グーグル ・アップル検索協定訴訟法的意見への生成AIの影響

グーグル ・アップル検索協定についての訴訟の法的意見がワシントン特別区地方裁判所から公表されています(2025年9月2日)。リンクは、こちら。

新聞報道では、

私のブログでは、「Googleの検索広告事件法律意見メモ (D.D.C., Aug. 5, 2024)を読む」で、2024年8月5日のワシントンDC地方裁判所の法的意見について見ています。

法的意見の構成は、

  1. 手続の経緯
  2. 事実認定
  3. 法的結論
  4. 救済-法的特定の結論
  5. 結論
  6. 付録

となっています。

これを図示すると以下のようになります。

一般的な法的な議論と個々の救済についての議論がこの意見のメインということになります。

特に注意すべきことが、この1年の間に、生成AIが、このGoogleの一般検索サービス、一般検索テキスト広告における独占力を巡る議論に実際的に影響をおよぼすものとして重要な地位を占めてきたということがいえます。そして、この意見のなかで、生成AIが、 実際にその独占力によって取得されたデータにどのように依存しているのか、どのように使わされているか、がわかるようになっています。

その意味で、ネットワーク法を勉強する身としては、非常に重要な意見でるということかできると思います。まずは、この訴訟が、どのような背景をもつのか、というのを見ていきます。

1 手続の経緯

これについては、

  • 審理前責任段階
  • 責任決定
  • 救済段階

にわけて論じられています。

審理前責任段階については、「Googleの検索広告事件法律意見メモ (D.D.C., Aug. 5, 2024)を読む」の「2手続の経緯(Procedural History)」で触れられている通りです。そして、責任決定において、同意見書の内容が述べられています。

市場を図示すると上のメモでの図では

 

 

要するに、

  • 一般検索サービス、
  • 検索広告
  • 一般検索テキスト広告

の三つの市場があって、Googleは、一般検索サービス、一般検索テキスト広告においては、独占力を有するが、検索広告市場においては、独占力を有しないと判断しています。

裁判所は、一般検索サービス市場について

  1.  GoogleとAppleやMozillaなどのブラウザ開発者との間の契約は、Googleを初期設定のデフォルト検索エンジンとして確立する点において排他的
  2.  GoogleとAndroid OEM(Original Equipment Manufacturer)(「OEM」)間のモバイルアプリケーション流通契約(MADAs)は事実上排他的
  3. GoogleとAndroid端末流通事業者(OEM及び無線キャリア双方)間の収益分配契約(RSAs)は、MADAsの事実上の排他性を正式化したものである。

と判断し、また、競争促進効果があるという正当化根拠を否定しました。一般検索テキスト市場についても同様の判断をしています。その二つの市場において、シャーマン法2条に違反する行為であるとしています。

救済段階の手続経緯としては、2024年9月に開始、原告国は、同10月8日に、ありうる救済手段を提示しました。これに対してGoogleも最終判決の提案をなして、救済手段の審理に対して、判決の修正提案をなし、ディスカバリーは、2025年4月に終了しました。その後、2025年4月22日から5月9日まで証拠弁論が開催されました。さらに、事実認定や法的結論についての提案がなされました。

当事者の救済の提案においては、

当然ながら、当事者らが提案する救済措置は劇的に異なる。

とされます。

原告側は、救済措置の「包括的かつ統一的な枠組み」を提示していて、判例法上利用可能な衡平法上の救済措置の全範囲を網羅しています。

原告らは構造的救済を要求しており、具体的には、

  1. Googleのウェブブラウザ「Chrome」の即時強制売却
  2. 初期救済措置が失敗した場合、またはGoogleがこれを回避した場合に備え、GoogleのオペレーティングシステムAndroidの条件付き売却

です。次の救済措置のカテゴリーは、大まかに言えば行動的救済措置(契約上の制限を超えて、Googleに積極的な行為を強制したり、特定の行為を禁止したりする救済措置)になります。具体的には、

  1.  限定的な例外を除き、Googleが流通パートナーに対して検索関連支払いを一切行わないよう禁止する
  2.  Googleに対し、特定の買収および投資について事前通知を義務付ける
  3.  GoogleがYouTube、Android、Geminiなどの自社資産を利用して、自社の検索や広告製品を優先的に扱うことを禁止する
  4.  Googleに対し、検索インデックスデータ及び特定のユーザー・広告データを「適格競合他社」と共有することを義務付ける
  5.  Googleに対し、ウェブサイト運営者及びコンテンツ作成者が、Googleの検索インデックスへの掲載及びGenAIモデル・製品の訓練目的でのウェブページ・ドメインのクロールをオプトアウトできるようにすることを命じる
  6.  Googleに対し、「適格競合他社」がGoogleの検索結果および一般検索テキスト広告を配信するライセンスを付与することを要求する。
  7.  Googleに対し、広告主に対して強化されたパフォーマンスデータと「完全一致」と呼ばれる入札制御機能を提供すること、および広告オークションへの重要な変更を開示することを義務付ける。
  8.  ユーザーが利用したいGSEを選択できる選択画面をGoogle製品に義務付け、既存デバイスへの選択画面提供に対しGoogleがデバイス販売業者(Appleを除く)に支払うことを許可する
  9.  消費者に異なるGSEオプションとGSE切り替え方法を周知する、Googleが資金提供を行う全国的な公共啓発キャンペーンを開始する

が提案されました。

さらに、原告らは

  • 判決執行を支援する技術委員会の設置
  • Googleによる内部コンプライアンス担当者の任命
  • Googleによる報復的行為の全面禁止
  • 判決条項の回避を目的とした行為の禁止

を求めました。原告側は判決の有効期間を最大10年とし、裁判所が執行権限を保持することを提案しています。

これに対して、Googleは、判決の有効期間中、違法な独占的流通契約を締結または維持することを禁止する差止命令を発令する以外に、裁判所が取れる措置はほとんどないと主張し、

  1.  GoogleがOEM契約においてGoogle Playまたはその他のGoogleアプリにGoogle検索、Chrome、Googleアシスタント、Geminiアプリをバンドルすることを禁止する
  2.  パートナーが代替GSE、ブラウザ、AIアシスタントをプリロードまたはその他の方法で促進することを妨げるOEMまたは無線通信事業者との契約締結を禁止する
  3.  GoogleがOEMおよび無線通信事業者への支払いを、複数の検索アクセスポイントまたはデバイスへのGoogle検索、Chrome、Googleアシスタント、Geminiの必須インストールを条件とすることを禁止する
  4.  AppleやMozillaなどのブラウザ開発者が、様々なモードやプラットフォームで異なるGSEをデフォルトに設定し、他の検索サービスを促進することを許可し、また、デフォルトの検索設定を毎年変更する選択肢を認める。
  5. 年次報告と内部コンプライアンス担当者を設けるコンプライアンス体制
  6. 判決は3年後に失効する。

としました。

2  事実認定

これは、責任審理以降で関連市場に影響する発展をアップデートするものです。そこで、裁判所は、(1) 生成AI技術および製品;(2) 新たな検索アクセスポイント;(3) Googleの検索配信契約の変更につついて論じています。

2.1 生成AI

これは、重要な用語(A)、AIと検索(B) (AI機能の検索への統合、AIチャットボット、AI アシスタント、機器搭載AI)、LLM(C)( LLMの動作原理、LLMの限界、グラウンディング (接地、ひもづけ)、生成AI市場(参加者、生成AI会社における競争、一般検索エンジン利用における生成AIのインパクト)にわけて論じられています。

特に、生成AI市場については、興味深いです。参加者としては

  1. Google-検索製品への統合やBard->Geminiなど
  2. Anthropic-消費者向け Claude、 Googleが投資している
  3. DeepSeek->チャットボットの発表
  4. Meta->Llamaファミリーの開発、Meta AIの開発とアプリへの統合、Googleが検索APIを提供
  5. マイクロソフト->Edgeブラウザ、Bing検索エンジンへの追加、Copilotの統合
  6. OpenAI->ChatGPT、非常に人気のある、急速に進展している製品、AppleAIとの統合も開始
  7. Perplexity->「answer machine」
  8. xAI->Grok 生成AI製品
  9. その他

があげられています。パラグラフ47-パラ55。

生成AI会社における競争においては、競争が苛烈であること(パラ56)、新規参入が盛んであること(57)、資本力を要すること(58)、先を争っている(jockeying for a lead)こと、Googleが優位を有しているとはいえないこと(59)、利用範囲が広いこと(60)、Googleのライバルの製品は、OEMの販売を得るのに成功していること(61)、Googleは、Geminiの供給・促進協定を締結していること(62)が述べられています。

またパラ60では、2024年12月の段階でのシェアがでていて、それによると、OpenAI約85%。Claudeが3%、Geminiが7%、残りをPerplexityとCopilotが占めているとのことです(Open AIによる)。

一般検索エンジン利用における生成AIのインパクトにおいては、一般検索エンジンの利用についてのインパクトを与えているかもしれないが、その必要性を排除するまでにはいたっていないこと(63)、GoogleのAI オーバービュー(AIによる要約)導入後、検索クエリーが増加していること(64)、商取引のクエリーは、生成AIの一般的な利用ではなく、共食いにはなっていないこと(65)、もっとも、それらには、根本的な相違はないので、結局、生成AIがそのような要望に対応するだろうこと(66)がふれられています。

余談ですが、判決文の中に”例えば、2024年10月に最終更新されたデータで訓練されたLLMは、テイラー・スウィフトが2025年にトラビス・ケルシーと婚約したかどうかの質問に答えられない。参照例:同上;同上384:4-13(ターリー)も参照 “っていう記載があります

2.2 検索アクセスポイント

これは、生成AI製品による検索を通じてのアクセス(A)、検索へのサークル(囲って検索)(B)、グーグルレンズ(C)が論じられています。一般的に具体的な機能の記述という感じなので、省略します。

2.3 Googleの供給契約(修正および放棄)

責任審理のあとにGoogleは、供給契約を追加・修正・延長しているので、それらについて検討がなされています。具体的には、OEM(サムソン、モトローラ)、通信キャリア(AT&T、Verizon、T-Mobile)ごとに分析されています。また、MozillaとのRSA を延長したこと、義務についての放棄の手紙を送付したことが述べられています。

3 法の結論

ここでは、(1) 独占禁止法の一般的な法的原則に基づく救済措置;(2) 提案された救済措置を支持する責任段階における事実認定の十分性;(3) グーグルの排除的行為の「成果」;(4) 汎用AI企業および製品を救済措置の範囲に含めることの妥当性についての検討がなされています。

3.1 独占禁止法の一般的な法的原則に基づく救済措置

A 原則

ここでは、違反を是正し競争を回復するために競争過程が、復活するように状況を整えるのが、適切な救済であるとされています。具体的には、差止命令が出発点です。しかしながら、十分な救済のためには、違反乃再発を防止し、結果を排除する適切な制約が可能とされます。違法とされる行為を禁止することも可能ですし、是正的な義務を課すことも可能です。また、構造的な救済も可能であり、売却または解散も第2条違反の救済として可能である。もっとも、裁判所は、伝統的に、独占が合併等によって生じた場合に利用してきている。

上述の衡平法上の権限は限界がないわけではない。独占企業を過去の違反行為に対して罰する場合、衡平法の目的は、果たされない。排他的な行為があったからといって、最大限の競争をなすためにできうるすべての救済を正当化するわけではない。その上、技術的イノベーションをに足かせをしたり、消費者厚生を損なったりする救済には、気をつけないといけない。結局、

最終的に、救済命令を作成する際、裁判官は「自らの限界を自覚し」つつ、この任務に「健全な司法的謙虚さをもって」臨まねばならない。

B 因果関係(causation)

救済は、被告の競争的行為と関連市場における支配的な地位との間の因果あるつながり(causal connection)の証拠を越えてはないならい。当該事件において決定をなすには、裁判所は、二つの閾値問題:(1) 特定の救済措置を課すために必要な因果関係の強度、および (2) その基準が適用される救済措置の種類について考慮しなければならず、双方は、必要な因果関係が推論によってのみ認められる場合、Googleの排他的慣行を差し止める命令が適切である点で合意している。

グーグルは、Microsoft IIIに依拠して、「あれなければこれ無し」の因果関係をしめさないといけないと主張しましたが、裁判所は、これを否定しました。排他的行為がなかった場合の製品の発展を想定することはできないということを理由にしています。同判決の裁判所は、マイクロソフトの分割(OSとアプリ)を命じましたが、証拠弁論や適切な説明がないものでした。控訴審は、証明の標準は、構造的救済についても同様だという判断をしました。

「構造的救済は……『当該行為と市場支配力の創出または維持との間に、重要な因果関係が存在するとのより明確な示唆を必要とする』」

としているのです。グーグルは、この判決を、もし、この反競争的行為がなかったら、関連市場におけるその地位を失っていたということを証拠で明らかにしないといけないと主張したのです。裁判所は、この主張を否定しています。「合理的推論」という標準が提唱されていることに触れて、「あれなければこれ無」の基準は、採用できないとしたのです。

「重要な因果関係」の基準で判断するとした裁判所は、Microsoft IIIの「「独占禁止法違反の被告の不法行為は『当該行為の継続を差し止める差止命令』によって是正されるべきである」という判断について検討します。

グーグルが主張するように、ごく限られた行為的救済措置を除き全てに「重大な因果関係の立証」基準を適用するのではなく、地方裁判所は「因果関係の立証力の強さと救済措置の厳しさとの均衡」を考慮していると判断して、「責任を立証した因果関係の証拠の強さを評価し、それに応じて救済措置を調整すること」をしているとしました。そして、適用される因果関係の基準は、求める救済措置の性質に見合ったものでなければならないとして、救済措置が過激であればあるほど、それを支える因果関係の証明はより厳格に求められる。言い換えれば、適用される因果関係の基準は、争われている行為が被告の独占維持に大きく寄与したとの裁判所の確信の度合いを反映するものであるとしました。

3.2 責任段階での事実認定の十分性

責任段階での事実認定において、一般的検索エンジンの提供のために排他的協定を利用すること自体については、異論がないが、原告によって求められた救済を支持するかについての違いがあることについて議論がなされています。

原告は、クロームの売却を含めて提案された救済に関しては、さらなる立証は必要ないと考えていますが、グーグルは、これにたいして、責任段階での議論は、より緩い因果関係の基準によるものであるとしています。グーグルの排他的契約が、著しくグーグルの独占力を維持するのに貢献したという推論以上のものはないとしています。それゆえに裁判所が、構造的・行動的救済を課すには、「重要な因果関係」を明らかにしないと行けないと主張しています。

裁判所は、このグーグルの議論を退けたあと、結局、裁判所は、当該契約が主に四つの反競争的効果

  1.  関連市場のかなりの部分を閉ざし、それによって「競合他社の競争機会を損なった」(Google事件、747 F. Supp. 3d 159頁)
  2. 「競合他社に対し、効果的に競争するために必要なユーザークエリへのアクセス、あるいは規模を否定した」(同上)
  3. 検索分野への投資・革新意欲を低下させた(同判決165頁)
  4. 「実質的な競争制約なしにGoogleがテキスト広告価格を引き上げることを可能にし」、これによりGoogleが「独占的利益を得て、より高い収益分配支払いを通じて次期独占契約を確保する」ことを許容した

をもたらしたと認定しました。Googleは競争を排除するための堀を広くし、跳ね橋を引き上げることを可能にしたと判断したのです。

3.3 グーグルの反競争的行為の結果

独占禁止法の救済措置は「被告に対し、法令違反による利益を認めない」ものでなければならず、また、「違反による利益」は「認められない前に特定されなければならない」

裁判所はグーグルの反競争的行為は少なくとも

  • (1)脅威からの解放(純粋な競争から10年間、免れていたという趣旨)
  • (2)規模(ライバルよりも多くのクエリーを集めて規模をえることができたということ)
  • (3)収益 (ユーザにたいして沢山の広告を提供しうる、より効果的な広告を提供しうる、再投資の可能性)

という三つの利益を生み出したとしました。

グーグルとしては、これにたいして 規模と収益について数量化すべきと主張しました。マイクロソフト事件においては、「オープンソース・インターネット・エクスプローラー」が議論されたのですが、裁判所は、「重要な因果関係の明確な表示」基準が求められたのですが、原告は、それに失敗したと裁判所は論じました。この事件においても、正確に計算すべきという判例等の見解はないとしています。

3.4 生成AIの包含

最後の問題は、救済が生成AI技術や開発企業に影響を及ぼすかということです。これについては、肯定しているのが裁判所の判断です。

裁判所は、GoogleアシスタントとGeminiアプリの宣伝・配布方法に制限を課すことは、違法行為と「同種または同類」の行為を禁止する裁判所の権限の正当な行使であるとしました。これにたいして、グーグルは、生成AIは「関連市場の一部」でもなければ「『原告の責任理論』に結びつく」ものでもないため、救済命令に含めることはできないと反論しましたが、責任審理以降、Googleは検索結果ページ(SERP)へのAI概要の組み込みやAIモードの導入により、検索とGenAIの統合を深化させており、ユーザーがGoogle検索に入力するクエリの種類を拡大していて、この統合に減速の兆しは見られません。生成AI技術は、革新的な検索関連技術のとなりうるのであって、GenAI技術及び企業をも対象とするとしました。

4 救済措置特有の法的結論

救済措置についてGoogleが提案する差止命令による救済措置は適切な出発点となるため、裁判所はこれを起点としました。しかしながら、この種の救済措置だけでは独占化された市場における競争を回復するには不十分であるため、裁判所は次に原告らが求める広範な救済措置の検討に進むとしています。これらの議論を図示すると以下のようになるかと思います。

これらの個々の柱のうち、赤になっているのは、求められた救済が認められていないのを示しています。青は、認められており、水色、緑については、部分的に認められています。

4.1 差止命令のみによる救済の妥当性

Googleは、自らが提案した救済措置(その核心は、裁判所が排他的と判断したMADA、RSA、ブラウザ契約の各条項に対する差止命令である)を超える措置を本裁判所に求めないよう主張している。Googleが提案する判決は、

  1.  OEMがGoogle Playまたはその他のGoogleソフトウェアをライセンスする条件として、当該OEMが検索またはケース
  2. OEMまたは無線キャリアとの間で、対価の支払いまたはGoogleソフトウェアのライセンス供与を、当該パートナーが他のGSEまたはブラウザをプリロードまたは搭載しないことを条件とする契約を締結すること(同§III.E–F);および
  3.  OEMおよび無線キャリアへの支払いを、それらの製品への複数のアクセスポイントにおける検索またはChromeのプリロードまたは配置を条件とすること(同§III.H–I)。提案によれば、Googleは「あらゆるGoogle製品またはサービス」のデフォルト配布またはその他の端末上での配置に対して、OEMおよび無線通信事業者への支払いを引き続き許可される。

の行為を禁止するものでたりる主張しています

しかしながら、裁判所は、関連市場における競争回復に向けた重要な一歩であるとするものの、これらについても、競争を開放することは、単に排除的行為を禁止するほど単純ではないとしました。最終的には

  • OEMおよび無線キャリアへの支払い条件として、裁判所は同様の1年オプションを課す。
  • ブラウザ開発者との契約において「第三者の一般検索サービスを促進すること」を明示的に許可すると規定しているが、この規定を「GenAI製品」に拡大適用されるものとする
  • Googleの「Gemini Assistantアプリケーション」の定義は狭すぎこの定義上の問題に対処すべきである。

としました。

4.2 構造的救済措置

Chromeウェブブラウザの売却

原告は、 GoogleはChromeウェブブラウザ(ならびにChromeやその他のウェブブラウザの基盤となるオープンソースプラットフォームであるChromium)を売却することを義務付けられ、「本最終判決の有効期間中、裁判所の承認を得ずに他のGoogleブラウザをリリースすること」を禁止されることを提案しています。

これにたいして裁判所は、以下の理由をあげて、これを否定しています。

  1. 分割は、その長期的な有効性がほとんど確実ではないこともあって、非常に慎重にのみ課される救済手段である(Microsoft III、253 F.3d、80 頁)
  2. 原告らは構造的救済措置に関する「重大な因果関係のより明確な示唆」という基準を満たしていない-記録が要求される高度な因果関係を裏付けていない以上、「過激な構造的救済措置を採用することは賢明ではない」。
  3. 裁判所が責任認定において強調したのは、Chrome全体の所有権ではなく、Chromeのデフォルト設定に対するGoogleの支配権であり、当該救済措置は、原告が是正を求める行為の範囲を超えている。
  4. その月間アクティブユーザーの大多数(80%以上)は米国外に所在しており、Chromeは地理的にそれほど限定されていない。
  5. 最も基本的なレベルで、財務、マーケティング、人事など、数多くの管理機能をGoogleに依存しておりChromeは独立した事業体として運営されていない。–>。依存関係を何らかの形で再構築したり新たな所有者に提供したりできるとしても、Chromeの分離売却が製品の著しい劣化と消費者福祉の喪失を伴わないとは、裁判所は極めて懐疑的である。

条件付き Android 売却

これは、国が、判決確定後5年以内に「原告が優越的証拠により、いずれか一方または両方の独占市場において競争が実質的に増加していないことを立証した場合」、Googleは「Androidの所有および管理が競争の著しい増加の欠如に大きく寄与していないことを優越的証拠により立証できない限り、Androidを売却する」ことを要求されるというものです。これは、

このような救済措置がなければ、Googleは「Androidを利用してGoogle検索やその他のGoogle製品を優先し続けるインセンティブ」を得ることになり、この条件付き売却の存在は「回避の試みを抑止し、独占市場において競争が実質的に増加することを確保するための必要な安全装置」として機能する

ということを根拠としています。

しかしながら、裁判所は、Chrome売却と同様の法的欠陥を抱えているとして認めませんでした。すなわち、

  1. 原告らは、GoogleによるAndroid OSの所有・使用が関連市場において反競争的効果をもたらすと主張したことはなく、Androidの将来的な売却が当該市場における競争促進にどう寄与するかも説明していない。
  2. Androidの売却は米国市場を超えた影響を及ぼす。したがって、この救済措置は不正行為に見合わない
  3. 原告らは構造的救済措置を課すために必要な厳格な因果関係基準を満たしていない。

というのが、根拠となります。

4.3 追加的な「中核的救済措置」

裁判所は、「中核的救済措置」として

  1.  販売代理店への支払い禁止
  2.  データ共有救済措置
  3. シンジケーション要件
  4.  選択画面実装

について検討しています。

4.3.1 販売代理店への支払い禁止

これは、Googleが流通業者に対して検索関連でほぼ全ての支払いを行うことを禁止するもので、最も広範な救済措置になります。この点については、「Googleの検索広告事件法律意見メモ (D.D.C., Aug. 5, 2024)を読む」の3.6関連契約のところをみてもらうといいかと思います。

グーグルは、主要ブラウザ開発会社2社(アップル、モジラ)、アンドロイド端末の主要OEM各社(サムスン、モトローラ、ソニー)、米国の主要無線通信事業者(AT&T、ベライゾン、T-モバイル)と検索配信契約を締結している。2021年、グーグルはこれらの契約に基づき、総額263億ドルのレベニューシェアを支払ったが、これは財務諸表上、「トラフィック獲得コスト」(TAC)として記載されている費用である(289)。

これらを略して図示するとこのようになります。

この地裁意見においては、

支払い禁止の根拠は単純明快である:それは市場を競争に開放するだろう。収益分配支払いは、一般的な検索サービス市場をGoogleに有利な形で形成している。それらは「エコシステムに何もしないという非常に強力なインセンティブを提供する」ものであり、「事実上、エコシステムを変化に対して非常に抵抗力のあるものにする」ものであり、その「正味の効果は、基本的にエコシステムを現状に固定することである」。

といっています。しかしながら、裁判所は、支払い禁止の根拠は妥当であるが、裁判所は現時点で当該救済措置を課さないとしました。これは、

この救済措置を採用した場合、OEMメーカー、通信事業者、ブラウザ開発者に重大な損害リスクをもたらす恐れがある。販売代理店は耐え難い選択を迫られることになる: (1) 収益を得ることなく、Google をデフォルトで優先的な位置に置き続けるか、あるいは (2) 質の劣る GSE と流通契約を結び、ある程度の支払いが継続されるようにするか、のいずれかであるが、どちらの選択肢も深刻なリスクを伴うことになる。

ディストリビューターへの支払いの完全な喪失または減少は、複数の面で重大な下流影響をもたらす可能性が高く、その一部は深刻なものとなり得る。具体的には

  • ブラウザ市場における小規模開発者による競争とイノベーションの喪失(OperaやFirefoxの事業継続が困難になる)
  • Appleによる製品数の減少および製品革新の停滞
  • Android OEMによる米国市場への投資減少(Samsungが現在受けている収益分配をGoogleから得られなくなれば、Samsungのイノベーションや… 最新の技術と優れたサービスを顧客に提供するという点で、おそらくサムスンの立場は大幅に弱まる可能性がある)
  • 携帯電話価格の上昇と革新的な機能の減少。

があげられています。市場への悪影響のいずれか一つでも現実化した場合、消費者福祉が損なわれる。それは価格上昇、イノベーションの減少、競争の縮小など様々な形で現れうる。

また、責任段階が終了した時点に比べ日では、既存のテクノロジー企業が数百億ドルの資本を調達し、スタートアップ企業がそれを受け取り、従来のインターネット検索の優位性に脅威を与えるジェネレーティブAI製品を開発しており、システムを急変させるべきではなく、市場原理に委ねるべき強い理由が存在し、Googleがデフォルト表示の対価として流通業者への支払いの継続を認める方が受け入れやすいと判断しています。

4.3.2 データ共有救済措置

ここで、具体的に検討されているものとしては

Googleに対し適格競合他社に対して(1)特定の検索インデックスデータ(原告側修正判決文第VI条A項)、(2)3種類のユーザー側データ(同条C-D項)、(3)特定の広告データ(同条E-F項)を提供することを義務づけるという救済が議論されています。

これにたいして裁判所は、データ共有は違法行為の結果を排除する合理的な方法であり、通常のシャーマン法救済措置の範囲内に十分収まるとしました。また、Googleの独占的流通契約によって生じた規模格差を縮小し、その結果として生じた品質格差も縮小するであろうともしています。もっとも、この手法は、小規模検索エンジンにとって特に有益であり、それらは「改善されるだけでなく…ある時点まで加速的に改善を続ける」が、Bingのような確立された大規模GSEには利益をもたらさない可能性がある、とされています。また、モバイル環境ではBingはGoogleに大きく劣るが、モバイルにおけるロングテールデータへのアクセスが増えれば、Bingの品質はより高い率で向上すると考えられ、Bingに有利な形でより大きなシェアシフトが生じる可能性がある、としています。

これにたいしてGoogleは、法的異議(競争促進効果は実証されていない/構造的救済措置として検討されるべき)と事実上の異議(イノベーションのインセンティブをある程度損なう)をだしています。しかしながら、これらの異議を否定もしくは、影響が大きなものではないとして異議を採用しませんでした。

特定の検索インデックスデータ

検索インデックスデータというのは、

ウェブからクロールされた情報、データフィードから収集された情報、または提携を通じて収集された情報に基づき、ウェブサイトとそのコンテンツに関する情報を保存・整理するデータベース

であり、それ自体は、「一般的な検索クエリに対する結果を提供するために情報を選択する」基盤となります。具体的には、

  •  検索インデックス内の各文書に対する一意の識別子(DocID)及び当該文書の重複を示すのに十分な表記
  •  DocIDとURLのマッピング(すなわち、固有のDocIDをウェブ上のページアドレスに対応付けるデータ)
  •  各DocIDについてユーザー側データから一部派生した、各DocIDに関連付けられたシグナル、属性、またはメタデータの集合

になります。ここでいうユーザ側データというのは、

  • (A) ユーザー意図およびフィードバックシステム(Navboost/Glueを含む)によって測定される人気度、
  • (B) 権威性を含む品質指標、
  • (C) URLが最初に確認された時刻、
  • (D) URLが最後にクロールされた時刻、
  • (E) スパムスコア、
  • (F) デバイス種別フラグ
  • (G) [技術委員会]が検索結果の順位付けにおいて重要と推奨するその他の指定シグナルを含むがこれらに限定されないもの

になります。これらは、発生回数のカウント(例:特定のクエリに対するウェブページのクリック回数)といった単純な手法で生成可能である一方、これは大規模データセット内の複雑なパターンを識別する機械学習モデルによって生成されることもある。これらの品質は、生成AI製品にとっても極めて重要です。Googleのインデックス規模は、DuckDuckGoのような既存の小規模検索エンジンやChatGPTのようなジェネレーティブAI分野の新興企業に対し、重要な競争優位性をもたらすとされています。そして、適格な競合他社にGoogleの検索インデックスへのアクセスを許可することは、80-20問題(クエリの80%に回答可能な検索インデックスの構築は資本集約的だが、中短期的に達成可能である)の解決と検索品質の向上に寄与し得ると裁判所が判断しています。もっとも、上記国などが求めた定義は、広範すぎるともしています。その結果、最終判決では「検索インデックス」の定義を「ウェブからクロールされたウェブサイト及びそのコンテンツに関する情報を保存・整理するデータベース」に限定するとともに、救済措置の不確定な側面を受け入れることはできないとして、その範囲を限定すること(項目Gは、削除される)を述べています。

この点についてGoogleは主に技術開発とイノベーションの産物であるデータの提出を義務付けられないこと、共有される検索インデックス情報があったとしても、競合他社は依然として自社の検索インデックス構築に多大な資源を投入する必要があること、について留意すべきと裁判所は述べています。

さらに裁判所は、開示頻度については、単発のスナップショットで足りるとして、さらに、「Googleがデータを収集し適格競合他社に提供するコスト」でもって提供されるべきことを述べています。

ナレッジグラフの構築データ

ここで、 Googleのナレッジグラフは、人物、場所、物事に関する有用な情報とそれらを結びつける要素を含むデータベースになります。このデータベースは膨大であり、50億のエンティティとそれら間の5,000億の関連性を有するものであって、Googleはナレッジグラフをクエリの解釈支援と事実に基づく結果の返却に活用しています。このひとつは、GoogleのGeo Indexであり、店舗の開店・閉店時間などの飲食店やその他小規模事業者などのローカル情報を含んでいます。

これにたいして裁判所は、「救済措置の根拠となる不正行為に適合した措置ではない」(Googleの規模の優位性から生まれたものではなくGoogleがユーザーから収集したクエリやその他のインタラクションデータに依存する)としてナレッジグラフデータ提案を採用しませんでした。

ユーザー側データ救済策

原告たる国は、ユーザークエリと返された応答の組み合わせからGoogleが収集するデータであるユーザー側データを開示すべきという救済策を求めています。

ここで求められているデータとしては、本質的に「スーパークエリログ」であり、クエリとユーザーの応答との相互作用に関する大量のデータを収集するGlueの基盤となるデータとして

(1) クエリに関する情報(テキスト、言語、ユーザー所在地、ユーザー端末種別など)、(2) ランキング情報(SERP上に表示される10のブルーリンクおよび画像、地図、ナレッジパネル、「People also ask」などその他のトリガーされた検索機能を含む)、
(3) SERP上のクリック、ホバー、滞在時間などのインタラクション情報;
(4)スペル修正や顕著なクエリ用語を含むクエリ解釈と提案。

のみならず、

  1. Geminiアプリ(国は、Geminiを「検索アクセスポイント」と見なしている。)
  2. RankEmbedおよびその後継版RankEmbedBERT(RankEmbedモデル自体は、強力な自然言語理解能力を備えたAIベースの深層学習システム->クエリに特定の用語が欠けていても、モデルは最適な文書をより効率的に特定 ランキングモデルとして、70日分の検索ログの%と、Googleが自然検索結果の品質測定に使用する人間評価者によるスコアに依存)

にも及ぶものとして請求がなされています。

Geminiモデルの訓練データについて、裁判所は、Googleが検索やGeminiアプリ向けのGeminiモデルを訓練するためにユーザーインタラクションデータを活用しているという証拠は乏しかった/Google の検索における規模の優位性が、GenAI 検索支援応答の品質上の優位性につながっていることを立証しなかったとしています。

Glue統計モデルは、生のユーザーインタラクションデータであり、クエリや検索結果を、クリック、ホバー、SERP上およびSERPからのユーザーの行動経路のその他の側面といったユーザーインタラクションと関連付けているデータセットによって支えられていて、Googleの規模の優位性の基盤になっています。ちなみに、Google は Navboost を 13 か月分のユーザーデータでトレーニングしているが、これは Bing が受け取る 17 年分以上のデータに相当するという記述があります。裁判所は、

この規模の優位性は一部独占的契約に起因し、違法に増幅されたネットワーク効果によって支えられ、Googleが独占的地位を維持することを可能にしてきた。Googleにこのデータの共有を強制することは、その反競争的行為による害悪に対処する適切な手段である。

としています。

クリック・クエリデータと人間評価者によるウェブページ評価の組み合わせであるのがRankEmbedモデルの基盤データです。この「RankEmbedモデルの訓練・構築・運用に使用されるユーザー側データ」の強制開示(原告側RPFJ § VI.C.2)についても、裁判所は開示が適切と判断しました。RankEmbedモデル自体やそれが生成したシグナルの開示ではなく、それらのモデルを訓練するために使用されたデータの開示のみであることを改めて強調することが重要であるが、Googleの不法行為の結果に対処する合理的な方法であると裁判所はしています。

これらの判断にたいして、Googleは

  • ユーザー側データの開示により、適格競合他社がクエリに対するウェブページ順位付けにおいてGoogleを模倣するLLMを訓練可能になる
  • 提案されたデータ共有救済措置は「開示前にデータを匿名化するために講じる必要のある広範な措置」を明示していないため、裁判所はこれを却下すべき

と主張しました。しかしながら、裁判所は、

  • Googleが懸念する検索順位模倣の可能性は誇張されている。Google検索を模倣することは容易ではない。(技術を活用するための技術開発とインフラ構築は適格競合他社の責任となる/GlueおよびRankEmbedデータの基盤となる重要情報(クエリベースおよび文書の顕著な用語を含む)の一部が、ユーザー側データの定義に含まれていない/プライバシー強化技術の対象となることからデータセットが完全に公開されるわけではない)
  • 妥当な懸念であるもののノイズの追加、一般化、カノニシティなど、適切なプライバシー強化技術や手法によってユーザーのプライバシーは保護できるという点で意見が一致しており、異議は取り入れることはできない

としました。

広告データ

「検索クエリに対するGoogleの検索テキスト広告の選定、順位付け、配置に関連するデータ(当該プロセスで使用されるユーザー側データを含む)」と定義される「広告データ」を、限界費用で適格競合他社に提供することを義務付けべきであるという救済について議論がなされています。データとしては、具体的には、広告ターゲティングに使用されるAdBrainモデルその他のモデルの運用・構築・訓練に用いられる広告データとされています。これは、「ユーザーがどの広告をクリック(またはスクロールして通過)したかを理解することで、Googleは広告品質を評価し、将来的により関連性の高い広告を提供できる。」という認識を前提としています。

これにたいして、裁判所は、この救済措置が過度に広範であると同時に、立証不備に陥っていると判断しました。その理由としては、広告主は、ビジネス戦略とその成果に関する競争上の洞察を提供し得ることから、Googleとのデータ(特にコンバージョンデータ)を「特に機微な情報」と見なしており、Googleは、広告主の同意がない限り、当該データを第三者と共有しないことに同意している。このようなデータは、

ユーザーとGoogleの直接的な相互作用から得られるものではないため、裁判所がGoogleの流通契約の主要な成果と見なす大規模データとは隔たりがある。救済措置の範囲が広すぎるだけでなく、裁判所は開示対象となるデータに関する基本情報すら欠いている。

裁判所は「AdBrainモデル」に関する具体的な証言を一切聞いていないし原告らは「その他のモデル」が具体的に何を指すかも特定していない。また、広告データ共有が一般検索テキスト広告市場における競争をいかに促進するかを示す十分な証拠も提示していないとしたのです。

4.3.3 シンジケーション救済措置

検索シンジケーション

GoogleはリアルタイムAPIを介して、適格競合他社が発行または提出する各クエリに応答し、情報とデータを提供することを義務付けるべきであるというのが、シンジケーション救済措置として救済として求められました。そこで求められた情報は、

  1. 検索エンジンの結果ページ(SERP)上のすべての項目またはモジュールのレイアウト、表示、配置、および順位付けを理解するのに十分なデータ。これには、メインコンテンツ、サイドバーコンテンツ、サイトリンク、スニペットなどが含まれるが、これらに限定されない。
  2.  インターネットのクロールまたはその他の手段によって取得されたかどうかに関わらず、Googleのデータベースまたはインデックスから取得した順位付けされたオーガニック検索結果。
  3.  スペル修正、同義語変換、オートコンプリート、オートサジェスト、関連検索、「もしかして」、「よくある質問」など、クエリの修正・変更・拡張を可能にする検索機能、および[技術委員会]が特定するその他の重要なクエリ書き換え機能;
  4.  ローカル、マップ、動画、画像、ナレッジパネルの検索機能コンテンツ;
  5.  ファストサーチ結果(最上位の高速表示される自然検索結果)。

にわたります。これは、適格競合事業者が独自の検索インデックスを構築し、高品質な検索結果を提供する能力を確立するには時間を要することから、この問題に対処しようとしているものです。これにより、適格競合他社は、Googleと独立して競争できるGSEの開発に取り組む間、短期的に競争が可能となります。

裁判所は、シンジケーションはGoogleの反競争的行為の影響に対処する「合理的な方法」である。しかし、シンジケーション救済策が合理的であるからといって、原告らが提案する形態が適切であるとは限らず、

シンジケーションの範囲を制限する。原告側のシンジケーション要件は極めて広範であり自然検索結果だけでなく、SERP上に表示されるほぼ全ての機能と関連データを含んでいるとして、裁判所は、

  • 確立された市場が存在し、Googleが適格競合他社と取引することを要する配信のような救済措置に関しては、通常の商業条件に厳密に従うことが最善であると考えること
  • Googleは「限界費用を超えない」価格で配信サービスを提供することを要求されないこと
  • シンジケーションライセンスの期間は10年ではなく5年とすること、
  • 適格競合他社が初年度にGoogleの配信サービスを利用できる割合は、年間検索クエリの40%に制限されること
  • Googleは、いかなるライセンシーによる配信コンテンツの利用方法に対しても条件を課してはならないとはされないこと
  • Googleは合成クエリを受信し対応する義務を負わないこと
  • GoogleはFastSearch結果の配信を義務付けられないこと。

という制限のもとでの情報と提供を認めるべきであるという認識を示しています。

検索テキスト広告のシンジケーション

原告らはGoogleに対し、シンジケーション救済を補完するため、適格競合他社への検索テキスト広告(SERP上の自然検索結果リンクに類似した一般的な検索テキスト広告)のシンジケーションを義務付けるよう提案しています。具体的には、

  • Googleの検索テキスト広告シンジケーション製品(例:AdSense for Search)またはシンジケートされた検索テキスト広告を提供するその他の現行・将来の製品の利用者に提供される条件と同等以上の財務条件で提供しなければならない。
  • 適格競合他社はまた「自社ウェブサイトに表示されるシンジケート広告の最低[クリック単価(CPC)]を設定する権利を有しなければならない」
  • Googleは本救済措置を選択した適格競合他社を差別してはならない。
  • Googleは「自社の検索パートナーネットワーク(Google広告配信サイト群)に適格競合他社を含めなければならない」。
    • 「本項に基づき配信される広告の購入を、Googleの他の検索テキスト広告と同等かつそれ以上に負担をかけない非差別的条件で広告主に提供しなければならない」
  • Googleは配信広告に関連する大量のデータを提供しなければならない。
    • 「各配信広告結果について、Googleは適格競合他社に対し、当該広告に関連する全ての広告データ(広告主の身元、支払われたCPC、利用可能な場合はコンバージョンデータを含む)を提供しなければならない。この広告データの利用制限(適格競合他社の自社広告商品における広告主のマーケティングや勧誘への利用制限を含む)は一切認められない。」
    • 「Googleは、検索アクセスポイントとの使用・表示・相互運用性(GenAI製品を含む)について一切の制限を課してはならない。ただし、 Googleは自社のブランド、評判、セキュリティを保護するための合理的な措置を講じることができる。」
    • Googleは「適格競合他社がシンジケートされた[広告]コンテンツをどのように使用または表示するかについて、いかなる条件も課してはならない。これにはシンジケート結果のスクラッピング、インデックス化、クロールを含む。」
  • Googleは「取得したシンジケートクエリその他の情報を自社の製品・サービスのために保持または利用(いかなる方法でも)してはならない」。

というものです。これらの要求にたいして裁判所は、

その選択がGoogleの現行広告主規約・ポリシーと整合する場合に限り原告の救済措置のうち広告主選択の側面を採用する

としています。

Googleは、Id. at 2957:18–2958:23 (J. Adkins)。シンジケーターがユーザークエリを受信すると、Googleに広告リクエストを送信し、Googleはオークションを実施して当該リクエスト向けの広告を選択し、結果をシンジケーターのウェブサイト上の「iframe」に配信するという「AdSense for Search」と呼ばれる検索テキスト広告配信製品を提供しています。この場合、広告がクリックされると、広告主はクリックに対して支払いを行い、Googleとシンジケーターが収益を分配します。

裁判所は、Googleによる一般検索テキスト広告の収益化は、その独占をこれほどまでに持続可能にしたフライホイールの重要な構成要素であり、Googleはより多くのユーザーを抱えるため、より多くの広告主を獲得し、より多くの広告主により多くの資金を得て、GSEの改善と流通費用の支払いを可能にしている、としています。それゆえに、このような強大な逆風の中で、適格な競合他社にGoogleからの検索テキスト広告のシンジケーションを許可することは、競争を促進するために不可欠である。これにより新規参入者は、開始当初から収益化可能な高品質広告を提供する手段を得られるとしています。

しかし、検索シンジケーション救済措置と同様に、原告らの検索テキスト広告シンジケーション提案は通常の商業条件から大きく逸脱しており、救済措置は縮小される、とされています。裁判所が付した制限としては、

  • Googleはシンジケート広告コンテンツの使用または表示に関して通常の業務上の制限を設けることができる。これには、「クリック誘導」スキームへの対策、広告の適切な順序付けの確保、広告品質の保証、広告主の保護、広告の不正利用防止を目的とした制限が含まれる。
  • Googleは適格競合他社に対し、シンジケート広告の最低クリック単価を設定する権利を付与する必要はない。
  • Googleは自社製品・サービス向けにシンジケート検索クエリを保持または利用することが認められる。
  • Googleは適格競合他社に対し「提供された広告に関連する全ての広告データ」を提供する義務を負わない。
  • 検索広告配信ライセンスも10年ではなく5年とする。
  • Googleは自社の検索テキスト広告を配信する他のシンジケーターに対し、「Googleが自社SERP上で検索テキスト広告に提供するものと同等」ではなく、「Googleが提供するものと同等のレイテンシー、信頼性、パフォーマンス機能」を非差別的基準で提供することを義務付けられる。

条件付き検索テキスト広告配信

原告らは、「証拠の優越性をもって、独占状態にある市場のいずれか一方または両方で競争が実質的に増加していないことを立証」できた場合において、Googleは検索テキスト広告を「限界費用以下」でシンジケート提供しなければならないという救済を提案しています。

これにたいして裁判所は、新規参入のGSEは、将来Googleから限界費用で検索テキスト広告を取得できるなら、独自広告プラットフォーム構築の費用対効果が低いと判断する可能性が高く、また、新規参入者は、Googleが検索テキスト広告を限界費用で提供するよう命じられた場合、競争が不可能となることを知れば参入を躊躇することとなって、結局、逆に、競争阻害効果が発生する可能性が高いとして、裁判所が採用するものではありませんでした。

4.3.4  選択画面

また、原告は、「選択画面とは、基本的に、消費者に複数の製品の中から明示的な選択を求めるユーザーインターフェースである」選択画面を導入することを救済として求めました。具体的には

  1. Googleデバイス(同社の携帯電話Google Pixelなど)に関すしては、Googleは「検索アクセスポイント選択画面」を表示するか、または「デフォルト検索選択画面」を実装するGoogle検索アクセスポイントをプリインストールしなければならない。
  2. 「Googleブラウザ」、すなわちChromeを対象として 「Googleは、ユーザーが当該Googleブラウザに対して事前にデフォルトGSEを明示的に選択していない全ての新しいおよび既存のGoogleブラウザインスタンスにおいて、検索デフォルト選択画面を表示しなければならない…」 とするものです。
  3.  Googleは現行の流通契約下にある「非Apple製サードパーティデバイス」の流通業者に対し、検索アクセスポイント選択画面または検索デフォルト選択画面を表示する選択肢を提供しなければならない。その見返りとして、デバイス残存寿命または1年のいずれか短い期間における収益分配支払いを受けるというものです。

目的としては、ユーザーに選択画面を提供する目的は、「デフォルト設定の影響力」を弱めることにあります。この救済について裁判所は、選択画面はデフォルト効果を弱める可能性があり、ユーザー選択を促進する救済措置は、独占禁止法の目的と疑いなく合致するとするものの、製品の再設計を裁判所が担うべきではないこと、Googleに自社製品の再設計を強制することは適切な救済策ではないこと、選択画面は現状あるいは近い将来の市場状況下では競争環境を変える可能性が低いこと、から、この救済策を採用しないと論じました。

4.4 追加的行動的救済措置

原告らは、「競争回復を強化する」と主張して、広告透明性及び広告主管理上の救済措置と公衆啓発キャンペーンの確立を求めました。

4.4.1 広告透明性及び広告主管理上の救済措置

これらは、具体的には、

  1. 検索クエリレポート(SQR)(広告主がキーワード単位で広告費の有効性を評価できるデータを提供する)
  2. キーワードマッチング(Googleは、広告主が特定のキーワードに対してこのマッチングオプションを選択した場合、広告主の広告が、クエリの内容が広告主が選択したキーワードと完全に一致し、いかなる差異もない場合にのみ広告オークションの対象となるようなキーワードマッチングオプションを広告主に提供しなければならない。)
  3. データレポートへのアクセス(「広告主が、Googleを通じて入札・掲載・購入した広告または広告キャンペーンのポートフォリオ全体に関連するデータや情報(掲載状況やパフォーマンス(コンバージョンおよびコンバージョン価値データを含む)に関するデータを含む)を、インターフェースまたはAPIアクセスによるダウンロードを通じてリアルタイムでエクスポートする能力を制限すること」を禁止する。)
  4. 検索テキスト広告オークションの変更(原告らはGoogleに対し、「毎月」原告ら及び技術委員会に「前月に行われた検索テキスト広告オークションの全変更点を概説した報告書」を提出させ、「Googleが重要とみなす変更点」を明記するよう求めている。)

などを原告らは求めています。

しかしながら、

  • 検索クエリレポート(SQR)は「救済の機会を生み出した不正行為に適合するよう調整された」ものではないこと
  • 2014年に広告主による拡張一致のオプトアウト機能を廃止したが、それから現在では10年以上が経過しており、キーワードマッチングという救済措置を求めるには、根拠が頼りない
  • データレポートへのアクセスについては、責任認定意見は、広告主に対するリアルタイムデータの提供可能性について一切言及していないこと、原告らは、当該データへのアクセス欠如に関連する違法行為を一切主張していないこと。独占的地位の行使に起因する反競争的効果であるとも主張していないこと。さらに、問題の製品群は責任認定段階でほとんど言及されなかったことから、的外れである

としました。もっとも、検索テキスト広告オークションの変更について、Googleに特定のオークション変更を公表させることは適切な救済措置であるとの見解に同意して、原告及び技術委員会に対し、Googleがどのような種類のオークション変更を原告及び技術委員会の注意に付すべきかを示すパラメータを策定するよう命じる。当該パラメータは、Googleが典型的な広告主にとって一定の閾値を超える価格上昇率をもたらすと予測する「広告配信開始」その他の変更を対象とするよう設計されるべきであり、これには、Googleの報告負担を緩和するという付随的な目的も含まれる、としました。

4.4.2 公共教育基金

これは、本訴訟の結果、本件における救済措置についてユーザーに周知することを目的とした全国的な広告・教育プログラムを資金援助する」ことを求めるというものです。しかしながら、裁判所は、流通契約と、Google以外のGSEに対する公衆の認識やデフォルト変更との間に何らかの関連性は示されておらず、当該救済措置は「不正行為に適合した」ものではないとました。

4.4.3 パブリッシャー関連の救済措置

ウェブコンテンツのパブリッシャーとGoogleとの関係を対象とした救済措置としては

  • Googleが(1) Googleがパブリッシャーのウェブコンテンツまたはデータへの独占的アクセス権を得る契約、または(2) パブリッシャーが競合他社に対し、より有利な条件で自社のコンテンツまたはデータを提供することを禁止する契約、を維持することを禁止する
  • Googleが自社製品開発のためにコンテンツやドメインを利用する際に、パブリッシャーがオプトアウトする選択肢をより柔軟に提供することをGoogleに義務付ける

という救済措置が提案されています。これについては、

パブリッシャーは自社サイトへのトラフィック誘導をGoogleに大きく依存しているため、Googleの検索インデックスへの掲載を目的としたコンテンツのクロールを許可する以外に選択肢がほとんどない。しかしパブリッシャーは、補償がない限り、AI概要などのGoogleの汎用AI(GenAI)製品におけるトレーニングや表示に自社コンテンツが使用されることを拒否したいと考えるかもしれない。しかしGoogleはそうした完全な選択権を提供していない。その提供内容はより限定的である。

といういわば、パブリッシャーの板挟み の状態を解消しようというものです。

しかしながら、裁判所は、原告が提案したパブリッシャー関連の救済措置のいずれをも採用しないとしました。これは、第一の救済措置については、事実的根拠を欠くことを理由としており、また、第二の救済措置についても、主張立証が足りていないとしました。

4.5  回避防止、報復禁止、及び管理的救済措置

原告らは「回避防止、報復禁止、及び管理的救済措置」という総称の下、
(1) 別個の報復禁止条項及び回避禁止条項(競争の促進等の行為に対していかなる形態の報復も行ってはならないというもの)、
(2) 最終判決の執行を支援する技術委員会の設置(最終判決の執行及び遵守を促進するため、裁判所が技術委員会を設置することを提案する)、
(3) Googleが特定カテゴリーの企業に対する買収・投資を実施した場合、技術委員会への通知義務(同条IV.H–I項)(Googleは、GSE(検索エンジン広告)または検索テキスト広告市場においてGoogleと競合する企業、あるいは検索アクセスポイントまたはGenAI製品を管理する企業に対し、企業の持分または一部を取得する等の場合、意図を原告らに報告しなければならない。)、
(4) 「自己優遇的」行為の禁止(同条V.B項)(GSE、検索アクセスポイント、 GenAI製品、またはオンデバイスAIをAndroidデバイス上で明示的または黙示的に必須化すること等)

という四つの救済措置を提示しています。

4.5.1 報復禁止条項及び回避禁止条項

最高裁判所は、連邦民事訴訟規則65(d)(1)(C)を「禁止される行為を正確に明示する通知」を義務付けるものと解釈している。しかしながら、報復禁止条項も回避禁止条項も、規則65(d)の基準を満たしていない。報復禁止条項は、報復行為を「いかなる形態においても」広く禁止しているが、どのような行為が報復行為に該当するかの具体的な規定を一切設けていないし、また、主要な回避禁止条項も同様に曖昧すぎるとしました。

4.5.2 技術委員会の設置

技術委員会の設置については、裁判所が提案された救済措置の一部を限定し、他の措置を却下したことによって過大な権限を行使するという懸念は、低減したものとして、そのうえで、

  • (1)原告に対し潜在的な適格競合他社について助言する、同§ III.U;
  • (2)適格競合他社に適用される合理的なデータセキュリティ基準を推奨する、同§ X.A.7.b;
  • (3) ユーザー側データの開示に関する適切な上限についての助言(同条項VI.C)、
  • (4) 適切なユーザー側データのセキュリティ及びプライバシー保護措置に関する原告との協議(同条項VI.D)、
  • (5) 検索シンジケーションの段階的削減率の策定支援(同条項VII.C.2)、
  • (6) 適格競合他社の検索シンジケーションサービス利用状況の監査(同条項 § VII.C.3; および
  • (7) Googleから検索テキスト広告オークション変更に関する開示を受けること、同§ VIII.D。

という重要な機能を遂行するものとして最終判決の一部として技術委員会の設置を承認しました。なお、裁判所は、技術委員会のメンバーに、ソフトウェア工学、情報検索、人工知能、経済学、行動科学に加えて、データプライバシー及びデータセキュリティを追加しています。

4.5.3 投資通知要件

裁判所は、この措置に対しては、裁判所の責任認定にはGoogleによる反競争的な買収や合弁事業が含まれていなかったため、この救済措置はGoogleの不法行為に適合したものではなく、原告の請求を認めることは、違法行為とは無関係な将来の独占禁止法違反を抑制しようとする試みに等しく、裁判所にはその権限がない、としました。

4.5.4 「自己優遇的」行為の禁止

裁判所は、原告らが先制的に排除しようとする自己優先的行為は、裁判所がGoogleの違法行為と認定した「同一の種類またはクラスの行為」ではないという法的な理由、および例えば、原告が提案する「ChromeにおけるGeminiの自己優先を禁止する」という制限は、Googleを競合他社から隔離することからGoogleの競争能力を阻害する点で行き過ぎているという事実上の理由から、原告が求める自己優先的行為の禁止を却下する、としました。

4.6 その他の事項

裁判所は、上記以外にも、最終判決の期間を6年間とすること、最終判決確定後60日後に効力を生じるすることを定めています。

また、その他として、「Google」の定義 、費用および訴訟費用(費用負担を最終判決にさだめないこと)についてふれています。

 

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