取締役会の議事録承認 クラウドで電子署名 法務省、手続き簡素に

「取締役会の議事録承認 クラウドで電子署名 法務省、手続き簡素に」という日経新聞の記事がでています。この記事のポイントは、いわゆる立会人型であっても認められるというところです。

私のブログ(「電子署名の概念整理(当事者型対クラウド型(リモート署名・立会人型)」)で書いておきましたが、現在の主流は、クラウドで、意思表示がなされて、それが改ざんされていないことを確かにする手法です。

でもって、立会人型が入るとすると、具体的に、条文との関係は、どう整理されているのでしょうか。そもそも、リモート署名と立会人型の関係がチャントわかった上での記事なのでしょうか、という疑問がでてくるわけです(すみません>日経新聞さん)

まず、この整理をきちんと考えるのには、第11回 成長戦略ワーキンググループの資料をみないといけません。

論点に対する回答(1-3)です

法律上,出席した取締役及び監査役の署名又は記名押印に代わる措置をとらなければならないこととされているが(会社法(平成17年法律第86号)第369条第4項),省令において,その措置は電子署名の方法によるものとされている(会社法施行規則(平成18年法務省令第12号)第225条第1項第6号)。当該電子署名の要件としては,電子署名及び認証業務に関する法律(平成12年法律第102号。以下「電子署名法」という。)第2条に規定する電子署名の要件と同じ要件が定められており(会社法施行規則第225条第2項),その範囲は電子署名法における電子署名の範囲と同様に解される。

そのとおりです。ただし、ここでポイントなのは、2条の広義の電子署名によっていることです。この点については、「リモート署名は電子署名である&クラウド型電子契約にお墨付き」というエントリで分析しています。

要は、「措置を行った者の作成に係るものであることを示すためのもの」とは、「何か「効果意思」をもって、表明すること」で足りるのであって、特定の技術的なもので確保する必要はない、ということかと思います。

アメリカですと、電子メールとかでも大丈夫ですし、電話のイエスの時は、※でも、電子署名になります。わが国ですと、もうすこし、意味があることを求めているように思いますが、特定の技術的措置(公開鍵暗号技術とかのようなもの)は、必要ないとしめされていると思われます。

そうだとすると、上の回答(1-3)の続きの趣旨がわからなくなります。

「電子契約事業者が利用者の指示を受けて電子署名を行うサービス」
は,電子契約事業者が自ら電子署名を行うサービスであって,当該サービスによる電子署名は,電子契約事業者の電子署名であると整理される。

このように整理される場合には,出席した取締役又は監査役が「電子契約事業者が利用者の指示を受けて電子署名を行うサービス」を利用して電磁的記録をもって作成された取締役会の議事録に電子署名をしても,当該電子署名は取締役等の電子署名ではないこととなり,会社法第369条第4項の署名又は記名押印に代わる措置としては認められないこととなると考えられる。

となります。

しかしながら、この「当該サービスによる電子署名は,電子契約事業者の電子署名であると整理される」という文言は、実際の立会人型を誤解している整理であるように思えます。

実際の運用では、署名欄がでてきて、最後にサインをマウスでしたりしますし、そうでなくても、「以上のような書類にサインします。間違いないですか」という問がでて、それをクリックするという画面の作りになっています。これを「プロバイダに指示をして、措置をする」と理解するのは、私としては、考えられません。ここで、立会人型の図をもう一度出します。

送信者Aから、ドキュメントに対する矢印は、ドキュメントを確認して、Aが「効果意思」をもって、表明する電子的措置を、直接にドキュメントになしていることを意味しています。

このような仕組みを認識した上で、上のように整理していたのかはわかりませんが、実際の運用に対する誤解がある整理だと思います。

なので、反省したのかどうか、事実上、上の整理が撤回されて、結局、記事にあるように立会人型であっても、上の369条第4項の「署名」として認められると整理されたように思えます。

これで、回ってきたまとめが、以下のものです。

当該措置は,取締役会に出席した取締役又は監査役が,取締役会の議事録の内容を確認し,その内容が正確であり,異議がないと判断したことを示すものであれば足りると考えられます。したがって,いわゆるリモート署名(注)やサービス提供事業者が利用者の指示を受けて電子署名を行うサービスであっても,取締役会に出席した取締役又は監査役がそのように判断したことを示すものとして,当該取締役会の議事録について,その意思に基づいて当該措置がとられていれば,署名又は記名押印に代わる措置としての電子署名として有効なものであると考えられます

「議事録について,その意思に基づいて当該措置がとられていれば」という限定がついています。要は、プロバイダの作り込みで、ドキュメントの作成名義人が、議事録に署名するという「効果意思」をもって、そのドュキメントに対して表明する電子的措置を取っているのであれば、電子署名として有効ですよ、ということになるかと思います。

なので、私としては言外に、「当該サービスによる電子署名は,電子契約事業者の電子署名であると整理される」という文言は、実体を理解していませんでした、ごめんなさいと書いてあると理解しました。(これは、想像です)

WGでの何かやりとりがあったのかもしれませんが、それは、何か、エビデンスでわかるようになったら考えてみたいと思います。


なお、上の回ってきたまとめ文書については、新経済連盟さまより開示いただきました。ありがとうございます。

あと、上の話は、登記事項になる取締役会議決事項とその登記手続とは、全く別の話です(商業登記規則第61条)。問題はわけて議論しましょうね。

今回の議論以前の議論については、「議事録の電子化に関する法的規制と電子署名」がありますね。

まだ、電子署名=非公開暗号技術にとらわれていますね。それは、デジタル署名です。

広義の電子署名概念についていえば、2000年には、アメリカのESIGN法は既に施行されていて、非公開鍵暗号にとらわれない概念も認識されていたわけかと思います。EU指令は、1999です。

ここで、デジタル署名もどきの認識がなぜにひろまったか、というのは、一つの疑問ですね。ただ、国会では余り議論されてないんですよ。

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