東京オリンピックの開会式の演出については、MIKIKO版がいかにして、どうしようもない演出にかわっていったのか、なぜ、マリオの伏線は回収されなかったのか、というのを記事で読むにつけても、本当に残念だなあとおもいます。美は細部に宿るので、アーティストでないものが口を出すな、といいたいところです。(アーティストとクリエイタもどきとは、人種が違うんだよね)
が、それはそれとして、ドローンの演出は、すばらしかったので、東京2020記念で、ドローンの通信の傍受についての法的なメモになります。
これに関して、「開会式彩ったドローンの舞、ハッカーが通信の解析試みた」という記事があります。ドローンの映像もきれいです(Youtubeでもみれますね)。
杉浦さんが、ドローン同士のBluetoothによる通信を取得して分析しています。
ドローンは、どのような通信をしているの
杉浦さんは、ドローンがBluetoothで相互に通信していて、それが傍受できますといっています。
ところで、この点についてのドローンの通信技術の概要は、小野 文枝, 三浦 龍「小型無人航空機の無線通信技術の概要」という論文が出ています。この 論文ですと、普通のwifiによるコントロール(無線局的には、免許不要の無線局)ということがわかります。
具体的な通信については、以下のようなイメージです。
双方向の無線通信
位置情報のテレメトリー
緯度戸、軽度、高度の位置情報(屋外)、超音波センサ(屋内)、また、衛星捕捉情報、方位センサからえられる方位、ロール軸、ピッチ軸、ヨー軸などの角度などの機体姿勢情報、バッテリー等の残量情報などが、機体側から、操縦者宛に通信されます。
制御・コマンド
制御信号またはコマンドにより主導的に飛行する手動操縦機能・あらかじめ決められたプログラムに従い、位置情報や加速度センサ等の情報に基づいて飛行する自律飛行機能を有しています。
手動操縦時の制御信号は、プロポと呼ばれる送信機からドローンの受信機へと送信される。
でもって、これらは、一般的には、家庭用WiFiの代表的な電波帯である2.4GHz帯でもって送受信されます。方式としては、周波数ホッピング式のスペクトラム拡散方式が使われます。
Bluetoothって?
でもって、Bluetoothないじゃんとなったところ、今回の東京オリンピックで活躍したドローンは、インテルの技術だったことがわかった(東京オリンピック開会式で大活躍したドローン、裏方インテルに裏側を聞いてみた)ので、インテルのドローンを調べたところ、Bluetoothが活躍していたということがかわります「インテル、Bluetoothを利用するドローンの位置追跡など実現へ」という記事を読むと
無人航空機が、Bluetoothを使って自機の姿勢と位置をブロードキャストし、操縦者に制御される際も、遠隔操作で飛行する場合も、ほかのドローンとの接触を回避できる可能性がある
でもってブロードキャストされるデータは、
ドローンが独自のID番号、位置、進行方向のほか、「帰還中」「緊急着陸」「自動化されたミッションで飛行中」といったステータス信号などをブロードキャストする
だそうです。
この「東京オリンピック開会式で大活躍したドローン、裏方インテルに裏側を聞いてみた」の記事からもわかるように
ドローンはGPS信号を受けることで座標を確認しており、設定されたプランに沿って飛行している。高度なGPS誤差補正の技術あってこそものといい、風など天候条件に対しても耐性を持っているそうだ
ということで、小野・三浦論文でいうところのテレメトリー通信/制御・コマンドの通信と、Bluetoothによる相互の通信とが相互に補完して、今回のショーが成り立っていたということになるかと思います。
ちなみに、Bluetoothって、そんなに遠く届くんだっけ?と思ったのですが、BT5だと1000メートルくらいはいくみたいですね。
ドローンの通信を傍受すること等と電波法の規定
Youtubeだと上の衝突回避のための通信のセキュリティ自体がちゃんとできるかどうかというのを調べたということになります(2分15秒部分)。
杉浦さんは、
電波の強さや角度から場所を特定するという技術があるので、それを使ったほうが衝突回避等にはいいのではないか
とか
1800台以上の大量のドローンが飛んでいるいるところで、どういうことを起こすことができるかというのは、まだだれもやっていない形ではありますので、その電波を受信しまして提案することができる
とコメントしています。
では、このような傍受行為自体が、どのように位置づけられるのかというのをみます。電波法59条は、(秘密の保護)として
何人も法律に別段の定めがある場合を除くほか、特定の相手方に対して行われる無線通信(電気通信事業法第四条第一項又は第百六十四条第三項の通信であるものを除く。第百九条並びに第百九条の二第二項及び第三項において同じ。)を傍受してその存在若しくは内容を漏らし、又はこれを窃用してはならない。
と定めています。
ここで、禁じられている行為は、傍受して存在もしくは内容を漏らすこと、および、窃用することです。
- 傍受とは、積極的意思をもって、自己に当てられていない無線通信を受信することをいいます。
- 漏らしとは、他人に積極的につげる場合のほか他人の知りうる状態に置くことをいいます。
- 窃用とは、「正当な理由なく発信者または受信者の意思に反して利用すること」をいいます。
この秘密の保護については、電気通信事業法4条の「秘密の保護」とは、若干異なっています。すなわち、電気通信事業法においては、積極的に傍受することのみでも秘密の保護に違反したことになります。が、電波法では、傍受しただけでは、電波法59条の構成要件に該当するかについては、明らかではなく、一般には、傍受したのみでは、該当しないとされています(なお、同法109条は、その旨が明確である)
なので、
- 傍受かつ漏えい
- 傍受かつ窃用
が禁止されているということになります。なので、ドローンのBluetoothの信号を傍受しても、その傍受行為自体は、許容されるということになります。なので、朝日新聞の記事でもインタビューにでることができることになります。
Bluetoothの信号の解析は?
このセキュリティの調査においては、
- 進路妨害をしたりとか、
- ドローンを動かないでで閉じ込めたりとか、
かできるのではないかというのを想定しているとのことです。
ドローンの電波自体は、暗号化して許可をえ方人間だけが解読できる形にした方がいいだろう
という話をしています。
この点については、二つ触れておく必要があります。
セキュリティ調査と「窃用」の概念
電波法は、条文自体に窃用という用語が使われている特徴があります。「正当な理由なく発信者または受信者の意思に反して利用すること」とされているわけですが、セキュリティ調査というのは、「正当な理由」に該当するのか、という問題があります。この点については、電気通信事業法の解釈では、明確な解釈が示されていないところです。
個人的には、セキュリティの目的で、業界の標準的な手法によってなされる調査は、「正当な理由」に該当すると考えています。「窃用」という用語がどこらか来ているのか、これは、法律用語としては、電波法(制定 昭和25年)で導入されたのかと思います。継受法がなされているのかも、とか、misuseに匹敵する言葉の訳かなかとか思っているのですが、そのうち、調べたいと思います。
misuseだと「『自己または他人の利益のために』利用する」というのが『mis 』の部分の意味だろうと思うので、セキュリティの調査のためにというのは、『自己または他人の利益のために』という要件を満たさないということでいいかと思います。
“Amateur radio guidance: Misuse and licence revocation”たと
アマチュア無線の悪用とは、故意に妨害を加えたり、不快な言葉を使ったり、コールサインを盗用したり、他のユーザーをキーアウトしたりすることで、電波へのアクセスを拒否したり、他人を怒らせたり、迷惑をかけたりすることです。
というのが参考になったりします。
それはさておいて、この点を考えるのにあたっては、小型無人機飛行禁止法において、警察官の権限についてみておくのは興味深いです。
ドローンの飛行禁止区域と違法飛行に対する対応
ドローンといっていますが、米国においては、ドローンを意味する法的な用語としては、無人航空機システム(Unmanned Aircraft System)といわれることが一般的になります。
この言葉は、無人航空機とは、
航空機内または航空機上から人間が直接介入することなく操作される航空機
を意味するとされていて(合衆国法典44801条(11))、無人航空機システムとは、
国家空域システムにおいて、安全かつ効率的に航空(パイロット)するために求められる無人航空機および関連要素(通信リンクおよび無人航空機を制御するコンポーネントを含む)を意味する
とされます(同(12))。
この無人航空機(UAS)に関する概念としては、我が国では、二つの概念があります。航空法に基づく無人航空機という概念と小型無人機等飛行禁止法(重要施設の周辺地域の上空における小型無人機等の飛行の禁止に関する法律(平成28年法律第9号))の小型無人機です。
航空法の無人航空機とは
航空の用に供することができる飛行機、回転翼航空機、滑空機、飛行船その他政令で定める機器であつて構造上人が乗ることができないもののうち、遠隔操作又は自動操縦(プログラムにより自動的に操縦を行うことをいう。)により飛行させることができるもの(その重量その他の事由を勘案してその飛行により航空機の航行の安全並びに地上及び水上の人及び物件の安全が損なわれるおそれがないものとして国土交通省令で定めるものを除く。)
をいいます。
小型無人機(小型無人機等飛行禁止法)とは
飛行機、回転翼航空機、滑空機、飛行船その他の航空の用に供することができる機器であって構造上人が乗ることができないもののうち、遠隔操作又は自動操縦(プログラムにより自動的に操縦を行うことをいう。)により飛行させることができるもの
となります。ということで、名称の違い以外に「重量その他の事由を勘案してその飛行により航空機の航行の安全並びに地上及び水上の人及び物件の安全が損なわれるおそれがないものとして国土交通省令で定めるものを除く」か、どうかとの違いがあります。これについては、要は、200グラム以下のドローンは、無人航空機ではなかったのですが、今後、これが100グラム以下とされる模様です。このような記事「【航空法施行規則】200g→100gがハッキリと決まる時?」があります。
でもって、飛行禁止空域(航空法132条)や飛行禁止区域(小型無人機等飛行禁止法3条ないし6条)が定められています。
航空法の飛行禁止区域については、「『関西空港にドローン?』と空港の施設管理者の排除措置の法的位置づけ」で説明しています。
小型無人機等飛行禁止法においては、対象施設を定義し、その対象施設の敷地等の指定によって、無人航空機の飛行禁止区域が規定されています(定義2条)。
具体的には、国の所有又は管理に属する対象施設の敷地等の指定について3条、対象政党事務所について4条、外国公館等について5条、対象防衛関係施設について6条、原子力事業所について7条、なお、平成三十一年ラグビーワールドカップ大会特別措置法16条、平成三十二年東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会特別措置法29条となります。
これに違反した飛行については、
小型無人機等の飛行に係る機器の破損その他の必要な措置をとることができる
ことになります。
まず、この措置としてどのようなものがあるか、ということですが、これについては、「ドローン攻撃への対策の分類と実際」で検討しています。
警察官については、小型無人機等飛行禁止法の11条1項と2項は、
1 警察官は、前条第一項又は第三項本文の規定に違反して小型無人機等の飛行が行われていると認められる場合には、当該小型無人機等の飛行を行っている者に対し、当該小型無人機等の飛行に係る機器を対象施設周辺地域の上空から退去させることその他の対象施設に対する危険を未然に防止するために必要な措置をとることを命ずることができる。
2 前項に規定する場合において、同項の規定による措置をとることを命ぜられた者が当該措置をとらないとき、その命令の相手方が現場にいないために当該措置をとることを命ずることができないとき又は同項の小型無人機等の飛行を行っている者に対し当該措置をとることを命ずるいとまがないときは、警察官は、対象施設に対する危険を未然に防止するためやむを得ないと認められる限度において、当該小型無人機等の飛行の妨害、当該小型無人機等の飛行に係る機器の破損その他の必要な措置をとることができる。
と定めています。
ちなみに、この条文については、河野政府参考人(第198回国会 内閣委員会 第12号(平成31年4月12日(金曜日)))の参考人発言があって
警察においては、対象施設等の上空を違法に飛行しているドローンを発見した場合において、当該ドローンの退去等を命じることができないときは、ジャミング装置、迎撃ドローン、ネットランチャー等の資機材を活用するなどして、違法に飛行するドローンによる危害を排除することとしております。
とされています(当時は、小型無人機等飛行禁止法10条)。
自衛官の権限ついては、「ドローン攻撃への対策研究」というエントリで説明しています。
空港管理者も権限があります。これについては、「関西空港にドローン?と空港の施設管理者の排除措置の法的位置づけ」というエントリで説明しています。なお、このエントリの後に、小型無人機等飛行禁止法11条5項において
第一項及び第二項の規定は、対象空港管理者の職務の執行について準用する。
とされています。読み替えがなされているので、それを構成してみると空港管理者は
1項相当分
空港管理者は、前条第一項又は第三項本文の規定に違反して小型無人機等の飛行(当該対象空港管理者が管理する対象施設及びその指定敷地等の上空において行われる小型無人機の飛行に限る。)が行われていると認められる場合には、国土交通省令で定めるところにより当該小型無人機等の飛行を行っている者に対し、当該小型無人機等の飛行に係る機器を当該対象施設及びその指定敷地等の上空から退去させることその他の当該対象施設に対する危険を未然に防止するために必要なものとして国土交通省令で定める措置をとることを自ら命じ、又は国土交通省令で定めるところにより指定した職員若しくは国土交通省令で定めるところにより委任した者に命じさせることができる。ただし、当該対象施設及びその指定敷地等並びにその上空以外の場所及びその上空における当該対象空港管理者又はその指定した職員若しくは委任した者の職務の執行にあっては、警察官(海域及びその上空における当該対象空港管理者又はその指定した職員若しくは委任した者の職務の執行にあっては、警察官及び海上保安官)がその場にいない場合において、国土交通大臣が警察庁長官(海域及びその上空における当該対象空港管理者又はその指定した職員若しくは委任した者の職務の執行にあっては、警察庁長官及び海上保安庁長官)に協議して定めるところにより、行うときに限る。
となります。
2項は、
前項に規定する場合において、同項の規定による措置をとることを命ぜられた者が当該措置をとらないとき、その命令の相手方が現場にいないために当該措置をとることを命じ、若しくは命じさせることができないとき又は同項の小型無人機等の飛行を行っている者に対し当該措置をとることを命ずるいとまがないときは、警察官は、国土交通省令で定めるところにより、当該対象施設に対する危険を未然に防止するためやむを得ないと認められる限度において、当該小型無人機等の飛行の妨害、その他の必要な措置を自らとり、又は同項の指定した職員若しくは同項の委任した者にとらせることができる。ただし、当該対象施設及びその指定敷地等並びにその上空以外の場所及びその上空における当該対象空港管理者又はその指定した職員若しくは委任した者の職務の執行にあっては、警察官(海域及びその上空における当該対象空港管理者又はその指定した職員若しくは委任した者の職務の執行にあっては、警察官及び海上保安官)がその場にいない場合において、国土交通大臣が警察庁長官(海域及びその上空における当該対象空港管理者又はその指定した職員若しくは委任した者の職務の執行にあっては、警察庁長官及び海上保安庁長官)に協議して定めるところにより、行うときに限る。
となります。
そしてこの措置については、平成二十八年国土交通省令第四十一号 国土交通省関係重要施設の周辺地域の上空における小型無人機等の飛行の禁止に関する法律施行規則(施行日: 令和三年一月一日 (令和二年国土交通省令第九十八号による改正))の10条で
法第十一条第五項の規定により読み替えて準用する同条第一項に規定する国土交通省令で定める措置)
第十条 法第十一条第五項の規定により読み替えて準用する同条第一項に規定する国土交通省令で定める措置は、次に掲げる措置のうち当該対象施設に対する危険を未然に防止するために有効かつ適切なものとする。
一 小型無人機等の飛行に係る機器を当該対象施設及びその指定敷地等の上空から退去させること。
二 小型無人機等の飛行に係る機器を当該対象施設及びその指定敷地等内の場所に着陸させること。
三 前二号に掲げる措置のほか、航空機との衝突を予防するための小型無人機等の飛行に係る機器の飛行の経路の変更その他の当該対象施設に対する危険を未然に防止するために必要な措置(当該対象施設及びその指定敷地等以外の場所の上空における小型無人機の飛行に関する措置を除く。)をとること。
とされています。
この施行規則については、どのように解するかという問題がでてくるかと思います。要は、退去・着陸は、OKですけど、捕獲は、NGなのではないか、とも考えられます。飛行に関する措置が除かれているので、捕獲は、どうなのか、という解釈がでてきそうです。この問題は、そのような業者さんから聞かれたら、考えてみたいと思います。というか、担当課に聞いた方が早いような気がします。
暗号の解読について
暗号がかかっていれば、それを解読することは、電波法違反ですね。109条の2では
暗号通信を傍受した者又は暗号通信を媒介する者であつて当該暗号通信を受信したものが、当該暗号通信の秘密を漏らし、又は窃用する目的で、その内容を復元したときは、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
2 無線通信の業務に従事する者が、前項の罪を犯したとき(その業務に関し暗号通信を傍受し、又は受信した場合に限る。)は、二年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
3 前二項において「暗号通信」とは、通信の当事者(当該通信を媒介する者であつて、その内容を復元する権限を有するものを含む。)以外の者がその内容を復元できないようにするための措置が行われた無線通信をいう。
と定めています。しかしながら、Bluetoothで通信されるのは、お互いの通信をネゴするための情報を越えているのかという問題がありました。この場合、平成29年 4月27日 東京地裁判決(須川先生の「無線LANのただ乗りに関する法的考察-東京地裁平成29年 4月27日 判決を例に-」がありますね)でも触れられているように、「内容」を復元したことにならなければ無罪ということになります。
もっとも、このBluetoothで通信されるデータは、ドローンが独自のID番号、位置、進行方向のほか、「帰還中」「緊急着陸」「自動化されたミッションで飛行中」といったステータス信号などなので、上記109条の2に該当するということになるかと思います。
今後の動向
「ドローン攻撃への対策の分類と実際」ででみたカウンタードローンシステムについては、一般的な認知が進んでいくものと考えられます。その場合に、上記のドローンの通信を逆に乗っ取って、ドローンを安全に着地させるなどの手法により注目が集まるものと思われます。
この場合、電波法上の論点としては、上で検討したものに加えて
- 混信の防止の規定(56条)との関係
これは、乗っ取るための通信や安全に着地させるための通信が混信の防止の規定との関係はどうか
- 違法飛行ドローンかどうかの認識時点における秘密の保護(59条)との関係
違法飛行ドローンかどうかを識別するために受信する行為自体が、「窃用」といえるのではないか
という論点です。これらについては、ともに否定的に考えることができると思います。詳述は、別の機会にとしたいと思います。