サイバー影響工作の定義-CSS CYBER DEFENSE “Cyber Influence Operations: An Overview and Comparative Analysis”を読む(2)

影響工作の定義-CSS CYBER DEFENSE “Cyber Influence Operations: An Overview and Comparative Analysis”を読む(1)で、影響工作を類似の概念と比較してみました。

CSS CYBER DEFENSE “Cyber Influence Operations: An Overview and Comparative Analysis”は、3章で定義および範囲、影響工作とサイバー影響工作/類似と相違、可能性および戦略的意義と論をすすめていきます。

サイバー影響工作の定義と範囲について

定義および範囲というところをみてみます。同書においては、

文献的には、この特殊なベクトル(高橋注-ますますサイバースペースに移行していること) を示す多くの関連用語が登場しています。例えば、「サイバープロパガンダ」、「サイバーを利用した偽情報キャンペーン」、「サイバーを利用した推論」、「サイバー説得活動」、「影響力のあるサイバー作戦」、「サイバーハイブリッド作戦」、「サイバーを利用した情報活動」などがあります。

として、さらに現状は、影響キャンペーンと、サイバー攻撃との区別もしない傾向があるとしています。

同書は、基本となる概念としてサイバー影響工作(cyber influence operations 、CIO)を準備しています。そこでは、サイバー影響工作を

サイバー空間で実行され、サイバー空間の分散された脆弱性を活用し、サイバー関連のツールや技術に依存して、視聴者の選択、アイデア、意見、感情や動機に影響を与え、その意思決定プロセスを妨害する不正な(時には違法な)活動

と定義しています(Bonfanti, 2019年-Bonfanti, M., (2019). An Intelligence-based approach to countering social media influence operations, in:Romanian Intelligence Studies Review. National Intelligence Academy, Bucharest.の定義に依拠しています)。

影響工作とサイバー影響工作/類似と相違

CIOのターゲット、目的、そしてある程度の戦略・ストラタジェム(軍略)は、前世紀に行われた影響工作と類似している。しかし、ツール、アクター、範囲、規模、利用可能性はすべて異なっている。これらを個別にみていきます。

ターゲット

サイバー影響工作は、主として

  • 一般社会ターゲット(大衆オーディエンス)
  • 社会デモグラフィック(種々の社会グループやネットワーク)
  • 心理的ターゲット(心理学的プロファイルで特定された個人)

三つのレベルをターゲットとしています。影響力工作は、特定の個人、ナラティブ、または問題に合わせた「メッセージ指向」のものと、一般大衆や情報環境全体に向けた「環境指向」のものとに区別することができること、サイバー攻撃は、様々なアクター(企業、政府機関、報道機関、政党など)のシステムを直接(技術的に)狙ったものである一方で、そのような攻撃は必ず、様々な程度、様々なレベルで間接的な認知的効果をもたらすことを念頭に置かなければならないこと、その上で、同時に、CIOは外国のターゲットに対してのみ使用されるのではなく、政府が自国の国民に対して使用することも可能であることにも留意する必要があることがのべられています。

目的

サイバー影響工作の目的に関しては、

他の影響力を行使するオペレーションと同様、態度を修正し、対象者の心理的プロセス、モチベーション、アイデアを形成することである(Palmertz, 2017)。

とれています。もっとも、具体的な目的は様々で、文脈とターゲットの両方に依存していて、特に、特定の地域の民間人を対象とした相手国の軍や政府に対する不信感を煽り、当局の信頼性を低下させ、不安感を煽るために、ディス/ミスインフォメーションやサイバー攻撃を特定地域の民間人に行うことなどがあることがのべられています。

そして、この目的は、

  • 構築的情報工作(Constructive IOs )

ターゲット/オーディエンスに一貫した物語(共産主義や資本主義などのイデオロギー)を(再)確立することを目的とする。

  • 破壊的情報工作(Disruptive IO)

破壊的IOは、出現しているまたは既存の物語に対して破壊的または破壊的な影響を与えることを目的としている。

そのため、犯罪や移民など、非常に分断的で論争の的となっている問題に関連した活動が行われることが多い。一般的なレベルでは、これは例えば、不信感を煽るために社会のアクターを全体的に偏らせることを意味します。また、グループレベルでは、主要な政策決定者の意思決定や意見形成のプロセスを混乱させるために、彼らに偽情報を広めることもあります。個人レベルでは、特定の人物に嫌がらせをしたり、公の場に参加する意欲を失わせたりすることがあります。

  • 散漫情報工作(distractive IOs)

散漫情報工作というのは、特定の些細な問題や行動に注意を引きつけて、人々の注意をそらすことを目的とする。

このような活動は、情報環境に焦点を当て、代替メッセージで希釈したり、氾濫させたり、毒を盛ったりしようとします。このような活動は、例えば、虚偽の申し立てや高度な疑惑によって公共の議論を乗っ取ることで行われます。

という三つに分類できるとされています。

サイバー/均衡化と可能化

同書では、現代のサイバー情報工作は、新しいプラットフォームやサービス(ソーシャルメディアのプラットフォームやサービスなど)で情報がどのように生成、流通、消費されるかだけでなく、ユーザーやコミュニティがどのように相互作用し、関係を構築するかを利用することができる点で伝統的なプロパガンダと異なっているとしています。これは、具体的には、サイバースペースの利用は、影響力を行使するための大きなイコライザー、イネーブラとして機能しているということを意味しているとしてます。

均衡化というのは、誰でも、情報化工作をなすことができるようになったということです。一方、技術の進歩によって情報化工作が、可能になったということも意味しています。これが、イネーブラとしての機能ということになります。具体的なものとしては、その即時性、スケール、低コストなどがその可能性を拡大しているということがいえるわけです。そして、これは、現代の

メディアは、インフォテインメントやセンセーショナルなニュースという注目を集めるビジネスモデルに向けて商業的に再構成されているため、真偽にかかわらず、社会の広い範囲にわたって情報の伝播と拡散の速度が大幅に向上しています。

ということになります(同書14頁)。

さらに、検証されていないニュースでも広く共有され、みとめられることで、「幻想心理効果(“illusory truth effect”)」が発生して、認知の怠惰さから、情報を信頼できるものと考えてしまうということが指摘されています。めれらにより、サイバー情報工作が、効果を増加しており、また、最適化されている。

ここで、AI技術、ソーシャルメディアの広がりのもと、国や民間企業による心理学的データの収集、分析、利用が容易になっている。この例がケンブリッジアナリティカの事件ということになる。

関連記事

  1. 米国サイバー戦略の分析(柱2)
  2. マイク・シュミット教授のニュージーランドのサイバーセキュリティ政…
  3. TTX設例をもとにした「情報漏洩で炎上? そのときあなたの会社は…
  4. EU におけるサイバーセキュリティ関係の法と規則-欧州連帯法(S…
  5. CyConX travel report Day One Key…
  6. ソニーピクチヤーズ・エンターテイメント事件(2014)の復習
  7. 国際法に関する先制的自衛の法的論文から解釈論をみる
  8. 「人工知能の発展と企業法務の未来(1)」NBL角田論文を読んで
PAGE TOP