電波法からみる「通信の秘密」とのタイトルのもとで、電波法の規定と電気通信事業法の解釈が、どれだけことなのか、その異なっているのは、どういう事実に基づくのか、ということをいままてみてきました。
ところで、電波法と電気通信事業法とを比べて考えると、その仕組みが、すごく異なっていることに気がつきます。
電気通信事業法の基本的な考え方は、「導管コンセプト」とでもいうべきもので、託された通信内容をそのままひたすら、変更も、付け加えることも、減らすこともせずに、受信者に届けるというものです。法域によっては、「ネットワークの中立性」という用語の重要な一つの分野をになっています。
これに対して、電波法の構成は、昔の行政法の体系をもってすれば、無線局の免許は、「特許」(直接の相手方のために、権利能力・行為能力・特定の権利または包括的な法律関係を設定する行為)という概念に該当するということになりそうです。もっとも、無線局の免許制度は、「電波の利用を一般的に禁止にしておき、一定の要件に適合したものに対してその禁止を解除することにより、電波の公平かつ能率的な利用を確保するもの」と説明されてい ます(今泉至明「電波法要説」32頁)。この表現は、行政法上の「許可」に該当することを前提としています。通常は、許可というのは、基本は、自由であるが、弊害が起きる可能性があるので、それを一般に禁止するということになります。そして、特定の場合にその禁止を解くという位置づけです。果たして、無線の免許が、そのような禁止を解く、という形になるのか、特別に認めるものだと整理されるのか、個人的には、許可という説明について?をもっていたりします。
それはさておき、この枠組の設計を考えるときに、電波における「要規律性」という言葉にあたることになります。
この電波の要規律性というのは、電波が、空間を高速で伝わる特性を利用して、影像、音声、信号灯の搬送のための媒体とすることから生じています。搬送する電波には、影像、音声、信号等を搬送するための幅が必要となるわけです。
この搬送のための作業である変調については、こちらのページがあります。というか、私の知識は、アナログ通信のときなので、デジタル通信の段階でギブアップしていますが。
とにかく、電波は、所定の幅をもって共通の空間を伝搬されることになるので、受信側で内容を正しく識別する必要があることもあって、利用可能な電波の数には限度があります。
そこで、混信等を防いで、利用の目的がよく達成さされるために、高度の技術性と利用方法の統一性、一定性が要求されるとされるのです(以上、今泉「電波法要説」2頁)。
旧無線電信法は、1条で、「無線電信および無線電話は、政府これを管掌す」(原文はカナ)となっており、電波は、国のものとされていました。日本国憲法のもと、そのような考え方が支持しうるものではなく、「電波は国民のものである」というコンセプトのもと、電波法は、電波の公平な利用および電波の能率的利用のための規範とされています。
これらのコンセプトが、どのように、具体的な制定法に現れているのか、さらに、「安い料金で、あまねく、公平に提供」という理念のもとに整備されている郵便法の規定もあわせてみてみましょう。
郵便法 | 電気通信事業法 | 電波法 | |
理念 | 安い料金で、あまねく、公平に提供 | 電気通信事業の公共性(利用者の利益保護) | 電波の公平かつ能率的利用 |
通信内容/手法等に対する規制 | ・利用の公平(5条) ・検閲の禁止(7条) ・秘密の確保(8条) ・郵便禁制品(12条) ・約款による差し出し禁止(13条) ・大きさの制限(15条) ・引受けの場合の説明および開示(31条) ・開示の可能性(32条) ・危険物の処置(33条) |
・検閲の禁止(3条) ・秘密の保護(4条) ・利用の公平(6条) |
・免許状記載事項の遵守義務(52条) ・妨害をあたえない義務(法56条) ・疑似空中線回路の使用義務(法57条) ・無線通信の秘密の保護(法59条) |
メタデータ部分 | ・信書の秘密保護の対象 ・宛て名等の記載方(16条) |
? | ・局の識別(無線通信規則) |
このように比べてみると、問題となった「通信」の媒体の性質ごとに、規制が異なっているのがわかるかと思います。
郵便法の規定の多くは、伝搬されるものが、有体物であることによることによるのかと思います。
一方、電波法は、電波は、「国民の資産」である有限性であることから生じる公平・能率的利用の要求から来ているものということができるでしょう。
翻って考えましょう。電気通信によるインターネット通信はどうでしょうか。その性質上、電子計算機処理によることを前提とした通信である場合には、その処理の有限性から、通信についても公平・能率的利用の観点が必要になってくるのではないか、ということも考えられます。
そこまでいうと、災害時における輻輳の問題はどうなるのか、ということもいわれそうです。異常輻輳のときには、集中規制機能を利用することは認められているわけですが、それは、特別の例外ということになるののてしょう。
しかしながら、インターネット通信については、特別の例外というよりも、むしろ、インターネット通信についての公平・能率的利用の観点が加味された電気通信事業法の再構築もしくは、解釈論による補正、ということが必要になってくるのではないでしょうか。