2021年5月14日にフェースブック対アイルランド(通知当事者 シュレムス)事件の判決がアイルランド高等法院でなされました。
原文の判決はこちらです。
ちなみに新聞では、「欧米間データ移管に逆風 Facebookの異議棄却 ネット事業拡大に制約も」という記事があります。
要するに
アイルランドのデータ保護当局はフェイスブックへの調査を始め、20年8月にデータ移管を禁止する仮命令を出した。同社は「壊滅的な結果をもたらす」などと異議を申し立てたが、高裁は今回、同社の主張を退けた。
という判決になります。
判決の構成は、目次をみましょう。
1. イントロダクション…………………………………………………………………………. 3
2. 決定の概要 6
3. ジャッジメントの構造………………………………………………………………. 7
4 関連する事実の背景………………………………………………………. 8
5. CJEU Judgment in Schrems II…………………………………………………… 13
6. Schrems IIの判決後の展開……………………………………… 17
7. DPCの2020年8月28日付レターとPDD(予備的決定案)…22
8. DPCの2020年8月28日の手紙とPDDの後に対応する。35
9. 手続きの背景…………………………………………………………… 46
10 シュレムス氏の議事録の決議………………………………………….. 49
11. 提起された問題を検討するための体制………………………………… 51
12.PDD/DPCの手続きは司法審査を受けられるか……………… 53
13. 決定到達前のDPCによる調査・研究の失敗の主張…………… 69
14. DPCによる公表された手順からの逸脱/正当な権利の侵害の申し立て………………………………………………………………………… 80
15. 公正な手続きに違反した疑い:21日間の提出期間…………. 114
16. 公正な手続きに反する行為の疑い: 早期判断……………………. 132
17. 公正な手続きの違反に関する申し立て:調査と意思決定の段階への委員の関与…………………………………. 151
18. 侵害および是正措置を対象とする単一の決定:2018年法の第111条の権限ゆ越(ウルトラバイレス)………………………………………………………….. 157
19. EDPBのガイダンスを待たなかったこと、および/またはEDPBのタイミングを考慮にいれなかったこと………………………………………………………. 157
20. 差別の疑い/FBI(ファースブック・アイルランド)の平等権の侵害:FBIへの問い合わせのみ……………………………………………………………………………….. 167
21. 同時の調査の比例原則違反の主張………………………… 180
22. DPCの理由の妥当性……………………………………………………… 181
23. 誠実さの義務………………………………………………………………….. 184
24. プロセスの乱用/不正な目的 ……………………………………………. 192
25. 結論のまとめ………………………………………………………… 196
となります。
事案としての、背景がわからないので、1 イントロダクションを訳してみます。
1. 2020年7月16日、欧州連合司法裁判所(以下、CJEU)は、高等裁判所からの付託を受けて、Case C-311/18 Data Protection Commissioner v. Facebook Ireland Ltd and Maximilian Schrems(現在、通称「Schrems II」)において、画期的な判決を下しました(Costello J.氏)。この事件は、その判決の後に起こったことについてです。
2. Schrems IIの判決を受けて、データ保護委員会(以下、「DPC」)は、2018年データ保護法(以下、「2018年法」)の110条に基づき、Facebook Ireland Ltd(以下、「FBI」)が欧州連合/欧州経済領域の個人に関する個人データの移転を行う際の行為が適法であるかどうか、また、その点についてDPCが何らかの是正権を行使すべきかどうかを検討するために、「自らの意思で」調査を開始することを決定しました。DPCは、2020年8月28日にFBIに対して「Preliminary Draft Decision」(以下、「PDD」)を発行し、調査を開始することを決定しました。
3. FBIは、PDDによって調査を開始するというDPCの決定と、DPCが採用した手続きについて、いくつかの理由で問題視しました。1988年データ保護法(以下「1988年法」)に基づき、DPCの前身であるデータ保護委員会に苦情および再苦情を申し立て、最終的に高等裁判所がCJEUに照会してSchrems IIの判決に至ったSchrems氏も、いくつかの理由でDPCの決定および手続きを問題視しており、そのうちのいくつかはFBIが主張する理由とある程度重なっています。
4. FBIとシュレムス氏は共に、PDDとDPCが採用した手続きに関して司法審査手続きを行いました。それぞれが相手の司法審査手続きの通知当事者として参加することを申請し、成功しました。両訴訟はコマーシャルリストに登録されました。FBIの訴訟は、2020年12月15日から12月21日までの5日間にわたって私が審理し、その後、DPCからさらなる宣誓供述書の証拠が提出されるために延期されました。Schrems氏の訴訟は2021年1月13日に開始される予定でした。しかし、これらの問題は聴聞会の直前にシュレムス氏とDPCの間で解決され、その条件については本判決の後で簡単に言及する必要があります。
5. FBIは、いくつかの理由により、PDDを発行するというDPCの決定およびDPCが採用した手続きを取り消すべきであり、裁判所による宣言がなされるべきであると主張しています。まず、FBIは、DPCの決定およびDPCが採用した手続きは司法審査を受けることができると主張しています。そして、DPCがPDDを発行する前に調査を行わなかったことにより、2018年法および2016年4月27日の欧州議会および理事会の規則(EU)2016/679(以下、「GDPR」)の規定に違反していることなど、いくつかの理由でDPCの決定および手続きは違法であるとしています。DPCが2018年の年次報告書およびウェブサイトで公表し、他の照会でDPCが従った手続きが、DPCの照会に関しても従われるというFBIの正当な期待への違反、DPCによる問題の早すぎる判断およびFBIがDPCに提出するための十分な時間が与えられなかったことなど、公正な手続きを受けるFBIの権利への違反。関連する考慮事項を考慮せず、特に、データを第三国に移転する際にデータ主体の適切な保護を確保するための「補完的措置-“supplementary measures”」と呼ばれる方法の使用に関して、管理者および処理者を支援するガイダンス/勧告が欧州データ保護委員会(EDPB)から発表されるのを待たなかったDPCの失敗、FBIの平等な扱いおよび無差別の権利の侵害、FBIを同時に調査(すなわち、「自らの意思」に関する調査およびMr. Schrems. また、FBIは、DPCが手続きを擁護した方法において、誠実義務に違反したと主張しています。
6. これに対してDPCは、PDDを発行する決定は司法審査を受けることができないと主張しています(ただし、DPCが決定した手続きは司法審査を受けることができると認めています)。DPCは当初、この手続きがFBIによる手続きの乱用にあたると主張し、答弁書および提出書類の中でこの主張を展開しましたが、最終的にはヒアリングでこの点を撤回しました。DPCは、FBIが主張する理由に対し、PDDを発行する前にDPCによる調査が行われなかったと主張するFBIは根本的に間違っていると主張し、さらに、FBIはPDDに記載された予備的見解に対し、事実および法律に関する意見を提出し、必要と思われる追加情報を提供するよう求められたと主張しています。DPCは、Schrems IIにおけるCJEUの判決に至るまでの手続きの経緯を踏まえ、膨大な量の情報を保有していたという事実に依拠しています。DPCは、FBIが2018年の年次報告書やウェブサイトに「例示的な」プロセスを記載したことや、FBIが採用した慣行に起因して、何らかの特定の手続きが行われるという正当な期待を持っていたという主張に異議を唱えています。また、判断が早すぎるという申し立てにも異議を唱え、PDDに記載された見解は予備的なものであり、FBIが求める事実と法律に関する提出物を前提とすることが明示されていると主張しています。さらに、公正な手続きに違反したという主張にも異議を唱え、FBIはPDDに対する提出物を作成するために時間の延長を求めておらず、DPCは時間の延長を拒否していないと主張しています。DPCは、FBIが手続きに失敗した場合、FBIが提出物を提出するために認められた期間は、調査の再開から実行されること、またDPCは理由のある期間延長の要求があれば検討することを、訴訟の審理で確認しました。さらにDPCは、EDPBによるガイドラインや勧告(この勧告は2020年11月10日に協議に付された)がないにもかかわらず、DPCはこれまでのように進める権利と義務があると主張しています。DPCは、不平等な扱いや差別の申し立てに異議を唱えています。また、調査の存在と Schrems氏による継続的な申立があることを理由に、比例原則の違反があるとの主張にも異議を唱えています。さらに、訴訟の弁護において誠実義務の違反があったことにも異議を唱えています。
7. Schrems氏は、本訴訟の通知当事者として、Schrems IIにおけるCJEUの判決を受けて、自分の苦情がDPCによって判断されるという正当な期待を侵害しているという理由で、PDDの破棄を支持しています。また、DPCが同時に調査を行うことの不均衡さに関するFBIの訴えも支持しています。しかし、シュレムス氏は、PDDの発行および解体調査の開始にあたり、DPCが公表した手続きから逸脱したとの理由でFBIが求めている救済措置に反対しています。また、DPCが調査を進める前にEDPBガイダンスの発表を待つ義務があったというFBIの見解にも同意できません。Schrems氏は、GPDRおよびSchrems IIにおけるCJEUの判決に基づき、DPCには迅速に行動する義務があると強調しています。Schrems氏は、この主張に沿って、PDDに対してDPCに提出する時間が十分に与えられなかったというFBIの主張に異議を唱えています。
8. 当事者のそれぞれの主張を簡単にまとめてみるとわかるように、本訴訟では、国内行政法のいくつかの重要な問題が検討されるとともに、GDPRおよびSchrems IIにおけるCJEUの判決から生じるEU法の重要な問題も生じています。ただし、本訴訟で問題となっているのは、Schrems IIにおけるCJEUの判決を受けたDPCの調査に伴うFBI、DPCおよびSchrems氏の手続き上の権利・義務であり、DPCがPDDで表明した予備的見解の是非ではないことに留意する必要があります。
このような背景のもと、要旨としては、
9. 本判決で詳しく説明しますが、私は、PDDを発行するというDPCの決定、およびFBIとシュレム氏に通知された手続きを採用するという決定は、司法審査を受けることができると結論づけました。しかし、このように結論づけた上で、PDDおよびDPCが採用した手続きを非難するためにFBIが主張した7つの異議申し立て理由のそれぞれについて検討を進めました。私は、FBIはこれらの異議申し立ての理由で失敗しなければならず、したがって、本訴訟で請求されたいかなる救済も受ける権利はないと結論づけました。
ということになります。
上のイントロの5項でみたようにそれぞれの理由については、かなり法的で技術的な問題のように思えます。その意味で、シュレムズ1や同2などと同列の意味をもつものとは考えられないかと思います。詳細に検討するのは、機会があったときにしたいと思います。