ソニーピクチヤーズ・エンターテイメント事件(2014)の復習

あるインタビューで、「国家支援の攻撃行為については、むしろ、国際法的な位置づけが問題になります。その代表例は、ソニーピクチヤーズ・エンターテイメント事件です」と応えています。が、ブログでは、オバマ大統領 対抗措置を明言には、ふれたのですが、ビデオ自体には、ふれていなかったので、ここで書いておこうと思います。

記事としては、”Obama says Sony hack not an act of war”になります。むしろ、ビデオをご覧になることをお勧めします。SOTU-OBAMA: SONY HACK-“ACT OF CYBER VANDALISM”です。このビデオは、15秒ほどですが、法的な意味づけを端的に語っています。

この事件は、実際に、(1)北朝鮮という国家の機関により(2)SPEという米国の会社の業務が、意図的に、妨害されたということになります。

(1)の部分は、国家責任を発生させる行為かどうかということになります。この点については、通常は、「効果的コントロール」テストで判断されるというのが、一般の理解になります。

(2)については、通常と、国家機関により民間の機能が妨害されたとしても、それ自体、米国の主権の問題を惹起するということにはなりません。しかしながら、重要なインフラとでもいうべきものが、意図的に妨害されるとなると、国家主権に対する問題を惹起するのだ、ということが語られています。

この場合、一定のレベルを超えた場合には、武力行使に該当することになります。この武力行使のレベルに達するか、どうかをどのような基準で判断するのか、ということになりますが、この点については、(イ)甚大さ-Severity(ロ)迅速さ-Immediacy (ハ)直接さ-Directness(ニ)侵略性-Invasiveness(ホ)測定可能性-Measurability (ヘ)適法性の概念-Presumptive legitimacy などの観点から判断されるというのが、一般的な理解になります。

もっとも、このレベルで武力行使のレベルにいたるためには、相当な結果が発生することが求められます。StuxNetレベルの結果が発生した場合でも、この武力行使のレベルに達したとは考えられません。その一方で、同時多発的にStuxNetレベルの結果が発生すれば、サイバーによって、武力攻撃が可能になるということです。理論的には、サイバー戦争が可能になるのですが、それは、実際に遠心分離機という戦略的・高額な機器が破壊されるという結果が発生するからであって、それを「サイバー戦争」というか、どうかは、単なるセンスの問題だろうと考えられます。

なお、ここで、武力行使と武力攻撃の用語を使いわけています。米国は、武力行使に達すれば、国連憲章51条における国家の自衛権の行使を正当化できるものと考えています。それ以外の国は、武力行使に達したとしても、51条の武力攻撃に該当すのには、さらに、一定の結果が発生したときと考えています。ここらへんの詳細なのは、また、別に論じましょう。

ここで、オバマ大統領の発言に戻りましょう。北朝鮮による攻撃は、CyberWarにいたらないというのは、上記の観点から、把握して、武力行使のレベルに達していないという米国の判断を示している、ということです。CyberVandalismであるといっています。

では、何もできないか、ということになると、むしろ、法的には、北朝鮮の行為は、国際的違法行為なので、対抗措置の問題になるといっているのです。この対抗措置は、比例原則のもと、米国の判断でなしうることになります。なお、対抗措置については、このエントリで分析しています。

これらの法的な判断をこのインタビューのもとで、ふれているのです。当たり前ですが、綿密な分析がなされていますし、決定的な証拠も取得されていたことが、伺われます。

サイバー攻撃により惹起された被害にたいしての国家の対応は、このような枠組みで判断されるわけです。

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