前のエントリ(「インターネット上の海賊版対策に関する検討会議(第4回資料)を読む」)で、検討会議の資料を分析してみました。
とか、いっていたら、今村先生の資料が追加されていました。英国の資料です(資料1)。
(1)英国資料について
確認しましたが、ITリサーチ・アート報告書の報告書(権利侵害報告書)がブロッキングに関する判例の紹介になっているところ(同137頁から)に比して、全体的なバランスのとれた紹介ということになるかと思います。
- 97A条による差止命令を裁判所からの発令に基づいて、ブロッキングすること
- 2002年電子商取引(EC指令)規則(The Electronic Commerce (EC Directive) Regulations 2002)におけるプロバイダの区別に拘泥することはないこと(「情報社会指令の第 8 条 3 及び著作権法第 97A 条の目的は,インターネット上の『侵害活動』を止める上で最適な立場にあるサービス・プロバイダ」という表現がこれを示唆しています。たとえば、資料3頁の下から4行目)
- 現実の悪意(今村先生は、現実に知っていることといっています)が前提であるが、認定は、ゆるやかであること
- 費用は、権利者負担、などがポイントであること
が記載されています。
インターネット媒介者との関係については、あまり詳しくふれていませんが、権利侵害情報対応については、理論的には、ネットワーク中立性の例外という形でまとめられています。
権利侵害報告書の127頁では、通信の秘密に該当する事項は、「1998 年データ保護法、2003 年通信法、2003 年電気通信プライバシー(EC指令)規則(SI2003/2426)に加えて、2000 年捜査権限法(RIPA)(なお、現在では、RIPA2016)、2008 年反テロ法、2006 年無線テレグラフ法、2001 年反テロ犯罪セキュリティ法などが規制の根拠となっていること、。それに加えて、1998 年人権法も重要であること。また、コンフィデンシャリティなどのコモンローの権利、著作権、名誉権などの制定法の権利も主張をなしうることもかかる保護に関連してくる。」ことにふれています。
あと、カルティエ事件の損害項目5項目ごとの判決内容が紹介されているのは、注目です。これは、でたばっかりなので、権利侵害報告書ではふれることのできない問題でした。名護市の資料ではふれておきました。
大きくいえば、導管プロバイダ(これは、別のエントリで説明しました)であっても技術の進歩によって、とめることができるのであれば、具体的な悪意のあとは、そのstuffが、違法行為に利用されることがないように「相当な注意」を払うべきなんじゃない、という考え方なのかなあ、と思っています。この考え方は、国際法だと「相当な注意」論として、一般的な考え方です(コルフー海峡事件とかがでてきます。環境法などでも、はっきりしていますし、日弁連の「デューデリジェンス」報告書をだしていたりします)。
脅迫電報事件は、一般的なモニタリング義務と具体的な悪意の場合を一緒にして論じていて、それは、考え直すべきなんじゃないとエントリで書いておきましたが、まさに、具体的な悪意をベースに考えている英国法は、このヒントになるかと思います。
わが国だって、プロバイダー責任制限法は、具体的な悪意のもとでの削除義務を認めていて(同法3条1項-厳密には、防止措置不履行の損害賠償責任)、これは、具体的な悪意の場合には、ホスティングプロバイダでは、「通信の秘密」の積極的取得・利用に反することが正当化されると位置づけられるのではないかと考えます。(ホスティング契約違反なので、当然できるでしょ、ということでしょうが、基本的には、電気通信事業者の取扱中にかかる通信ですよね、と思っていたりします)。
ところで、この同法の逐条解説なんですが、「特定電気通信役務提供者」については、厳密にいったときに、導管プロバイダを除くという定めがないんですよね(同法2条)。逐条解説だと「特定電気通信によって他人の権利を侵害する情報が流通している場合に、(a)当該情報の送信を防止するための措置をとる、(b)発信者の特定に資する情報(発信者情報)を開示する、という対応をとることが可能な場合があるため」としか書いていないので(逐条解説5頁ね)、導管プロバイダであっても、防止措置がとれれば、防止義務の対象になりそうなわけです。
昔は、導管プロバイダは、それはできないよ、ということだったんでしょうけど、いま、できちゃうならば、区別しなくていいジャンということに思えます。
(2)民事手続法上の論点
制度設計として
- 「裁判によって初めて認められる権利」とするか、
- 「自ら著作権侵害をおこなっていないにもかかわらずブロックする義務を負うということは民事法上可能か」、
手続保障として
- 「海賊版サイト運営者、一般ユーザ、オーバーブロッキング主張者の手続保障」
- 「民事訴訟法上の手続保障」
があげられています。
「裁判によってのみ認められる権利」については、個人的には、このような解する必要性があるのか、というのについては、疑問をもっています。ネットワーク法関係者は、「発信者情報開示請求権」が、ほとんど、消費者行政課の逐条解説によって「裁判によってのみ認められる権利」と同様のものであった、ということを経験しています。「通信の秘密」のドグマ時代に、「ただ、プロバイダ等が任意に開示した場合、要件判断を誤ったときには、通信の秘密侵害罪を構成する場合があるほか、発信者からの責任追及を受けることにもなるので、裁判所の判断に基づく場合以外に開示を行うケースは例外的であろう。」(同26頁 注Ⅴ)なことを書けば、ほとんど、「裁判によってのみ認められる権利」をつくることができるのです。
さすがに、その後、ドグマによって発生する状況があまりにも不当なので、発信者情報開示の書式整備と緩和という動き(?)がありましたが、いまだに、ドグマは、根強いので、東京地裁の保全部は、発信者情報開示部に半分くらいはなっているみたいです。
「自ら著作権侵害をおこなっていないにもかかわらずブロックする義務を負うということは民事法上可能か」というのも、アクセスプロバイダを含む導管プロバイダが、具体的な権利侵害を助けているのは、事実であるわけなので、客観的には、権利侵害の幇助を根拠として差止の対象になるわけですね。土地の工作物の所有者みたいなものかもしれません。
世界的な見地からすると、民法233条(竹木の枝の切除及び根の切取り)の根本にもしかすると、デューデリジェンス理論があって、それが、サイバー的に結実するとそうなるのかもしれません。
手続保障は、大事です。これは、権利侵害報告書が役に立てます(えっへん)。
海賊版サイト運営者に対してですが、これは、GEMA判決が調査義務との関係で、できる限りのことをするべきであるとしているのは、ふれました。そのような義務の反射的な利益として、海賊版サイト運営者に利益が保護されることになります。
脱線ですが、ボットネットのテイクダウンにおいてマイクロソフト社が、ボットの運営者をどのくらい労力をかけて、探しているのか、というのは、非常に参考になります。健全な社会を守りたいということ、自分たちが正義であるというのであれば、まず、そのためにきちんとお金をかけて、やるべきことをやりましょうというのは、非常に重要だと思います(ブログ「ボットネット・テイクダウンの法律問題(初期) 後」で、マイクロソフトが、IPアドレスを販売している再販業者(米国外)にコンタクトをとっており、もし被告が停止されたIPアドレスについて復活させたいというのであれば、連絡するようにといっていたこと。また、連絡自体も公表、電子メ―ル、実際の送達、ファクシミリ、ハーグ条約にもとづく通知・送達などもなさたことにふれています)。
権利を守ることは、現代社会では、(というか、昔から)非常にお金がかかることというのは、重要なことかと思います。クリエーターが、社会の発展に役立っているのは、そうですし、来るべき社会に役立つのは、そのとおりなので、そのプライドを守るためにかかる費用は、マイクロソフトさんのように、きちんとかけてもらいたいなあと思います。(というか、マイクロソフトさんは、直接には、自分のダイレクトの利益にならないのに、現地のドメイン申請者の住所のアパートの写真までとったんですよね)
一般ユーザの手続保障については、権利侵害報告書(120頁以下)の4)UPC Telekabel Wien GmbH v Constantin Film Verleih GmbH and Wega Filmproducktionsgesell-schaft mbH(UPC Telekabel 事件(2014))が、非常に示唆を与えてくれます。
「従って、国内手続においては、インターネット・ユーザーが、インターネットサービス・プロバイダが採用した措置の実現に際して、評価することができるようにしなければならない(57)。」となっており、国内手続において、十分な手続保障を一般ユーザに対して提供するような仕組みを考えなければならない、ということが、差止を認める制度の前提条件であるわけです。
このことは、「(i)取られた措置が、インターネット・ユーザーが適法に利用可能な情報にアクセスできる可能性を不必要に奪うものではないこと、(ii)これらの措置が、差止の名宛人のサービスを利用しているインターネット・ユーザーが保護された対象物に対する権限なしのアクセスを妨げる効果を有する、または、それを行う気をなくさせるものであること、が前提となるが、EU の法律で認められている基本的権利は、裁判所が、インターネットサービス・プロバイダが顧客に保護された対象を保存するウェブサイトへのアクセスを防止する差止を排除しないと解釈されなければならない。その場合には、差止命令が、アクセス・プロバイダが講じなければならない手段を特定していない時は、合理的な措置を講じたことにより、差し止め違反に対する強制的な罰則を受けることを避けることができる。(64)。」
という表現からわかるかと思います。
(3)論点表
資料7は、事務局作成の論点表です。論点としては、だいたい出尽くしていますね。
権利侵害報告書から、参考になる判決例でもって回答を準備すると以下のようになるような気がします。
1 権利・手続の方向性
これは、「現実の悪意」以降のアクセス提供がみなし侵害なのでしょうね。ただし、その他の利益との衝突があるので、裁判所の命令がないと「現実の悪意」とは、いいがたいと、逐条解説あたりでいわれそうです。
2 要件
GEMA判決からすると、調査義務をつくすことが必要になるかと思います。海外であることは、その義務を尽くしたことの評価のひとつの要素なのかと思います。
3 対象範囲
これは、英国では、私が読んでいる限り、著作物の特定を要しているような気がするのですが、それであれば、それが合理的な感じです。
4 方法
論点表は、ミスがありますね。「4」ですよ。
これは、カルティエ事件そのまま輸入しましょう。
ネットワークに関する法律は、世界的にほとんどひとつの解決に収斂していくというのが私個人の考えですがいかがでしょうか。