警察法の一部を改正する法律案を分析する-重大サイバー事案とサイバー特別捜査隊

「警察法の一部を改正する法律案」が、閣議決定されて、国会に提出されることになりました。

記事としては、「警察庁に「特別捜査隊」 重大サイバー事案に対処―法改正案を閣議決定」(共同通信 2022年1月28日)、まるちゃんの記事は、「警察法改正案 情報通信局からサイバー警察局へ他」です。

法案に関する参考資料は、

要綱(63KB)
案文・理由(118KB)
新旧対照表(164KB)
参照条文(180KB)
参考資料(112KB)

です。

これは、サイバー犯罪対応能力の向上をはかるものです。理由については、

最近におけるサイバーセキュリティに対する脅威の深刻化に鑑み、国家公安委員会及び警察庁の所掌事務に重大サイバー事案に対処するための警察の活動に関する事務等を追加するとともに、警察庁が当該活動を行う場合における広域組織犯罪等に対処するための措置に関する規定を整備するほか、警察庁の組織について、サイバー警察局を設置する等の改正を行う。これが、この法律案を提出する理由である

となります(案文・理由)。

その内容 は、(1)警察庁の組織改正と(2)重大サイバー事案に対する対処能力の強化になります。

もともとは、警察法の仕組みが、1954年(昭和29年)7月1日の警察法の施行に伴い、警察庁(1官房4部(警務部、刑事部、警備部、通信部)17課)と都道府県警察が設置され、警察機構が一本化されたということを背景として、実際の捜査権限とかは、警察庁にはなかったということが前提になります。そこで、サイバー捜査の実施を警察庁のもとで行いましょうとなったということになります。

警察庁の組織改正

(1)警察庁の組織改正は、サイバー警察局の新設(捜査指導、解析、情報集約・分析、対策等を一元的に所掌)、情報通信局の所掌事務を長官官房に移管(警察業務のデジタル化、科学技術の活用等を推進)を内容としています。

図示(参考資料)すると、

となります。

法律案要綱では、警察庁の組織の改正として

警察庁の組織について、サイバー警察局を設置し、その所掌事務としてサイバー事案に関する警察に関する事務等を定めるとともに、情報通信局を廃止し、長官官房の所掌事務に警察通信に関する事務等を追加することとする

とされています。

条文としては、第19条(内部部局)について「警察庁に、長官官房及び次の五局を置く。」として情報通信局の代わりに、「サイバー警察局」が置かれることになりました。それでもって、所掌事務として「25 警察通信に関すること。26 所管行政に関する情報の管理に関する企画及び技術的研究に関すること、27 所管行政に関する情報システムの整備及び管理に関すること」が加えられ、25条が、

(サイバー警察局の所掌事務)
第25条サイバー警察局においては、警察庁の所掌事務に関し、次に掲げる事務をつかさどる。
一サイバー事案に関する警察に関すること。
二犯罪の取締りのための情報技術の解析に関すること

となります。

重大サイバー事案に対する対処能力の強化

また、2)重大サイバー事案に対する対処能力の強化については、「重大サイバー事案」の概念を中核に、国家公安委員会・警察庁が重大サイバー事案に対処するための事務を所掌する新たな捜査体制を構築したところに特徴があると思います。

ここでいう、「重大サイバー事案」とは、第5条4項で

4国家公安委員会は、第一項の任務を達成するため、次に掲げる事務について、警察庁を管理する。

となっているところに、

ハ  サイバーセキュリティ(サイバーセキュリティ基本法(平成二十六年法律第百四号)第二条に規定 するサイバーセキュリティをいう。)が害されることその他情報技術を用いた不正な行為により生ず る個人の生命、身体及び財産並びに公共の安全と秩序を害し、又は害するおそれのある事案(以下こ の号及び第二十五条第一号において「サイバー事案」という。)のうち次のいずれかに該当するもの (第十六号及び第六十一条の三において「重大サイバー事案」という。)

(1) 次に掲げる事務又は事業の実施に重大な支障が生じ、又は生ずるおそれのある事案

( ⅰ ) 国又は地方公共団体の重要な情報の管理又は重要な情報システムの運用に関する事務

( ⅱ )国民生活及び経済活動の基盤であつて、その機能が停止し、又は低下した場合に国民生活又は 経済活動に多大な影響を及ぼすおそれが生ずるものに関する事業

(2)高度な技術的手法が用いられる事案その他のその対処に高度な技術を要する事案
(3)国外に所在する者であつてサイバー事案を生じさせる不正な活動を行うものが関与する事案

と概念が提案されます。

そして、このような重大サイバー事案の捜査(国際共同捜査を含む)については、サイバー特別捜査隊が全国を管轄するという体制が導入されます。条文としては

5条4項16号

十六 重大サイバー事案に係る犯罪の捜査その他の重大サイバー事案に対処するための警察の活動に関すること。

として、重大サイバー事案にかかる犯罪の捜査が、特別に記載されます。そして

(関東管区警察局の所掌事務の特例)
第三十条の二 前条の規定にかかわらず、関東管区警察局は、全国を管轄区域として、警察庁の所掌事務のうち第五条第四項第十六号に掲げるものに係るものを分掌する

と重大サイバー事案に対処するための事務を関東管区警察局が分掌(全国管轄)することになることがあきらかにされます。そして、下位法令によって、サイバー特別捜査隊が、関東管区警察局へ設置されることになります。

私のブログでは、「サイバー犯罪に対する法執行のシステム的対応」というエントリで、サイバー犯罪に対して、全国で統一的な対応ができるマネジメントを考えないといけないということを書いたわけですが、そのような方向に向けた一歩であるという評価ができるのだろうと思います。

あとは、調査研究の体制としても充実するものと考えられます。世界的にみて、ハイテク捜査体制のための脆弱性の利用等も、議論することが求められるようになるだろう、また、その過程で、技術者の評価を確保できる仕組みの構築の整備が必要だろうと、というのが私の見解ですので、そのような方向に向けての議論がなされることを期待します。

関連記事

  1. サイバー規範に関する国連GGEの失敗
  2. 中国の協調された脆弱性開示と国家データベースへの提供
  3. GCSCスタビリティ報告書 分析6
  4. 憲法21条「通信の秘密」が邪魔で諸外国でやってるような大胆な犯罪…
  5. 日経コンピュータ9月28日号に「安全保障の新戦略 能動的サイバー…
  6. 経済安保2.0?-経済安保の担当役員設置、政府が主要企業に要請へ…
  7. Think before you link-化学会社の営業秘密漏…
  8. CyCon2017 travel memo 4) Day 0
PAGE TOP