無事、DAOの設立に至って、いろいろな疑問がわいてきたところです。その点については、こちらでどうぞ。何事も経験が第一ですね。
初体験/リッジモント・ハイ(フィービー・ケイツは、助演?)であります。
作ってみないとみえないこともたくさんあります。
1 現在までの議論の振り返り
なので、とりあえずは、法律専門家として、今までにどんな法律の議論があるのかというのを見てみたいなあと思っています。
1.1 ホームページでの解説(日本語)
くらいしかないようです。
もっとも、自立分散難組織(DAO)-その概要、近似の世界動向と法的課題-は、よくできているように思えます。
特に注目すべきなのは、The DAO Model Law(COALA)やホワイトペーパー “A Legal Framework for Decentralized Autonomous Organizations” の概要が紹介されていること、また、論点として
(1) DAOの法的位置付け
ア. 法人格が認められない場合の問題点
- 契約当事者・訴訟当事者になることができない
- 許認可の取得主体になることができない
- 法令遵守の主体になることができない
- 課税対象が不明確となる(法人課税か、構成員課税か)
イ. 法人格を認める立法を行う場合の問題点
- いかなる要件を満たすDAOに対し法人格を認めるのか
(2) 構成員の法的な権利義務の内容
- 構成員は、DAOが第三者に対して負う債務に無限責任を負うのか
- 構成員が(DAOの運営者として)第三者に対して負う義務の具体的な内容は何か
ハードフォークによってDAOによるアプローチが複数に分岐した場合における各構成員の負う責任の内容
(3) 責任追及時の問題(①構成員 v. DAO、②構成員 v. 構成員③構成員 v. 第三者、④DAO v. 第三者)
- 有責行為に及んだ構成員がいる場合、(構成員が匿名の下で運用されるDAOにおいて)同人をどのように特定するのか
- 準拠法をどのように選択・決定するのか
が整理されているのは、興味深いです。
あと、長島大野のニュースレターだとワイオミング州DAO法の概要 の解説もありますね。
1.2 英語文献を探してみる
ただ、どうも日本語文献についても十分ではないなあという気がするので、英語文献を探してみます。
DAO legal issues
で 検索したところ
論文とかの一覧のリストは、(DAO Legal Canon)です。これをみると、スイス、ジャージー島、ケイマンなどの法律をベースにした枠組が提案されています。また、DAO Legal Resource – DAOtalkもまとまっています。
- Legal Issues Confronting Formation And Operation Of A Decentralized Autonomous Organization (DAO)
- What a DAO Can — and Can’t —
- Decentralized Autonomous Organizations: Legal Issues in Structuring DAOs
- DeFi and the DAO: How the Law Needs to Change to Accommodate Decentralized Autonomous Organizations
などがあります。
2 実際の問題点の考え方
まず、「DAOの法律問題」といったときに、どのようなスタンスで考えるのか、という問題があるように考えます。どのようなスタンスというのは、実際にDAOを作る/作った人が、どのようにするのが、合理的なのかという考え方を意味します。要するに、
日本法だと、こうなるから、このようにしないといけない、
というような考え方をとらないということです。DAOの魅力は、そのコンセプトで、要するに、その組織の
トークンホールダーは、自らの思いのままに、その活動の本拠となる法域を選択しうる
ということだろうと思っています。そこでは、「永遠の旅行者(Perpetual Traveler)」に近いところだろうと思います。まず、このように考えると、最初に、組織と法の関わりを見てみたいと思います。
3 組織と法の関わり
3.1 日本法と外国法人
日本法だから、という考え方をしないとかいってもたものの、とっかかりは、日本法から、会社法2条2号は、
二 外国会社 外国の法令に準拠して設立された法人その他の外国の団体であって、会社と同種のもの又は会社に類似するものをいう。
とされています。活動の本拠(本店所在地とか)とかではなくて、準拠法が決めてになるというのは、いままで勉強していませんでした。
3.2 ワイオミンク州法を準拠とするのはどうか
そうすると、ワイオミング州法を準拠法にして設立しようかな、と考えるところです。ワイオミング州法の原文は、こちらです。解説については、上の長島大野法律事務所の紹介を見ましょう。
だそうです。
面倒なので、DeepL出動
原文 Senate engrossed ファイルNo. SF0038
ワイオミング州上院議会在籍法第73号
ワイオミング州第66議会 2021年一般会期
法人に関する法律。分散型自律組織の形成と管理について規定し、定義を定め、発効日を定める。ワイオミング州立法府により制定される。
第1節 W.S. 17-31-101から17-31-116を次のように定める。
第31章 分散型自律組織の補足
第 1 条 規定
17-31-101. 短い名称。
本章は、”Wyoming Decentralized Autonomous Organization Supplement”(ワイオミング州分散型自律組織補足)と称し、引用されることがある。
17-31-102.定義
(a) 本章で使用される場合。
(i) 「ブロックチェーン」とは、W.S. 34-29-106(g)(i) に定義されるとおりである。
(ii) 「分散型自律組織」とは、本章に基づき組織された有限責任会社をいう。
(iii) 「デジタル資産」とは、W.S. 34-29-101(a)(i)に定義されるとおりである。
(iv) 「有限責任自律組織」または「LAO」とは、分散型自律組織をいう。
(v) 「会員の過半数」とは、会員の定足数が参加する投票において、参加会員の持分の50%以上が承認されることをいう。W.S. 17-29-602に規定されるように会員から解離した者は、会員の過半数を計算する目的では含まれない。
(vi) 「会員権」とは、会員が管理する分散型自律組織における会員の所有権を意味し、当該組織の定款、スマートコントラクトまたは運営契約において定義されることがある。会員権は、組織の定款または運営契約においてデジタル証券またはW.S.34-29-101に定義されるデジタル消費者資産として指定されている場合、そのようなものとして特徴づけることもできる。
(vii) 「オープンブロックチェーン」とは、W.S. 34-29-106(g)(i) に定義されるブロックチェーンで、一般にアクセス可能で、その取引台帳が透明であるものをいう。
(viii) 「定足数」とは、投票が有効となるために、投票に参加する会員の持分の合計に関する最小限の要件を意味する。
(ix) 「スマートコントラクト」とは、W.S. 40-21-102(a)(ii) に定義される自動取引、または実質的に類似するもので、契約の条件を実行するコード、スクリプト、プログラミング言語からなり、特定の条件の発生または不発生に基づき、資産の保管と譲渡、分散型自律組織に関する会員権投票の管理、これらの行為のための実行可能命令の発動を含む場合があるものを意味します。
17-31-103. ワイオミング州有限責任会社法の適用
(a) ワイオミング州有限責任会社法は、本章の規定と矛盾しない範囲で分散型自律組織に適用され、W.S. 17-29-1102により州務長官に与えられた権限は本章に適用されるものとする。
(b) 本章は、ワイオミング州有限責任会社法に基づいて組織された有限責任会社で、分散型自律組織になることを選択しないものに適用される法律や規則を廃止したり修正したりすることはない。
17-31-104. 分散型自律組織の定義と地位の選択
(a) 分散型自律組織とは、定款に本項(c)記載の分散型自律組織である旨の記載がある有限責任会社である。
(b) ワイオミング州法17-29-101から17-29-1102の下で設立された有限責任会社は、定款を改正して本節(a)と(c)および州法17-31-106で要求される声明を含むことにより、分散型自律組織に転換することができる。
(c) 分散型自律組織では、定款または運営契約(該当する場合)に、実質的に次の形式の文を目立つように記載しなければならない。
義務および譲渡の制限に関する通知
分散型自律組織の構成員の権利は、他の有限責任会社の構成員の権利と大きく異なる場合がある。分散型自律組織のワイオミング州分散型自律組織補足文書、基礎となるスマートコントラクト、組織定款、運営契約(該当する場合)は、受託者の義務を定義、削減または排除し、所有権の譲渡、分散型自律組織からの撤退または辞任、資本寄付の返還、分散型自律組織の解散を制限できる可能性がある。
(d) 分散型自律組織の登録名称は、分散型自律組織であることを示す文言や略称、特に “DAO”、”LAO”、”DAO LLC “を含まなければならない。
(e) 定款の記述は、分散型自律組織をメンバー管理型分散型自律組織またはアルゴリズム管理型分散型自律組織として定義することができる。分散型自律組織の種類に別段の定めがない場合、有限会社は会員管理型分散型自律組織であると推定される。
17-31-105. 設立
(a) 何人も、1人以上の会員を持つ分散型自律組織を、署名の上、定款の原本1部と正本1部を州務長官へ提出することにより設立することができる。分散型自律組織を形成する者は、組織の会員である必要はない。
(b) 各分散型自律組織は、W.S.17-28-101から17-28-111に規定される登録代理人をこの州に置き、継続して維持しなければならない。
(c) 分散型自律組織は、営利を目的とするか否かにかかわらず、あらゆる合法的な目的のために設立され、運営されることができる。
(d) アルゴリズムで管理された分散型自律組織は、基礎となるスマートコントラクトが更新、修正またはその他のアップグレードが可能である場合にのみ、本章に基づき形成することができる。
17-31-106. 組織定款
(a) 分散型自律組織の定款には、W.S.17-31-104に従って、当該組織が分散型自律組織である旨の記述を含み、W.S.17-29-201で要求される事項を記載しなければならない。
(b) 本節(a)の要件に加えて、定款には、分散型自律組織の管理、促進または運営に直接使用されるスマートコントラクトの公開された識別子を含めるものとする。
(c) 本章に別段の定めがある場合を除き、分散型自律組織の定款及びスマートコントラクトは、以下のすべてを支配するものとする。
(1) 構成員間の関係、構成員と分散型自律組織の関係。
(2) 構成員としての者の本章に基づく権利及び義務
(3) 分権的自律組織の活動及びその活動の遂行
(4) 運営協定の改正の手段及び条件
(5) 会員の権利及び議決権
(6) 会員の持分の譲渡性
(7) 会員資格の取消し
(8) 解散に先立つ会員への分配
(9) 定款の変更
(10) 適用されるスマートコントラクトの修正、更新、編集又は変更のための手続。
(11) 分散型自律組織のその他のすべての側面。
17-31-107. 組織定款の修正または再記述
(a) 組織定款は、以下の場合に修正されるものとする。
(i) 分散型自律組織の名称に変更があった場合。
(ii) 定款に虚偽の記載または誤記があったとき。
(iii) 分散型自律組織のスマートコントラクトが更新又は変更されたとき。
17-31-108. 運営契約。
定款またはスマートコントラクトがW.S.17-31-106に記載された事項について別段の定めをしない限り、分散型自律組織の運営は運営契約によって補完されることができる。
17-31-109. 経営
分散型自律組織の管理は、組織定款または運営契約に別段の定めがない限り、メンバーが管理する場合はメンバーに、アルゴリズムが管理する場合はスマートコントラクトに委譲されるものとする。
17-31-110.会員の行動基準
組織定款または運営契約に別段の定めがない限り、分散型自律組織のいかなるメンバーも、組織またはメンバーに対して受託者責任を負わない。
17-31-111. 会員が管理する分散型自律組織の会員権、投票。
(a) W.S.17-31-113および17-31-114の目的のため、また定款、スマート契約または運営契約に別段の定めがない限り、以下のとおりとする。
(i) 会員が管理する分散型自律組織の会員権は、会員のデジタル資産の組織への拠出を、投票時に組織に拠出されたデジタル資産の合計額で割って算出されるものとする。
(ii) 会員が会員になるための条件としてデジタル資産を組織に提供しない場合、各会員は1つの会員権を所有し、1つの投票権を有するものとする。
(iii) 定足数は、投票権を有する会員権の過半数を下回らないものとする。
17-31-112. 会員、管理人、および解散した会員の情報に対する権利。
会員は、W.S.17-29-410に基づき、分散型自律組織の記録を個別に閲覧または複写する権利を有さず、組織は、組織の活動、財務状況またはその他の状況に関する情報がオープンブロックチェーン上で利用可能である限り、いかなる情報を提供する義務も負わない。
17-31-113. 会員の脱退
(a) 会員は、定款、スマートコントラクト、または該当する場合には運営契約に定められた条件に従ってのみ、分散型自律組織から脱退することができる。
(b) 分散型自律組織のメンバーは、メンバーの出資金を返還しないことを理由に組織を解散させることはできない。
(c) 組織の定款、スマートコントラクトまたは運営契約に別段の定めがない限り、脱退したメンバーは、ガバナンス権または経済的権利を含め、分散型自律組織のすべての会員権を喪失する。
17-31-114. 解散
(a) 本章に基づき組織された分散型自律組織は、以下のいずれかの事由が発生したときに解散するものとする。
(i)組織の存続期間として定められた期間が満了すること。
(ii) 会員が管理する分散型自律組織の会員の過半数の投票によるものであること。
(iii) 基礎となるスマートコントラクトにおいて指定された時点又は組織定款若しくは運営契約において指定された事象が発生した時点。
(iv) 分散型自律組織が、1年間、いかなる提案も承認せず、いかなる行動もとらなかった場合。
(v) 分散型自律組織がもはや合法的な目的を果たせないと判断された場合、国務長官の命令による場合。
(b) 本項第(a)節に規定された、分散型自律組織の解散の原因となる事象が発生した後、 できるだけ早く、組織は、州務長官が定める書式で解散の意思表示を行うものとする。
17-31-115. その他の事項
分散型自律組織の組織定款および運営契約は、権限の表明として有効である。組織規定と運営契約が矛盾する場合、組織規定が矛盾する規定を優先させるものとする。 基礎となる定款とスマート契約が矛盾する場合、W.S. 17-31-104および17-31-106(a)および(b)に関連する場合を除き、スマート契約は定款のいかなる矛盾する規定にも優先するものとします。
17-31-116. 外国の分散型自律組織
州務長官は、外国の分散型自律組織に対して権限証明書を発行しないものとする。
第2節 この法律は、2021年7月1日に発効する。
(終了)
下院議長
上院議長
知事
承認された時間 _________
承認された日付 _________
私はここに、この法律が上院で起草されたことを証明する。
でもって、見てみると
DAO法上のDAOとしての認定を受けることができるのは、外国の組織に対して証明書は、発行されません(Wyo. Stat. §17‑31‑116)
だそうです。外国の有限責任会社というのは、
「外国有限責任会社」とは、本州以外の地域の法律の下に設立され、その法律により有限責任会社とされた法人格のない団体、または本章の下に設立された有限責任会社と十分に類似した特性を有すると州務長官が見なす団体のことをいう。
と定義されています。すると、ワイオンミング州法に準拠して設立するけど、本店は、ないんだけど、ということも起こり得るでしょう。その場合は、上の
17-31-105. 設立
(b) 各分散型自律組織は、W.S.17-28-101から17-28-111に規定される登録代理人をこの州に置き、継続して維持しなければならない。
を守れば、設立できそうな気がします。登録代理人については、こちらで説明がなされています。 デラウエア州法ネタは、有名な話ですが、これから、ワイオミングネタになるかもしれません。登録代理人の費用が安いといいですね。
この点については、もっとも詳細な検討が必要に思えます。
3.3 エストニア eレジデンシーとDAO
オンラインでの会社活動というと、やっぱり、エストニアのeレジデンシーを念頭にうかべるわけです。
でもって、気になるのは、費用関係ですね。このページだと費用関係の概要がでてきます。個人がeレジデントになって、会社を設立するという経過になります。
会社のタイプについての記載は、こちら。 この点では、DAOの記載はないです。
外国の会社がエストニアでの登録という感覚だと、こちらのページです。
個人がeレジデントになって、エストニアで会社を設立して、それを日本に居住しながら、経営するというのは、不可能ではないことがわかりました。DAOがそのまま、エストニア法で登録できるのか、という問題があり、議論がなされてはないなようです。が、その点はさておけば、エストニアの会社がDAOに出資する形にするのは、ひとつのアイディアかと思います。そのエストニアの会社が入札とかに応募出来るか、というのは、ひとつの論点になります。
3.4 その他の国
ジャージー諸島の法とかでトラストを利用するとかの論文もあります。このあたりは、お許しください、というところだろうと思います。
4 組織と税との関係
税法については、門外漢なので、基本的な考え方になります。この点は、専門家の御意見を聞いてください
4.1 日本での会社構成と税金
日本の税制に関しては、この記事(「分散型組織の発展を阻害する日本の税制と法制」)がまとまっているように思えます。
有限責任事業組合(LLP)になるとすると、社団の構成員に持ち分に応じて課税前収益が分配され、構成員個々がそのあとで各々個人の税を払うというパススルー課税という枠組になる、ということになります。
法人税(「法人税」「法人事業税」「法人住民税」)の税率(全部あわせて30%強-合計額の法人の所得金額に対する割合(実質的な税負担率)を実効税率といいます、詳しくは、こちら)としては、各個人よりも、低いので、DAO がそのまま、登記ができて、法人税のメリットも享受、構成員は有限責任、という形がいいなあ、というところでしょうか。
4.2 海外会社と税制
アメリカだと、
米国におけるジェネラルパートナーシップとして見なされるとの指摘が浮上(略)し、GPとして見なされると、その組織には納税義務が発生します。
ワイオミング州法で、DAOを経営していたらどうなるのでしょうか。早見のページはこちらです。 売上税の割合は、5.22%だそうです。 法人所得税(Business Income Tax)は、存在しないそうです。全米で、税金ランキングNO1は、ワイオミングだそうです。
エストニアだと基本的な原則のページはこちらです。
エストニア法に従って、会社を設立すると、エストニアの課税対象となります。もっとも、国によっては、効果的な管理・会社の場所において課税対象となるというルールもあり、その場合は、二重課税回避のルールがあることが紹介されています。
4.3 日本における外国法人への課税と二重課税問題
では、思考実験としてワイオミング州法で、DAOを設立・運営していたらどうなるのでしょうか。純粋に売上税のみだとすると、売り上げがなければ、税金がかからないというので、悪くはないかもしれません。
でもって、この場合、日本で、営業活動をしていれば、外国法人の課税問題になります。この点についてのまとまったネット上の情報だとこちらでしょうか。
要するに、恒久的施設があれば、その部分については、
本店との間の内部取引についてあたかもPEを分離独立した企業であるかのように認識し、所得を算定する
となり、それ以外については、
国内にある資産の運用又は保有により生じる所得:なお、支払者において支払い時に源泉所得税の徴収義務が課される債券利子、配当、貸付金利子等については、源泉所得税のみで課税関係が完結することとされ、外国法人の法人税申告の対象となる国内源泉所得からは除外されております。
国内にある資産の譲渡により生じる所得:国内にある資産の譲渡の中で法人税申告の対象となるものは以下のものとなります。(略)
人的役務の提供事業の対価
国内不動産の賃借料等
その他の国内源泉所得:(略)
が、法人税の課税対象だそうです。
そこだと、調査報告書書いて報酬をもらうと「人的役務の提供事業の対価」になりそうです。上でワイオミングに売上税で税金を収めていると、二重に負担することになりそうです。このような場合については、二重課税排除という制度があるということだそうです。ここから先は、さすがに、専門の方にご相談ください、ということになるのかと思います。
5 外国会社を設立した場合
仮に、外国法に準拠する法人を設立したとしましょう。その場合に、我が国での活動については、どうなるのだろうかという問題があります。
5.1 国内での登記の可否
ここで、外国会社の登記の問題を考えてみます。この場合の情報は、「外国会社の登記を忘れていませんか?」で明らかにされています。
外国会社が日本において継続して取引をしようとするときは,日本における代表者(日本における代表者のうち一人以上は,日本に住所を有する者でなければなりません。)を定め(会社法第817条第1項),当該外国会社について登記をすることが必要です。外国会社は,外国会社の登記をするまでは,日本において取引を継続してすることができません(会社法第818条第1項)。
日本で継続して取引をしようとする外国会社は,日本における代表者を定めた日から3週間以内に,外国会社の登記の申請をしなければなりません(会社法第933条第1項)
となります。
この場合の申請は、書面またはオンラインでもでき、申請書と添付書類を提出します。この場合 、添付書類には
(1)本店の存在を認めるに足りる書面
(2)日本における代表者の資格を証する書面
(3)外国会社の定款その他外国会社の性質を識別するに足りる書面
(4)公告方法についての定めがあるときは,これを証する書面
を添付しなければなりません(商業登記法第129条第1項,第2項)。
なお、もっとも、疑似外国会社という規定があります(会社法821条)。
日本に本店を置き、又は日本において事業を行うことを主たる目的とする外国会社は、日本において取引を継続してすることができない。
2 前項の規定に違反して取引をした者は、相手方に対し、外国会社と連帯して、当該取引によって生じた債務を弁済する責任を負う。
これに該当しないように海外での活動も増やさないといけないということになります。
5.2 入札に参加しうるのか
では、外国会社として入札に参加しうるのか、ということになります。これについては、「外国事業者の全省庁統一資格の申請について」でまとまっています。
この場合、上で支店として登記をしていれば、
- 日本支店の登記事項証明書
- 日本支店の納税証明書(その3の3)
- 日本支店の財務諸表(1年分)
で、統一資格を申請できることになります。この場合は、思ったほど、障害はないということがいえるかと思います。
6 権利能力・当事者能力・DAOと構成員の責任
6.1 権利能力との関係
DAOについていえば、「権利能力を有しない」という点が指摘されるわけです。もっとも、この点は、いままでみたように、どの法律に準拠して考えるか、ということも関連してきます。日本法のレベルで考えたとしても、では、そもそも、「権利能力なき社団」になっていれば、以下の当事者能力がある関係で、権利能力がないといえるのだろうかということになるだろうと思います。
6.2 当事者能力
最判昭和39年10月15日民集18巻 8 号1671頁は、
民訴46条がこれについて規定するほか実定法上何ら明文がないけれども、権利能力のない社団といいうるためには、①団体としての組織をそなえ、②そこには多数決の原則が行なわれ、③構成員の変更にもかかわらず団体そのものが存続し、しかして④その組織によつて代表の方法、総会の運営、財産の管理その他団体としての主要な点が確定しているものでなければならない
と判断しています。(なお、民訴法の条文は、当時)
このような場合、
(法人でない社団等の当事者能力)
第29条 法人でない社団又は財団で代表者又は管理人の定めがあるものは、その名において訴え、又は訴えられることができる。
となります。
DAOは、上記のいう「権利能力なき社団」の要件を満たすのかという問題になります。少なくても、DAOとして活動をしていれば、上の要件を満たす場合も多いように思えます。この場合、当事者能力を有します。もっとも、この当事者能力の意味については、学説上、議論があります。
6.3 DAOの財産と構成員個人の債権者
これは、構成員個人の債権者が、DAO固有の財産に対して執行等をなしうるのか、という問題です。これについては、組合の場合については、
(組合財産に対する組合員の債権者の権利の行使の禁止)
第677条 組合員の債権者は、組合財産についてその権利を行使することができない。
と明らかにされているので、DAOについては、さらに財産の独立性が確保されているように思えます。なので、もちろんとして構成員個人の債権者は、DAOの財産に対して権利を行使することはできないと考えます。もっとも、出資の権利を金銭に返還するということはまた別の問題です。
6.4 DAOの債務について
DAOが自らの名のもとに活動した場合その活動によって生じた債務について、各構成委員は、無限責任を負うのかという問題があります。
最高裁昭和 48 年 10 月 9 日判決民集 27 巻 9 号 1129 頁では、
権利能力なき社団の代表者が社団名義でした取引上の債務は、 その社団の構成員全員に総有的に帰属し、 社団の (略) 総有財産だけがその責任財産となり、 構成員各自は、個人的債務ないし責任を負わない
という判断がしめされています。
7 その他の問題
その他にも、DAOをめぐる問題は、会社で生じる問題がそのまま、発生しうるということができるだろうと思います。
7.1 集団投資スキームとの関係
DAOのトークンは、 集団投資スキーム(ファンド)持分に該当するのではないか、という問題があるように思います。
集団投資スキーム(ファンド)持分もちぶんとは、
他者から金銭などの出資・拠出を集め、当該金銭を用いて何らかの事業・投資を行い、その事業から生じる収益等を出資者に分配するような仕組みに関する権利のことで、法的形式や事業の内容を問わず、包括的に金商法の規制対象である「有価証券」とみなすこととされています。
この点についての説明については、金融庁「いわゆるファンド形態での販売・勧誘等業務について」があります。
7.2 その他
あとは、会社法に関する問題(トークンの譲渡やその制限、ガバナンスまわり、不正行為に対する対応などなど)、金融商品取引の側面の問題、経済安全保障からなる問題(投資制限、マネロン防止など)がたくさん考えられます。今日の段階では、具体的には、省略します。
8 DAOのボトムライン
8.1 初体験/リッジモント・ハイの含意
ひとことで纏めると、2022年においてDAO可能性を語ることは、まだ、未経験なのに、夢を自分で大きくして、その大きな夢を語っているように思えます。
初体験/リッジモント・ハイ をもってきたのは、そのような意味です。
しかしながら、DAOというのは、組織が、スマートコントラクトで構築できるのではないか、という思考実験としては、本当に面白い挑戦であるということはいえるだろうと思います。
8.2 DAOの前提条件
しかしながら、現段階において、そのDAOが価値を有するのは、いくつかの前提条件を満たすことが必要であるということでしょう。その条件とは
- 活動が、純粋に情報領域で完結すること
- 報酬が、仮想通貨で支払われること
- DAOのダークサイドへの対応が準備されること
ということに思われます。
では、これらの条件を満たすもっとも近い業態は何なのだろうか、ということになります。これについては、皆さんの御意見を聞いてみたいと考えています。