eIDAS規則の見直しを過程をみていくと、「よりよき規制」のガイダンス(“Better Regulation” Guideline)に従った見直しプロセスがなされているのに気がつきます。
日本では、あまり紹介されていない概念に思えます。EBPM自体についてもあまり論文はないですね。「政策評価と証拠に基づく政策立案 (EBPM) の比較」が検索にかかってきたところですが、そこでも、EUへの言及はないみたいです。
ということで、勉強を兼ねてみていきたいと思います。「より良き規制」は、もともとは、2001年のホワイトペーパー(COM(2001) 428: European Governance – A White Paper:) から始まります。2002年には、インパクトアセスメントについての声明がでています(COM(2002) 276: Communication on impact assessment: )。
より良い規制とは、政策立案のあらゆる側面を専門化し、それを今日の世界に適合させることです。それは不明瞭な官僚的な手続きではありません。より良い規制とは、共通の目標を達成するために必要な場合に法制化することであり、それは欧州レベルでの共通の行動を通じてのみ効果的に達成できるものです。それは、隠れた規制緩和策ではありません。 より良い規制とは、立法がそれ自体で終わってはならないため、結果を達成するための別の方法を検討することでもある。EUレベルでの行動は、国、地域、地方レベルでできることに比べて、常に付加価値を生むものでなければなりません。
2015年には、「EUアジェンダ-結果のためのより良き規制」(COM(2015) 215 final: Better regulation for better results – An EU agenda)が明らかにされます。これに基づき、毎年の評価がなされていき、上記の2019年のSWD(2019) 156 finalで、より良き規制のツールやプロセスが有効であることを評価するということになりました。
2015年以降、いくつかの次元で進歩が達成されたという一般的な認識があり、より良い規制が欧州委員会の活動方法の不可欠な部分として継続され、将来的にさらなる改善を達成するための持続的なコミットメントを求める声も同様に広まっているとされています。
2019年の声明(Better regulation: joining forces to make better laws (COM(2021) 219 final). )も採択され、そこでは、証拠に基づく政策立案、利害関係者との協議、負担軽減、主要な影響の分析に対するより強いアプローチ、戦略的先見性の統合を改めて求めています。
そして、具体的に、2021年の「より良き規制ガイドライン」がまとめられています。(COMMISSION STAFF WORKING DOCUMENT Better Regulation Guidelines SWD(2021) 305 final )。
このガイドラインは、序、1章 欧州委員会における「より良き規制」、2章 利害関係者の諮問、3章 評価(健全性チェックを含む)、4章 インパクト評価、5章 実装、移行、Eu法の適用から成り立っています。
「より良い規制」とは、的を射た、効果的な、遵守しやすい、できるだけ負担の少ない、目的を達成するための法律を作ることです。これを実現するために、欧州委員会はさまざまな規制手段を用いている。
- 包括的評価と適性検査では、既存の法律や支出プログラムがどのように機能しているかを徹底的に分析し、それらが効率的で効果的、適切かつ首尾一貫しているか、EUレベルの介入が実際に付加価値を生んでいるかをチェックする。
- 影響評価は、取り組むべき問題、達成すべき目標、考慮すべきトレードオフ、行動の選択肢とその潜在的影響について検討する。
- 利害関係者からの情報は、政策立案者に最善の証拠基盤を提供するため、政策サイクルを通じてこの作業を支援する。
- また、コンプライアンス推進ツールは、加盟国がEU法を適時かつ正しく移管、実施、適用するのを支援する。
とされています。これらのガイドラインは、「より良い規制」の目的を達成するために、欧州委員会のスタッフに対して内部的に指示するものとされています。
ちなみにこのガイドラインと一緒にツールボックスも公開されています。 (604頁もあります)
1章 欧州委員会における「より良き規制」
ここでは、「より良き規制」のコンセプトや原則があげられています。これは、EUのポリシや法を目標を達成するのにもっとも効率的な方法でなすことを意味しています。それが依拠するのは、
- 包括的(Comprehensive)アプローチ
- 首尾一環した(coherent)アプローチ
- 比例原則(proportionate)アプローチ
- 参加原則(participative )アプローチ
- 証拠に基づく(evidence-based)アプローチ
- 透明性
- 経験から学ぶ
の原則であるとされます。また、委員会は、「one in, one out」アプローチをとることがふれられています。また、インパクト(コストと便益を含む)の数値化にこの「よりよき規制」のポリシーが依拠していることがふれられています。
また、このポリシーが、ポリシーサイクル(政策の準備、採用、実装、適用)に対応していることになります。
具体的なプロセスとして
- 事前計画および政治的評価
- 利害関係者諮問
- 評価及び適正検査
- インパクトアセスメント
- クオリティコントロール
- 適法性支援および実装
ごとに検討がなされています。
2章 利害関係者の諮問
欧州連合条約(TEU)第11条に基づき、欧州委員会は、EUの行動の一貫性と透明性を確保するために、利害関係者との幅広い協議を実施する義務を負っています。利害関係者との協議は、政策立案を裏付ける証拠を収集するための重要な手段です。利害関係者の見解、実務経験、データを考慮することは、問題となっている問題の理解を深め、政策構想の質と信頼性(ひいてはEU市民の受容と信頼)を高めることにつながるとされています。
この具体的な過程に関して、範囲および定義(2)、一般原則および最小限の標準(3)、利害関係者諮問の必要な時期(4)、計画と利害関係者諮問の実行と情報提供(5)にわけて検討されています。
一般原則としては、
- 参加
- 公開性及び説明責任
- 効果性
- 首尾一貫性
があげられています。また、最小限の標準として
- 明確さ
- 標的
- アウトリーチ
- 参加への十分な時間
- 寄与および結果の公表
があげられています。
3章 評価(健全性チェックを含む)
評価とは、介入がどの程度、
- 期待に応え、目的を達成するのに有効であるか、
- 費用対効果や実際の費用と効果の比例関係において効率的であるか、
- 現在および将来のニーズに関連しているか、
- (他のEU介入や国際協定と内外において)一貫性があるか、
- EUの付加価値、すなわち加盟国の単独行動では達成できなかったであろう結果を生み出すか、
ということを証拠に基づいて評価することです。これは、適時で、関連あるインプットを提供すること、組織的学習、透明性と説明責任、効果的な資源分配に寄与します。
また、適性検査は、通常、同じ政策領域において、何らかの形で(通常、同じ目的や特定の手続き(例:報告)を共有することによって)関連し、したがって共同分析を正当化する2つ以上の介入の総合評価である。
4章 インパクト評価
影響評価とは、政策立案をサポートするための証拠を集め、分析することです。 問題の存在を確認し、その根本的な原因を特定し、EUの行動が必要かどうかを評価し、利用可能な解決策のメリットとデメリットを分析することが含まれます。
影響評価は、情報に基づいた意思決定を促進し、補完性と比例の原則を守りながら、最小のコストで政策の恩恵を十分に受けられる「より良い規制」に貢献します。影響評価は、経済、環境、社会に大きな影響を与える可能性が高い、あるいは多額の支出を伴う、欧州委員会が政策の選択肢を持つ取り組みに対して要求されます。
しかし、あくまでも政策立案や意思決定の補助であり、その代替物ではありません。
評価で回答されるべき問題としては
- 問題とそれが問題である理由
- EUの活動すべき理由
- なし遂げられるべき事項
- 目的をなすための選択肢は何か
- 経済的・社会的環境的インパクトは何か、だれが影響をうけるのか?
- 選択肢はどのように効果・効率・首尾一貫性に影響をあたえるか
- モニタリングや評価がどのように組織化されるか
があげられます。
また、評価報告書で記載さるべき事項などの説明もなされています。
5章 実装、移行、EU法の適用
EU法においてば構成国による実装/国内法かも重要な要素になる。
この章では、実装の問題の予測をなすこと、コンプライアンス促進のツール、実装のモニタリング、法制のパフォーマンスのモニタリングの問題などが論じられています。