネット上の情報流通の適正確保に関する研究会- 報告書」(1999年5月から12月)がそれぞれ構成されて、詳細な議論が戦わされた際の用語になります。情報流通ルールに関する研究会報告書においては、

不特定多数にむけて発信されている通信の内容を単に調べることをもって「検閲」というには当たらないということになると整理されている。コンテントについて秘密性がない以上、事業法第3条及び第4条第1項違反は問題とならない。これは約款の規定の有無によっても結論は変わらないと解される。

とさています。また、上記「公的機関等への情報提供の可否に関する検討の進捗状況 令和4年1月 データの取扱いWG」資料 11頁で引かれている電気通信事業法逐条解説(多賀谷一照監修 電気通信事業法研究会編著)においても、第4条の解説において、明確に、

したがって、電話や電子メール等の特定相だの通信は、ひとまず秘密性が推定されると解される。他方、電子掲示板やホームページに掲載された情報など太く停車にむけて表示越されることを目的とした通信の内容は、発信者がそれ自体を秘密としていないと解すべきであり、本状の保護の対象外である。

とされているところです(第一版 38頁)。なので、上の4条1項のところは、「秘密足るべき通信」であることが実は、4条1項の対象であると解されることになりま、その意味で、この部分については、郵便法と電気通信事業法は、齟齬を来しているわけではないと解するのが、私の立場になります。

#すみません。改訂版ポチッとしました。許してください

4.2.2 「他人の秘密」の関する「通信」とは?

これについては、郵便法の解釈と同様に「個々の」通信に関しない通信についての保護は、契約なり(情報の種類)によって個人情報保護法による保護によるのではないか、ということになります。この点については、総務省の立場はかならずしも明確ではないように思えますか、個々の通信の構成要素ではなくても、およそ推知させるものであればいいとしています。

これについては、むしろ、人相、言葉の訛りまで広げている逐条解説の解釈(第一法規版1987年)が、おかしいことになるかと思います。これは、郵便法と揃えること、そして、1条が、「秘密足るべき通信」に関する規定、2条が、不特定多数に対する通信であっても、契約上、守られるべき秘密事項という整理が、バランスがとれるように思えます。ここまで広げた場合に、上で見たように統計的なレベルまで処理された情報(トラヒック・データ)との区切りはどこになるのかという個人的な疑問があったりします。

4.2.3 「他人の秘密」についての利益考量の必要性と正当化、そして、そのコントロール

この場合、「通信の秘密」以外の「他人の秘密」については、利益考量による利用が認められ、むしろ、総務省の行為規範が 、セキュリティ上の行為、通信のスムーズさを保つ行為、知的財産権侵害等の場合の命令に応じる行為などについて確立されるべきであるとしているのが筆者の立場です。

要するに、米国の法理などを分析するとわかるのですが、米国の最高裁判所の判例の傾向として重要であるのは、

第三者が情報を秘密にしておくであろうという主観的な期待が送る側にあっても、送る側の者は、通常、第三者に開示された単なる情報に対して自らがコントロールを保持し続けることを合理的に期待することができない、とされてきている点である

とされています(司法省の捜索・差押マニュアル 1B3 )。

また、欧州においては、オープンインターネット規則において、3条は、オープンインターネットアクセスの安全措置(Safeguarding)を定めています。第3条第3項の第3パラグラフは、インターネットアクセスサービスのプロバイダは、第2パラグラフに規定されている以上のトラフィック管理措置を行ってはならず、特に、以下の目的のために必要な場合を除き、特定のコンテンツ、アプリケーション、サービス、または特定のカテゴリ間のブロック、減速、変更、制限、干渉、劣化、または差別を行ってはならないものとしています。具体的には、

  • (a) インターネットアクセスサービスのプロバイダが対象とする連邦の立法行為、連邦法に準拠した国内法、または連邦の立法行為や国内法に効力を与える連邦法に準拠した措置(関連権限を持つ裁判所や公的機関の命令を含む)を遵守するため。
  • (b) ネットワーク、そのネットワークを介して提供されるサービス、及びエンドユーザの端末機器のインテグリティとセキュリティを維持するため。
  • (c)  差し迫ったネットワークの混雑を防止し、例外的または一時的なネットワークの混雑の影響を緩和するため。

のみがそのようなトラフィック管理が許されている場合であるとしています。(a) いわゆるサイトブロッキングについての司法的・行政的ブロッキングです。(b) サイバーセキュリティに関するISPの活動です。(c)は、

このような解釈によって、ISPによるセキュリティ活動が、原則禁止状態から、コントロールされた推奨事項へと変わるのではないか、という実質的な理由もあるわけです。

5 まとめと感想
5.1 まとめ

では、上の議論を一枚の図にできないか、という難問が降りかかります。チャレンジしましょう。

上の図は、送信者・受信者における個別のコミュニケーションの内容を中核にして、そのコミュニケーションを伝えるためのデータ部分、それに関して、その個別の通信を推知させる情報、通信に何らかのリンクする情報という構造を示しています。

有体物からフォーカスするのが郵便法等の枠組みになります。そこでは、信書(特定人から特定人への通信の送達)概念と、それを含む郵便物(有体物による通信)の概念とがあります。それについて、今回の検討会において、他人の秘密部分については、利益考量のアプローチが成り立ちうること、それについてガイドラインや関連組織との調整を明らかにして、いわゆる実質的な行為規範が成立するような努力がなされていることが明らかになりました。

これに対して、下半分が電気通信事業法の解釈論の構成を示します。ただし、これについては、今回のように問題意識に応じて、きちんとして整理されていないので筆者なりの分析ということになります。上の逐条解説を前提とする限り、4条1項が秘密とされる通信についての規定であるとされているので、信書に相当するものとして位置づけることができます。その意味で、すべての通信に4条1項の「通信の秘密」が適用されるわけではありません。(この点は、残念ながら、論者・有識者は、意識して論じていないです。公然性ある通信に当然に4条1項の「通信の秘密」を論じているのが一般です-私からするとポピュリズムとしかいいようがないと思いますが) しかも、個々の通信の構成要素以外の情報についても他人の秘密の保護を及ぼしています。その意味で、郵便法等とは、異なっており、いわば、保護範囲を意識して拡張しています。

上の図の右下の「通信の秘密/他人の秘密」がゆがんでいるのは、郵便法と解釈が揃えば、通信一般については、公然性ある場合については、保護すべき事項は、個々の通信に関するメタデータに限定されるべきであり、また、それが、「他人の秘密」として保護されるにすぎないはずであるのに、一般には、4条1項の「通信の秘密」としてきわめて厚い保護が与えられていることを示しています。それが筆者からすると、「ゆがんでいる」という評価になるわけです。

5.2 感想

郵便会社にしてもISP にしても、社会において、中間媒体者は、積極的な行為をなすことができれば、ここに行為をなすよりも効率的な実施をなすことができることはいうでもないです(LCAであります)。そうはいっても、プライバシーの尊重などの要請などはあり、それを如何にして両立させるのかということになるかと思います。

この検討会は、中間媒体者のデータを一定の枠組のもとで如何に活用すべきか、その場合に、従来の法的枠組を整理すべきではないか、という背景を有しているものと理解しています。そして、それを中間媒体者は、その自らの判断で奈良かのことをなすことはできないというドグマを墨守するだけでは社会の要請に答えることができないというのが、実際には明らかになったというのが、この検討会であるものと考えられます

その意味で、このようなアプローチが、電気通信における「秘密の保護」にももとめられるはずであるということが考えられます。確かに電話が通信のメインストリームであった時代に、その営業政策として、通信の秘密を肥大化させるということは合理性があったのかもしれませんが、公然性ある通信についてまで、そのメタデータを利用しての安全性の確保・スムーズな通信の確保を損なうような解釈を維持し続けることがどれだけ合理的なのか、というのは、疑問に思います。

私としては、このような「通信の秘密の肥大化」という事象を、上品に「王様は裸ですよね」といったのが、この検討会の意義であるように思うのです。

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