2020年以降の欧州連合のデジタル化政策の流れ

欧州連合のデジタル化政策とその流れのもとでのサイバーセキュリティ対応とかについての法律の報告書とかは、いろいろと携わっているのですが、よく考えたら、全体のデジタル化政策についてまとめてはいなかったので、すこしまとめてみたいと考えています。これを説明するJETROの報告書(「EUデジタル政策の最新概要」)が参考になります。

自分なりに図示するとこんな感じかと思います。

 

 

1 A Europe fit for the Digital Age(「欧州デジタル化対応」)

欧州委員会の戦略および政策のページはこちらになります。

現欧州委員会(2019~2024年)を率いるウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は、就任前(2019年7月)に委員長候補として政策指針(アジェンダ)を発表しています。リンクは、こちら。

6つの主要政策としては、

  • 欧州グリーン・ディール(A European Green Deal)
  • 欧州デジタル化対応(A Europe fit for Digital Age)
  • 人々のための経済(An Economy that Works for People)
  • 世界におけるより強い欧州(A Stronger Europe in the World)
  • 欧州生活様式の推進(Promoting our European Way of Life)
  • 欧州民主主義のさらなる推進(A New Push for European Democracy)

があり、その中のひとつに欧州デジタル化対応(A Europe fit for Digital Age)があります。この全体像のページとしてはこちらです

上のアジェンダでは、

私は、ヨーロッパが安全で倫理的な境界の中で、デジタル時代からの機会を把握し、さらに努力することを望んでいます。

として、

  • デジタル技術、特に人工知能(AI)
  • IoT
  • 5Gネットワーク
  • ハイパフォーマンス・コンピューティング、量子コンピューティング、アルゴリズム、データ共有とデータ利用を可能にするツールに投資

などへの注目を明らかにしています。

2 Shaping Europe’s Digital Future(「欧州のデジタル未来の形成)

「Shaping Europe’s Digital Future」とは、欧州委員会が2020年2月19日に発表した政策文書で、EUのデジタル政策の方向性を示しています。オリジナルは、(コミュニケ)こちらです
。 なお、ファクトシートは、こちら
このコミュニケの構成は、序、ビジョンとゴール、国際事件-グローバルなプレイヤーとしての欧州、結論からできています。、以下の3つの目標を掲げており、さらに、これらの目標のもとに、デジタル化による社会経済への影響や課題に対処するための具体的な施策や目標を提案しています。

テクノロジーを人々と社会のために活用する

人工知能やブロックチェーンなどの革新的な技術の開発と普及を促進し、公共サービスや民間部門のデジタル化を支援するとともに、倫理的で信頼できるデジタル環境を構築する。

これに基づく活動としては、

  • AI白書
  • カッティングエッジ共同デジタルキャパシティ
  • ギガビット接続への投資の加速
  • 欧州サイバーセキュリティ戦略(共同サイバーセキュリティユニットの構築を含む)
  • デジタル教育アクションプラン
  • スキルアジェンダ
  • プラットフォーム労働者の労働条件の改善
  • EU政府の相互流用性戦略

があげられています。

競争力のあるデジタル経済を創出する

デジタル技術を活用したビジネスモデルや産業構造の変革を推進し、中小企業やスタートアップの成長を支援するとともに、デジタル市場の公正な競争とイノベーションを確保する。

これに基づく活動としては、

  • 欧州データ戦略(データガバナンス枠組、データ法など)
  • デジタル時代におけるEUの競争ルールの適合性 デジタル時代におけるEU競争規則の適合性(2020-2023年)、 および分野別調査の開始(2020年)。
  • 産業戦略パッケージ
  • 21世紀へのビジネス税務コミュニケ
  • 消費者アジェンダ

があげられています。

開かれたかつ民主的なデジタル社会を実現する

インターネットやオンラインプラットフォームにおける情報の自由と多様性、個人情報や知的財産権の保護、サイバーセキュリティやレジリエンスの強化、デジタルスキルや包摂性の向上など、デジタル社会における基本的な価値と権利を尊重し、保障する。

これに基づく活動としては、

  • オンラインプラットフォームと情報サービスプロバイダーの責任を強化・調和させ、EUにおけるプラットフォームのコンテンツポリシーに対する監視を強化することで、デジタルサービスのための内部市場を深化させるための新ルールと改訂ルールです。(2020年第4四半期、デジタルサービス法パッケージの一部として)。
  •  eIDAS規則の有効性を向上させ、その利点を民間部門に拡大し、すべての欧州人のための信頼できるデジタルIDを促進するための改訂(2020年第4四半期)
  •  視聴覚・メディア部門のデジタル変革と競争力を支援し、質の高いコンテンツへのアクセスやメディアの多元性を刺激するためのメディア・視聴覚行動計画(2020年第4四半期)
  •  欧州民主化行動計画 民主主義システムの回復力を向上させるための計画、 欧州の環境予測および危機管理能力を向上させる、地球の高精度デジタルモデル(「地球のデジタルツイン」)を開発するイニシアティブ「デスティネーション・アース」(時期: 2021年以降)。-
  • 循環型経済行動計画の持続可能な製品に関する政策枠組みに沿った既存および新規の手段を動員し、機器の耐久性、メンテナンス、解体、再使用、リサイクルを考慮した設計を確保し、電子機器のライフサイクルを延長し、早期の陳腐化を避けるために修理またはアップグレードの権利を含む循環型エレクトロニクスイニシアチブ(2021)。
  •  遅くとも2030年までに、気候変動に左右されない、エネルギー効率の高い持続可能なデータセンターを実現するための取り組みと、通信事業者の環境フットプリントに関する透明性確保策。
  •  欧州共通の交換フォーマットに基づく電子健康記録の推進により、欧州市民がEU全域で健康データに安全にアクセスし、交換できるようにする。 欧州健康データスペースにより、健康データへの安全かつ確実なアクセスを改善し、対象を絞り込んだより迅速な研究、診断、治療を可能にする(2022年から)。

この文書は、欧州委員会が2021年に発表した「デジタル・コンパス2030」や「新産業政策」の改定版など、EUのデジタル政策に関するさらなる戦略や施策の基礎となっています。

なお、これらの資金によるプログラムは、デジタル欧州プログラムとされている(https://digital-strategy.ec.europa.eu/en/activities/digital-programme.)

3 DIgital Compass(デジタルコンパス)

EUは、2021年3月にデジタルの10年のために「デジタルコンパス」という政策文書を発表し、2030年までに達成したい具体的で測定可能な目標を示しています。ホームページはこちらです。

2021年3月9日に「デジタル10年」のための欧州の在り方というコミュニケーションがでています。

このコミュニケは、

  1. 力を合わせて:欧州のレジリエンスのためのデジタル変革
  2. 2030年のビジョン:市民と企業のエンパワーメント
  3. EUの軌跡を描くための4つのカーディナル・ポイント
  4. デジタルシチズンシップ
  5. 2030年の目標と目的を達成するための羅針盤
  6. 「デジタルの10年」のための国際パートナーシップ
  7. 結論

からなりたっていすま。

これらの目標は、スキル、デジタルインフラ、ビジネス、行政の4つの柱に沿って設定されています。これらのわかりやすい説明は、europe magazineの「2030年までを「デジタルの10年」に ~EUが実現するデジタルの未来~」をどうぞ。

具体的には

 スキル

ICT専門家を2000万人に増やし、人口の少なくとも80%が基本的なデジタルスキルを習得する。

デジタルインフラ

ギガビット回線を全世帯に提供し、5Gを都市部全域に普及させるとともに、最先端の半導体や量子コンピューターなどの開発と利用を促進する。

ビジネス

EU域内の75%の企業がクラウドやAIやビッグデータなどのデジタル技術を活用し、90%以上の中小企業がデジタル変革の度合いにおいて少なくとも基礎レベルに到達する。

行政

主要な公共サービスを100%オンライン化し、電子カルテやデジタルIDなどの導入と利用を拡大する。

となります。

また、4デジタルシチズンシップですが

デジタルシチズンシップ

というのは、すべての欧州市民がデジタル機会や技術を十分に活用できるようにすることが必要である、デジタル空間では、オフラインで適用されるのと同じ権利が、オンラインでも十分に行使できるようにする必要があります、ということです。

2030年の目標と目的を達成するための羅針盤

羅針盤の構造として以下の表が与えられています。

デジタルCOMPASS
年次報告およびフォローアップを行うガバナンス構造
4つの基本原則に基づく具体的な目標の達成  形成と立ち上げ
複数国でのプロジェクト
デジタルプリンシプルのモニタリング
定量的なKPIによるモニタリング、実施されたアクションの報告、勧告のフォローアップ インフラと重要な能力ギャップをモニタリングする。共通プロジェクトに関する合意形成/合意の醸成とその実施の促進 レポーティングとスコアボード
年次ユーロバロメーター

4 European digital decade(デジタル10年)

欧州デジタル10年とは、EUが2020年から2030年までの間にデジタル経済とビジネスの変革を目指す戦略的ビジョンです。ホームページはこちら。

コミュニケは、2022年1月になされています。こちら。 その構成は、

  1. はじめに
  2. デジタル権利および原則の背後の理論
  3. デジタル権利および原則の宣言の政治的性質
  4. EUおよび世界レベルでのフォローアップ
  5. 結論

となっています。デジタル権利及び原則宣言(2022年1月26日)はこちらです

この宣言で概説されるデジタルの権利と原則は、EU基本権憲章に根ざした権利や、データ保護およびプライバシーに関する法律など、既存の権利を補完するものである。また、EU加盟国や企業が新しい技術に取り組む際の指針にもなる。これらは、EUのすべての人がデジタル・トランスフォーメーションを最大限に活用できるようにすることを目的としています。

提案されている権利と原則は以下の通りです。

  1. デジタル・トランスフォーメーションの中心に人とその権利を据える
  2. 連帯と包摂を支援する
  3. オンラインでの選択の自由を確保する
  4. デジタル公共空間への参加を促進する
  5. 個人の安全、安心、エンパワーメントを向上させる
  6. デジタルの未来の持続可能性を促進する

欧州委員会は、「デジタルの10年」の年次報告書において、デジタル原則の実施状況を評価する。また、欧州委員会は、加盟国におけるフォローアップ措置を監視するため、毎年ユーロバロメーター調査を実施する予定である。ユーロバロメーターは、様々な加盟国においてデジタル原則がどのように実践されているかについての市民の認識に基づいて、定性的なデータを収集する予定である。

具体的に2022年12月になされた「デジタル10年」決定は、こちらです

具体的には、、「デジタル10年政策プログラム2030」を設立し、以下のように指定された同プログラムの監視及び協力メカニズムを定めるという主題(1条)、定義(2条)、デジタル10年政策プログラム2030の一般目標(3条)、デジタル目標(4条)、進捗状況のモニタリング(5条)、現状報告(6条)、国家デジタル10年戦略ロードマップ(7条)、欧州委員会と加盟国間の協力メカニズム(8条)、ステークホルダーとの協議(9条)、マルチカントリープロジェクト(10条)、マルチカントリープロジェクトの選定と実施(11条)、マルチカントリープロジェクトアクセラレーター(12条)、欧州デジタルインフラコンソーシアEDIC(目的・位置づけ-13条 セットアップ 14条 メンバーシップ 15条、ガバナンス 16条、定款 17条 責任 18条 準拠法 管轄裁判所 19条)の各条項からなりたっています。

5 デジタルヨーロッパプログラム

 

デジタル・ヨーロッパ・プログラム(DIGITAL)は、新しいEUの資金提供プログラムで、ビジネス、市民、公共行政にデジタル技術をもたらすことに焦点を当てています²。このプログラムは、以下の5つの重要な分野でプロジェクトを支援するための戦略的な資金を提供します。具体的なホームページのリンクはこちら

  • スーパーコンピューティング:高性能コンピューティングや量子コンピューティングなどの先端的な計算能力の開発と利用を促進します。
  • 人工知能(AI):AIの研究とイノベーションを支援し、AIのテストと実験を行うインフラストラクチャやデータリソースを整備します。
  •  サイバーセキュリティ:サイバーセキュリティの能力と協力を強化し、サイバー攻撃に対するレジリエンスと対応力を向上させます。
  •  高度なデジタルスキル:デジタル技術に関する専門的な教育や訓練を提供し、デジタル分野での雇用やキャリアの機会を増やします。
  •  経済や社会におけるデジタル技術の幅広い利用:デジタルイノベーションハブを通じて、中小企業や公共部門にデジタル技術の導入や活用を支援します。

このプログラムは、EUの社会経済におけるデジタル化による回復と変革を加速させることを目的としており、特に中小企業に利益をもたらすことを期待されています²。このプログラムは、EUの長期予算である2021年から2027年までの多年次財政枠組み(MFF)の一部であり、現価で75億ユーロ(約9300億円)の予算が計画されています。

 

 

 

関連記事

  1. 脆弱性発見のためのセーフハーバー-マイクロソフト脆弱性報告窓口 …
  2. AWSとCLOUD法
  3. 読売新聞 「IoT攻撃 情報共有」の記事
  4. コロナウイルス(Covid-19)とGDPR (26) コンタク…
  5. コンタクトトレーシングのPIA COVIDSsafe (6) 個…
  6. 影響工作の定義-CSS CYBER DEFENSE “…
  7. CyCon2017 travel memo 2) Day -1
  8. 脆弱性の開示の枠組を深く勉強したい人に-ワクチンの予約システムの…
PAGE TOP