「自衛隊、サイバー反撃能力保有へ…武力伴う場合」という記事がでています。
「「国家の意思に基づく我が国に対する組織的・計画的な武力の行使」と認められるサイバー攻撃への反撃能力は、専守防衛の原則に矛盾しない」というのが、ポイントです。
ただし、この「武力の行使」と認められる場合は「通常兵器などによる物理的な攻撃も受けた場合に限定する」ということだそうです。
新聞記事のお約束として、記事に対して法律論文を読むかのような感じで、理論的に分析することはナンセンスであることは理解していますが、問題点を認識するために、この記事を精確なものとして分析してみましょう。
基本的には、「武力の行使」がわが国に対してなされた場合に、サイバー手法による反撃を認めるという内容が記載されるということのようです。
サイバー手法による作戦(サイバー作戦)が有効なものとして議論されている現状からすると、やっと、世界の通常の議論にキャッチアップしているというように認識します。
わが国では、当然に、具体的な交戦規定がないとなにもできないので、これを整備するという意味もあるでしょうから、その意味で、重要だと考えられます。
ただし、議論としては、いろいろと世界的な潮流とずれているところがあります。ピックアップしてみましょう。
基本的には、武力行使については、武器の性質ではなく、結果が重要である(国連憲章2条の解釈)という立場が有力になりつつある現在(この点については、「サイバー攻撃と武力行使」を参照ください)において、武器の性質にこだわった記載をなすというのは、時代遅れであると考えていいかと思います。
また、「武力行使」というのに該当するか、というレベルは、極めて深刻な被害を引き起こしかねない武器による攻撃が必要とされるということになる(これも、上の固定ページのシュミット・アナリシスのところを参照)ので、そのような場合に、作戦の種別を限定されているほうがおかしいという議論もあるように思えます。
むしろ、一番重要なのは、サイバー作戦による攻撃が、武力行使のレベルに達していない場合について、国際的な理論とどう合わせて、どのような対応を枠組みを定めていくのか、というのが一つの問題になります。この点で、非常に参考になるのが、Liis Vihul 先生の「Hacking terrorist infrastructure:International Law Analysis」(counterterrorism-yearbook 2018 157ページ以下)という論文です。武力行使の閾値に満たないサイバーテロリズムに対して、国際法のもとで、どのように位置づけるのか、また、反撃というのは、国際法上、限界があるのか、どのような根拠で許容されるのかというのが議論されています。
ISISのようなテロリスト集団から、サイバー手法によって、国民の富が奪われる時がきたら、国として、どのような対応をすべきなのでしょうか。また、それには、法の体制は、十分に整っているのでしょうか。現在ある法的な理論で分析は、可能な問題といえるのですが、だれも指摘していないかと思います。
そこで、サイバーテロの総合的分析という論文をGWに書くことにしています。公表されるときが来るといいなあと思います。