サイト・ブロッキングは日本でも適法」と米国弁護士、著作権侵害サイトへの対策となるか

「サイト・ブロッキングは日本でも適法」と米国弁護士、著作権侵害サイトへの対策となるか」という記事がでています(ビジネス・ローヤーズ)。
ここで、GEMA事件が引用されています。この事件について、高橋郁夫が社長を務めているITリサーチアートでは、委託調査で、この事件を調べたことがありますので、ご紹介します総務省「諸外国におけるインターネット上の権利侵害情報対策に関する調査研究の請負」(平成27年度)
連邦裁判所は、2015年11月26日、2つの事件(I ZR 3/14事件とI ZR 174/14事件)の上告審として、第三者の著作権法違反に対するアクセスプロバイダの責任に関して判決を出しました 。
(1)I ZR 3/14事件の原告は、音楽の録音・複製を業として行う会社(GEMA)です。
原告は、作曲家、作詞家、音楽出版社のために、音楽作品の著作権法上の使用権を管理しています。
被告はドイツ大手の通信会社であって、電話回線を通じて、顧客のインターネット接続を提供する子会社を運営しています。被告は顧客に対していわゆるアクセスプロバイダとして、「3dfl.am」のウェブサイトへの接続を提供しています。
当該ウェブサイト上に多数のリンク・URL集があり、これら通じて「RapidShare」、「Netload」あるいは「Uploaded」といった共有ホストサイトに違法にアップロードされ、著作権法で保護された楽曲を得ることができ、原告は、原告に管理を委託された著作権について、侵害があり、被告はこのような法律違反を防がなければならないと主張しました。
原告は、被告に対し、被告によって利用設定されたインターネット接続を通じ、第三者にウェブサイト「3dl.am」経由で問題となる楽曲をえることを可能とするリンクを差し止めること請求しました。
州裁判所は請求を棄却し、控訴審も原告の控訴を棄却したが、控訴裁判所が許可した上告により、原告が上告申立てしたものである。
(2)I ZR 174/14の事件の原告は録音機器制作者です。
被告は、顧客にインターネット接続を提供する通信ネットワーク会社(Betreiberin)です。
アクセセスプロバイダとして、被告は顧客にウェブサイト「goldesel.to」への接続を媒介していました。
原告の主張によると、当該ウェブサイト上で、ファイル共有ネットワーク「eDonkey」によって違法にアップロードされた、著作権で保護されるべき楽曲へ誘導するリンク及びURLを得ることができました。 原告は、これは著作権法第85条 によって保護される【レコード制作者の】利用権(Leistungsschutzrechte)に反するとして、原告は被告に対して、被告によって利用設定されたインターネット接続を通じ、第三者にウェブサイト「goldesel.to」経由で問題となる楽曲をえることを可能とするリンクを差し止めること請求しました。
地方裁判所は請求を棄却しました。上級地方裁判所も原告の控訴を棄却しました。控訴裁判所によって許可された上告により、原告が上告申立てしたものです。
(3)
連邦裁判所は両方の手続の上告を棄却した。
連邦裁判所の判断の趣旨は、以下のとおりです。
—-
インターネット接続を提供する通信会社は、原則として、著作権によって保護されている作品を違法に全ての人が取得できるようにするインターネットサイトへのアクセスを妨げることを、権利者から「妨害者(Störer)」として請求されうる立場にある。求められる調査義務に反する限りで、妨害者として、(著作権や著作物の使用権のような)絶対権(absolutes Recht)が侵害された場合は-侵害者又はこれと同視しうる者でない場合で -いかなる方法でも、保護された権利物の侵害に、認識及び相当因果関係(adäquat-kausal)のある寄与をなした者は、これを差し止める義務がある。ドイツ法は,情報化社会著作権法指針(Richtlinie 2001/29/EG über das Urheberrecht in der Informationsgesellschaft)第8条3項の趣旨に従い、指針に合致するよう解釈し、そしてそれ故に、インターネットへの接続媒介者に排除命令を課すことができる余地がなければならない。
著作権法違反の内容を含むインターネットサイトへの接続を媒介する場合は、インターネットサイト「3dl.am」ないし「goldesel.to」の法律違反に対して、通信会社の相当因果関係のある寄与行為が認められる。必要となる期待可能性の衡量においては、 EU法(unionsrechtlich)及び国内の基本法の下で、著作権者の財産権の保護(Eigentumsschutz der Urheberrechtsinhaber)、通信会社の営業の自由、並びにインターネット利用者の「情報の自由」ないし「情報の自己決定権」を、考慮しなければならない。遮断は、インターネットサイトに法律違反の内容が既に掲載されている場合に、それだけで期待できるわけではなく、全体としてみて合法で、違法な内容が重要でない場合もある。インターネットの技術的な構造から生じる回避可能性の問題も、違法な内容へのアクセスを避け、あるいは少なくとも困難にする限りで、遮断命令(Sperranordnung)に問題を生じさせるわけではない。
しかしながら、インターネットへの接続を媒介する企業の妨害者責任は、比例原則の観点から、権利者が相手方-自ら違法行為を行った場合のそのインターネットサイト運営者、-あるいは、そのサービスを行うことによって、侵害行為に寄与したホストプロバイダ-に対して、まず一定の努力をしている場合のみ考慮される。このような当事者の請求が功を奏しなかった、あるいは、功を奏する見込みが全くない場合に、そしてそれ故に、他の手段では権利保護にかけてしまう結果となる場合のみ、アクセスプロバイダへの妨害者責任の請求が認められる。運営者とホストプロバイダは、法律違反そのものについては、インターネットの接続を媒介しているという意味では、本質的に似ている。先んじて請求されるべき相手方に関して、権利者は合理的な範囲内で調査をすべきである。例えば、興信所への委託、インターネット上で違法な申し出を調査する企業への委託、あるいは、国家の調査機関の介入の要請等である。
————-
結局両事件ともこの要件を欠いていると判断しました。
(4)この判決文から何を得るかということになります。
法的な理論としては、
①裁判所の判断によって、媒介者に対して排除命令を課すことは不可能ではなく、それによってEU電子商取引指令や国内法に違反することはない
②具体的な判断に際しては種々の利益が考慮されることになる。
③比例原則の観点から、権利者が、当事者に対する請求をなした場合、もしくは、それが功をそうする見込みが全くない場合に、プロバイダへの請求が認められる
ということになります。
その意味で、この事案は、請求が認められない事件になるので、この①の部分は、法律家の間では、傍論ということになります。
控えめにいって、傍論をもってみずからの論の根拠にすることは、あまり望ましいものではない、ということがいえるかとおもいます。

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