国際法に関する先制的自衛の法的論文から解釈論をみる

自衛権の解釈との関係で、国連憲章51条の解釈を勉強したのですが(先制的防衛の適法性-先制攻撃とユス・アド・ベルム(Jus Ad Bellum))、いろいろな学説の分岐があったので、ちょっと、詳しく勉強します

日本語の論文としては

あと、浅田 正彦国際法における先制的自衛権の位相」 あたりが正面から取り上げているようです。

真山 全 「武力攻撃の発生と自衛権行使」

説明の便宜上、航空機による渡洋進攻の場合を想定すれば、攻撃の意思決定と部隊への命令、出撃ないし発進の準備、出撃、相手国に向けての進攻、相手国領域進入、目標地点到達、航空機等の兵器プラッ
トフォームからの兵器の投弾又は発射、相手国施設等への損害の発生といった段階が考えられる。こうした行動が向けられた国は、いずれの段階において武力攻撃が生じたと認識し、自衛権で反撃が可能になるであろうか。

という問題提起をしています。

細かくいうと、(a)国連憲章51条の解釈論として認める立場 (b)含まれない立場にわかれます。

(a)国連憲章51条の解釈論として認める立場

井口武夫論文の注8によるとこれは、

  • フランス語の正文であると、「武力攻撃の対象となった場合」と記載されていること
  • 攻撃兵器の進歩によって「二次的反撃の原則」が空洞化していること
  • カロライン事件は、51条の自衛権がする範囲に含まれるとしたことから、武力攻撃が国境を越えなくても発生する(ジェサップ説)

しなどを根拠とします。

このキャロライン事件は、清水隆雄 「国際法と先制的自衛」 30頁で説明されています。事案としては、そちらを参照いただきたいのですか、キャロライン号は、 米国人が、 ネイビー島と米国本土を連絡するために用いた小汽船であり、 英国側司令官は、  英国海軍に対し、 キャロライン号を捕捉し、 破壊せよと命令し、キャロライン号は 米国領内に停泊しているのがわかったものの、キャロライン号破壊作戦は実行され、 キャロライン号は、 武装した英国海軍の攻撃を受け、 たまたま乗船していた米国人1名が殺害されたという事件です。最終的には、武力行使が自衛のためのものとして正当化されるための要件として、 

英国政府としては、 目前に差し迫った重大な自衛の必要があり、 手段の選択の余地がなく、熟慮の時間もなかったことを示す必要があろう。カナダの地方当局が、 一時的な必要から米国領内に立ち入る権限を有していたとしても、 非合理若しくは行き過ぎたことは一切行っていないことを示す必要があろう。 自衛の必要によって正当化される行為は、 このような必要性によって限定され、 明らかにその限界内に止まるものでなくてはならないからである

という事件です。

(b)国連憲章51条の解釈論として認められないとする立場

井口武夫論文の注8によるのですが、

  • 単なる脅威だけで自衛権発動を認める従来の刊行を否定した
  • 憲章51条は、もともと濫用されやすい自衛権の発動要件を厳しく制約したとされること
  • 国家実行の集積により慣習国際法として確立された自衛権が憲章の条文によって実定法条明確化されるとともに、実定法の体系となったことによる制約をうける以上は、もはや武力攻撃の発生前に自衛権を専制的に行使することは認めがたい

から、国連憲章51条の解釈論としては、認められないとなります。すると

(b-1) 実際の被害が発生しないと自衛権の行使は、できない

という説がおこりうることになりますが、実際には、このような考え方はみあたらないです。真山 全 「武力攻撃の発生と自衛権行使」 22頁では

最もこれを狭く解するとすれば、被害の発生時点ということになろう 。 しかしながら、領域進入と投弾ないし発射の後の被害発生時まで反撃を許容しないとするのは、当然ながら合理的で、はなく、こうした立場を支持する学説と国家実行も多分ないであろうと思われる。

とされています。

(b-2)目前に差し迫った重大な自衛の必要等がある場合は、自衛権を行使できる

というのが一般的な見解ということになります。

これは、理由としては

  • 憲章で規定する実定法上の自衛権と併存して慣習国際法上の国家固有の自衛権を発動する要件は温存されている。国家存亡の危機に国家の施工の利益を擁護するために異常事態に対処する主権的裁量行為は実定法上の制約から逸脱することはやむを得ない(アチソン国務長官・フルブライト上院外交委員長)
  • 相手国の意図が何らかの手段で確認されるならば、相手国による武力攻撃の着手と考えられる行為の後には反撃が自衛権行使として可能となるとの見解(Dinstein)
  • 例えば、一定以上の規模の航空機編隊の領域進入といった相手の進攻の意図が疑いのない段階に至るまで反撃を差し控えるべきとするならば、被攻撃側は大きな軍事的不利益を被ることになる。つまり、第一撃を甘受せざるをえなくなるのである(真山)。

ということがいわれています。

てお、真山氏は、違法なものを「専制的自衛権の行使」という用語にしてもいるようです。ただし、それもはっきりしないので、前のエントリでの図は、それ自体として誤っているというものではないということはいえそうです。

 

 

 

関連記事

  1. NICT法によるアクセスの総務省令による基準
  2. 情報システム等の脆弱性情報の取扱いにおける報告書
  3. ウイルス罪、有罪と無罪の境界はどこにあるのか (上)
  4. オンラインでの個人識別.検証-第9回 成長戦略ワーキング・グルー…
  5. 供述書分析-FBIは、コロニアル・パイプライン社が支払った暗号通…
  6. 電子署名法が、eシールを認めていないといったのは誰か?
  7. 「IoT・5G セキュリティ総合対策 2020」について
  8. 意義あり? 誤解?–IoT脅威を可視化する「NOTI…
PAGE TOP