瑞典、葡萄牙、墺太利、匈牙利の無線電信立法-電波法の「通信の秘密」の数奇な運命のトリビア

とあることで、電波法を調べていたら、無線電信法通義 著者 舛本茂一 著 出版者 [帝国無線電信通信術講習会]を見つけました。

でもって、この本の最初のところは、無線電信法制定に関する法律が記載されています。

歴史的には、明治33年10月公布の逓信省令77号が無線通信の存在を認めたことになります。これは、電信法44条でもって委任によって公布されたもので、ここでは、無線通信を電信電話ではない一種の通報信号施設と見なしたものだそうです。そして、「私設」に関する規定以外を準用しました。

明治41年には、無線通信による公衆通信事業の運営が開始されたわけですが、この事業は、

所謂政府専掌主義のもとにすべて政府これを施設し、絶対に民間の私設を許さざりしなり

だったとのことです。そして、船舶に対する無線機気の設置の強制、また、第一次世界対戦(当時は、欧州戦争といったようです)による特別の制限規定の必要などから、無線通信の特別法の制定が図られたことが記載されています。

大正3年無線電信法の立法に関する具体的調査に着手し、大正4年5月第36回帝国議会で議決され、無線電信法が公布されるのにいたりました。

無線電信法通義が興味深いのは、いろいろいな国の比較法が常に念頭に置かれていたということです。(前に電気通信事業法の通信の秘密との関係で調査した際に、ふれていたのですが)

この本の7ページからは、

「船舶無線電子装置強制に関する外国の立法例」

がでてきています。ということで、クイズになります。

  1. 葡萄牙
  2. 墺太利
  3. 匈牙利
  4. 瑞典

は、それぞれ読めますでしょうか。

正解は、

  1. ポルトガル
  2. オーストリア
  3. ハンガリー
  4. スウェーデン

です。

これらの国々に加えて、英国、アメリカ、カナダ、豪州連邦(ママは、旧字)、ウルグエー、ブラジル、アルヘンチナ、ニウジーランドの国々(表現は、本のママです)の国内法が調査されています(同書7ページ)。

それに引き換え、現代の立法の基礎調査ってどうなっているのでしょうか。この当時のような調査がなされているとはおもえなかったりします。調査の敷居は、格段に低くなっているはずなんですけどね。

ということで無線電信法(大正4年6月21日法律第26号、1915)の通信の秘密は、同法の20条です。全文は、このページから

上の無線電信法通義のイメージは、こんな感じ。

同条は、

第二十條
電信官署又ハ電話官署ノ取扱中ニ係ル無線電信又ハ無線電話ノ通信ノ秘密ヲ侵シタル者ハ一年以下ノ懲役又ハ二百圓以下ノ罰金ニ處ス
無線電信又ハ無線電話ノ事務ニ從事スル者前項ノ通信ノ秘密ヲ漏泄シタルトキハ二年以下ノ懲役又ハ五百圓以下ノ罰金ニ處ス
本條ノ罪ハ告訴ヲ待テ之ヲ論ス

となっています。

構成が、一般の通信の秘密に関する規定と、事業に従事する者との秘密保持の規定とに分けて構成されるというその後の法的な仕組みがここで取られていることがポイントです。その一方で、「通信の秘密」と「他人の秘密」という使い分けはされておよず、ともに通信の秘密が保護対象となっているというところもポイントです。

解説によると、電信官署の取扱中は、配達交付後と電報調査上も の原書保管中、取扱中と解されるとされています。この点は、その後、通信の秘密がいつまで続くのかという議論がたえてしまったということから、非常に興味深い記述です。

また、事業に従事する者の規定については、

無線電信の事務に従事する者に対して、特に漏泄の文字をもって(定めて)いるのは、通信従事者のごときは、その職務上、自然、他の通信の秘密をも傍受するの地位にあるから、漏泄と定めるのをものとも穏当と考えるから (原文は文語体)

ということだそうです。

また、他国の立法例として米国(1912年8月無線通信取締法)、英国、カナダ(1913年無線電信法)が参照されています。

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