「オンラインカジノ強制遮断、新制度を検討へ…総務省が月内に有識者会議設置」という記事が出ています。個人的には、ブロッキングについては、再度、冷静に、議論すべき時期が来ているかと思っているのですが、カジノ対策という観点ではありますが、議論されることはいいことだろうと思います。
そこで議論されるべき論点として、費用負担の論点が出てくることははっきりしているのですが、欧州・英国において著作権侵害を理由としてブロッキングがなされた場合に、それにかかる費用は誰か負担するべきなのか、という問題について判決例を洗い出しておきたいと思います。
1 はじめに
最初にいままでの個人的に書いてきたことをまとめることにします。
ブロッキングについては、
- 株式会社ITリサーチ・アートの報告書(「諸外国におけるインターネット上の権利侵害情報対策に関する調査研究の請負」)(以下、2016年調査報告といいます)
でもって、具体的な調査をして、そのあと、
でいろいろと調べたこと、講演したことをまとめています(季刊Nextcom53号)。
NextComの論文は、駒澤綜合法律事務所のブログで、
- 動的ブロッキング・ライブブロッキングの「もつれ(エンタングルメント)」-著作権侵害に対するブロッキングの動向-(2021年8月28日)
- ダイナミック・ブロッキングの状況-欧州議会調査サービス「デジタル環境におけるスポーツイベント主催者の直面する課題」(2021年10月10日)
- 最安価損害回避者としてのISP-「通信の秘密」の解釈の合理的制限の重要さ(2022年4月13日)
- 欧州において権利者とアクセスプロバイダは、「原理的に」違法コンテンツのブロッキングを行えるか? (2022年9月21日)
などで、書き散らかしていたのをまとめたものです。
私個人的には、
- 最安価損害回避者としてのISPの役割の認識
- ISPに対しての対応責任(Responsibility)と結果責任(Liability)の峻別
- ISPの対応責任についての行動規範(Code of Practice)の鼎立
が、重要だろうと考えています。
もっとも、このような分析のサイバーセキュリティへの応用として、能動的サイバー防御においても、
-
- ISPの日常のネットワーク管理活動と、セキュリティ維持のための国家との連携
がポイントになるだろうと考えていたのですが、なぜか法案が、サイバーインテリジェンス方面に向かっていったので、周波数が会っていない状態になっているのは、またの機会に。
特に、
でも触れているのですが、プロバイダーは、電気通信事業法の提供義務に従って、通信役務を提供しないといけないわけですが、それの義務を果たしている限りでは、自己の通信機器の管理権・所有権の観点から、法的に権限ある当局に命令されない限り、自由だということもいえます。
すると、最安価損害回避者の議論でみたように、被害にあう人が自分たちの被害を回復するために、プロバイダに金銭的な提供をして、ブロッキングをしてくれという申し出て、プロバイダがそれは、社会的な責務からしても当然だよね、では、止めますよ、ということになったら、それは、提供義務違反になるのか、ということが解釈論として問題なのだろうと思います。上の図をもう一回使います。
被害を被る人たちは、Aさんに金銭的なインセンティブを提供して、被害を止めてもらうほうが社会的には、はるかに合理的になるわけです。
一般に憲法の「通信の秘密」や電気通信事業法の「秘密の保護」との条文との関係が議論されていますが、前者は、制定法ができた場合に果たして、それが憲法違反として無効になるかという議論を維持できるほどのものとは思えないですし、後者については、そもそも、公衆に対する通信は、秘密としての通信なのか、という論点をクリアできないという問題を抱えており、2018年のブロッキングの議論は、根本的にミスリーディングであったという把握をしています。
このようなアプローチをしていくと、プロバイダの経済的なインセンティブの問題というのは、非常に大きいだろうということがいえるわけです。では、欧州・英国において、この点がどのように議論されてきているかというのをみていきたいと思います。
2 欧州の判決例
2.1判決例
欧州のブロッキングの判決例については、詳しくは、2016年調査報告のとおりです。そのあとの判決例なども含めると
- L’Oréal and Others、 C‑324/09(2011年)
- Scarlet Extended、C‑70/10(2011年)
- SABAM、 C‑360/10(2011年)
- UPC Telekabel Wien、C‑314/12(2014年)
- Mc Fadden、C‑484/14(2016年)
- Stichting Brein、C‑610/15(2017年)
などがあります。
ところで、下のCartier判決で、L’Oréal SA v eBay International AG (Case C-324/09) [2012] とUPC Telekabel Wien GmbH v Constantin Film Verleigh GmbH (Case C-314/12) [2014]が、コスト負担について議論した例としてあげられているので、少し見てみます。
2.2 L’Oréal SA v eBay International AG (Case C-324/09) [2012]
これは、2016年報告書 119ページです。ここで、
多くの論点が欧州裁判所の判断にかかっているとしたものである
として、その10番目の質問に関して、ブロッキングの問題があることに触れています。でもって、確かに報告書自体は、詳しくみていないので、もう一度判決例を見てみます。
事案については、2016年報告書で触れた通りです。そこで議論された法的な問題は、
(1)香水や化粧品のテスター(小売店で消費者に製品のデモンストレーションを行う際に使用するサンプル)、およびド ラミングボトル(少量ずつ取り出せる容器)は、どのような目的で使用されるのか。消費者への販売を意図していない(多くの場合、「非売品」または「個別販売用」 と表示されている)香水や化粧品のテスターやドラミングボトル(無料サンプルとして消 費者に提供するために少量ずつ取り出せる容器)が、商標権者の認定販売業者に無償で 提供される場合、そのような商品は[指令 89/104]の第 7 条(1)項および[規則 No.40/94]の第 13 条(1)項の意味において「上市」されているか。
(2) 商標権者の同意なしに香水や化粧品から箱(またはその他の外箱)が取り外された場合、これは[指令 89/104]の第 7 条(2)項および[規則 No.40/94]の第 13 条(2)項の意味において、 商標権者が箱なし製品のさらなる商品化に反対する「正当な理由」になるか。
(3) 以下の場合、上記質問 2 の回答に違いはあるか:
(a) 箱(又はその他の外箱)を取り除いた結果、箱詰めされていない製品には[指令 76/768]の第 6 条(1)項が要求する情報が記載されておらず、特に成分表又は賞味期限が記載されていない場合、上記質問 2 の回答に違いはあるか。
(b) 当該情報がない結果、箱詰めされていない製品の販売の申出又は販売が、第三者によって販売の申出又は販売が行われる共同体の加盟国の法律に従って犯罪を構成するか。
(4) さらなる商品化によって商品のイメージ、ひいては商標の信用が損なわれる、ある いは損なわれる可能性がある場合、上記質問 2 の回答に違いはあるか。その場合、その影響は推定されるのか、それとも商標権者が証明する必要があるのか。
(5) オンライン・マーケットプレイスを運営する業者が、登録商標と同一の標章をキーワードとして検索エンジン運営者から購入し、その標章が検索エンジンによってオンライン・マーケ ットプレイスの運営者のウェブサイトへのスポンサーリンクでユーザーに表示される場 合、スポンサーリンクでの標章の表示は、[指令 89/104]第 5 条(1)項(a)号および[規則 No 40/94]第 9 条(1)項(a)号にいう標章の「使用」に当たるか。
(6) 上記質問 5 で言及されたスポンサーリンクをクリックすると、他の当事者がウェブサイトに掲載した標識の下で商標が登録されている商品と同一の商品の広告または販売の申し出にユーザーが直接つながる場合、 そのうちのいくつかは商標を侵害し、また、それぞれの商品の状態が異なることによ り商標を侵害しないものもあるが、そのことは、[指令 89/104]の第 5(1)項(a)号及び[規則 No 40/94]の第 9 条(1)項(a)号の意味において、オンラインマーケ ットプレイスの運営者が侵害商品に「関連して」標章を使用することになるか。
(7) 上記質問 6 で言及されたウェブサイト上で広告され、販売のために提供された商品に、商標権者によって、または商標権者の同意を得て EEA 内で市販されていない商品が含まれる場合、当該使用は侵害品に該当するか、 そのような使用が[指令 89/104]の第 5 条(1)項(a)号及び[規則 No.40/94]の第 9 条(1)項(a)号に該当し、[指令 89/104]の第 7 条(1)項及び[規則 No.40/94]の第 13 条(1)項の範囲外であるためには、広告又は販売の申し出が商標の対象領域内の消費者を対象としていることで十分か、又は商標権者は、広告又は販売の申し出が必然的に当該商品を商標の対象領域内の市場に出すことを伴うことを示さなければならないか。
(8) 商標権者が苦情を申し立てた使用が、スポンサーリンクではなく、オンラインマーケッ トプレイスの運営者自身のウェブサイトにおける標識の表示である場合、上記 5 から 7 の質問に対する回答に違いはあるか。
(9) [指令 89/104]の第 5 条(1)項(a)及び[規則 No.40/94]の第 9 条(1)項(a)の範囲内であり、[指令 89/104]の第 7 条…及び[規則 No.40/94]の第 13 条…の範囲外であることが、そのような使用にとって十分である場合、その広告又は販売の申出が、商標がカバーする領域内の消費者を対象としている:
(a) 当該使用は、[指令 2000/31]の第 14 条(1)項の意味における「サービスの受領者が提供する情 報の保存」で構成されるか、又はこれを含むか。
(b) 使用が[指令 2000/31]の第 14 条(1)項に該当する活動のみで構成されているわけではないが、そのような活動を含む場合、オンラインマーケットプレイスの運営者は使用がそのような活動で構成されている範囲において責任を免除されるか、また免除されない範囲において損害賠償又はその他の金銭的救済がそのような使用に関して認められるか。
(c) オンライン・マーケットプレイスの運営者が、登録商標を侵害する商品がそのウェブサイト上 で広告され、販売の申出がなされ、販売されていること、及び当該登録商標の侵害が、ウ ェブサイトの同一又は異なる利用者による同一又は類似の商品の広告、販売の申出、販売を通じて 引き続き発生する可能性が高いことを知っている状況において、これは[指令 2000/31] の第 14 条(1)の意味における「実際の知識」又は「認識」に該当するか。
(10) ウェブサイトの運営者などの媒介者のサービスが、登録商標を侵害するために第三者 によって使用された場合、[指令 2004/48]の第 11 条は、商標権者が、侵害の特定の行為の継 続とは対照的に、当該商標のさらなる侵害を防止するために、媒介者に対して差止 命令を得られるようにすることを加盟国に義務付けているか。
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となっています。なので、オンラインによる商標権の侵害については、5番、6番、9番、10番目の質問が問題となるということかと思います。
9番目の質問
どのような状況において、オンラインマーケットプレイスの運営者が指令 2000/31 の第 14 条(1)項の意味における「認識」を有していると結論付けることができるか。
についてみるとき裁判所は、
- プロバイダ「違法な活動または情報を実際に知っていた」わけではなく、損害賠償請求に関しては「違法な活動または 情報が明白である事実または状況を認識していた」わけではない、またはそのような知識または認識を得 た後、情報を削除するか、または情報へのアクセスを無効にするために迅速に行動したことを条件として、保存している違法なデータに対する法的責任を免除することができる(119)。
- 本案訴訟では損害賠償の支払いが命じられる可能性があるため、eBay が、問題となってい る販売オファーに関して、また後者がロレアルの商標を侵害している範囲において、「違法行為または情報が明白である事実または状況を認識していた」かどうかは付託裁判所が検討すべきである(120)。
- さらに、指令 2000/31 の第 14 条(1)項(a)号は、当該プロバイダーが何らかの形で当該事実又は状況を認識するようになるあらゆる状況を対象 としていると解釈されなければならず(121)、これは、特に、オンラインマーケットプレイスの運営者が自らの 主導で実施した調査の結果として違法な活動や違法な情報を発見した場合や、運営者がそのような活動や情報の存在を通知された状況が含まれる(122)。
- 通知された場合において、違法とされる活動や情報の届出が不十分な正確さや不十分な立証であることが判明す る可能性があることを考えると、当該届出が指令 2000/31 の第 14 条に規定される免責を 自動的に排除することはできないことは認めるものの、当該届出が、原則として、事業者に伝達された情報に照らして、事業者が勤勉な経済事業者であれば違法性を認識するはずであった事実や状況を実際に認識していたかどうかを判断する際に国内裁判所が考慮しなければならない要素であることに変わりはない。
とされています。
10番目の質問
指令 2004/48 の第 11 条は、知的財産権の所有者がその権利が侵害されたオンラインマーケットプレイスの運営者などのウェブサイトの運営者に対して、運営者が将来の権利侵害を防止するための措置を講じることを義務付ける差止命令を取得する権利を加盟国に認めることを義務付けているかどうか、また義務付けている場合はそのような措置 はどのようなものか、
を検討します。まず、将来の権利侵害を防止するための措置については、裁判所は、
- 知的財産権の侵害者に対して認められる差止命令(第 11 条第 1 文における「侵害の継続を禁止することを目的とする差止命令」)との第 3 文における「差止命令」という言葉の使用は、かなり異なっていること(128)
- 同指令の特に情報社会における知的財産の効果的な保護を確保すべきであるという目的に照らせば、さらなる侵害行為を防止することにも資する措置を講じるよう命じることができなければならない(131)。
として、将来の権利侵害防止措置も含むものとしています。
オンライン・サービス・プロバイダーに課される措置については、
- 満たすべき条件や従うべき手続きに関連するなど、 指令第 11 条の第 3 文に基づいて加盟国が規定しなければならない差止命令の運用に関する規定は国内法の問題である(135)。
- 国内法の規則は、指令が追求する目的が達成されるように設計されなければならない/効果的かつ説得力のあるもので なければならない(136)。そして、これこは、裁判所による適用にも求められる(138)。
- オンライン・サービス・ プロバイダに求められる措置は、当該プロバイダのウェブサイトを通じた知的財産権の将来の侵害を防止するために各顧客のすべてのデータを積極的に監視することでは成り立たない。さらに、一般的な監視義務は指令 2004/48 の第 3 条と相容れないものであり、同指令が言及する措置は公正かつ比例的でなければならず、過度に費用がかかるものであってはならない(138)。
- 差止命令を出す裁判所は、定められた措置が合法的な取引に障害を生じさせないようにしなければならない(140)。
- オンラインマーケットプレイスの運営 者が、同一の販売者による同一の商標に関するさらなる侵害を防止するために、知的財産権の侵害の加害者を一時停止することを自らの意思で決定しない場合は、差止命令によってそのよう な措置を命じることができる(141)。
- 効果的な救済の権利 を確保するために、オンライン・マーケットプレイスの運営者は、その顧客である販売者の特定を 容易にする措置を講じるよう命じられることがある(142)。
として結論として
指令 2004/48 の第 11 条の第 3 文は、知的財産権の保護に関 連して管轄権を有する国内裁判所がオンライン市場の運営者に対し、当該市場の利用者による当該権 利の侵害を終息させるだけでなく、当該種類のさらなる侵害を防止することにも資する措置を取るよう命令で きるようにすることを加盟国に義務付けていると解釈されなければならないということになる。差止命令は、効果的で、比例的で、思いとどまらせるものでなければならず、合法的な取引を阻害するものであってはならない。
とされています。ただし、これ以上のことは議論されていません。
2.3 UPC Telekabel Wien GmbH v Constantin Film Verleigh GmbH (Case C-314/12) [2014]
これは、2016年報告書 121ページです。
この判決で、ブロッキング(差止命令)についてふれている部分は、議論された第三の質問に関するものになります。第三の質問というのは、
裁判所の差止命令が、当該差止命令が当該アクセスプロバイダが講じなければならない措置を特定していなかったとしても、当該アクセスプロバイダがあらゆる合理的な措置を講じていることを示すことで当該差止命令の 違反に対する強制的な罰則の発生を回避できる場合には、EU 法で認められている基本的権利は排除されると解釈しなければならないのかという点である。
というもの/基本的権利の侵害とはいえないというです。これに対して
- 加盟国が指令の第 8 条(3)項に従って定めなければならない差止命令の規則、例えば満たすべき条件や従うべき手順に関する規則は国内法の問題であること(43)。 当該指令を移入する措置を実施する際に、構成国の当局と裁判所は、当該指令と整合性のある方法で国内法を解釈するだけでなく、これらの基本的権利や比例の原則などのEU法の他の一般原則に抵触するような解釈に依拠しないようにしなければならない(46)。 本件では、指令 2001/29 の第 8 条(3)項に基づいて取られる本案で問題となっているような差止命令は、主に (i)知的財産であるために憲章の第 17 条(2)項に基づいて保護される著作権と関連する権利、(ii)インターネット サービスプロバイダなどの経済主体が憲章の第 16 条に基づいて享受する事業遂行の自由、及び(iii)憲章の第 11 条によっ て保護が確保されるインターネット利用者の情報の自由の間でバランスを取る必要があることを確認しなければならな い(47)。
- プロバイダーの事業を行う自由は、特に、事業者が自らの行為に対する責任の範囲内で、利用可能な経済的、技術的、財政的資源を自由に利用することができる権利が含まれ(48)、本案で問題となっているような差止命令の採択は、その自由を制限するものである(47)。 本案で争われているような差止命令は、受取人が自由に使える資源を自由に利用することを 制限するものであり、受取人にとって多額の費用がかかり、活動の組織に多大な影響を与え、 困難で複雑な技術的解決を必要とするような措置を取ることを義務付けているからである(48)。
- しかしながら、このような差止命令は、本案で争われているようなインターネット・サービス・プロバイダーが事業を行う自由の本質を侵害するものではないように思われる(51)。これは、 第一に、本案で争われているような差止命令は、求める結果を得るために取るべき具体的な 措置を決定する権限をその名宛人に与えるものであり、その結果、名宛人は、利用可能な資源と 能力に最も適合し、活動を行う上で遭遇する他の義務や課題と両立する措置を選択することがで きるのである(52)。第二に、このような差止命令は、差止命令を受けた者があらゆる合理的な手段を講じたことを証明することで、責任を回避することができる(53)。これは、法的確実性の原則に従って、本案で争点となっているような差止命令の名宛人は、 自分が講じた実施措置が明らかになった時点で、また自分に罰則を課す決定が採択される前に、 講じた措置が禁止された結果を防ぐために自分に期待できるものであったことを裁判所に主張することができなければならない(54)。また、差止命令の名宛人が、その差止命令を遵守するために採るべき措置を選択する場合、インターネット利用者の情報の自由に対する基本的な権利を遵守するようにしなければならず(55)、インターネットサービスプロバイダが採用する措置は、第三者による著作権または関連する権利の侵害を終息させることを目的としながらも、情報に合法的にアクセスするためにプロバイダのサービスを利用しているインターネット利用者に影響を与えないようにするという意味で、厳密に対象を絞ったものでなければならない(56)。また、 国内の裁判所は、国内の手続規則によって、インターネットサービスプロバイダが講じた実施措置が判明した時点で、インターネット利用者が裁判所に権利を主張する可能性を提供しなければならない(57)。
- 本案で問題となっているような差止命令の名宛人が、その差止命令を実施する際に取る措置は、知的財産権の保護を目的とするものではない(61)が、本案で問題となっているような差止命令の名宛人がその差止命令を実施する際に 取る措置は、問題となっている基本的権利の真の保護を確保するために十分に効果的なものでなければならず(62)、命令を実施する際にとられる措置は、状況によっては知的財産権の侵害を完全に停止させることができないとしても、適用されるすべての基本的権利の間で、(i)講じた措置が、インターネット利用者が利用可能な情報に合法的にアクセスする可能性を不必要に奪うものではなく、(ii)それらの措置が、保護対象物への不正アクセスを防止するか、少なくともその実現を困難にし、差止命令の名宛人のサービスを利用しているインターネット利用者が、知的財産権に違反して利用可能となった対象物にアクセスすることを著しく阻止する効果を有することを条件とするが、これは各国の当局と裁判所が立証する問題である。(i)インターネット利用者が利用可能な情報に合法的にアクセスする可能性を不必要に奪わないこと、(ii)保護対象物への不正アクセスを防止するか、少なくともその実現を困難にし、差止命令の名宛人のサービスを利用しているインターネット利用者が、知的財産権に違反して利用可能になった対象物にアクセスすることを著しく阻止する効果があることを条件とする限りにおいて、憲章の第52条1項に従って公正なバランスをとるという要件と両立しないと考えることはできない(64)。
としています。この判決は、コストの問題について、留意は、している(とくにパラ48)ものの明確て判断をなしているとまではいえないように思えます。
3 英国の判決例
英国においては、著作権に基づく判決例がたくさん出ています。これも2016年報告書記載のとおりです。が、そのあと、費用についての判決例として、Cartier International AG and others (Respondents)v British Telecommunications Plc and another (Appellants) の判決[2018] UKSC 28(2018年6月13日 リンク)がでています。
でもって、プレスリースが公表されているので、そのまま訳してみます。
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Cartier International AG and others (Respondents) v British Telecommunications Plc and another (Appellants) [2018] UK 28
[2016] EWCA Civ 658 からの控訴審
裁判官: マンス卿、カー卿、サンプション卿、リード卿、ホッジ卿
控訴の背景
被控訴人は、著名な商標の下で高級品を設計、製造、販売するスイスまたはドイツの企業3社である。被控訴人らは英国でサービスを提供する5大インターネット・サービス・プロバイダー(「ISP」)である。
被控訴人らはISPに対し、被控訴人らの商品の模倣品を広告・販売している特定の「標的ウェブサイト」へのアクセスを遮断すること、または遮断しようとすること、さらに標的ウェブサイトへのアクセスを可能にすることを目的とするその他の様々なインターネットアドレスへのアクセスを遮断することを求める差止命令を求めた。ISPは、加入者がコンテンツにアクセスするためのネットワークを提供しているが、コンテンツの提供や保存は行っていない。彼ら自身は関連商標を侵害していない。
裁判官は差止命令を認め、ISPにウェブサイト遮断命令の実施費用を含む費用の支払いを命じた。控訴裁判所はISPの上訴を棄却した。今回の最高裁への上告は、費用のみに関するものである。主な争点は、被控訴人がウェブサイト・ブロッキング命令の実施にかかる諸費用を負担すべきであったかどうかである。
判決
最高裁は、差止命令に従うための費用に関する限り、全会一致で上告を認める。被控訴人はISPに対し、争点となっている実施費用を補償するよう命じられるが、裁判官はISPに訴訟費用の支払いを命じる権利があった。Sumption卿が判決を下し、他の判事もこれに同意した。
判決理由
英国の裁判所には長い間、特定の状況において、不正行為者によって権利を侵害された者を援助するよう無実の当事者に命じる管轄権があった。これには、Norwich Pharmacal Co v Customs and Excise Coms [1974] AC 133において行使された管轄権も含まれる。この管轄権は、一般的に、(結果)責任のない(innocent)媒介者に情報提供を命じることによって、不正行為者に対して訴訟を提起または維持する請求者を支援する目的で行使されるのが一般的である。通常の規則では、媒介者はNorwich Pharmacalの命令に従うための費用を負担する権利がある。情報開示命令は、不正行為のために第三者の施設が利用されることを防止するために、第三者に対して行うことができる命令の1つのカテゴリーに過ぎない[パラ8-12]。
知的財産権に関する国内法は、一連のEU指令によって部分的に整合化されており、そのうち関連するのは、電子商取引指令(2000/31/EC)、情報社会指令(2001/29/EC)、執行指令(2004/48/EC)の3つである。電子商取引指令は、加盟国に対し、ISPを含む「情報社会サービス」が行う特定の活動に関して、責任の制限(「セーフハーバー」)を導入するよう求めている[16-17]。いずれの指令も、権利者と情報社会サービスとの間における、司法救済を実施するための費用を明確に扱っていない[28]。
控訴裁判所において、Kitchen裁判官は電子商取引指令の序文を、媒介者に実施費用を負担させる命令を暗黙のうちに支持するものと見なした。同判事は、同指令の下では、遵守のための費用に対する責任は、免責の見返り(quid pro quo )であり、ISPが送信または保存する情報を監視する一般的な義務がないことを示唆した。Kitchen LJは、L’Oréal SA v eBay International AG (Case C-324/09) [2012] Bus LR 1369およびUPC Telekabel Wien GmbH v Constantin Film Verleigh GmbH (Case C-314/12) [2014] Bus LR 541 [28-29]におけるEU司法裁判所(以下「欧州司法裁判所」)の理由に、自身の分析の裏付けを見出した。
最高裁はこれに同意しない。第一に、前文は、媒介者に対する差止命令の条件について、それ以上の指針を示すことなく、国内法に言及している[30(1)]。第二に、見返りの議論は、証明することを求めることを前提としている。指令は媒介者に対する差止命令を遵守するための費用について全く触れていないため、そのような推論を導き出せるものは何もないのである[30(2)]。第三に前文で説明されているように、免責の根拠は、責任に関する国内法間の格差が単一市場の機能を歪める可能性があり、媒介者がコンテンツをほとんど、あるいはまったく管理できないことにある。差止命令が認められた場合のコンプライアンス・コストの発生とは何の関係もない[30(3)]。第四に、欧州司法裁判所は、遵守コストの発生率については何も述べていないが、媒介者が負担する限りにおいて、過大であってはならないとだけ述べている[30(4)、(5)]。
コンプライアンス・コストの発生率は、実効性と同等性というEUの原則が定める広範な制限の範囲内において、また、いかなる救済措置も公正に比例し、不必要にコストがかからないものでなければならないという要件の範囲内において、英国法の問題である。英国法では、費用の発生は一般に、裁判所が認定するリスクの法的配分によって決まる。罪のない媒介者は、通常、ウェブサイト遮断命令に従うための費用について、権利者から補償を受ける権利を有する。このことは、国内法において、無実の当事者が不正行為者に対して請求者を支援することを要求するために認められた他の命令の場合に確立された立場と原則的に変わらない。セーフハーバーの規定がない場合でも、英国法では、単なる導管としてのISPは商標権侵害の責任を負わない。当事者に法的責任がなく、裁判所の命令による強制力の下で行動している場合、不公正を是正する負担を要求する法的根拠はない[31-33]。
ISPは、知的財産権を侵害するコンテンツを含め、インターネット上で利用可能なコンテンツの量と魅力から経済的利益を得ているため、ISPにエンフォースメントの費用を負担させるのは公平であるとの指摘がなされることがある。しかし、これは媒介者側の責任を前提とするものであり、いかなる法的基準にも合致しない。法律は一般に、法的責任の論拠となるものを除き、道義的責任や商業的責任には関知しない。仮に道義的責任や商業的責任が関係していたとしても、今回のようなケースでそれを見極めるのは難しいだろう。ウェブサイト・ブロッキングの差止命令は、権利者が自らの商業的利益のために求めるものである。権利者が侵害者以外から権利擁護のための費用の拠出を求める権利がある理由はない [34-35]。
従って、原則として、権利者は、EU法が定める救済の制限の範囲内で、ISPに対してコンプライアンス費用を補償すべきである。合理的な費用に限定されなければならないこのような補償が、その限度を超えると考える理由はない。費用は過大でも、不釣り合いでも、回答者の権利行使能力を損なうようなものでもない。決定的に重要なのは、本件の媒介者は法的に(結果)責任のない(innocent)ということである。「セーフハーバー」免責が利用できない場合、侵害への関与がより大きく、国内知的財産法を侵害する可能性がより高いキャッシングやホスティングに従事する者には、異なる考慮が適用される可能性がある[36-37]。訴訟費用に関して、裁判官は、ISPが異例にも訴訟をテストケースとし、申請に対して激しく抵抗したため、ISPに対して費用を認めた。判事には当然その権利があった[38]。
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となります。この判決の法理は、上のような「法と経済学」の文脈の上で、理解するとわかりやすいのではないでしょうか。
4 フランスの判決例
上のCartier International AG事件においてフランスのSociété Française du Radiotéléphone v Union des Producteurs de Cinema, 1e Civ, 6 July 2017(リンク)が引用されています。
リンクは、ロドリゲズ(早稲田大学)に教示いただきました。ありがとうございます。
4.1 事案
映画製作者協会および映画製作者連合(権利保有者)は、映画配給業者全国連盟、デジタルビデオ出版組合、独立系映画製作者組合を代表して、 2009年6月12日付の法律第2009-669号により改正された知的財産法典第L.336-2条に基づき、
映画製作者協会および映画製作者連合は、
- SFR、NC Numéricâble、Free、Bouygues telecom、Darty télécom、Orangeの各社(インターネットサービスプロバイダー(ISP))に対して、ブロッキンクする措置を
- Google France、Google Inc.、Microsoft Corporation、Microsoft France、Yahoo! フランス・ホールディングス、ヤフー・インク、GIEオランジュ・ポルタルズ、検索エンジンプロバイダーは、係争中のサイトへの参照をブロックし削除する措置を
命じられた。さらにこの判決においては、2013年11月28日の命令において、ブロッキング等のコストを負担する旨、命じられた。これに対して、ISPや検索プロバイダーが、
- 民事責任を負わないものが費用を負担する必要はない
- 控訴院がISPが実際に問題のサイトへのアクセスを可能にする活動の起点であり、このアクセスから経済的利益を得ていると判断した上で、ISPがブロッキング措置の費用を負担することが正当であり、比例性の原則に則っていると考えることは、極めて非現実的な理由に依拠している
などを理由に控訴を提起した。
4.2 判断
裁判所は、これらの控訴人主張に対して
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1) 違法な活動を行っている特定のサイトへの加入者のアクセスを遮断するよう命じられたことは、ISPの企業活動の自由を侵害するものである。したがって、このように命じられた措置は、著作権の保護を正当化するものであり、厳密に必要なものであり、著作権の保護に見合ったものでなければならない。これは、措置の費用は、個別に判断されるべきであり、各申請者が負担すべきであり、ISPに体系的に集中させるべきではないことを意味する。ISPに効果のない理由でブロッキング措置の費用を請求することは、会員の著作権侵害により脅威にさらされている職業的組合の経済的均衡を、侵害サイトのブロッキングにおいて制御できない追加費用が発生することで悪化させるだけである。また、本件では、ISPがISPに課した措置の不均衡な性質が示されていないため、控訴院は知的財産法典L. 知的財産法典のL.336-2条に違反している。
2)裁判官は、提出された証拠が不十分であることを理由に判決を拒否することはできないこと、ISPは著作権または関連する権利の侵害を防止または終結するための適切な措置を取るよう命じられる可能性はあるが、そのような命令は、ISPの事業遂行の自由を不当に侵害してはならないこと、 この均衡の原則の順守を確保する責任を負う裁判所が、実際に命じられた措置の均衡性を評価すること、本件において「控訴審判決により命じられた措置の履行がISPに『耐え難い犠牲』を強いる」ことをISPが立証していないこと、および「その不均衡性に関する申し立てまたは正当化が一切ない」ことを理由に、当該措置の費用をISPの負担とすることで、 「問題となっている権利の保護に厳密に必要な措置」を命じると宣言した。控訴院は、比例性の原則が実際に遵守されているかどうかを自ら評価・検証することなく、民法第4条および民事訴訟法第12条、基本権憲章第16条および第52条(1)項に違反しているという主張は、認めなかった。
3) 責任はないものの、ISPは著作権または関連する権利の侵害を防止または終結するための措置を取ることを求められる場合があるが、これらの措置は、事業を行う自由を不当に侵害するものであってはならない。本件では、ISPは「あらゆる効果的な手段」により、 フランス領土からの、および/またはその領土で締結された契約に基づく加入者による、著作権または関連する権利を侵害する特定のサイトへのアクセスを「あらゆる効果的な手段」で防止する措置を講じるよう命じられている。また、ISPがかかる措置の費用を負担することは「問題となっている権利の保護に厳密に必要」であり、比例性の原則に従うものであると判断したこと。申請者である労働組合の経済的均衡は、すでに組合員の視聴覚作品に対する大規模な著作権侵害によって脅かされているため、 「侵害サイトのブロッキングによって、自分たちでは制御できない追加費用が発生することで、経済的均衡がさらに悪化する可能性がある」ため、ISPは「これらのサイトへのアクセスを可能にする活動の起点」であり、「このアクセスから経済的利益を得ている」が、ISPは、命じられた措置の実行が「耐え難い犠牲」を強いることや、「長期的にビジネスモデルの実行可能性を損なう」ことを証明していないため、 控訴院は、知的財産権の保護と事業を行う自由または比例性の原則を尊重する権利との間で公正なバランスを確保せず、欧州連合基本権憲章の第16条および第52条1項、ならびに知的財産法典の第336-2条に違反した。
4)インターネット上の媒介者は、知的財産権の侵害を防止または阻止するための合理的な措置を講じるだけでよいこと。ISPおよび検索エンジンプロバイダーが、紛争中のウェブサイトへのアクセスを防止するためのあらゆる措置を自己負担で講じることを義務付けること、ただし、耐え難い犠牲を伴わず、かつ、経済的存続性を損なわないことを唯一の条件とすることを、 知的財産の保護と事業遂行の自由のバランスを適切に取ることができなかった控訴院は、欧州連合(EU)基本権憲章の第16条および第52条(1)項、ならびに知的財産法典の第L.336-2条に違反した。
しかし、知的財産法典第L.336-2条に基づき差止命令の申請を審理する裁判所が命じることができるのは、問題となっている権利の保護に厳密に必要な措置( 2009年6月10日付憲法評議会決定第2009-580 DC号、前文第38項)のみであり、著作権者および著作隣接権者が享受する知的財産権と、経済事業者が享受する事業活動の自由との間の公正なバランスを確保すること、そして、特に欧州連合基本権憲章第17条2項によって保護される著作隣接権者および著作権者 および、欧州連合基本権憲章第16条に特に明記されているアクセスおよびホスティングプロバイダーなどの経済事業者が享受する事業を行う自由(Scarlet Extended、第46項;2014年3月27日、C-314/12 UPC Telekabel Wien事件判決、第47項)を確保すること、である。
欧州司法裁判所の判例法から、国内裁判所による差止命令が、技術的媒介者に措置費用をすべて負担させるものであっても、当該者の事業遂行の自由に対する権利の本質を侵害するものではないが、望ましい結果を達成するためにとるべき具体的な措置を当該者に決定させる限りにおいて、当該措置が当該者に耐え難い犠牲を強いるものである場合には、その立場は異なることになる。これは、彼が証明すべきことである(UPC Telekabel Wien、第50項から第53項)。
したがって、控訴院が、特定の措置が、その複雑さ、費用、期間を考慮すると、技術的媒介者の経済モデルの実行可能性を長期的に危うくするほど不均衡である場合にのみ、 そのコストの全部または一部を権利者の負担で抑制する必要性を評価することが必要であること、関係する権利を具体的に比較検討した結果、一方では、すでにこれらの侵害行為によって脅かされている労働組合の経済的均衡は、労働組合が制御できない追加支出の発生によってのみ悪化しうること、他方では、 ISPも検索エンジンプロバイダーも、命じられた措置の実施が耐え難い犠牲を強いるものでも、そのコストが経済的存続を脅かすものでもないことを証明していないという唯一の見解を示した。また、このことから、命じられたブロッキングおよび参照解除措置のコストをこれらの媒介者が負担することは、問題となっている権利の保護に厳密に必要な措置であると推測できる。
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として、結果として、控訴を棄却して、費用は、ISPが負担するという判決の結果が維持されました。
結局、ISPが、
- 技術的媒介者の経済モデルの実行可能性を長期的に危うくするほど不均衡である場合にのみ、 そのコストの全部または一部を権利者の負担で抑制する必要性を評価することが必要であること、
- 関係する権利を具体的に比較検討した結果、一方では、すでにこれらの侵害行為によって脅かされている労働組合の経済的均衡は、労働組合が制御できない追加支出の発生によってのみ悪化しうること、
- ISPも検索エンジンプロバイダーも、命じられた措置の実施が耐え難い犠牲を強いるものでも、そのコストが経済的存続を脅かすものでもないことを証明していない
ということで、原則としては、ISPが負担すべきであるという判断がなされています。
5 考察
結局、ブロッキングとして、どの程度の具体的な措置が命じられるのか、どのような措置が実際にとられるのか、という事実関係に依存するような気がします。そのうえで、媒介者の経済モデルの実行可能性を長期的に危うくするほど不均衡であるか、ということが議論さるような気がします。
それこそ、コースの定理によれば、ルールがはっきりすることが一番、大事ということなような気がします。