通信の秘密の数奇な運命(国際的な側面)と「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」報告書

1 「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」の報告書

「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」の報告書が出ています。

ちなみに、有識者会議のメンバーは、こちらです。 なお、法の専門家は、いないように思えます。

このなかで、サイバーと法に関する部分は13頁

サイバー攻撃については、被害を受けてから対処するのではなく、それを未然に防ぐための能動的なサイバー防御(アクティブ・サイバー・ディフェンス)が必要である。そうした観点から、国家として人材や新規産業の育成も含めてサイバー安全保障能力を高めるべきである。具体的には、わが国全体のサイバー安全保障分野での対応を一元的に指揮する司令塔機能を大幅に強化するなどし、能動的なサイバー防御を実施できるような新たな制度をもうけるべきである。ただし、制度の検討にあたっては、その対象が安全保障にかかわるものにかぎることを明確にし、通信の秘密等国民の権利侵害に対する懸念を払拭することが必要となる。

とされています。また、16頁でも同様の事項が繰り返されています。

サイバー防御(アクティブ・サイバー・ディフェンス)については、きちんと、どのような場合に、どのような組織が、どのような行為をするのか、というのを定義した上で議論しないとなんらの意味も持たないということは私のブログで書いています。

制度の検討にあたっては、その対象が安全保障にかかわるものにかぎることを明確にし、通信の秘密等国民の権利侵害に対する懸念を払拭することが必要となる。

となっています。

結局、この有識者委員会報告書は、到底、検討に値するレベルの具体性を有していない、ということがいえるだろうと思います。Geopoliticsの人が、通信法制の機微を論じることができると考えているのは、法律家としては、ちょっと苦手な人にあったような気分ですね。

2 国際通信に対する通信の秘密等国民の権利侵害に対する懸念とは何か

2.1 通信の秘密の数奇な身命(国際的な側面)の問題提起と議論の発展?

この点については、海外からのわが国のドメイン・レザベに対する強制的な効果を有する通信(要は、主権侵害な通信)に対して、わが国の「国内法」は、どのような態度をとるのか、という問題があると思っています。

この点については、

というエントリでもふれていますがに直接的には、「通信の秘密の数奇な運命(国際的な側面)」(情報ネットワーク・ローレビュー = Information network law review / 情報ネットワーク法学会 編 15 17-30, 2017-10)で論じたところです。詳細には、この論文に直接あたっていただきたいところですが、要旨としては、

①国際通信に関する従来の枠組みは、国際通信と内国通信とが別次元で両立しうるのともに、各国の主権による安全や公共の福祉・秩序との調整を当局がなしうるというのを前提に構築されている。これに対し

②インターネット通信においては国際通信と内国通信とが同一の次元でなされている特徴がある。国際的な通信によることが電気通信事業法4条に通信に関する秘密の保護の解釈に影響をあたえるものとして再構築される必要がある。

③国外からの通信に関する問題では、特に著作権侵害の問題などについて、これらの観点を考慮にいれて、再構築がはかられる必要がある。

④国内から国外に対する通信については、サイバーインテリジェンスの許容性の問題、デューディリジェンスの問題があることを意識し、ということとともに、国外に対するD-Dos攻撃に対するISPの抑止行為の積極的な承認・支援が必要になっている。

です。図ですと、このような感じです

そして、国際的な通信について考えれば、国際法的には、国家の主権の通信文やにおける行使が考えられるので、それとハーモナイズされた形での国内法の解釈が準備されるべきであるといいました。上の論文では、

電気通信においてインターネット通信がきわめて重要な役割をしめるようになった現代社会において、国際的なインターネット通信を、電気通信事業法4条の規定との関係で、どのように位置づけておきべきかということが問題となる。我が国内法において、もともと認められていなかった秘密が、国内で伝達されているからといって、厚い保護を受けるようになるというのは、不自然でないか、ということがいえる。国内法として、国際的な通信については、その秘密を最大限、わが国としては尊重するが、ITU憲章に定められるように、「国の安全を害すると認められるもの又はその法令、公の秩序若しくは善良の風俗に反すると認められるもの」については、各国が何らかの対応ができるのではないか、国際法と国内法の次元が異なるとしても、安定的な国際電気通信実務としては、国内法もこのような国際法の枠組みと調和することが意識されてしかるべきである。

としたところです。

このイメージを明らかにしたのは、このような図です。

海外からの違法通信が生じているという嫌疑があるのであれば、国家は、その通信秩序を維持するためにこれを調査する権限を有することは当然であるということができると考えています。(企業秩序に関する富士重工業事件最高裁判決(最三小判昭52年12月13日)的な表現)。

国際通信については、このような調査権限を正当化するための閾値がより低くなると考えていいのではないか、というように考えています。(ちなみに、上の図は、海賊版に対するブロッキングにおいて、国際通信であることが司法的ブロッキングを認める実態法的な要素になるのではないか、というイメージで記載したものです。)

しかしながら、国内法たる憲法の分野では、国際通信に対して、どのような保護が与えられるのかという議論がなされるのかと思いきや、ほとんど、この点についての論点は、議論されていません。

小西葉子「テロリズムに対抗するための国家的監視活動の統制―諜報機関の統制機構としての基本法 10 条審査会を中心に―」や同「暗号化通信の傍受に関する憲法上の課題 : ドイツ刑事訴訟法上の端末通信傍受を題材として」あたりが、このような問題意識に対応する論考かと思われますが、これらにおいても、国際通信についての保護のレベルという論点はでていません。

ブロッキングの議論の際に宍戸先生から

2点目は、林先生から提出いただきました高橋郁夫先生の御論文というのは大変有名な論文でございまして、通信の秘密について立ち入った議論をしている方というと高橋先生という感じで、私もよく勉強させていただいているのですが、ここで議論の前提になっているのは、やはり通信主権をどう確保するか。その観点から、国内通信と国際通信を分けるか、分けないか、非常に大きな論点がここに潜んでいた上での高橋先生の御見解であり、利益衡量だと思っております。
そして、このようにインターネットにおいて国際通信と国内通信を分けるかどうかというのは、まさしく憲法政策上の問題として、あるいは今後の日本社会、Society 5.0等々、現政権も進めているようなインターネットの秩序に日本国がどうかかわっていくか、これ自体非常に大きな論点でございますので、そういう議論をこの場なのか、今後新しくできる場なのか、あるいはしかるべき場所なのかわかりませんが、しっかりしていかないとなかなか簡単にも言えない。こういう点に注意を促したいと思うところでございます。

という評価をいただいているのですが、結局、そのあと、ほぼ5年間、きちんと議論されていないなあ、という感じにおもっていたりします。

2.2 安全保障の概念

そういえば、

その対象が安全保障にかかわるものにかぎることを明確にし、

とありますが、

国の防衛その他我が国の存立に関わる外部からの脅威から我が国及び国民の安全を保障することをいう

という定義がされていることは備忘としてあげておきます(重要土地利用規制法)。

2.3 通信の秘密等国民の権利侵害に対する懸念

ところで、上のように海外の国家が、国家支援のサイバー攻撃でもって、わが国のドメイン・レザベに対して影響を与えようとしているときに、「国民の権利侵害」に対する懸念があるとかいう人はいないと考えがちですが、「通信の秘密」について一定の考え方を取る人たちは、それでも、国民の権利侵害にたいする懸念があるということがあります。それは、どのようなことかというと

これは、この図で、わが国の中のおじさんが海外の人と連絡をとっているのですが、この通信について、監視をなしうるのであれば、「国民の権利侵害」に対する懸念があるという主張になるわけです。

これも、ブロッキングのときには、もっとラフな形で、裁判所がプロバイダーに特定のサイトへの通信のブロッキングを命令した場合に命令されていない人間の通信についてもブロッキングされた通信かどうかを確認するために通信の宛て先を検査するので、違法だ・(もしくは、違憲だ-立法論の場所でそういったりしていたようです)という主張がありました。これは、インターネット一般において、プロバイダの活動が違法だという主張するのであれば、別ですが、正当な業務行為(裁判所の司法的な命令のもと)でプロバイダの行為を認めるのですがから、あたかも、構成要件に該当するのをもって非難しているのにすぎず、床屋談義であるという反論ができると考えています。

しかしながら、通信秩序を維持するためにこれを調査する権限を有することは当然という考え方から、考えるとすれば、どのような行為が、通信秩序にたいしての危険を及ぼしうる行為と認識されるのかという問題になると思われます。

これについては、必要性と行為の具体的な状況からかんがえるべきように思われ、監視行為の契機・監視者・手法を特定しないで大雑把に議論することができる問題ではないと考えます。

 

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