ワッサナーアレンジメント・外為法と安全保障-「留学生へ安保技術 規制」の記事から勉強

読売新聞(2021年5月20日)に「技術流出対策に「抜け穴」あり…中国を念頭、留学生らの移転規制強化へ」という記事がでています。

政府は、軍事利用が可能な先端技術について、日本の大学などに所属する外国人留学生や研究者に対する移転の規制を強化する方針を固めた。外国為替及び外国貿易法(外為法)の運用を厳格化することを検討している。現行制度では入国から半年経過した場合などは規制が難しいため、見直しが必要だと判断した。

安全保障と大学での研究については、METIの「安全保障貿易管理と大学・研究機関における機微技術管理について 」という資料があります。

この資料において

安全保障貿易管理は、軍事転用可能な高度な貨物や技術が、大量破壊兵器等を開発等している国などに渡らないよう、これらへの直接輸出や迂回輸出を国際的に協調して防止するための取組。

法的な仕組みについては、資料の14ページに国際的なレジームの全体像、法的な枠組については16ページ以降の記載がなされています。

ワッサナーアレンジメント

個人的には、おなじみは、ワッセナーアレンジメントです。

ワッセナー・アレンジメントは、正式には、「通常兵器及び関連汎用品・技術の輸出管理に関するワッセナー・アレンジメント(The Wassenaar Arrangement on Export Controls for Conventional Arms and Dual-Use Goods and Technologies)」といい、通常兵器及び関連汎用品・技術の責任ある輸出管理を実施することにより、地域の安定を損なう虞れのある通常兵器の過度の移転と蓄積を防止することを目的として、96年7月に成立した新しい国際的申し合わせに基づく国際的輸出管理体制のことをいいます。

これは、WAは法的拘束力を有する国際約束に基づく国際的な体制ではなく、通常兵器及び機微な関連汎用品・技術の供給能力を有し、かつ不拡散のために努力する意志を有する参加国による紳士的な申し合わせとして存在しており、(イ)輸出管理および、(ロ)情報交換を行っています。

輸出管理は、(a)汎用品リストと(b)軍需品リストにもとづいてなされています。

汎用品リスト

  • 汎用品リストは、
  • 一般的な注釈
  • 9カテゴリーに分類された基本リスト
  • 基本リストの中でもより機微なものと位置づけられる汎用品・技術を抜粋した機微リスト( Sensitive List)
  • 極機微リスト(Very Sensitive List)

からなりたっています。

軍需品リスト( MUNITIONS LIST)

また、(b)軍需品リスト( MUNITIONS LIST)は、22項目にわたり武器(通常兵器)を全般的に網羅しています。

ちなみに

両用用品(dual use items )

があるわけですが、

管理されるべき両用製品および技術とは、主たる(major)もしくは主要な(key)要素が、そもそも(indigenous )軍事能力の開発、生産、使用もしくは拡張のものをいう

と定義されています。そして、この定義に該当するかどうかについて、参加国以外における利用可能性、対象品の有効な管理の可能性、使用の明確化・客観化の可能性、他の体制による管理の観点から判断されます。

2013年から2016年にかけて、ワッセナーアレンジメントのカテゴリー4における「侵入ソフトウエア」/カテゴリー5の1「IPネットワーク監視」のリストへの追加が、セキュリティに関するツールを規制するのではないかということで議論されたことがありました。この論点は、また、別の機会にまとめることにします。

外為法に基づく輸出規制

16ページ以下をみていきたいと思います。

貨物の輸出と技術の提供にわけて、それぞれ規定対象貨物・同技術が記載されています。

条文としては(輸出の許可等)
第48条 1項

国際的な平和及び安全の維持を妨げることとなると認められるものとして政令で定める特定の地域を仕向地とする特定の種類の貨物の輸出をしようとする者は、政令で定めるところにより、経済産業大臣の許可を受けなければならない。

となっていて、

技術については、

第25条

1項 (役務取引等)
国際的な平和及び安全の維持を妨げることとなると認められるものとして政令で定める特定の種類の貨物の設計、製造若しくは使用に係る技術(以下「特定技術」という。)を特定の外国(以下「特定国」という。)において提供することを目的とする取引を行おうとする居住者若しくは非居住者又は特定技術を特定国の非居住者に提供することを目的とする取引を行おうとする居住者は、政令で定めるところにより、当該取引について、経済産業大臣の許可を受けなければならない。

(略)

3項 経済産業大臣は、次の各号に掲げる場合には、当該各号に定める行為をしようとする者に対し、政令で定めるところにより、当該行為について、許可を受ける義務を課することができる。
一 第一項の規定の確実な実施を図るため必要があると認めるとき 同項の取引に関する次に掲げる行為
イ 特定国を仕向地とする特定技術を内容とする情報が記載され、又は記録された文書、図画又は記録媒体(以下「特定記録媒体等」という。)の輸出
ロ 特定国において受信されることを目的として行う電気通信(電気通信事業法(昭和五十九年法律第八十六号)第二条第一号に規定する電気通信をいう。以下同じ。)による特定技術を内容とする情報の送信(本邦内にある電気通信設備(同条第二号に規定する電気通信設備をいう。)からの送信に限る。以下同じ。)
二 前項の規定の確実な実施を図るため必要があると認めるとき 同項の取引に関する次に掲げる行為
イ 特定国以外の外国を仕向地とする特定記録媒体等の輸出
ロ 特定国以外の外国において受信されることを目的として行う電気通信による特定技術を内容とする情報の送信

規制の方法としては、リスト規制とキャッチオール規制があります。

リスト規制

リストに該当する貨物の輸出や技術の提供を行う場合には、輸出先や提供先がどこであるか、どのような用途で使われるかに関わらず、経済産業大臣の許可が必要

という規制です。

キャッチオール規制

提供しようとする技術や輸出しようとする貨物がリスト規制に該当しない場合でも、技術や貨物の用途や需用者を確認し、大量破壊兵器等の開発等に用いられるおそれのある場合には、経済産業大臣の許可が必要です。

具体的には、

  • 相手先がホワイト国(輸出管理を厳格に実施している27カ国)の場合には、キャッチオール規制の許可は不要
  • 相手先等において、大量破壊兵器等の開発等に用いられるか否かを確認(用途確認)
  • 相手先等が大量破壊兵器等の開発等を行う(行っていた)か否かを確認(需用者確認)。まずは、「外国ユーザーリスト」掲載機関でないか確認
  • 用途確認、需用者確認の結果、大量破壊兵器等の開発等に用いられないことが明らかでない場合及び経済産業省から許可が必要な旨通知された場合は、経済産業大臣
    の許可が必要

資料は、「大学・研究期間における機微技術管理」の説明になります。なお、これについては、安全保障貿易に係る機微技術管理ガイダンス(大学・研究機関用)第三版(平成29年10月公表)があります。

この資料の45ページ目

来日後6か月未満の留学生等に規制技術を提供する際、及び6か月以上であっても、外国で提供することがあらかじめ判っている場合、技術資料の外国への持ち出しや技能訓練等による規制対象技術の提供をする場合は、許可を取得する必要があります。
留学生等の受入れや採用時(入口)、在学・在職中(中間)、卒業・退職時(出口)において適切に管理することが求められます。

となっています。

この6か月というのは、どういうものなのか、ということがあるわけですが、

外為法では、日本国内で武器や兵器開発に転用可能な技術を外国人に提供することは「みなし輸出」と扱われ、国外への輸出と同様に経済産業相による許可制となっている。

条文では、上でみたように、居住者かどうかが、ポイントになっています。図でいくとこんな感じ

 

この部分についての資料は、 「安全保障貿易管理の現状と課題 ~技術取引管理と制裁等~」があります。
この資料のほうで、この記事の懸念がしめされている部分があります(資料 35ページ)。

ここで、6月が決め手となっているのは「外国為替法令の解釈及び運用について(抄)」(蔵国第4672号 昭和55年11月29日
最終改正 蔵国第2345号 平成12年12月28日)によります。

(居住性の判定基準)
6-1-5、6

(2) 外国人の場合
イ 外国人は、原則として、その住所又は居所を本邦内に有しないものと推定し、非居住者として取り扱うが、次に掲げる者については、その住所又は居所を本邦内に
有するものと推定し、居住者として取り扱う。
(イ) 本邦内にある事務所に勤務する者
(ロ) 本邦に入国後6月以上経過するに至つた者
ロ イにかかわらず、次に掲げる者は、非居住者として取り扱う。
(イ) 外国政府又は国際機関の公務を帯びる者
(ロ) 外交官又は領事官及びこれらの随員又は使用人。ただし、外国において任命又は雇用された者に限る。

になりますが、今後、読売新聞によると

政府は、外為法の居住者要件に関して新たな通達を出し、技術の提供対象者に不審な点がある場合は居住者と認めずに許可制の対象とすることや居住者として認めた場合でも技術提供について政府への届け出を義務づけることなどを検討している

ということてす。

 

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