小宮山功一朗博士(JPCERT/CC)より、「偽情報戦争 あなたの頭の中で起こる戦い」をお送りいただきました。ありがとうございます。
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小泉 悠 ,桒原 響子 ,小宮山 功一朗のそれぞれの分担と鼎談からなります。実際の章立ては、以下のようになります。
第1章 外交と偽情報――ディスインフォメーションという脅威(桒原)
第2章 中国の情報戦――その強硬姿勢と世界の反応(桒原)
第3章 ロシアの情報作戦――陰謀論的世界観を支える理論(小泉)
第4章 ポスト「2016」の世界――ロシア・ウクライナ戦争までの情報戦の成功と失敗(桒原/小泉)
第5章 情報操作とそのインフラ――戦時の情報通信ネットワークをめぐる戦い(小宮山)
第6章 民主主義の危機をもたらすサイバー空間――「救世主」から「危機の要因」へ(小宮山)
終章 日本の情報安全保障はどうあるべきか(桒原/小泉/小宮山)
ディスインフォメーションの一般論については、この問題について興味を持っているものにとっては、確認的な感じになるのかもしれませんが(1章)、中国の戦狼外交の経緯・作戦の状況(2章)、ロシアのウクライナに対する認識の詳細などは、非常に勉強になります(3章)。終章は、情報安全保障についての提言となっていいます。
ということで、小宮山さんの担当する5章と6章です。
5章
5章は、以下の項目からなります。
- サイバー空間のインフラ
- 戦争と情報通信ネットワーク
- 第二次ウクライナ戦争と情報通信ネットワーク
第二次ウクライナ戦争と情報通信ネットワークでは、ロシアのウクライナ侵略に関して、KA-SATをめぐる攻撃があったこと、その他の具体的な作戦の紹介がなされたうえで、ロシアの締め出しが支持されたわけではないこと、ロシアでフェースブックやツイッターが締め出されたこと、が紹介され、テレグラムの個々の話へとつながっていきます。個人的には、テレグラムの話は知らなかったので勉強になりました。
6章
6章は、以下の項目からなります。
- 民主主義の危機
- 民主主義の守り方
民主主義の危機は、
- ディスインフォメーションを可能にしたサイバー空間
- かって期待されたサイバー空間によるバラ色の民主主義
- 見逃されたディスインフォメーションの危険性
- 離散のツールとしての民主主義
- 力を増大させる企業
の観点から論じられています。この部分は、民主主義という言葉の多様性というのは、昔からいわれてきたことであり、2022年にどう読めばいいのかは、難しいところだと思います。
民主主義の守り方は、
- 民主主義にかわる統治システムの模索
- 民主主義のジレンマ
- 自由な情報の流通の堅持を
- 民主主義の土台・選挙の防護
- 力関係を変えるデータの分散
- 「テクノロジーによる民主主義」への期待
からの分析がなされています。個人的には、民主主義という用語をキーワードにして分析するのは、困難だろうと考えており、執筆は、チャレンジだったと思います。
感想
ディスインフォメーションについて、特にロシアのウクライナ侵略以降の状況という観点から論じた本は、きわめてユニークなので、貴重かつ重要な本ということがいえると思います。
もっとも、法律家的なスタンスからいうと、武力紛争時のディスインフォメーション作戦を議論しているのか、平時の作戦を議論しているのか、とでかなり議論すべき要素が違うはずなのになあ、と思って、どうもしっくりこない感じがするのも事実です。ただ、むしろ、そのような分析と規範の定立は、自分のミッションになるのだろうと考えていたりします。(今年の春以降、うまく時間がとれるといいなあと思います)
#自分のセキュリティ・ウォーズサーガでは、セキュリティウォーズ・エピソード7がディスインフォメーションです。4月以降に講演会をいれていただければ、コスプレと一緒に自分も原稿を準備したいと思います。 (本当は研究費があるといいのですが)
ということで、いろいろと考えることのある書籍であり、今後も機会あるごとに参照させていただきたいと思います。