「通信の秘密」外資にも適用の総務省有識者会議の報告書を読む

「通信の秘密」規制、外資にも適用」という記事がでています
その総務省有識者会議の報告書というのは、多分これをいっているものと考えられます
競争ルールとかいっておきながら、市場画定はしているのかいな?とかいう突っ込みはさておきます。
あと、いま一つ、電気通信事業にきわめて厳しいプライバシー規制が課せられているのは、昔、公企業と思っていたのの残滓なんじゃないの、と、2009年のとある研究会でいったのに、みんなポカンとしてましたというのもさておきます(要は、競争がない場面だとプライバシー規制がきわめてきびしいし、逆に競争がある市場だと、規制していなくても、利用者に任せていいんじゃないという思想は、理解されない傾向が引き続いているということ)
「通信の秘密」というプライバシーも、競争状況としてフェアにしましょう、とされています。これは、サービスの利用条件として、プライバシー保護が一つの要素になっているということの裏付けですね。その一方で、日本の「通信の秘密」は、(消費者行政課の解釈とメディア上では)どうしようもないくらい厳しいですし、肥大化しているものなので、これを、強行規定として、フェアにするために適用を拡大すべし、というのが、方向性としていいのか、という根本的なことは考えるべきなのだろうと思います。
役所的には、何かやっていますといいたいのですが、それは、ポーズというべきなのでしょう。イノベーションを促進するとか、エビデンスはあるのですか、ということになります。でも、そもそも、「プライバシー」の定義をしないで、イメージで議論しているので、エビデンスはとれないですよね、なんてのも、お酒を飲むとしゃべったりします。
さて報告書について、ちょっとみていきます。
この記事の部分は、
「電気通信設備を国外のみに設置する者であって、日本国内に拠点を置かない者に対しては、同規定による規律が及んでいない。そのため、上記の状況の変化に対応する観点から、国外に拠点を置き、国内に電気通信設備を有さずにサービスを提供する国外のプラットフォーム事業者に対する同規律の適用の在り方が論点として挙げられる。」
とされているところ以降かと思います(報告書 154頁)。
でもって、「憲法において通信の秘密を保護する意義がプライバシーの保護にとどまらず、国民の表現の自由や知る権利を保障すること、国民が安心・安全に通信を利用できるよう通信制度を保障することにより、国民の通信の自由を確保することにある点に鑑みると、提供主体が国内か国外かを問わず国民の通信の秘密を保護することこそが上記憲法上の要請に適うものと考えられる。」となっています。
そして、
「我が国の利用者を対象にサービスを提供する場合には、提供主体が国内か国外かにかかわらず等しく利用者情報及び通信の秘密・プライバシーの保護に係る規律を適用することにより、我が国の利用者の利用者情報の適切な取扱いが確保されるようにすることが適当である。
また、国内外の事業者間の公平性を確保し、イコールフッティングを図る観点からも、国内か国外かに関わらず、利用者情報及び通信の秘密等に係る規律が等しく適用されることが適切であると考えられる。」
とされています。
結論(?)部分は、「国外のプラットフォーム事業者が、我が国の利用者を対象として電気通信サービスと同様の、又は類似したサービスを提供する場合についても、電気通信事業法に定める通信の秘密の保護規定が適用されるよう、法整備を視野に入れた検討を行うとともに、あわせてガイドラインの適用の在り方についても整理することが適当である。」
となっています。
そもそも、みんなが普通に議論する通信の秘密は、制定法上としては、「電気通信事業者」の取り扱い中にかかる通信に関するものです(4条)。そして、法文上は、電気通信事業者は、「電気通信事業を営むことについて、第九条の登録を受けた者及び第十六条第一項の規定による届出をした者をいう。」ので(同2条5号)、文言解釈からいうと、外国の事業者の通信の取扱中にかかるデータについての取り扱いを、電気通信事業者の取扱にかかる「通信の秘密」の問題として取り扱うのは、筋違いということになります。(まして、本当の高橋説だと4条1項は、意思伝達の内容に関する規定なので、事実に関する取扱は、含まれないことになります)。
ただし、わが国の主権の現れとして、我が国の国民の通信に関するデータの取扱を他の国の事業者に「立法」として要請することは可能なはずです。この意味でのわが国での通信に関する保護が、結果として、外国の事業者に適用されることは、何ら、現在の法体系として問題ではないわけです。
この点については、仮想通貨の勧誘に関して、外国に根拠があっても、わが国の国民に影響を及ぼす場合に届出を求める仕組みは仮想通貨対応で準備されています-外国に所在する交換業者は、登録を受けていない場合には、勧誘が禁止されている(資金決済法63条の22)。この理屈を応用すれば言いわけです。
(古くは、この話は石黒一憲「証券取引法の国際的適用に関する諸問題」証券研究102巻(1992年)で論じられていました)
でもって、電気通信事業法4条を外国事業者に適用するといえばいいのかという問題があります。(そもそも、電気通信事業者が形式的で、届け出をしてもらわないといけないというのは、さておくことにします。)
実質的な電気通信事業者というのはどのようなものか、という解釈論があります。これは、大学が、事業者の届け出をしなくてはならないのか、ということの議論の時に、結構、議論になりました。
これについては、「電気通信事業参入マニュアル」が参考になります。
電気通信役務というのは、「電気通信設備を⽤いて他⼈の通信を媒介し、その他電気通信設備を他⼈の通信の⽤に供することをいう。 」(2条3号)わけですが、そうだとすると、実質的な電気通信事業者というのを考えることができるわけです。「業として、電気通信役務を他人の需要に応ずるために提供する者をいう」ということになります。
米国で、このような実質的な電気通信事業者の取扱中にかかる通信についても「通信の秘密」を守らないといけませんよ、というような改正は可能になります。
いま一つは、電気通信事業者が外国に所在するかの問題ではなくて、「取扱中」といえるか、という問題もあるような気がします。いわゆる宅内における処理については、電気通信事業法の規定が及ぶものではないのは、このブログでも何度も触れておきました。
Gメールのサービスというのは、宅内の処理なのか(単に他人の通信の用に供しているだけ)、それとも、通信事業者の取扱のなかでの処理なのか。
上のマニュアルでは、「他⼈の通信を媒介する」という説明があって、「他⼈の依頼を受けて、情報をその内容を変更することなく、伝送・交換し、隔地者間の通信を取次、⼜は仲介してそれを完成させること」をいうとしています。ここでは、「電⼦メールやクローズド・チャットといったサービスのように、サービスの提供者がサーバ等の電気通信設備を⽤いて、利⽤者Aが利⽤者Bに伝えたい情報を、その内容を変更することなく利⽤者Bに伝達する場合、当該サービスの提供者は他⼈の通信を媒介していると判断される。」となるので、このような業者自体が、電気通信事業者であると解されることが示唆されているといえるかと思います。
すると、現在の状況の整理としては、グーグル等は、わが国の電気通信事業法でいくと、「実質的な電気通信事業者」ではあるが、電気通信事業法が、上述のような届出を基準とした形式的な定義であるために、電気通信事業法の適用を及ぼせない状態ということになるかと思います。
そうだとすると、届出が必要であるとして、それに応じなければ、制定法の根拠をつくって、なんらかの措置が正当化されることになるわけかと思います。
その場合、行動ターゲッテイグ広告をどう整理するか、とうことになってきますね。通信の秘密についての個別具体的同意という話になりますが、むしろ、国内において電気通信事業者に対してのいままでの厳格な「個別具体的同意」の枠組みの指導が、現実離れしてました、ごめんなさい、ということなのかと思います。
個人的には、広告も出している身(ホームページは、グーグルの標準的な広告スキームに準拠しています)としては、知りたい広告を廉価に需要者に届け出ることができるようになっているのも技術の進歩と考えています。なので、ある程度のナッジはいるとしても、「個別具体的同意」の枠組みは、もうそろそろやめたらいいような気がします。クッキー規制って、私には時代遅れに見えているんですけど。
では、どのような枠組みか、ということになります。プライバシの認知が、「文脈」によって変わって認知されるということがキーになるような気がします。この話は、また、別の機会に考えたいですね。

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