「G7群馬高崎デジタル・技術大臣会合」が2023年4月29日及び30日に群馬県高崎市において開催されて、そこで、閣僚宣言 G7デジタル・技術大臣会合 2023年4月30日 が公表されています(リンク)。
これについては、特に13項で
DFFT具体化という目標を実現するため、我々は、関連する原則に基づき、課題解決型かつ、証拠に基づく、マルチステークホルダー及び分野横断的な協力を通じ、DFFTを具体化するために、政府やステークホルダーが集い協力する場として、DFFT具体化に向けたパートナーシップのためのアレンジメント(the Institutional Arrangement for Partnership: IAP)の設立を承認する。そして、我々はIAPを数か月内に立ち上げるよう努めるとともに、[附属書1]で承認された共通のビジョンをIAP下で達成するための手段についてさらなる議論を行う。また、国際機関や地域機関と連携し、イニシアティブを補完的にサポートすることにコミットする。DFFTの具体化を目に見える形で前進させるコミットメントを確認し、その成果や次のステップについて、今後のG7首脳や関連閣僚会合に報告することとする。
とされています。ここで、「Institutional Arrangement for Partnership(相互運用のための制度的取り決め、IAP)」という用語が出ています。
でもって、ここでIAPというのは、何なのかというのをきちんとオリジナルにあたってみたいと思います。
日本の今回の提案についての文脈としては、
- METI Journal G7の論点②「デジタル化」データの自由な流通と信頼を確保
- techUK supports the G7 institutional arrangement for partnership on Data Free Flow with Trust
- Global Industry Statement on An Institutional Arrangement for Partnership on Data Free Flow with Trust
などがあります。
でもって、そもそも、どのような経緯で、Institutional Arrangement for Partnershipという用語が使われてきたのかを見てみることにします。
1 Institutional Arrangementの意味
1.1 文献調査
Institutional Arrangementは、そのまま翻訳すると、制度的取決ということになります。が、もうすこし厳密的に見ていきます。
institutional arrangements for partnershipsで検索していくとSDGsとの関係に注力した興味深い論文が見つかります。
Frank Biermann a, Norichika Kanie b, Rakhyun E Kim “Global governance by goal-setting: the novel approach of the UN Sustainable Development Goals”(https://doi.org/10.1016/j.cosust.2017.01.010)
HORAN, David. A framework to harness effective partnerships for the sustainable development goals. Sustainability Science, 2022, 17.4: 1573-1587.(https://rdcu.be/dbQVx)
が出てきます。
あと、ラフなチェックで興味深いものとして
航空移送システムのInstitutional Arrangements for Freight Transportation Systems (2009)(リンク)
などが見つかります。
1.2 個々の文献について
Biermannほか
この論文は、
国連の17の持続可能な開発目標(SDGs)は、目標設定を主要な戦略として特徴とするグローバル・ガバナンスへの新しいアプローチを提示している。SDGsに代表される「目標を通じたガバナンス」は、包括的な目標設定プロセス、目標の拘束力のなさ、弱い制度的取り決めへの依存、国家が享受する大きな自由度など、多くの特徴において新しく、ユニークである。SDGsが大きな可能性を秘めている一方で、その総合的な成功は、各国がどの程度コミットメントを公式化するか、関連するグローバルなガバナンス体制を強化するか、グローバルな野心を国内の文脈に翻訳するか、セクターごとの政策を統合するか、ガバナンス機構の柔軟性を維持するかなど、多くの制度的要因に依存することになるでしょう。研究コミュニティもまた、特に真の進歩の測定、既存のガバナンスの仕組みと目標の整合性、経済・社会・環境の次元の統合に関して、重要な役割を担っている。
というものです。
この論文の特徴は、「目標を通じたガバナンス」という整理を強調していいるところだと思われます。この考え方の特徴は
- 国際法との切り離し
- 政府間レベルの弱い制度的アレンジメント
- 目標設定プロセスのグローバルな包摂と包括性によって機能
- 各国の選択と選好に多くの余裕を与える
とされてます。
また、その論文における「実施における課題」の部分では
- 指標とコミットメントによる目標のさらなる強化
- グローバル・ガバナンス体制の強化
- グローバルな野心を各国の状況や優先事項に適応させる
- 実施における効果的な政策統合の確保
- ガバナンス機構の適応性の向上
があげられています。
Horan
持続可能な開発目標のために効果的なパートナーシップを活用するためのフレームワーク(“A framework to harness effective partnerships for the sustainable development goals”)になります。この論文のサマリーは
持続可能な開発目標(SDGs)は、経済的、社会的、環境的な目標が相互に依存する広範で全体的な枠組みを提供し、その実施に向けた統合的かつ協調的なアプローチを可能にします。このようなアプローチを運用する上で重要な障害となるのは、特定の課題に取り組むべき適切なアクターを知ることです。セクター、スケール、アクター間の連携が、実施のためのマルチステークホルダー・パートナーシップを評価し、参加を促すための証拠となり得ることは認識されています。しかし、関連するアクターを特定するのに役立つ技術的なツールや、これらのアクターを参加させるための制度的な取り決めに関する議論は、現存する文献の中では著しく欠けているのが現状である。目標やターゲット間の相乗効果やトレードオフを考慮した連合構築のためのエビデンスに基づく体系的なアプローチを支援するため、本稿では、SDGsの共同実施を促進するために、幅広いパートナーシップと主体者が使用できるフレームワークを提案する:(1)パートナーシップの範囲を定義、(2)主な相互リンクを特定、(3)責任を割り当て、(4)利用できる最善の指標を選定、(5)課題を評価、(6)幅広いパートナーシップを形成する。各ステップにおける重要な決定事項を説明した後、提案された分析的パートナーシップ構築のフレームワークを、グローバル、地域、国家レベルでこのアプローチを正当化する問題への応用について議論している。この記事では、ライン省庁間の政策調整、SIDSにおけるSDG13実施のためのグローバルパートナーシップ、SDG7実施のためのエネルギーコンパクト、危機に対する多国間の統合対応などの問題を扱っている。
となります。
この論文は、SDGのパートナーシップについての現状の分析のもと、「広範なパートナーシップ」を提唱しています。
SDGのパートナーシップについての現状の分析については
- SDGsの統合的な性質と、効率的かつ公平な実施を確保するために、相乗効果を活用し、目標とターゲット間のトレードオフを管理する必要性
を指摘しています。また、統合的な実施への協力的なアプローチを強化することを目的としていることを指摘しています。また、メリットとしては、
- 国の政策が欠けていたり、不十分であったりするところを埋めるのに役立つことができること
- パートナーシップは、疎外されたグループや草の根の組織を含むことにより、意図しない負の結果やトレードオフを緩和し、介入策の設計と実施を改善し、公平な開発を確保することができること
- 国境を越えたアクターを含む国際的なパートナーシップは、国内および政府のリソースが不十分な場合に実施手段にアクセスする方法であること
が指摘されています。ところで、このパートナーシップについての分析としては、対象・関心から、図のような二つのアプローチが見受けられると分析しています。
国家組織等においてのフォーカスして論じるアプローチとマルチステークホルダーにフォーカスするアプローチということになります。それぞれに応じて、焦点の置きかたが変わるというのは、納得するところです。
このような分析をもとに、この論文は、上述のように「広範なパートナーシップ」を提唱しています。ここでの「広範なパートナーシップ」は、以下の図でその構築の仕方が明らかにされています。
FRAMEについて
“FRAME: SKILLS FOR THE FUTURE SUPPORTING A STRATEGIC VISION FOR HUMAN RESOURCES DEVELOPMENTGUIDE FOR THE REVIEW OF INSTITUTIONAL ARRANGEMENTS”
このガイドは、
欧州委員会の拡大総局からの要請を受け、EU加盟候補国および潜在的加盟候補国の人材開発能力強化を支援するために、欧州研修財団(ETF)が開発した人材開発(HRD)分野における制度的取り決めのレビューのためのガイド(以下、「ガイド」)である。本ガイドは、EUが出資するFRAMEイニシアチブ「拡大国における包括的なHRD戦略の策定支援」のコンポーネントの中で、拡大国の制度的取り決めのレビューを実施するために使用される予定です。FRAMEの参加国は、アルバニア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、コソボ、マケドニア旧ユーゴスラビア共和国、モンテネグロ、セルビア、トルコである。本ガイドは、拡大7カ国でレビューを実施するカントリーチームを支援するための内部ガイダンス文書として作成されました。本手法は、FRAMEプロジェクトで利用可能な人的・財政的資源に即して考案されたものであり、したがって、プロジェクトの特定の目的を満たすことを意図しています。
というものです。そこでは、 Institutional Arrangementは
国が立法、開発の実行を計画・管理する政策、規則、規範、価値観、法の支配、変化の測定、および国家のその他の機能の組織体
をいうとしています。
その性質上、制度的な取り決めに関する問題は、開発および公共部門管理のあらゆる側面で登場します。財務省や国土計画省、災害リスク軽減のためのオフィス、教育や健康などのセクター全体にせよ、機関の円滑な機能が重要です。
とされています。ここでは、
最も重要なことは、制度的な取り決めを見直すことで、現在のパフォーマンスレベルの原因や、能力開発の制約と推進力を探ることができるということです。これらの要素を分析することで、ボトルネックを解消(または削減)し、潜在能力を最大化するための改善を制度に導入することができる。各レビューの焦点と具体的な目的に応じて、機関にはより良い手段を備え、改善された法整備を提案し、強化された人材を育成し、合理的な手続きを採用することなどが可能です。受益国側から見ると、制度設計の見直しは、制度設計の強化、ひいては公的機能の向上につながる主要な要素をよりよく理解するのに役立ちます。この文脈では、このようなレビューは、プロセスと結果の透明性を高めることができます。関係者は、省庁間の調整メカニズム、戦略文書の実施、活動の優先順位付けと順序付けなど、さまざまな重要な側面を改善するための具体的な勧告を参照することができます。さらに、このようなレビューは、単一の機関の強みを強調し、国内および国際的なレベルでの信頼性を高めることができます。
Institutional Arrangements for Freight Transportation Systems
この報告書は、
この報告書は、現在および将来の貨物輸送を改善するための、成功した有望な制度的取り決めについて説明しています。また、既存の制度から学んだ教訓を反映した40のガイドラインを提供し、政府機関と業界代表が協力して貨物輸送システムへの投資と改善に取り組む際の参考となるよう設計されている。付属のCD-ROMには、文献レビュー、ワークショップ資料、詳細なケーススタディ、インタビューガイドからなる付録が含まれています。本報告書と付録の資料は、選挙で選ばれた当局者、交通プランナー、貨物産業界に、新しい貨物輸送制度の構築や既存の貨物輸送制度の改良に関する指針を提供します。
というものです。
ここでは、Institutional Arrangementsというのを
関係者が、インフラ、運用、サービス、規制といった貨物輸送の一般的な利益や、貨物輸送を向上させる特定のプログラムやプロジェクトを推進できるようにするための構造的な基盤のこと。
と定義しています。
「基盤(foundation)」という概念は、組織のライフサイクルの中で変化するメンバーを支える構造を持ち、スタッフの入れ替わりや優先順位の変化の影響を受けないようにすることが重要であることを示しています。基盤を維持するための責任者(一人の人物または組織)を持つことが重要である。この定義は、既存のすべての制度的取り決めとその機能を包含するのに十分な広さを持っています。制度的な取り決めは、政策立案、計画立案、資本整備、運用・保守、規制、研究、教育など、さまざまな理由で作られてきた。ほとんどの制度は、貨物の移動性を向上させるという最終的な目標のもと、民間部門のニーズが公的な貨物輸送計画プロセスに含まれるようにするために形成されてきたものである。
2 SDGsのモデルとDFFTのモデルの異動
ということで、SDGsのモデルとその実現のためのInstitutional Arrangementsというのは、興味深いなあということは実感したわけですが、そのまま、DFFTのモデルに当てはめることができるのか、ということを考えることができるかと思います。
まずは、SDGsです。我々の世界を変革する: 持続可能な開発のための2030アジェンダから、国際社会の究極のゴールをまとめてみました。
自由な市場活動にまかせていくと、人間、地球、繁栄、平和という究極の人類社会の目標が果たせないということになるとき、SDGsという目標を設定し、その実現のために利害関係者間の合意によって、その上記の国際社会に対するリスクを減少させようとするものととらえることができます。場合のパートナーシップ、そのための合意の有効性は、非常にシンプルに理解がいくところです。
DFFTというのを考えています。図示してみます。
各ステークホルダーが保有者であるデータを考えます。
企業活動が前提としている自由な市場においては、各ステークホルダーのデータも、自由に流通することになるので、それ自体、データの自由な流通によって国際社会自体の「福祉」(厚生-welfare)が果たされるということになります。
しかしながら、そのようなモデルは、種々の観点から、データの自由な流通が妨げられます。この流通を妨げる事由としては、制定法的に正当化されている事項として
- データ保護
- 地方政府個人データ
- 金融・税・銀行
- ペイメント
- 地図
- 健康・ゲノム
- 政府記録・クラウド
- ICTテレコム
- 公共ローカルクラウド
- 非個人データ枠組
- その他
などがあげられます。また、これらの以外にも、企業が、自らの利益のために、データを囲い込むということになります。これ自体としては、特に問題がないわけですが、一定の場合には、それによって生じうるイノベーションの制約というのは、看過できないということになりえます。
これらの制約のアプローチ、場合によっては市場への介入というのが、大きな人間・地球・繁栄・平和という国際社会への福祉という観点から支持しうるのかという問題になります。このように考えていくと、SDGsの時と市場の限界・パートナーシップの性格が異なってきます。
SDGsにおいては、市場の限界が、それ自体、ゴールに対してのリスクになっています。それに対して、DFFTは、むしろ、市場は、その目的な果たすための有効なフレームワークであって、政府や、独占が、その機能のリスクを引き起こします。この場合、組織間の合意について考えると、SDGsは、本質的に、トレードオフという関係には、ありませんが、むしろ、DFFTでは、直接に利害の関係する当事者の間で合意をしなければならない、という本質的な問題があるということができるでしょう。
もっとも、DFFTという用語は、21世紀のもっとも重要な資源であるデータをめぐる自由な取引の重要性を語るテーマとしては、非常に適切なところがあるので、それについて、情報の共有・規制の透明性・エビデンスに基づく規制という観点から整理し直す場合には、DFFTという概念がきわめて有意義なものになるだろうと考えられます。その意味で、IAPというのも限界を考えながら、ひとつのアプローチとして見ていくことは有意義なのだろうと考えます。