導管プロバイダと特定電気通信事業者

来週、名護市で、外国における通信の秘密とブロッキングについてお話しさせていただくことになりました。(沖縄ICTフォーラム2018in名護
いままでに、外国の通信の秘密について調べてきたものを、著作権に基づくブロッキングが世間での話題になったのを機会にもう一回まとめてみようかと考えてみました。
プロバイダが、違法の内容の通信について、その通信が違法内容である場合に、送信停止措置をとることができるのか、という問題があるわけです。他者の権利(著作権)が侵害された時、「技術的に対処可能」かつ「他⼈の権利が侵害されていると知っていた」という条件を満たしている場合、⽣じた損害について賠償する責任があることが抽象的に認められています(プロバイダ責任制限法3条)のだから、逆に、技術的に対処可能で、悪意になったのであれば、対処してもいいではないか、という論点があることになります。
通常は、プロバイダは、通信の内容が違法であるかを積極的に探知してはいけないよ、という禁止の義務付けなわけですが、違法だと知ってしまったときに、その通信を、約款等に基づいて停止することはできるのか、という問題は、厳密には、別ということができるわけです。解釈論としては、事業法4条は、禁止のみですから、この警告後の作為義務の部分をカバーするということはいえないでしょう。(法的には、電子メールのモニターと、不祥事発覚後の電子メールの調査が違うのと原理は同様です)
ここで、参考になるのが、脅迫電報事件(大阪地裁平成16年 7月 7日.大阪高裁平成17年 6月 3日)ということになります。
事案は、森先生のスライドでよくでているので、そちらを参照ください
判決文としては、「民法90条は,そもそも公序良俗違反の法律行為を無効とする規定に止まるのであり,それを超えて何らかの法的作為義務を根拠づけるものと解することはできない。
また,原告らが条理として主張するところは,他者に対し危害を加えてはならないという観念的,抽象的なものに過ぎず,具体的にどのような事実関係を前提としていかなる行為義務が発生するのか,その主張の根拠とするところが全く不明であって,法的作為義務の発生原因とはなし得ない」といいます。
また、「仮に,被告らに条理上何らかの作為をなすべき一般的義務が発生すると解する余地があるとしても,本件において原告らの求める行為の内容は,通信事業者たる被告らに求めることが適当でないのみならず,かえって公共的通信事業者としての職務の性質からして許されない違法な行為を内容とする」としています。
内容を覚知した場合に限るとした主張に対しても「特定の電報の内容を覚知する前提として,必然的に全電報の内容を審査の対象とせざるを得なくなることは,前示のとおりである」としています。
だとすると、事業法4条は、禁止のみを定めるものの、さらに、個別の場合における停止の権利さえも否定するということになると解されます。
現在ですと、特定信書便とかでの電報サービスもあるわけですが、その約款では、信書の内容に関する規定は、はいっていないわけです。これは、逆に、個別の場合における停止の権利さえも定めてはいけないという趣旨なのかと思われます。
すると、上の技術的に対処可能な場合の特定電気通信事業者の(抽象的)責任と、上の判決の法理との関係が、気になるわけです。電報は、そうかもしれませんが、インターネットもそうなのか、ということになるかと思います。「必然的に全電報の内容を審査の対象とせざるをえなくなる」わけでなければ、上の脅迫電報事件の論理が及ばないのではないか、と考えられるわけです。
日本法だけながめてもインスピレーションがわかないので、頭の体操で、EUにおけるプロバイダの三つの種類をみていきます。
EUにおける電子商取引指令(域内市場における情報社会サービスの法的側面、特に電子商取引の法的側面に関する欧州議会及び理事会指令2000/31/EC(DIRECTIVE 2000/31/EC OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL of on certain legal aspects of Information Society services、 in the Internal Market (‘Directive on electronic commerce’)の12条から15条において、オンラインの媒介者に対する責任についての要求に関する基準となる要素(閾値-threshold) を定めています。
同指令は、単なる伝送路、キャッシング、ホスティングに分けて、責任を論じています。具体的規定と、その具体的な例は、以下のとおりになります。(訳として大仲末雄「電子商取引に関する法制度の研究」(http://www.ne.jp/asahi/ohnaka/e-commercelaw/sub1.pdf)343頁以下がある)。
第4仲介サービスプロバイダーの責任
第 12 条 単なる伝送路
1. サービスの受取人が提供する情報の通信ネットワークにおける伝送、又は、通信ネットワークへのアクセスの提供からなる情報社会サービスが提供される場合には、加盟国は、サービスプロバイダーは、次の各項に掲げる条件を満たす限り、サービスプロバイダーは、伝送された情報に対して責任を有しないということを保証しなければならない。
(a)サービスプロバイダーは、自ら伝送を開始しないこと。
(b)サービスプロバイダーは、伝送の受信者を選択しないこと。
そして(c)サービスプロバイダーは、伝送に含まれる情報を選択又は変更しないこと。
(略)
通常の電気通信会社、接続プロバイダは、この単なる伝送路に該当するものとなります。
第13条 一時保存(キャッシング)
1. サービスの受取人が提供する情報通信ネットワークにおける伝送からなる情報社会サービスが、提供される場合には、加盟国は、次の各号に掲げる条件を満たす限り、サービスプロバイダーは、サービスの受取人からの求めに応じて、単に、その情報のさらなる伝送を効率的にする目的ためになされる、当該情報の自動的、中間的かつ一時的保存に対して、責任を有しないということを、保証しなければならない。
(a)プロバイダーは、情報を変更しないこと、
(b)プロバイダーは、情報へのアクセスに関する条件を遵守すること、
(c)プロバイダーは、産業界で広く認識され、かつ、使用される方法で指定された情報のアップデートに関するルールを遵守すること、
(d)プロバイダーは、情報の使用に関するデータを得るために、産業界で広く認知され、かつ、利用される技術の合法的な使用を妨げないこと、そして
(e)プロバイダーは、伝送における最初の発信元での情報がネットワークから取除かれた/アクセスが困難になった/裁判所又は行政当局がそのような除去又はアクセスの不能化を命じたというという事実を実際に知り得た場合には、保存された情報を除去し、アクセスを不可能にするために、迅速に行動すること。
(略)
インターネットにおいて通信を高速化するために、通信を一時的に保存するサービスが存在する。アカマイなどが代表的なものである。これらは、このキャッシングに該当します。この規定は、このようなサービスにおいて、そのような一時的な保存が、侵害行為に当たらないということを明らかにする趣旨になります。
第14条 ホスティング
1. サービスの受取人により提供される情報の保存からなる情報社会サービスが提供される場合には、加盟国は、次の各号に掲げる条件を満たす限り、サービスプロバイダーが、サービスの受取人の求めにより保存した情報に対しては責任を有しないことを、保証しなければならない。
(a)そのプロバイダーが、損害賠償の請求に関する違法な行為又は情報を実際に知らないこと、そして、違法な行為又は情報が明白である事実又は状況に気付いていないこと、又は
(b) プロバイダーが、そのようなことを知り、かつ、気付いたときに、その情報を除去するか又はそれへのアクセスを不可能にするために、迅速に行動すること。
(略)
となります。
この具体例としては、電子会議室機能を提供しているプロバイダということになります。
ここで、見たときに、ホスティングプロバイダーは、現実に悪意になった場合には、情報の除去等をしない場合には、責任を負うということが明らかにされています。その一方で、導管プロバイダーは、責任をおわないことが明らかにされています
ここで、ふと、わが国の「特定電気通信」の定義を見てみるわけです。特定電気通信とは、「不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信(略)第二条第一号に規定する電気通信をいう。」わけです。そして、これには、「特定電気通信設備の記録媒体に記録された情報が不特定の者に送信される形態で行われるもの(蓄積型)と送信装置に入力された情報が不特定の者に送信される形態で行われるもの(非蓄積型)」とがあるとされています。
さらに、この悪意になった場合の責任の根拠については、この場合、プロバイダーが、いわば、公表者と同様の立場になるので、一定の場合で責任を負うことが起こりうるということになります。
ホスティングプロバイダーに該当するものが、特定電気通信事業者になることは間違いないので、現実の悪意なのか、善意の拡散なのかで責任をわけるということは、分かりやすいです。
では、導管プロバイダは、どうなのか。インターネットについては、「必然的に全電報の内容を審査の対象とせざるをえなくなる」わけでは、ありません。そして、技術的に対応が可能であるということであれば、現実の悪意以降の拡散について、作為義務を認定することも理論的には、可能ですね。また、作為義務の前に、自主的に対応するのは、可能なのではないか、ということはいえます。
各プロバイダが、他のプロバイダと契約を結んで、インターネットのトラフィックを伝達してる、そこで、具体的に違法なコンテンツが流通されている、「特定電気通信による情報の流通により他人の権利が侵害されている」場合になったときに、「現実の悪意」になった以降において、契約上の権限にもとづいて、これを拡散しないように、合理的な対応をとる。これが許容されないと解釈するためには、上記の脅迫電報事件を一歩進めるということになりそうです。(外国の文献だと、プロバイダの契約をもとに停止しますと問題なく記載している記述をみることがあります)
すくなくても、解釈論としては、契約上の権限にもとづいて、これを拡散しないように、合理的な対応をとる、この行為が、電気通信事業法上、禁止されるといえるかは、ニュートラルというような気がします。拡散の停止の作為義務があるとはいえないが、停止の権利はあるといえそうです。
ここで、この解釈論は、諸外国の実務や動向で裏付けられることになるのでしょう。ということで、来週までにスライド作っておきましょう。

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