前澤氏対詐欺広告訴訟提起について考えてみた-米国法典47編230条の「数奇な運命」

フェースブックなどで、有名人の写真を用いて、投資詐欺などに誘導する広告に対して対詐欺広告訴訟提起がされるという報道がなされています。これを二つの流れがあって、

です。インターネット媒介者の対応責任と結果責任という比較法的な立場からメモしてみることにしたいと考えています。

また、ちょうど、日本において「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律の一部を改正する法律」が国会に提案されています。また、なにかと比較されるデジタルサービス法の規定も関連ししてきます。これらを総合的に検討してみるのは、とても知的にわくわくします。

まずは、メタへの提訴の問題を考えてみます。

1 メタ提訴の問題

1.1 日本で提起する場合の請求原因や法的な問題

媒介者のデューデリジェンス懈怠責任

では、投資詐欺の被害者がメタの日本法人を日本で提訴する場合について、考えてみます。報道によると請求原因としては

「漫然と偽広告を掲載しており、もっと早く規制していれば被害はなかった」と運営会社の責任を強調

ということだそうです。

このような投資の推奨に有名人が使われている場合、判決例としては、プロバイダの責任については、「①他人の権利が侵害されていることを知っていたとき(1号)と②情報の流通を知っており,当該情報の流通によって他人の権利が侵害されていることを知ることができたと認めるに足りる相当の理由があるとき(2号)」については、責任を負うことが前提とされています。これに対しては、東京高判平22.8.26判時2101─39では、「本件サイトの運営の実情からすれば,本件サイトにおける投稿に関して,削除要請があったなどの格別の事情がない限り,YがXらの権利が侵害されていることを知っていたか,若しくは,知ることができたと認めるに足りる相当の理由があるとの事情が存在したと認めることはできない」という判示があるところです。なので、逆に、削除要請があれば、「人の権利が侵害されていることを知ることができたと認めるに足りる相当の理由があるとき(2号)」ということになるだろうと考えられます。

著名人の顧客吸引力の無権限利用

でもって、そのような著名人の写真等を投資詐欺サイトの広告に使うのは「人の権利」ってどうなのか、というと、その著名人の顧客誘因力を使っているのではないのって、ということになります。この点については、最判平成24・2・2判時2143号72頁「ピンクレディ事件上告審」(根本美鶴代ほか1名対株式会社光文社/損害賠償請求事件)が先例となります。この事件は、

Yは,上記週刊誌(縦26 cm,横21 cmのAB変型判サイズで約200頁のもの。以下「本件雑誌」という)を発行し,その16頁ないし18頁に「ピンク・レディーdeダイエット」と題する
記事(以下「本件記事」という)を掲載して、ピンク・レディーの5曲の振り付けを利用したダイエット法を解説することなどを内容として、本件記事には,Xらを被写体とする14枚の白黒写真(以下「本件各写真」という)が使用されている。

という事案でした。

これに対して最高裁は、一般論として

人の氏名,肖像等(以下,併せて「肖像等」という。)は,個人の人格の象徴であるから,当該個人は,人格権に由来するものとして,これをみだりに利用されない権利を有すると解される。
そして,肖像等は,商品の販売等を促進する顧客吸引力を有する場合があり,このような顧客吸引力を排他的に利用する権利(以下「パブリシティ権」という。)は,肖像等それ自体の商業的価値に基づくものであるから,上記の人格権に由来する権利の一内容を構成するものということができる。他方,肖像等に顧客吸引力を有する者は,社会の耳目を集めるなどして,その肖像等を時事報道,論説,創作物等に使用されることもあるのであって,その使用を正当な表現行為等として受忍すべき場合もあるというべきである。そうすると,肖像等を無断で使用する行為は,①肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用し,②商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付し,③肖像等を商品等の広告として使用するなど,専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合に,パブリシティ権を侵害するものとして,不法行為法上違法となると解するのが相当である。

 

としました。もっとも事案としては

記事の内容は,ピンク・レディーそのものを紹介するものではなく,前年秋頃に流行していたピンク・レディーの曲の振り付けを利用したダイエット法につき,その効果を見出しに掲げ,イラストと文字によって,これを解説するとともに,子供の頃にピンク・レディーの曲の振り付けをまねていたタレントの思い出等を紹介するというものである。そして,本件記事に使用された本件各写真は,約200頁の本件雑誌全体の3頁の中で使用されたにすぎない上,いずれも白黒写真であって,その大きさも,縦2.8 cm,横3.6 cmないし縦8
cm,横10 cm程度のものであったというのである。

これらの事情に照らせば,本件各写真は,上記振り付けを利用したダイエット法を解説し,これに付随して子供の頃に上記振り付けをまねていたタレントの思い出等を紹介するに当たって,読者の記憶を喚起するなど,本件記事の内容を補足する目的で使用されたものというべきである。
したがって,Yが本件各写真をXらに無断で本件雑誌に掲載する行為は,専らXらの肖像の有する顧客吸引力の利用を目的とするものとはいえず,不法行為法上違法であるということはできない。」

として、不法行為の成立は認めませんでした。

消費者の媒体への損害賠償の問題

これは、名前を使われた著名人(本人)が請求する場合の考察になりますが、では、詐欺にあった人が、損害賠償を請求できるかという問題です。これは、著名人の広告を信じて詐欺にあった場合に、その広告媒体に対して損害賠償を請求できるか、という問題があります。

この問題については、判決例としては、日本コーポ分譲マンション広告事件、ニュー共済ファミリー事件、高田浩吉事件、琴風事件があるとされます。日本コーポ事件(最高裁平成元年9月19日第三小法廷判決)については、こちらをどうぞ。

広告媒体業務にも携わる新聞社並びに同社に広告の仲介・取次をする広告社としては,新聞広告のもつ影響力の大きさに照らし,広告内容の真実性に疑念を抱くべき特別の事情があって読者らに不測の損害を及ぼすおそれがあることを予見し,又は予見しえた場合には,真実性の調査確認をして虚偽広告を読者らに提供してはならない義務があり,その限りにおいて新聞広告に対する読者らの信頼を保護する必要があると解すべきところ

となります。

この場合、「広告内容の真実性に疑念を抱くべき特別の事情があって読者らに不測の損害を及ぼすおそれがあることを予見し,又は予見しえた場合」というのは、どのような場合なのか、とくに、著名人の顧客吸引力の無権限利用について、どのように考えるのか、ということになるように思えます。

もっとも、この場合に、社会的に問題になったあとに広告を放置していた場合に、そのインターネット媒介者が責任を負うのかという問題になります。また、事実認定の問題としては、インターネット媒介者が、合理的な努力をしていたか、ということになります。結果の発生を止めるべき義務まではないはず(この点の日本の議論は調べてません)なので、その合理的な努力というのは、どのようなものか、ということになるだろうと思います。

1.2 米国訴訟の法的問題

前澤氏の米国での訴訟が、 米国の判例法理上でどのような意味をもってくるのかを考えてみるというかんじです。

1.2.1 媒介者のデューデリジェンス懈怠責任の一般論

この点については、もともとは、コモンローにおける「公表」/「配布」の考え方が参考になります。例えば、名誉毀損表現のあるウェブページへのリンクを張った者又はフレーミングを行った者は、リンクやフレームに従って当該表現を読んだ者に対して「公表」を行った者(パブリッシャー)として(再出版社としての責任ではなく)原則として一次的な責任を負うことになります。

これに対して、「配布」(distributor)者(「第三者が出版した中傷的な内容を配信または送信」した者)は、名誉毀損な内容を知っていたか又は知る理由のあった場合に、責任を課されることになります。したがって、書店や図書館は、中傷的な本を販売したり流通させたりした場合の責任を回避するために、提供するすべての本を事前に確認する必要はないが、中傷的であることをすでに知っていた本を流通させた場合には、販売業者としての責任を負う可能性がある。

同様に、電信事業者は、その事業者が中傷的であることを知らなかった(または知る理由があった)メッセージを送信しても責任を負わないだろうとされる。

この分類を強調して後述の230条の解釈の肥大化を批判的に強調するものとしてAlan Z. Rozenshtein“Interpreting the ambiguities of Section 230” がある。

そして、この「公表者」の概念については

  • Byrne v Deane事件 [1937] 1 KB 818、(英)・同事件では、ゴルフ場の運営者が原告に指摘されたにもかかわらず、原告の名誉を毀損する記事を同ゴルフ場の掲示板から除去しなかった(failure to remove)というものであり、裁判所は、同ゴルフ場が当該記事を「公表」したとして、その責任を認めた。
  • Godfrey v Demon Internet Limited事件 [1999] EWHC QB 244(英)・Demon Internetは、ISPであり、ユーザーに対してUSENET掲示板の利用サービスを提供していたところ、同掲示板に原告の名誉を毀損する表現が掲載され、原告は同ISPに対して削除を要請したが、同ISPは1か月にわたり削除を行わなかった。判事は、「ISPは、名誉毀損表現がその運営する掲示板に掲載され、それが利用者に閲覧されるごとに、当該表現を公表したものと認められる」と判示し、Defamation Act 1996(英)1条の抗弁も 成立しない、とした。この判断に対し、同ISPは控訴せず、和解で決着した。

などの判決例が先例とされています。

この結果、少なくとも名誉毀損表現が掲載されていることについて悪意の掲示板運営者であって、その表現を削除する能力を有する者は、当該表現を「公表」したものと認められるという判例法理が原則として理解することができます。名誉毀損の表現が掲載されている場合、善意であっても「公表」が認められ、単なる媒介のみを担う媒介者についても「公表」が認められると傍論において示していると考えられています。

もっとも、米国における名誉毀損におけるインターネット媒介者の法理は、英国の法理に比較して相当の相違があります。

この点についての米国の先例は、

  • Cubby v. CompuServe, 776 F. Supp. 135 (S.D.N.Y,1991)・CompuServe事件は、原告を中傷する投稿を第三者がなした場合に、電子会議室を運営しているプロバイダに責任が生じるかという問題に関しての判決であり、判事は、コンピュータ情報サービスは、ニューヨーク州法の解釈に関しては配布者(distributor)であるとした。
  • Stratton Oakmont v. Prodigy, No. 31063/94, 1995 WL 805178 (N.Y. Sup. Ct. Dec. 11,1995)・Prodigy事件は、Prodigyの電子掲示板に書き込まれた名誉毀損情報について運営会社であるProdigyの責任が問題となった事件である。ジョーダン・ベルフォート率いる証券会社ストラットン・オークモントは、プロディジーの金融関連掲示板「マネー・トーク」で同社について中傷的なコメントがなされたとして、プロディジーを訴えた。プロディジー社は、掲示板の内容を確認しなかったコンピュサーブ社とは異なり、マネー・トーク掲示板をさまざまな方法で管理し、さらに一般的に「コンピュータ掲示板に投稿されたメッセージの内容を編集管理するオンライン・サービスとして自らをアピールし、それによって競合他社との差別化を図り、自らを新聞に例えた」と裁判所は書いている。このことを根拠に、またキュービー社を明確に区別した上で、裁判所は、プロディジー社は中傷とされるコンテンツに対して、単なる販売者責任ではなく、出版者責任を負うべきであるとした。

その後、連邦通信品位法が制定されています。同法は、Prodigy事件の影響を否定したものになります。

1.2.2 通信品位法230条の定め

通信品位法は、もともとは1996年に成立した有害なオンラインコンテンツから未成年者を保護することを目的とした法律です。

ジェームズ・エクソン上院議員(民主党)が提出した通信品位法(CDA)は、「わいせつ」または「わいせつ」なメッセージを未成年者に故意に送信することを犯罪としたものでした。

また、当時下院議員であったクリストファー・コックス(カリフォルニア州選出)とロン・ワイデン(オレゴン州選出)は、「インターネットの自由と家族のエンパワーメント法(Online Family Empowerment)」の中で代替的な文言を導入し、プラットフォームが強制的ではなく自主的にコンテンツを節度あるものにするよう促そうとした。この文章が第230条となります。また、

コックスとワイデンは、より高い表現の自由の目標も念頭に置いていた。コックスとワイデンは、インターネットが「教育的・情報的資源の利用可能性において並外れた進歩」をもたらし、「政治的言説の真の多様性、文化的発展のためのユニークな機会、知的活動のための無数の手段を提供する場」であることを認識し、「インターネットの継続的な発展を促進すること」、特に「現在インターネットに存在する活気に満ちた競争力のある自由市場……を促進すること」を目指した。連邦や州の規制を受けない。

ということになります( 上記Rozenshtein論文 )。そして、下院と上院が1996年電気通信法のそれぞれのバージョンを可決した後、下院はコックスとワイデンの「インターネットの自由と家族のエンパワーメント法」を、上院はエクソンの「CDA」を含み、法案は会議委員会にかけられた。理由はまだ不明だが、会議委員会は、エクソン案とコックス・ワイデン案のどちらかを選ぶという論理的なステップを踏むのではなく、両案をひとつの「通信品位法」の一部として盛り込み、コックス・ワイデン案はエクソンの原法案の最終節として追加されたという経緯があります(同)。

もっとも、通信品位法自体は、レノ対ACLU事件( 521 U.S. 844 (1997)で、違憲と判断されました。同条は、第230条 「オフェンシブ(offensive)な資料(material)のプライベートなブロッキングおよびスクリーニングへの保護」 (Protection for private blocking and screening of offensive material)というタイトルです。)

後述しますが、米国の議会調査サービス「Liability for Content Hosts: An Overview of the Communication Decency Act’s Section 230(コンテント・ホストの責任 通信品位法230条の概観)」(2019)は、この230条自体の立法の趣旨についてもふれており、

第230条は、1996年初頭にCDAの第509条で “Online Family Empowerment “と題して制定された。この条項の一部は、1995年にニューヨーク州の裁判所が下した判決に対応したものである: ストラットン・オークモント社対プロディジー・サービス社事件である。この事件の原告は投資銀行会社であった。同社は、初期のオンライン・サービス・プロバイダーであるプロディジー社が、同社の詐欺行為を違法に非難する中傷文を掲載したと主張した。プロディジー社自身は中傷的とされるメッセージを書いたわけではなかったが、ユーザーがそのメッセージを投稿した掲示板をホストしていた。ニューヨークの裁判所は、同社はそれにもかかわらず、中傷とされるメッセージの「発信者」であり、したがって賠償責任を負うと結論づけた。裁判所は、プロディジー社は、「自動ソフトウェア・スクリーニング・プログラム」と、プロディジー社のガイドラインに違反するメッセージを削除する「ボード・リーダー」の両方を通じて、掲示板の内容を積極的に管理し、サイトに投稿された内容に対して「編集上の管理」を行なっていたことを強調した。

第230条は、ストラットン・オークモントの破棄を求めた。「Online Family Empowerment」条項のスポンサーの一人であるクリス・コックス下院議員は、下院の議場で、プロディジー社に対する裁定は “後進的 “であると主張した。コックス下院議員は、連邦地裁が初期のオンライン・サービス・プロバイダーであるコンピュサーブの掲示板に投稿された誹謗中傷に対して責任を負わないとした、別のケースに言及した。コックス下院議員も、彼の共同提案者であったロン・ワイデン下院議員(当時)も、オンライン・サービス・プロバイダーが、心配する親やその他の人々と協力して、自らに責任を負わせることなく、オフェンシブなコンテンツを削除できるようにしたいと強調した。これらの「善きサマリア人」規定は、たとえオンライン・サービス・プロバイダーがそのサイトに掲載されたコンテンツに対して限定的な編集統制を行ったとしても、それによって出版者責任を問われることがないようにすることを意図したものである。

と記載しています。もともとは、オフェンシブなコンテンツの削除をなす権限があることを前提に、そのような行為をなしたとしても、責任をおわないという趣旨であったことが明らかになります。

この翻訳については、こちら。(藤田尚則 「「よきサマリア人の免責」と「1996年通信品位保持法」─アメリカにおけるインターネット情報と名誉毀損─ 」)。藤田訳を参考に以下、訳を載せます

a)認定 合衆国議会は,以下のことを認定する。
( 1 )個々のアメリカ人にとって利用可能なインターネットおよびその他のインタラクティブ・コンピュータ・サービス(interactive computer service)の急速な発展的配列は,我われ市民にとっての教育および情報資源の利用可能性に驚くべき進展を演じている。
( 2 )これらのサービスは,技術が発展する将来における以前に増して大きな管理の可能性と同様,ユーザーに彼らが受け取る情報に対する非常に多くの管理を提供している。
( 3 )インターネットおよびその他のインタラクティブ・コンピュータ・サービスは,政治的議論の真の多様性のためのフォーラム,文化的発展のための独特な機会,および知的活動のための無数の手段を提供している。
( 4 )インターネットおよびその他のインタラクティブ・コンピュータ・サービスは,全てのアメリカ人の利益のために,必要最小限度の政府規制をもって繁栄してきている。
( 5 )これまで以上にアメリカ人は,さまざまな政治的,教育的,文化的および娯楽的サービスのために対話型メディアに依存しつつある。

(b)政策 以下の各号に定める事項をもって合衆国の政策とする。

( 1 )インターネットおよびその他のインタラクティブ・コンピュータ・サービス並びにその他の対話型メディアの継続的発展を推し進めること。
( 2 )連邦又は州の規制に服することなく,現在,インターネットおよびその他のインタラクティブ・コンピュータ・サービスにとって存在する活気に満ちた競争的自由市場を保持すること。
( 3 )インターネットおよびその他のインタラクティブ・コンピュータ・サービスを利用する個人,家族および学校によって受け取られている情報に対するユーザーのコントロールを最大限にする技術の発展を奨励すること。
( 4 )子どもたちが好ましくない,若しくは不適切なオンライン上の資料にアクセスすることを両親が制限することができるブロッキング(blocking)およびフィルタリング(filtering)の開発並びに利用を妨げるものを排除すること。
( 5 )コンピュータによる猥褻行為,ストーカー行為,およびハラスメントをやりとりすることを妨げ,および処罰するために連邦刑事法の確固たる執行を確保すること。

同条(c)は、「オフェンシブな情報を制限・排除する良きサマリア人の保護 」というタイトルのもと

(1)公表者としての取扱い

インタラクティブ・コンピュータ・サービスのいかなるプロバイダ又はユーザーも、他の情報コンテンツプロバイダー(information content provider)によって提供された情報について、パブリッシャーとして取り扱われてはならない

(2)民事責任

いかなるプロバイダも以下のことを理由として責任を負わされてはならない

(A)下品、わいせつ、煽情的、卑猥、過剰に暴力的、嫌がらせその他問題があるとプロバイダが考える情報(略)に対するアクセス又は当該情報の利用を制限するために善意でとられた行動

(B)前段落所定の情報に対するアクセスを制限する技術的手段を実現するためにとられた行動(略)

と定めています。

ここで定められる情報コンテンツプロバイダーなどの定義については、同条(f)定義の規定は、

(f)定義
本項で使用する
(1)インターネット
「インターネット」とは、連邦および連邦以外の相互運用可能なパケット交換データネットワークの国際コンピュータネットワークを意味する。

(2)インタラクティブコンピュータ・サービス
「インタラクティブコンピュータ・サービス」とは、コンピュータ・サーバーへの複数のユーザーによるコンピュータ・アクセスを提供または可能にする情報サービス、システム、またはアクセス・ソフトウェアのプロバイダーを意味し、特にインターネットへのアクセスを提供するサービスまたはシステム、および図書館または教育機関が運営または提供するシステムを含む。

(3)情報コンテンツプロバイダー
「情報コンテンツプロバイダー」とは、インターネットまたはその他の双方向コンピュータサービスを通じて提供される情報の作成または開発に、全体的または部分的に責任を負う個人または団体をいう。

(4)アクセスソフトウェア提供者
アクセス・ソフトウェア・プロバイダー」とは、ソフトウェア(クライアント・ソフトウェアまたはサーバー・ソフトウェアを含む)のプロバイダー、または以下のいずれか1つ以上を行うツールを可能にするプロバイダーをいう:
(A)コンテンツのフィルタリング、選別、許可、または不許可;
(B)コンテンツを選択、選別、分析、または消化する。
(C)コンテンツの送信、受信、表示、転送、キャッシュ、検索、サブセット、整理、再編成、または翻訳。

と定めています。ちなみに、

同条(d)は、「インタラクティブコンピュータサービスの義務

インタラクティブコンピュータサービスのプロバイダーは、インタラクティブコンピュータサービスの提供について顧客と契約を結ぶ際に、プロバイダーが適切と判断する方法で、未成年者にとって有害な素材へのアクセスを制限するのに役立つペアレンタル・コントロール保護機能(コンピュータのハードウェア、ソフトウェア、またはフィルタリング・サービスなど)が市販されていることを、当該顧客に通知しなければならない。当該通知は、当該保護の現在のプロバイダを特定するか、または当該プロバイダを特定する情報へのアクセスを顧客に提供するものとします。

としています。同条(e)は、他の法律(刑法・知的財産法・州法・電子通信プライバシー法・性売買禁止法)への効果なので、省略。

条文上としては230条(c)(1)の免責は、プロバイダ自身が論争されているコンテンツを開発した、あるいは開発を支援した場合には適用されないことを意味しています。また、一方、230条(c)(2)の免責は、コンテンツへのアクセスを制限するというサービスプロバイダの決定が善意でなされたものでない場合には適用されない可能性があることになります。

また、上述の複雑な制定経緯に基づいて

CDAの背後にある競合する目的は、その規定がいかに曖昧であるかを示している。例えば、第230条は「インターネットの自由と家族のエンパワーメント法」の一部として制定されたのではなく、コックスとワイデンの個人的な意図を正確に反映した、プラットフォームとユーザーのコントロールを強調するタイトルである。ダニエル・シトロンやベンジャミン・ウィテスが観察しているように、この法案は「通信品位法」の一部として制定されたのである。しかし、このタイトルは「言論の自由」の文言と並存しており、法廷にとっては、まったく矛盾していないとはいえ、不可解な文章となっている。したがって、一部の裁判所が行っているように、230条制定における議会の最優先の目的として「新しく急成長するインターネットメディアにおける言論の自由」の促進を挙げるのは間違いである。

とされています(上記Rozenshtein論文)。

直後にこの解釈が問題となったのが、Zeran v. America Online, 129 F.3d 327(4th Cir. 1997)です。ケネス・ゼランは、AOLの掲示板に書き込まれた一連のメッセージによって、オクラホマ・シティの爆破テロ事件と自分を結びつけられてしまい、人生がひっくり返された普通の人が、AOLにこの内容を何度も伝え、問題のメッセージを削除するよう求めたが、AOLはこれを拒否した。ゼランは、自分に関する虚偽のメッセージに適切に対応しなかったAOLの過失を主張して訴えたという事件です。

ゼランは、第230条があるためにAOLが違反メッセージについて知っていたか否かにかかわらず、出版社が負うような厳格な責任があると主張することはできなかった。そこでゼラン社は、AOL社は配信者としての責任がある、つまり、ゼラン社がAOL社にメッセージのことを伝え続けていたことから、AOL社はメッセージのことを知っていたのだと主張しました。

しかしながら、裁判所は、230条は出版者の責任にのみ適用され、狭く読まれるべきだというゼラン社の主張を退けました。

まず、配信者責任は出版者責任のサブセットであり、したがって、プラットフォームをサードパーティコンテンツの出版者として扱うことに対する230条の禁止は、プラットフォームをそのコンテンツの配布者(distributor)として扱おうとする試みにも及ぶと主張した。裁判所は主に影響力のある現代の不法行為法に関する論説に依拠しました。

この論説では、「公表(パブリッシュ)」の定義が特に広く用いられており、配信者(この論説では「二次的出版者」と表現されている)によるものも含め、中傷的な内容のあらゆる送信行為を表現している。したがって、新聞社が中傷的な内容を送信した場合に厳格な責任を問われるのに対し、書店が責任を問われるのは知識があった場合に限られるという事実は、出版社の種類による責任の違いに過ぎない。

第2に、裁判所は、第230条の所見と政策声明を引用し、第230条を制定した議会の目的は、「不法行為に基づく訴訟が、新しく急成長しているインターネットというメディアにおいて言論の自由にもたらす脅威」に対抗することであったと裁判所は主張した。このような言論が盛んな分野で不法行為責任を問われることは、明らかに言論を抑制する効果がある」ため、裁判所は「議会は言論の利益の重さを考慮し、そのような制限的効果を避けるためにサービスプロバイダーを免責することを選択した」と主張しました。また、配信者責任は、プラットフォームが「中傷の可能性のある発言の通知を受けるたびに」潜在的な責任を負うことになるため、プラットフォームは、「内容が中傷的であるかどうかにかかわらず、通知を受けた時点でメッセージを削除するだけの自然な動機」を持つことになる。したがって、”厳格責任と同様に、通知による責任はインターネット上の言論の自由を抑制する効果がある”。

この判決においては、インターネットのポスティングが大量に及ぶことなどから、ISPに判断の負担を課すわけにはいかないことなどを理由として、ISPが名誉毀損の内容を知っていた場合であっても同条の免責が及ぶものとされた。同条は、配布者(distributor)の概念を不要として、結局きわめて広い場面に免責が適用されるように解釈されるようになったのです。

その後、この抗弁が、SNSに対して適用された事例として、Doe v. MySpace,Inc事件(528 F.3d 413 (2008))があります。この事件は、娘が、年齢を偽ってMySpaceに登録していた場合に、その娘が、MySpaceで知り合った男性とデートに出かけ、その際に性的暴行を受けたとして、MySpaceに対し、(必要な安全管理措置をとっていなかったとして)不法行為(ネグリジェンス等)を理由として提起した裁判でになります。裁判所は、この事件に対し、上記事案を挙げながら、安全管理措置をとっていない場合には、連邦通信品位法第230条(c)が適用されないというのは狭い解釈であるとして、被告の抗弁を認めました、また、原告の主張を認めると、プロバイダが対抗措置を採用した場合に、それに対して責任を追求することは認められないという同条(c)(2)(A)にも反することになるともしました。

1.2.3 通信品位法230条の適用範囲をめぐる議論

1 文献

その後、この様な免責がどのような場合に適用されるべきかという点についての判決例が積み重なっています。

日本語でふれたもので平野 晋免責否認の法理(『通信品位法』230条)イースターブルック(主席)裁判官担当の「GTE Corp.」「Craigslist」事件から、コジンスキー主席裁判官担当の「Roommates.com」事件まで」があります(2014)。

英語での文献をみると、さらに最近の議論の動向にふれるものとして

が公表されています。

2 判決例・議論の動向

上の文献をもとに、いろいろな論点をみていきます。

(1)現代的なサービスの位置づけ

1995年の段階では、懐かしのコンピュサーブ(https://ja.wikipedia.org/wiki/CompuServe)やAOL(アメリカ・オンライン)の時代でした。グーグルの創業が、1998年だそうです。その後、フェースブック(2004年創業)、ツイッター(2006年創業)などのSNSが、インターネット上におけるサービス主力になっていくわけです。

アメリカ最高裁もこれらのサービスについて、上記第230条におけるインタラクティブ・サービス・プロバイダであることを認めています。

  • ヤフー(Cecilia L. BARNES, Plaintiff-Appellant,v.YAHOO!, INC., a Delaware Corp., Defendant-Appellee.570 F.3d 1096 (2009))
  • フェイスブック(Larry Elliott KLAYMAN, Appellant v. Mark ZUCKERBERG and Facebook, Inc., Appellees.753 F.3d 1354 (2014))
  • ツイッター(Tamara FIELDS, et al., Plaintiffs,v.TWITTER, INC., Defendant.217 F.Supp.3d 1116 (2016))
  • クレイグズリスト(CHICAGO LAWYERS’ COMMITTEE FOR CIVIL RIGHTS UNDER LAW, INC., Plaintiff-Appellant, v. CRAIGSLIST, INC., Defendant-Appellee.519 F.3d 666 (2008))

(2)最高裁判所の判断

でもって、最高裁判所は、SNSに対しての通信品位法の第230条(c)がどう適用されるのか、という点について、何かいっているのか、という問題になります。これについての判断は、Twitter, Inc.対Taamneh事件( 598 U.S. 471 (2023))とGonzalez対Google事件(598 U.S. 617 (2023))になります。

Twitter, Inc.対Taamneh事件( 598 U.S. 471 (2023))

これは、テロ支援者に対する司法法によって改正された反テロリズム法では、テロ行為によって負傷した米国人は、「故意に実質的な援助を提供することによって」国際テロを「幇助」した者を訴えることができるとなっているのに基づいて原告は、2017年にトルコのイスタンブールのナイトクラブでISISによるテロ攻撃が発生した際に発生した死亡事故について、ISISとその支持者がツイッターの推奨アルゴリズムをリクルートと資金調達のツールとして使用することを故意に許可することによって、ツイッターが2017年のテロ攻撃に実質的な援助を提供したと主張しました。

この主張に対して、最高裁判所は、トーマス判事による全会一致の意見で、原告(襲撃事件の犠牲者の家族)は十分な主張を述べていないと結論づけました。つまり、ISISが問題の具体的な攻撃を計画するためにツイッターやその他のソーシャル・メディア・プラットフォームを利用したという証拠はなく、テロ集団が一般的にテロ活動を促進するためにツイッターを利用していることを知っていただけでは、幇助と認定するには不十分であると判断したのです。

反テロ法に基づく幇助責任を成立させるためには、「意識的、自発的、かつ有責な他人の不正行為への参加」が必要である。ISISがツイッターの推奨アルゴリズムを利用するのを防げなかったというツイッターの主張は、そのような過失を立証するには不十分であった。裁判所が述べたように、「これらのアルゴリズムがISISのコンテンツを一部のユーザーにマッチングさせたという事実は、被告の消極的な援助を積極的な教唆に変えるものではない」(議会調査サービス報告)

Gonzalez対Google事件(598 U.S. 617 (2023))

この事件は、原告(2015年にパリで発生したISISによるテロ事件の被害者の両親)は、(Googleが所有する)YouTubeを含むオンライン・プラットフォームが、そのアルゴリズムを通じて第三者のコンテンツをユーザーに推奨した責任を負うべきだと主張しました。具体的には、グーグルはテロ組織がYouTubeに何百もの動画を投稿することを許可し、またアルゴリズムを通じて視聴者に同様のコンテンツを推奨することで、ISISを故意に支援したと主張したのです。

第9巡回区で発生し、同法廷は230条によって請求が禁じられると判断しており、これに対して上訴が許可されたのでした。最高裁は、結局、「救済を求めるもっともらしい主張をほとんど述べていないと思われる訴状に対する230条の適用を取り上げることは辞退する。」としました。すなわち、事実が反テロ法に基づく責任の主張を裏付けるものではなかったため、そのような主張が230条によって禁止されるかどうかを裁判所が判断する必要はなかったというのです。

このように最高裁判所は、正面から、SNSと230条(c)との関係についてふれていません。

(3)裁判例とその傾向

これについては、第230条(c)の条項ごとにみています。

第230条(c)(1)

この規定については、

裁判所はこの規定を広く解釈し、後述する明示的な例外を除けば、原告が他人の情報の「公表者(パブリッシャー)として」プロバイダの責任を追及する訴訟において、第230条(c)(1)の免責が適用される可能性があるとしている。

とされています。

一般論についての判例理論は、230条は免責に有利に広く解釈される(Force v. Facebook, Inc., 934 F.3d 53, 64 (2d Cir. 2019))。そして、グーグルやビングのような検索エンジンは、双方向コンピュータサービスのプロバイダーの定義に含まれる。FTC v. LeadClick Media, LLC, 838 F.3d 158, 174 (2d Cir. 2016); Marshall’s Locksmith Serv. Inc. v. Google, LLC, 925 F.3d 1263, 1268 (D.C. Cir. 2019)(「双方向コンピュータサービス」の定義がグーグルに適用されると判示)。情報の公表者または発言者として扱われることに関しては、230条は「(プラットフォームからの)コンテンツの監視、選別、削除に関する決定-公表者の役割に本質的に関連する行為-」に対する責任を「特に禁止」している。Green v. Am. Online (AOL), 318 F.3d 465, 471 (3d Cir. 2003)。

その結果、230条は、「双方向コンピュータ・サービスが、オンラインに投稿するために提供されたと思われるユーザー生成コンテンツを編集またはブロックしなかったことに帰着させることができる」いかなる請求も禁止している。Fair Hous. Council of San Fernando Valley v. Roommates.com, LLC, 521 F.3d 1157, 1172 n.32 (9th Cir. 2008)。

これの限界は、いろいろなサービスのプロバイダーが「「公表者(パブリッシャー)」に該当するのか、という問題になります。Moss論文では、「ホームシェアリング」規制について、これが、230条(c)(1)の「公表者」の責任免除の規定と衝突するものではないという判断を紹介しています。

また、この定めが制限していないのは、サービス・プロバイダが、そのサービスが作成した、あるいは開発を支援したコンテンツに対して責任を問う場合には、この責任免除の規定ばて起用がなされず、責任を負う可能性があるということになります。

ウェブサイト運営者が単にコンテンツを公開するだけでなく、その代わりに「全体的または部分的に、コンテンツの作成または開発に責任を負っている」場合には、230条の保護は適用されない。Roommates.com, 521 F.3d at 1162; 47 U.S.C. § 230(f)(3)を参照のこと。

となります。

この点についてJones v. Dirty world entertainment recordings llc.)528 F.3d 413 (5th Cir. 2008) http://www.ca5.uscourts.gov/opinions%5Cpub%5C07/07-50345-CV0.wpd.pdfがあります。これは、シンシナティベンガルズのチアリーダーで、学校の教師だったサラ・ジョーンズ氏が、www.TheDirty.comという匿名での掲示板に、彼女の誹謗中傷をする投稿がなされたのに対して、その掲示板の管理者であるニック・リッチー氏と運営会社であるDirty World社を訴えた事件になります。

連邦地方裁判所は、通信品位法第230条(c)の抗弁を認めずにJones氏の請求を認めましたが、これに対する控訴の判断です。控訴裁判所は、この抗弁は、情報インタラクティブ・プロバイダが、問題のコンテンツの情報コンテント・プロバイダでない場合に限ってのことであるとしました。そして、コンテント・プロバイダであることとサービスプロバイダであることは、両立しうるとし、もし、ウェブサイト管理者が、コンテンツの創作若しくは発展(development)に、部分的に影響があれば、その点については、責任を負うべきであるとした。そして、この事件については、同法230条(f)(3)の解釈として、「発展(development)は、単に、コンテンツに対する議論に言及することを指すのではなく、主張された違法性に主として貢献する(to materially contributing)」ことをいうとの判決例(Fair Housing Council of San Fernando  v. Roommates.com, LLC)(521 F.3d 1157 (9th Cir. 2008) を採用した。そして、明確にこの事件における被告側の「主たる貢献」を否定し、責任を否定したのです。

あと、Moss論文によれば、

サービス・プロバイダーが「コンテンツについて何が不快であるかの開発を具体的に奨励した」場合には、サービス・プロバイダーは責任を負う可能性があるとした例もある。

ともいえます。

もっとも、Moss論文によると

サービス・プロバイダーが違法とされるコンテンツの開発を助けたという理由で、第230条(c)(1)の免責が適用されないとした裁判例は比較的少ない。

とされています。

230条(c)(2)

第2の免責規定である230条(c)(2)は、双方向サービス・プロバイダーとユーザー、およびオンライン・コンテンツをフィルタリングする「技術的手段」を提供する広告ブロックのようなサービスは、不愉快なコンテンツへのアクセスを制限するために善意で自発的に行動しても責任を問われないと述べるものです。

ある裁判所は、230条(c)(2)はサービスプロバイダーが「不快なものをフィルタリングしている」場合に適用され、230条(c)(1)はプロバイダーが「サイト上の情報のフィルタリングや検閲を控えている」場合に適用されると説明しています。しかしながら、現在の傾向としては

裁判所は、サービス・プロバイダーが特定のコンテンツを削除する決定をしたことを前提とする訴訟を却下する際に、この2つの規定の区別を崩し、230条(c)(1)を引用することがある。

ともされています。もっとも、これらは、削除した場合のプロバイダーの責任に関する議論なので、本件のように削除していない場合との関連性は薄いといえるでしょう。

(4)制定法の動向

上記現在のインターネットのサービスは、ユーザの書き込みなどのコンテンツに対しても、アルゴリズム等により推奨する段階で、プロバイダーの関与がなされています。それに対して、その関与に対して、一定の場合に結果責任を課すべきではないかという点から考えていくと、除外規定を定めるべきではないか、いうことになります。

第230条(e)は2018年にFOSTAによって(5)基礎となる行為が性売買を禁止する特定の連邦法に違反する場合の特定の民事訴訟または州訴追が追加されています。

例えば、FOSTA以前は、様々なサービス・プロバイダーが、性売買を目的とする連邦法および州法の下で責任を問われるかどうかに関して、裁判所によって見解が分かれていました。ほとんどの裁判所は、230条に基づき訴えを却下すべきであると結論づけたが、いくつかの裁判所は逆の結論を下し、サービス・プロバイダーがサイト上で公開された違法コンテンツの開発を支援したと原告が主張しているため、特定の訴えを続行できるとしました。

そして、連邦議会は、FOSTAを通じて、いくつかの性売買犯罪については、サービス・プロバイダーが違法行為に重大な貢献をしたか否かにかかわらず、第230条の免責を受けられないとしたのです。(もっとも、このことは必ずしもサービス・プロバイダーがいかなる訴訟においても最終的に責任を負うことを意味するわけではなく、230条を抗弁として利用できなくするだけです)。

もっとも、FOSTAについては、ウッドハル・フリーダム・ファウンデーション対合衆国訴訟()が提起されています。この事件において、多くの原告が、FOSTAによって新たに設けられた禁止事項の一部が憲法修正第1条に違反すると主張しています。彼らは、売春を「促進」または「助長」するオンライン・サービスに刑事および民事責任を課すことによって、議会は保護された言論に違憲の罰則を科すと主張した。

連邦地裁は手続き上の理由から、原告には原告適格がないと結論づけ、訴訟を棄却した。しかし、判決の過程で裁判所は、「促進する」および「助長する」という用語を原告側が示唆したよりも狭く解釈し、「FOSTAは、売春やセックスワークという抽象的な話題ではなく、違法な売春という具体的な行為を対象としている」と述べた。この狭義の解釈により、連邦法の修正第1条の懸念が軽減される可能性がある。この判決は上訴されている。

(5)議論の動向

230条(c)(1)の免責については、解釈上も、政策上も、いろいろな議論が存在しています。

解釈上としては、プロバイダ自身が論争されているコンテンツを開発した、あるいは開発を支援した場合には適用されないとしても、それが、どのような場合をいうのか、がわからず、もっと明らかにすべきではないかということです。

一方、政策論としては、免責規定を限定する必要はないという立場からは、

  • 言論の自由への懸念から、インターネット・コンテンツの規制には慎重であるべきだとする意見
  • 上記のFOSTAによって新たに設けられた禁止事項の一部が憲法修正第1条に違反すると考えるべきという意見

があります。

一方、免責規定を限定して解すべきという立場からは、

  • 免責はプラットフォームのコンテンツモデレーションポリシーとそれらがどのように執行されるかについての透明性を条件とすべきだとする意見
  • 他の議員は、より大規模なオンライン企業や特定の種類のコンテンツに対する除外規定を設けること、オンラインプラットフォームに対して、そのようなコンテンツが違法であるという通知を受けた時点で特定のコンテンツを削除することを義務付けること、州の刑法に対する除外規定を追加すること、または連邦刑法が拡大することなどの改革提案
  • 有料広告やその他のスポンサードコンテンツに対するプラットフォームの免責を撤廃することで、230条の範囲を制限・オンラ詐欺の被害者が特定の条件下でプラットフォームに責任を問えるようにする提案

がなされているとされます(Moss論文)。

1.2.4 詐欺広告掲載の230条免責

ここで、詐欺広告掲載の230条免責についてかんがえることにします。一般的な議論の論文としては、「不正投資詐欺広告への230条免責特権」というブログ記事があります。

一般的な理論としては「ウェブサイト運営者が単にコンテンツを公開するだけでなく、その代わりに「全体的または部分的に、コンテンツの作成または開発に責任を負っている」場合」か、どうかが問題になるということになります。この理論と詐欺広告掲載のプラットフォームに適用がされるのかという問題として議論されています。

グーグルの詐欺広告

Ynfante v. Google LLC, No. 22-cv-6831, 2023 WL 3791652 (S.D.N.Y. Jun. 1, 2023)では、原告はGoogle Adsとして知られるGoogleのオンライン広告プラットフォームに掲載された詐欺「フィッシング」広告に関連して、虚偽広告と過失によりGoogleを提訴しました。Ynfante氏は、グーグルがグーグルの広告ポリシーに基づき、詐欺広告の真偽や正当性を適切に審査・検証することなく、詐欺広告を承認したと主張した。

裁判所は、230条の免責は、グーグルが詐欺広告に対して「審査・検証」する義務があったという巧みな弁明によって回避することはできないと指摘し、予断を持たずに請求を棄却しました。

関連判決として

  • Kimzey v. Yelp!Inc., 836 F.3d 1263, 1266 (9th Cir. 2016)(「他サイトの(否定的な)レビューを自社のページに表示させた」こと、および「(検索エンジンの)プロモーションとして発言を表示させた」ことに対してYelpに責任を負わせようとする原告の試みを、第230条を回避するために考案された「創造的な弁論」として却下)
  •  Goddard v. Google, Inc、 No. 08-cv-2738, 2008 WL 5245490, at *4 (N.D. Cal. Dec. 17, 2008)(「不正なモバイルコンテンツプロバイダーからの汚染された資金の受け入れ」に対してグーグルに責任を負わせようとする原告の試みは、基本的にグーグルがサードパーティのコンテンツを公開したことに基づく請求の「許されない再特定化」であると認定)。

グーグルが詐欺広告の開発に一部責任を負っていたかどうかについては、第2巡回区における被告は、「(第三者の)コンテンツ自体を違法なものにすることに直接かつ重大に貢献」している必要がある(Force, 934 F.3d at 68)として、このテストは、「一方では、実行可能なコンテンツを表示するための行動をとることと、他方では、表示されたコンテンツ自体を違法または実行可能なものにするものに対する責任との間の決定的な区別に線を引く」ものであるといい、グーグルが主張する行為は、詐欺広告の内容にも、その違法性にも、直接的かつ重大な貢献はしていない。公式の「広告」ラベルのような機能は、代わりに「ウェブサイトをナビゲートするための中立的なツール」であり、「適切または不適切な目的のために(他者が)利用できる枠組みを提供しているにすぎない」。Roommates.com, 521 F.3d at 1172, 1174 n.37を参照。言い換えれば、グーグルは広告の内容そのものをより違法なものにするようなことは何もしていない。むしろ、被告の主張する行為は、広告を広告として区別する役割を果たしたに過ぎない。

したがって、裁判所は、原告の請求はCDA230条によって禁止されていると判断しています。

Thomas P. Howard, LLCの弁護士は、コロラド州を含む全国で訴訟を行っています。

フェースブック(メタ)に対する広告詐欺訴訟事件
事案

これについてのブログは、「メタが、フェースブック利用者の投資詐欺広告クラスアクションに勝利(Meta Beats Facebook Users’ Scam Ad Class Action)」 になります。

ここで、紹介されている事件は、Calise v. Meta Platforms, 2022 WL 1240860 (N.D. Cal. 2022)になります。

原告らは、フェイスブックに掲載された様々な詐欺広告に騙されたと主張した。具体的には、原告らは、フェイスブック上に表示された第三者の広告をクリックした後、受け取った覚えのない商品(安っぽい木製の『ABC』パズル)を購入したとし、メタ社は「詐欺広告主を積極的に勧誘、奨励、支援しており、メタ社は詐欺師が自社のプラットフォームを使ってユーザーを欺く広告を出していることを知っている、あるいは知っているはずである」ため、同社のプラットフォームで行われている虚偽広告について責任を負うべきだと主張しました。

メタ社は、原告の請求は通信品位法230条によって禁止されている、また、メタ社は、原告らが個々の請求について訴因を述べていないと主張し、訴えの却下を求めました。

その意味で、上記の日本での訴訟類型に近い形になります。

分析

これについて裁判所は、訴状が救済を認 められる請求を述べていない場合については、連邦民事訴訟規則 12 条(b)(6)に基づき却下の申し立てが適切とされること、これは、”訴状に記載された申し立てに限定され、それらは真実と認められ、原告に最も有利な観点から解釈される”こと、「表面上もっともらしい救済の主張を述べるのに十分な事実」を主張しなければならないこと,「原告が、被告が申し立てられた違法行為に対して責任を負うという合理的な推論を裁判所に可能にするような事実内容を主張するとき、その主張は顔面においてもっともらしいものとなることをふれています。そして、主張の記載が不十分な場合、裁判所は、補正が無益でない限り、補正の許可を与えるべきであるとしています。

このような前提にふれたあと、裁判所は、通信品位法第230条について検討します。上記でふれたように

  • 合衆国法典第47編第230条(c)(1)。免責は、「(1)原告が州法の訴因に基づいて、(2)双方向コンピュータ・サービスのプロバイダまたはユーザを、(3)他の情報コンテンツ・プロバイダによって提供された情報の発行者または発言者として扱おうとする場合」に存在すること。Dyroff v. Ultimate Software Grp., Inc., 934 F.3d 1093, 1097 (9th Cir. 2019) (Barnes v. Yahoo! Inc., 570 F.3d 1096, 1100-01 (9th Cir. 2009)を引用)。
  • 一般的に、本条項は、他人がウェブサイトに投稿した素材に対する責任からウェブサイトを保護すること Doe v. Internet Brands, Inc., 824 F.3d 846, 850 (9th Cir. 2016)。
  • 当事者はMetaがインタラクティブコンピュータ・サービス・プロバイダーであることに異議を唱えておらず、争いのないこと
  • 第三者が問題のコンテンツを作成したことに異論はないこと

原告は、

Metaが第三者の広告コンテンツの「発行者または発言者」として扱われるべきであるということである。原告は、メタ社は詐欺師であることを知っている、あるいは知るべき第三者の広告主を積極的に勧誘し、そのプラットフォームに広告を掲載するよう奨励しており、この奨励がメタ社の免責を奪っているため、メタ社は第230条免責を受ける権利がない

と主張しています。しかしながら、裁判所は、

原告の主張は、メタ社が問題の特定の広告の違法性に重大な貢献をしたことを立証するものではない。原告は、メタ社が広告主に特定の内容の掲載を要求したり、広告の内容について提案したり、違法な広告の作成に関与したとは主張していない。また原告は、第三者のウェブサイトで行われたとされる不正な購入取引にメタ社が直接関与したとも主張していない。従って、申し立てでは、Metaが訴訟対象となるコンテンツに責任があることを示すものではない。原告の申し立ては、せいぜい、Metaがそのプラットフォームで広告を出すよう第三者を奨励し、勧誘したことを立証するものである。しかし、Metaが広告主と関係を築き、そのプラットフォームへの掲載を奨励したという事実は、Metaを申し立てられた違法な広告コンテンツの作成者に変えるものではない。Roommates, 521 F.3d at 1174を参照のこと(「ウェブサイトが申し立てられた違法性の開発に直接参加していることが非常に明らかな場合……免責は失われる」)。原告は、Metaが異議を申し立てられた広告の違法性に貢献したことを示す事実を主張しておらず、したがってMetaは230条免責を受ける権利がある。

と判断しています。

また、原告は、メタ社が不正な広告を削除せず、広告ポリシーの徹底を怠ったため、第230条の免責は適用されないと主張していたのですが、これに対してMeta社は、第三者のコンテンツを削除しないという決定について、第230条の責任を問われることはないとしています。これについては、

  • 第三者のマテリアルのオンラインへの「(投稿を)防止するか否かを決定すること」は、CDAがカバーする「まさにその種の活動」であると説明
  • 「フェイスブックは、単に疑わしいアカウントのコンテンツを確認し、それを削除しないと決定したことによって、230条(c)(1)の『情報コンテンツ提供者』になったわけではない」)Roommates, 521 F.3d at 1170やCaraccioli v. Facebook, Inc., 700 Fed.Appx. 588, 590 (9th Cir. 2017)
  • インタラクティブ・サービス・プロバイダーが広告ポリシーの適切な実施を怠った場合、第230条の免責を失うという主張を退けていること(Goddard v. Google, Inc., No. C 08-2738-JF, 2008 WL 524590, at *3 (N.D. Cal. Dec. 17, 2008)(「第三者が違法なコンテンツを作成するためにそのようなツールを使用していることをサービスプロバイダーが知っていたとしても、サービスプロバイダーが介入しなかったことは免責される。(Ripple Labs Inc. v. YouTube LLC, No. 20-2747-LB, 2020 WL 6822891, at *2, 7 (N.D. Cal. 2020)(詐欺の通知を受けた後、詐欺とされるチャンネルを削除しなかったにもかかわらず、被告には第230条免責の権利があると判断)も参照のこと。) )

を理由としてもあげています。

もっとも、裁判所は、原告側が “メタ社の行為は単なる公表にとどまらない “と主張する可能性があることを認め、原告側に訴状を修正する許可を与えた。裁判所は、もし原告がメタ社が「違法とされる広告コンテンツの作成または開発」に関与していたことを立証できれば、230条免責は適用されないかもしれないと説明した。

1.2.4 アメリカでの裁判の行方とコメント

Calise v. Meta Platforms, 2022 WL 1240860 (N.D. Cal. 2022)の判決例を前提とする限り、米国では、メタ社が、公表者であるということを前提にする請求は難しいかもしれません。

ただし、著名人が直接、名誉毀損されている、もしくは、その顧客吸引力を悪用されているという場合に、本人が、そのような広告はやめてほしいといった場合に、インターネット媒介者が、努力をして、これをやめるということは、媒介者が、最小限コスト回避者であるという観点からきわめて合理的な判断とされるかと思います。

この点については、

で検討したところです。ポイントを図示しましょう。

これをみれば、前澤氏から、警告を受けたあとのメタについて考えれば、当該広告が前澤氏という著名人の顧客吸引力を濫用していることに気がつくのですし、また、お得意の顔認証で、その写真が、前澤氏の写真を承諾なしに利用していることに容易に気がつくわけです。そうだとすると、解釈として、一般の人が投資詐欺に会う場合に発生するコストをきわめて安価にメタは停止しうる立場にあるわけです。そうだとすると、このインターネット媒介者に対する削除要求があったあとは、メタに削除のために努力すべき義務を認めるべきだろうと思います。

これを解釈論に引き直すときに、そもそも、コモンローからいえば、「公表者」としての責任と「配給者」としての責任は異なっているのにふれました。そもそも、条文は、「公表者」としての責任追求ができなといっているにすぎません。そもそもタイトルも「オフェンシブ(offensive)な資料(material)のプライベートなブロッキングおよびスクリーニングへの保護」なわけです。なので、監視にもとづくブロッキング・スクリーニングができないといっているだけで、削除要求による違法な情報の削除ができないとはいっていないわけです。(その意味で、第三者のマテリアルのオンラインへの「(投稿を)防止するか否かを決定すること」は、CDAがカバーする「まさにその種の活動」であると説明という判決との違いとしては、著名人の写真を用いるという違法な情報という点で問題があるということをいうべきと思います。)

その場合は、具体的に違法な情報であるということが判明したあと以降も、それを配給し続けるというメタの行為については、「直接かつ重大に貢献」しているという形で解釈を柔軟に対応して230条(c)責任制限の規定の適用はないということにすべきかと思います。

個人的には、前澤対メタ事件の判決が、アメリカの司法制度で、この論点にについてのインターネット媒介者の結果責任についての詳細な議論を導くものとなることを期待したいと考えています。

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