セキュリティウォーズのエピソード7のテーマとしてとり上げることから、影響工作をめぐる法的な問題を通して、サイバーセキュリティをすこし深堀していきたいなあ、と考えています。
まず、最初は、用語です。影響工作・誘導工作などの用語があり、また、心理戦、情報戦、インテリジェンス作戦などの類似の用語も多くあります。
影響工作について、世界的にみて、どのような報告書がなされているかというのを簡単に検索してみました。具体的な報告書とては、
RAND財団 「ロシアが合衆国の選挙をどのように標的にしたか」(How Russia Targets U.S. Elections)
同「悪意あるソーシャル操作は、合衆国にとって脅威として成長する」 (‘Hostile Social Manipulation’ Is a Growing Threat to the United States)
カーネギー国際平和基金「対外情報工作における対外性」(What Is So Foreign About Foreign Influence Operations? )その他の一連の報告書
をはじめとして無数の報告書が公表されています。
日本語のものとしては、
飯塚恵子「ドキュメント-誘導工作-情報操作の巧妙な罠 (中公新書ラクレ)」
「Political WarfareとInfluence Operation」(細谷雄一の研究室から)
などが、公表されています。
これらのなかで、まずは、概念・用語の観点にフォーカスしている報告書としてタイトルにあげたCSS CYBER DEFENSE “Cyber Influence Operations: An Overview and Comparative Analysis”が参考になると考えました。まずは、いろいろと関連する概念をきちんと分析してくれているところが検討の対象とした理由になります。
CSSは、ETH Zurich(スイス連邦工科大学チューリッヒ校)のセキュリティ研究センターになります。
まとめ、1 序、2 影響活動の議論のサマリ(例、活動および技術の定義)、3 サイバー影響工作(定義および範囲、影響工作とサイバー影響工作/類似と相違、可能性および戦略的意義)、4 比較分析(米国とロシアの影響工作)、結論の構成になります。
まずは、
2 影響活動の議論のサマリ(例、活動および技術の定義)
からみていきます。
2.1 歴史的な例
影響の定義自体
AはBに、Bがそうしなければしないようなことを、自分ができる範囲で Bにやらせることができる程度に、Bが他の方法ではやらないようなことをやらせること
とされており(Robert Dhal(1957))、
影響力の目的は、情報の発信やメッセージの伝達を通じて、対象となる聴衆の行動や意見を形成することで、権力を行使することです。
と定義を拡張していること(Brangetto & Veenendaal (2016))、国家政府や準国家機関は、情報や影響力を行使してきたこと、チンギス・ハーンと彼の部族は、大規模な偽情報キャンペーンを展開したこと(Bentzen, 2018)、第一次大戦においても、また、その後、第二次世界大戦でも、イラク戦争、リビア、アフガニスタン、シリアでも同様の行為がなされていることが触れられています。
2.2 活動および技術の定義
近年、情報工作についての文献は、文献は近年急激に増加していますが
情報領域における力の戦略的適用を構成するすべての要素を定義することに関しては、基本的に合意が得られていない」(Brangetto & Veenendaal, 2016)。)
となり、プロパガンダ、政治戦争、心理戦、情報戦から 心理作戦、情報作戦、新皮質戦争(Conway, 2003; Szafranski, 1997)、知覚管理(perception management)、ネット戦争(Arquilla & Ronfeldt,1997)などの用語が用いられているとされています。
そこで、同報告書では、もっとも大切な用語として、プロパガンダ、政治戦争(Political warfare)、心理戦争および工作(Psychological warfare and operations)、情報戦(Information warfare)、影響工作(Influence operations)の用語についての説明がなされています。
プロパガンダ
この用語は、17世紀に宗教改革と戦ったカトリックの委員会「Congregatio de Propaganda Fide」(Walton, 1997) にちなんで用いられています。この委員会は、印刷されたパンフレット、セミナー、宣教師など様々な手段を用いて、教会の教義や見解を この委員会は、印刷されたパンフレット、セミナー、宣教師など様々な手段を用いて、教会の教義や見解を宣伝・提唱したそうです。2つの世界大戦と冷戦時代に連合軍が、敵対的な意見形成活動を特に指す言葉として広く使用したことなどの経緯があり、敵対的な意見形成活動を指す言葉として 現在のような否定的な意味合いを持つようになった(Marlin, 1989)とのことです。
米軍の文献では、「プロパガンダ」という言葉は、通常、敵に関連する嘘や歪曲を意味し、パーセプション・マネジメントとは区別されています。
だそうです。文献(Becker, 1949; Gray & Martin, 2007; Jowett & O’Donnell, 2006)では、プロパガンダにはすなわち、白、黒、灰色の3つの異なるタイプがあるとされるとのことです。1つ目のタイプは、スポンサーシップが認識されたアクターに遡ることができ 認識されているアクターがスポンサーになっている場合です。2つ目は、真実ではない 隠密な活動で、その出所が偽装されていたり、隠されていたりします。最後の3つ目は、ホワイトプロパガンダとブラックプロパガンダの中間に位置します。プロパガンダで、その起源が明確に示されていないもの(または同盟国が起源とされているもの)。白と黒のプロパガンダの中間に位置するもので、発信元がはっきりしない(あるいは味方に起因する)、情報の信憑性が不確かなものです。
政治戦争(Political warfare)
政治的戦争は、クラウゼヴィッツのドクトリンを平時に論理的に応用したものと考えられる とのことで(Blank (2017) )具体的には、「国の目的を達成するために、戦争によらず、国の指揮下にあるあらゆる手段を、公然と、あるいは秘密裏に用いること」と定義されます。従って、平和的手段から攻撃的手段まで、また、あからさまな行動(例:政治的同盟、経済的措置、白人のプロパガンダ)から秘密の活動(例:外国の抵抗組織への支援、黒人のプロパガンダ)まで多岐にわたり、影響力の行使やプロパガンダは、破壊活動の武器の一部にすぎないことになります。
心理戦争および工作(Psychological warfare and operations)
心理戦(通称:PSYWAR)の概念は、具体的には、「主に心理学的手法を用いて行われる 計画された心理的反応を他者に引き起こすことを目的とした の心理的反応を引き起こすことを目的とした、主に心理学的手法を用いて行われる行動を指」(Szunyogh, 1955)し、米軍の参加により 第二次世界大戦に参加した米軍が公式に開発したものです。この種の工作のために訓練された専門部隊の歴史的な例として、特に第二次世界大戦中の、ドイツ軍と連合軍の例、また、朝鮮戦争とベトナム戦争では米軍の例などがあります。
これと関連するものとして心理工作(psychological operations(PSYOPs))の概念があります。 PSYOPとは、情報発信を利用してターゲットの士気や抵抗意志をくじくことです。古典的なPSYOPの手法には、プロパガンダ・リーフレットの空中投下や、空中拡声器を使って降伏要求を放送することなどがある。PSYOPsは平時にも戦時にも使用することができ、非暴力による戦力増強と考えられています。さらに、PSYOPは実践者によって3つのレベル(戦略的、作戦的、戦術的)に分けられ、。それぞれのレベルには、それぞれの目標があります。それぞれのレベルには、目標(ポジティブなイメージの促進、抑止、奨励、勧誘、士気の低下など)、文脈、伝達手段があります。
情報戦(Information warfare)
情報戦(IW)というのは、80年代以降、主に米軍や情報機関で使用されてきたもう一つの有力な、しかし論争の的となっている概念です。この言葉は、サイバー戦争、ハッカー戦争、ネット戦争、仮想戦争、その他のネットワーク中心の紛争を概念的に理解するための包括的な用語となっています。
具体的には、IW には、心理戦と密接に関連するさまざまな活動を含むことにもなっています。具体的には、
- 戦術的な情報の収集 戦術的な情報を収集すること
- 自分の情報が有効であることを確認すること
- 敵や一般市民の士気を下げたり操作したりするためにプロパガンダや偽情報を流すこと
- 敵対勢力の情報の質を低下させること
- そして 敵対勢力の情報の質を低下させること、
- 敵対勢力の情報収集の機会を奪うこと
を含んでいます。
なお、このような用語に関するする活動は、米軍の文献においては、情報工作(IOs)として論じられています。この定義としては、
危機や紛争時に、自軍の情報・情報システムを守りつつ、敵軍の情報・情報システムに影響を与えるためにとる行動
とされています。そして、IOは伝統的に 5つのコア能力で構成されています。
IS | 内容 |
PSYOP(心理戦) | 外国の聴衆に選択された情報や指標を伝え、彼らの感情、動機、目的に影響を与え、、最終的には外国政府、組織、集団、団体の行動に 影響を与えることを目標とする計画された作戦である。心理作戦の目的は 心理作戦の目的は、自国に有利な外国人の態度や行動を誘発したり、強化したりすることである。 |
MILDEC(欺瞞作戦) | 敵軍の意思決定者を敵軍の能力、意図、作戦を 意図的に敵軍の意思決定者を欺き意図的に誤認させ友軍の能力、意図、作戦を伝え、敵軍に友軍の任務達成に貢献する特定の行動(または不作為)を取らせるために実行される行動。 |
OPSEC(作戦保全) | 重要な情報を特定し、その後、味方の行動を分析するプロセス。 重要な情報を特定し、軍事行動やその他の活動に伴うその後の味方の行動を分析するプロセス
a. 敵の情報システムが観測できる行動を特定する。 c. 敵対者が悪用しうる味方の行動の脆弱性を排除するか、許容可能なレベルまで減少させる。 |
EW(電子戦) | 電磁スペクトルを制御するため、または攻撃するために、電磁エネルギーおよび指向性エネルギーの使用を含む軍事行動。 電子戦は、電子攻撃、電子防御、電子戦支援の3部門で構成される。 |
CNO(コンピュータ・ネットワーク・オペレーション) | コンピュータ・ネットワーク攻撃、コンピュータ・ネットワーク防御、および関連する可能にするコンピュータ・ネットワーク搾取 オペレーションから構成される |
また さらに、これらのコア能力には、パブリック・ディプロマシー(PD)、パブリック・アフェアーズ(PA)、民間軍事活動、情報保証、物理的セキュリティ、物理的攻撃、カウンター・インテリジェンスという関連・支援活動が付随する。 そしてカウンターインテリジェンスである。
なお、最近の文献では、コンピュータ・ネットワーク・オペレーション(CNO)という言葉は、サイバースペース・オペレーション(CO)に置き換えられており、米国国防総省(統合参謀本部、2018年)は、「サイバースペースにおいて、またはサイバースペースを通じて目的を達成することを主な目的とするサイバースペース能力の採用」と広く定義しています。そのため、COミッションには、攻撃的なもの(OCO)、防御的なもの(DCO)、DODINオペレーション(省庁の内部ネットワークに関するもの)があります。行動面では、サイバースペース・セキュリティ、サイバースペース・ディフェンス、サイバースペース・エクスプロイテーション、サイバースペース・アタックが含まれる。後者の3つは、現在も広く使われているコンピュータ・ネットワーク・アタック(CNA)、コンピュータ・ネットワーク・ディフェンス(CND)、コンピュータ・ネットワーク・エクスプロイテーション(CNE)という用語に代わるものである。
もっとも、この米国の概念が一般的なものか、という点については、違うというコメントがなされています。
影響工作(Influence operations)
上記のIO能力の中で、「影響を与える/情報を与える」、「騙す」、「拒否する/保護する」、「利用する/攻撃する」という4つの主要な目的を特定することができる。このような観点から、IOは2つの大きな柱に分けられる。
- 1. 技術的影響力作戦(TIO)
情報空間の論理的な層を対象としたものです。情報空間の論理的な層を対象としたもので 情報配信システム、データサーバー、ネットワークノードなど ネットワークノードなどです。この分野にはEW、OPSEC、OCO、DCOなどの作戦 EW、OPSEC、OCO、DCOなどが含まれる。
- 2.社会的影響力作戦(SIO)(別名:情報影響力活動、認知的影響力活動)
社会的影響力作戦(SIO)(情報影響活動、認知的影響活動)は、情報活動の社会的・心理的側面に焦点を当て 敵の意志、行動、士気に影響を与えることを目的としている。この分野には、PSYOPSやMILDECなどの軍事的な要素だけでなく、広報活動や軍民関係も含まれる。SIOは、影響力を行使するための作戦の一部と考えることができ、作戦のサブセットと考えることができるが、武力紛争時の軍事作戦に限定されます。
しかし、影響力を行使することは、軍事的な場面に限らず、軍事、外交、経済など様々な分野で敵対勢力に力を行使しようとする国家の大きな努力の一部です。こうした取り組みには、例えば以下のようなものがあります。狙い撃ちの汚職、ポチョムキン村(政党、シンクタンク、学術機関など)への資金提供と設立、強制的な経済手段の導入、あるいは 民族的、言語的、地域的、宗教的、社会的な緊張を利用すること、社会の緊張を利用することなどが挙げられるとされています。
従って、影響工作というのも情報分野においてなされる活動のアンブレラとしての概念になります。定義としては、
影響力工作は、国家行為者の安全保障政策目標を実現する目的をもった、政治的リーダー、民衆、または、特定の標的グループ(例:専門家、軍人、またはメディア)の意思決定、認知、行動に対して、平時、危機時、衝突時、衝突後において、なされる国家的外交、情報的、軍事的、経済的もしくは、その他のケイパビリティの調整れた、統合された、シンクロされたアプリケーション
ということになります。
この場合、概念としては
- 国家行為者の安全保障政策の実現という目的があること
- 平時であると、紛争時であると、紛争終了後であるとを問わない
- 手法については、情報のみに限るものではない
というとこてろが特徴になるかと思います。