株式会社ITリサーチ・アートの調査でいうと、英国において、NewsBin事件が、判決によるブロッキングとしての理論的な意味を有しているので、ここで、紹介できるかとおもいます。
英国の裁判所は、一連のNewzbin事件において、アクセスの停止を命じる判断をなしています。
具体的には、次の3つの判断があります。
①Twentieth Century Fox Film Corporation and others v Newzbin Ltd [2010] EWHC 608 (Ch))
②Twentieth Century Fox Film Corp & Ors v British Telecommunications Plc [2011] EWHC 1981 (Ch) (28 July 2011)
③Twentieth Century Fox Film Corp & Ors v British Telecommunications Plc [2011] EWHC 2714 (Ch) (26 October 2011)
(1)MewsBin(その1)
判決①は、映画会社とNewzbinを保有し、運営する会社との間の訴訟です。
NewzbinはMr Chris Elsworth (“Caesium”)、 Mr Thomas Hurst( “Freaky”)、 Mr Lee Skillen ( “Kalante”)によって運営されていました。
Newzbinは、Usenet(ユーズネット)のコンテンツのインデックスサイトです。それ自体としては、ファイルの提供も、アップロードもしていません。
Newzbin は、ユーズネットのメッセージを検索し、ヘッダー情報を「素“RAW”」 「凝縮“Condensed” 」「ニューズビン “Newzbin” 」の3つのインデックスに処理します。また、Newzbinは、XML言語をベースにした情報ファイルであるNZBファイルにより、あちこちに散らばっているユーズネットへの投稿の断片の自動収集を可能にしました。
Newzbinはアニメ、 アプリ、書籍、コンソール、エミュレーション、ゲーム、その他、映画、音楽、パーソナル機器用(PDA)、リソース、テレビなどのカテゴリーにインデックスを分けています。また、これらのカテゴリーは、サブカテゴリーの分類がなされています。コンテンツにどのようなものがあるかというバイナリの レポートは 、エディターにより作成されており、エディターは、有給です。2010年の段階で、250人ほどいたとされています。
エディターに対して違法な著作権侵害ファイルやチャイルドポルノなどを幇助することはできないとコメントされていたのですが、裁判所は、これは飾り物(cosmetic)にすぎず、実際は、遵守されていなかったと認定しています。裁判所は、同サイトのレポートの内容については、ほとんどが、著作権侵害へのインデックスであると判断しています。
Newzbin社は、裁判において、著作権侵害の事実は知らなかったといったのですが、尋問の結果やメールなどの証拠からこのような主張は採用されませんでした。
裁判所は、
1988年著作権・意匠・特許法16条は、映画の著作権は、第三者に対して著作権によって侵害されている行為を許諾(authorise)するものによって侵害されると定めているとしました。そして、上記Newzbinの行為が、上記「許諾」概念に該当するかどうかという点について、考察の結果、該当性を認めて、Newzbinの行為が著作権を侵害することを認めました。そして、同法9第7条Aに基づいて、差し止めをなすことを認めました。
同法97条A(サービスプロバイダに対する差止命令)は、
⑴ 高等裁判所(スコットランドにおいては民事控訴院)は、サービスプロバイダが、実際に著作権侵害を利用しているのを現実に悪意である(actual knowledge)場合に、差止命令を下す権限を有する
⑵ サービスプロバイダが、本条の目的に関し、現実に 悪意であるかどうかは、裁判所は、関連する全ての事実を考慮すべきであり、特に、
(a)2002年電子商取引指令規則6条(1)(c)に定める連絡手法によりなされた通知を受領しているかどうか
(b)通知を送付したものの氏名及び住所を含んでいたか、どうか
と定めています。
申立人らは、全ての著作権侵害に対する広範な差止命令を求めたが、裁判所は、権利者にもとづくもののみが認められると解されること、Newzbin社が、全ての著作権侵害について現実に悪意であることは考えられないことなどから、具体的に特定されている著作権に限っての差止命令を命じました。
(2)判決②及び③は、映画会社とブリティッシュ・テレコム(BT)との間の訴訟です。
判決②の事件の申立人らは、有名な6つの制作/映画会社(20世紀フォックス、ユニバーサル、ワーナー、パラマウント、ディズニー、コロンビア)であり、映画やテレビの制作と配給をおこなっているスタジオである。一方、相手方は、BTであり、申し立ての趣旨は、1998年著作権法97条Aに基づいて、差止命令を求めた事件です。
具体的には、BTの利用者に対して、Newzbin2サイトに対してアクセスすることを妨げる(impede)差止命令を求めたものです。
上記①事件において、Newzbin1サイトは、運営を停止したが、同じURLで、新たなNewzbin2サイトが、運営を開始し、その運営者が不明であったため(オフショアと思われる)に、申立人らとしては、BTに対して差止めを求めるのが可能な方策ということになったのです。
(3)NewsBin(その2)
判決は、著作権侵害の問題についての認定(パラ19-22)し、これに対して、解決策についての議論を行っています(23-)。
判決は、Newzbin1事件の経緯を述べ(25-44)、Newzbin社は、任意清算をすることになり、運営を停止した。しかし、同様のNewzbin2が運営を開始することになる(45-47)。ウェブサイトにおいて、このNewzbin2は、2という数字の後に、NEWZBINという文字が現れるものであって、実質的には、Newzbin1と同様である(48)。Newzbin1と同様に、英国の利用者を基盤としており(49)、商業的に利用可能な著作物が94パーセント以上を占めるとされ(50)、また、映画及びテレビがその中心である(51-55)。そのサイトは、匿名で運営されている(56-)。BTは、英国最大のインターネット加入者であり、インターネットアクセスサービスを提供している(59-)が、Newzbin2のウェブサイトをホストしているわけではない(63)としています
このあとの具体的な判断としては、
判決は、Internet Watch Foundation (IWF)のブロッキングシステムを論じ(65、66)、ISPの採用する技術一般(DNS name blocking、IP address blocking using routers、DPI-based URL blocking using ACLs on network management systems)を説明した後(71)、 B Tの採用するCleanfeed技術を論じています(73-)。
その後、判決では、法的な問題として、1998年人権法(The Human Rights Act)/欧州人権条約の規定(76-78)、電子商取引指令(79-82)、2002年同規則(83)、情報社会指令(84-85)、2003年著作権規則(86)、著作権行使指令(87-90)、同規則(91)などが紹介されています。
判決は、その後、種々の論点を検討することになる。
EU指令の解釈・他の判決例、管轄権に関する論点、具体的には、BTが侵害に利用されていないこと、実際に知らないこと、電子商取引指令第12条(1)違背、同指令第15条(1)違背、欧州人権条約第10条違背などについての議論をなしています。
また、BTは、仮に命令がなされたとしても、申立人らは、全てのNewzbin2ウェブサイトに対して利害を有しているわけではないこと、多数の要求が爆発してしまうこと、効能の観点から妥当ではないこと、比例原則に反することを理由として、現実的ではないというが、それぞれ、採用することはできないとして、映画会社の主張する命令を認めました。
その命令の主文は、
1. 相手方は、現在、www.newzbin.comやそのドメイン又はサブドメインでアクセス可能なNewzbin 若しくはNewzbin2に向けて、以下の技術を採用しなければならない。
(ⅰ)上述のウェブサイトが運営する、若しくは、利用可能なそれぞれ全ての IP アドレスであって、申立人若しくはその代理人から、書面で通知されるものに関するIPアドレスブロッキング
(ⅱ)最低でも、上述のウェブサイト及びドメイン/サブドメインにおいて利用可能なそれぞれのURLであって、申立人若しくはその代理人から、書面で通知されるものに関するDPI 基盤ブロッキング
2. 疑いを回避するために、もし、相手方が、クリーンフィードとして知られる技術を採用する場合には、詳細な分析を利用するDPIブロッキングを採用する必要はなく上記1(ⅰ)and(ⅱ)に適合するものである
3. (略)
というものでした。
(4)NewsBin(その3)
判決③の事件は、上記判決②の事実関係を前提に、状況が変更したこと、また、Desmond McMahon氏というBTの利用者が裁判に参加した上で判決②事件の差止命令の表現(The wording of the injunction)についての判断がなされています。
上記差止命令の表現については、IPアドレスブロッキング・再ルーティング、英国小売・大衆市場サービス、他のIPアドレスの論点があるとしている(5-)。
IPアドレスブロッキング・再ルーティングというのは、クリーンフィード技術の表現の訂正であり(6)、英国小売・大衆市場サービスというのは、同技術が、小売・大衆市場サービス向けのサービスになっており、申立人らは、大企業・官庁向けにもそのようなサービスの提供をもとめていたが、判事は、その拡張を妥当とは考えないということが述べられている(8)。②判決以降、BTのブロッキングの制限を回避するクライアントソフトウェアが利用可能になった。申立人としては、特定された以外のIPアドレスを拡張することを望んだが、それを限定するのに、申立人の提案する「Newzbin2のウェブサイトにアクセスすることを提供することを唯一の若しくは、主たる目的とするIP アドレス」という表現が望ましいと判断している(10-12)。
また、判決は、他のISPに対する請求との関係(13-15)、一時的遮断(16-18)、(コスト算定に関する)ノーウィチ・ファーマカルとの類似性(19-31)、命令実行の費用(32-)、BTの損害担保(34-)、申立のコスト(53-)についての議論をしている。
判断としては、具体的な命令が、上記判決②の命令が、表現が訂正されて、言い渡されている。
(5)判例理論としてのブロッキング
また、英国においては、同様の判決として、以下のものがあり、確固たる判例理論を形成しています。
・Dramatico Entertainment Ltd v British Sky Broadcasting Ltd [2012] EWHC 268 (Ch)、 [2012] 3 CMLR 14 (“Dramatico v Sky”)(プライベートベイに関する通信についての差止命令)
・Dramatico Entertainment Ltd v British Sky Broadcasting Ltd (No 2) [2012] EWHC 1152 (Ch)、 [2012] 3 CMLR 15 (“Dramatico v Sky (No 2)”)
・EMI Records Ltd v British Sky Broadcasting Ltd [2013] EWHC 379 (Ch)、 [2013] ECDR 8 (“EMI v Sky”)
・Football Association Premier League Ltd v British Sky Broadcasting Ltd [2013] EWHC 2058 (Ch)、 [2013] ECDR 14 (“FAPL v Sky”)
・Paramount Home Entertainment International Ltd v British Sky Broadcasting Ltd [2013] EWHC 3479 (Ch)、 [2014] ECDR 7 (“Paramount v Sky”)
・Paramount Home Entertainment International Ltd v British Sky Broadcasting Ltd [2014] EWHC 937 (Ch) (“Paramount v Sky 2”)
また、商標の事件にかかるブロッキングの法理が利用されたものとして、カルティエ事件(Cartier、 Montblanc and Richemont v BSkyB、 BT、 TalkTalk、 EE and Virgin (Open Rights Group intervening) [2014] EWHC 3354 (Ch))があります。
(6)判例理論の定着
ブロッキング等の運用状況に関し、上述のように確固たる判例理論が形成されています。
かかる判例にもとづいて、著作権侵害に関してブロックされているサイトについては、2014年11月には93ほどあり 、その後、2015年には85のサイトが追加されています 。実際の運用については、サイトごとにまとめて一覧がある(https://www.blocked.org.uk/isp-results)。
ブロッキング等の運用について、ISPにおいて、判決に対して批判が生じるということは見当たりません。
もっとも、オーバーブロッキングにたいする懸念などは明らかにされてきていた。この点に関してオンラインの人権団体であるOpen Rights Groupは、そのオーバーブロッキングから生じる弊害について警鐘を鳴らしている。法的な手続きとしても裁判所命令が不明確で、誤りがあった場合の訂正方法や異議の申し立て方が明らかにはなっていないと批判している。
当該対策の実効性とも関連して、英国政府が近時のオンラインでの著作物の利用についてなした研究として“Online Copyright Infringement Tracker Wave ” があります。この調査の結果、2013年に比べ音楽やテレビ番組、映画等をダウンロードし利用する人の割合は6%増加し、62%になった。また、合法のサービスを利用してコンテンツを利用する人の割合は2013年に比べ10%増加したが、なお回答者の5分の1は著作権を侵害しているコンテンツにアクセスしています。
また、消費者行動の観点から分析する最新の研究としては、Brett Danaher ほかの“The effect of piracy website nlocking on consumer behavior(消費者行動における著作権侵害サイトのブロッキングの影響)”という研究があり 、注目されています。
この研究の結論としては、パイレートベイに対するブロッキングは、効果としては、それほど存在しない、消費者は、ブロッキングを回避してしまう、ただし、それ以外の侵害サイトに対するブロッキングは、有効であり、Netflix などのサイトへのアクセスを増加させる効果があったというものである。