プライバシーの経験主義的研究の先行研究のまとめ

1 岡田・高橋(2012)

2012年に岡田先生の共同で「コンジョイント方式によるプライバシー分析-携帯電話電子マネーの位置情報の認知の実証的検証を例に-」という論文を公表しています。

この論文は、電子マネーのプロファイルについてのコンジョイント方式による実験をおこなうことによって、プライバシーに対する利用者の意識を明らかにしようとするものです。でもって、日本社会的には、コンジョント方式によるプライバシーの分析という問題意識や、人間の行動におけるコンジョント方式による分析というのは、なかなか

重要性を理解してもらえない

ように思います。(今年も、評価してもらえませんでした。)

ですが、ある論文で、上の2012年以降の進展をまとめないといけないので、ちょっと、みてみたいと思います。

2 日本におけるプライバシーのコンジョイント調査(2012以降)

新規技術を受容するのに、プライバシーの感覚がどのように影響を与えるかという問題をコンジョイント方式でもちいて分析した論文としては、田尻・佐伯(2015)、竹腰ほか(2019)があります。

田尻・佐伯(2015)

田尻・佐伯(2015)というのは、情報の種類、用途、プライバシー侵害のリスク、軽減措置の属性を分析した結果、用途の重要度は小さい等の結果を得ています。

あと、佐伯(2016)というのがあります。これは、用いられている分析されている手法は、質問紙法によるものになります。が、「パーソナルデータ利用と個人の意識に関する研究」として、文献をあげて紹介していて、高橋・岡田も引用してもらっているので、参考になります。

竹腰ほか(2019)

竹腰ほか(2019)というのは、竹腰智, 小川隆一,  竹村敏彦. 「コンジョイント分析による SNS アカウント情報の価値の測定」 コンピュータセキュリティシンポジウム 2019 論文集 2019 (2019): 281-288.になります。これは、基本は、質問紙法によるものです。しかしながら、、慰謝料, 精神的被害, 実被害などの項目についてコンジョイント分析によって一定の分析をなす方向性を示しています。

3 世界におけるプライバシーの経験主義的調査(一般)

前にプライバシーに対しての経験主義的な分析についてのメモを作ったのに公表する機会を失しているので、ここでまとめてみます。

3.1 Krasnova, Hanna; Hildebrand, Thomas; and Guenther, Oliver,”Investigating the Value of Privacy in Online Social Networks: Conjoint Analysis“(2009)

Krasnova(2009)は、オンライン・ソーシャル・ネットワークにおけるプライバシーの認知に関する問題について、コンジョイント方式を適用した論考になります。

著者らは、属性と水準について、価格(ゼロ、月3ユーロ、月6ユーロ)、ネットワークの普及度(25%、50%、75%)、カスタマイズ容易さ(低・中・高)、プライバシーコントロール(全・友人のみ、グループ・バイ・グループ、個別設定)、プロバイダによる情報の利用(利用なし、属性情報のみ、すべて利用)のように設計して、測定をしています。

この結果、価格の重要度が31.1%、普及度24.7%、カスタマイズ可能性11・5%、プライバシーコントロール13・9%、プロバイダの情報利用18・7%という結果をみています。また、これらの重要度などをもとに三つのクラスタ(「無頓着な社交家」「コントロール意識社交家」「プライバシー意識」)にわけることができるという結果をみています。

3.2 Spiekermann, Sarah and Korunovska, Jana and Bauer, Christine “Psychology of Ownership and Asset Defense: Why People Value Their Personal Information Beyond Privacy”(2012)

Spiekermannほかの”Psychology of Ownership and Asset Defense: Why People Value Their Personal Information Beyond Privacy”は、個人情報(personal information)の市場を捉え、情報が第三者に移転される場合の価値などを考察した論文です。

同論文は、個人情報とプライバシーの使い分けをこころみて、個人にとっては、プライバシーに加えて個人情報のほうがより価値がある、のではないかというのを実証的に明かにしようとした論文になります。

具体的には、実際のFacebookの1059のユーザに対して、Facebookのデータの消去・売却を免れる場合の支払意思額(WTP:willingness to pay)を調査したものです(具体的には、Facebookがすべてのデータを消去する場合に、お金を支払えば、それを免れる場合の金額を聞くなどをしている)。このような調査によって、著者らは、「所有の心理(psychology of ownership (PoO))」があり、プライバシーよりも、より高い価値を有するものと認識していると論じています。

3.3 Krasnova,Kift”Online Privacy Concerns And Legal Assurance: A User Perspective”(2012)

Krasnova,Kift(2012)”Online Privacy Concerns And Legal Assurance: A User Perspective”は、ソーシャルメディアの普及やプライバシーの議論のもとにおいて、ユーザがプライバシーに関して感じることと、実際のせいかつにおいて前提とすることの違いについて問題提起をなしたのちに、(1)インターネット/特にFacebookに関する懸念 (2)法的保証に対する態度(3) プライバシー保護に対するイニシアチブを採用する意向について調査をなした結果を論じるものです。

同稿は、プライバシーの定義、利用者は、プライバシーを気にしているのか、Facebookにおけるプライバシー懸念の位置づけ、プライバシー活動においてプライバシー懸念の意味づけを論じるものです。特に、このプライバシー懸念の意味づけについては、コンジョント方式を用いるものではないか、支払意思額を「よりプライバシー問題を積極的に論じてもらうためにいくら使えるか」などの質問をもちいて明らかにしようと試みる点で注目に値するといえます。

3.4 Alessandro Acquisti  The Economics of Privacy:Theoretical and Empirical Aspects(2013)

アクィスティ先生の一連の研究は、行動経済学的な分析を応プライバシーに対して用しています。上の論考は、文献研究の論考である。そこでは、プライバシーと経済理論の紹介、プライバシーの市場という考え方、プライバシーのトレードオフ、消費者は、プライバシーを評価しうるのか、プライバシー行動のハードル、技術・規制・市場の力について論じています。

3.5 Morando, F. & Iemma, R. & Raiteri, E. “Privacy evaluation: what empirical research on users’ valuation of personal data tells us”(2014)

Morando, F. & Iemma, R. & Raiteri, E. (2014)は、EUにおける近時のデータ保護指令の改正に関する議論について、特に、18条のデータのポータビリティの規定について利用者のプライバシの実証的な評価について、その限界と落とし穴を論じて、データのボータビリティの議論に役立てようとする文献調査の論文になります。

この論考は、パーソナルデータの経済学・人はプライバシーの価値を評価しうるか(プライバシ・パラドックス)、文脈にかかる情報の役割(授かり効果、プライバシ複雑性など)、プライバシーの取引(プライバシポリシ、便宜・個人へのカスタマイズ、社会的報酬、金銭的インセンティブ)、実験の限界と落とし穴を論じています。

そして、これらの考察をもとに、人々は、個人情報を評価し、金銭や便宜のために取引するのに際して、異なるということが明らかである、言い換えると、文脈的な要因が重要であるということを論じています。それらをもとに規制を考えなければならず、実際の適用を考えると、技術的・標準がデータのポータビリティを現実にするのには、必要になるだろうと論じています。

方法論としては、行動経済学的なポイントを紹介する性格なものですが、私の理解と近いところがあるのでまとめてみました。

4 プライバシーに対するコンジョント調査(一般)

4.1 Personal privacy, public benefits, and biobanks: a conjoint analysis of policy priorities and public perceptions(2012)

Daryl Pullman PhD, Holly Etchegary PhD, Katherine Gallagher PhD, Kathleen Hodgkinson PhD, Montgomery Keough MSc, David Morgan PhD & Catherine Street BPharm(2012)“Personal privacy, public benefits, and biobanks: a conjoint analysis of policy priorities and public perceptions”は、医学的な分野から、医学的な問題とプライバシーの認知について検討する論文です。

これは、バイオバンク(DNAレポジトリ)のプライバシー問題についての社会的な認知に対するコンジョイント分析になる。バイオバンクというのは、人間の組織と遺伝子研究のための関連するデータの集合体をいう。これによって複雑な病気に対して、より効果的な分析と治療法にやくだつと考えられている。

これについて、プライバシー(個人のトレース可能、不可能)、研究テーマ(汚名的(Stigmatized)な病気、一般的な病気)、研究の恩恵(自分、愛する人、他人の健康)について調査をなしています。

属性 水準
プライバシー 個人のトレース可能 不可能
研究テーマ 汚名的(Stigmatized)な病気 一般的な病気
研究の恩恵 自分、 愛する人 他人の健康

 

この結果、研究の恩恵を受ける人は誰かというのがもっとも高い重要性をもつこと(58.3%)、次が研究テーマ(22.1%)、プライバシー懸念(19.5%)という結果がでています。

4.2 Can privacy concerns for insurance of connected cars be compensated? (2016)

Derikx, S.ほか(2016)の論文は、自動車所有者のプライバシーに関する懸念を、金銭的なメリットを提供することで補うことができるかどうか、またどのように補うことができるかを研究するものです。

属性 水準
登録キロメーター 主動(ウエブ・プラットフォーム) 自動(自動車のGPS測定)
登録交通行動 なし あり(自動車のセーションセンサー)
追加保険 なし あり
第三者の広告 なし あり

コンジョイント実験によれば、消費者は利用ベースの自動車保険よりも現在の保険商品を好む。しかし、わずかな金銭的補償を提供されれば、消費者は自動車保険会社に自分のプライバシーを譲り渡すことを厭わない。消費者は、場所や空間のプライバシーよりも、行動や行為のプライバシーの方に価値を見出すとされています。

IoTセンサーを活用した自動車保険・テレマティックス保険などが注目をあびていることもあって興味深いという気がします。

4.3 “Hey, Siri”, “Ok, Google”, “Alexa”. Acceptance-Relevant Factors of Virtual Voice-Assistants (2019)

L. Burbachほか(2019)は、3つの属性と3つのレベルをそれぞれ持つChoice-Based-Conjoint Analysisを実施しています。具体的な属性と水準とは、以下のとおりです。

属性 水準
1 2 3
自然言語処理パフォーマンス シンプル命令 先進指示 自然言語
価格 50ユーロ 100ユーロ 200ユーロ
プライバシー オフライン キーワード 常時オン

その結果、よく知られているプライバシーとユーティリティのトレードオフに関連して、音声アシスタントの価格ではなく、プライバシーが最も重要な要因であることがわかったとしています。

とはいえ、音声アシスタントの受容と音声アシスタントを使用する決定は、常に異なる要因の組み合わせに依存し、その中でもプライバシーが最も重要であるようです。さらに、異なる嗜好を持つバーチャル音声アシスタントの4つの異なる潜在的なターゲットグループを特定することができています。

4.4 The Users’ Perspective on the Privacy-Utility Trade-offs in Health Recommender Systems(2019)

Valdez, A. C., & Ziefle, M. (2019). は、システムで使用するために健康データを共有するユーザーの意思に関する研究はほとんど行われていないとして、k-匿名性と差分プライバシーのための個人健康データの共有に関するプライバシー保護技術の重要性と有用性を調査している。

属性 水準
データのタイプ 一般健康データ 肉体的疾患 慢性的疾患 精神疾患
共有のメリット 個人 経済 一般
データ受領者 科学 保険会社 商業的利用
識別可能性 100% 50パーセント 25パーセント 10パーセント
サンプルサイズ可能性 10 100 1000 10000
例外的可能性 ユニーク% 5%類似 20%類似 平均

この調査の結果、利用者は、精神疾患に関する営利目的のデータ共有や、匿名化解除リスクの高いデータ共有には反対であったが、科学的目的で使用される場合であって、身体疾患に関連するデータについては、ほとんど懸念を示さなかったということが明らかにされた。

4.5 All of me? Users’ preferences for privacy-preserving data markets and the importance of anonymity (2020)

Schomakersほか(2020)は、データ共有におけるプライバシーに対するインターネットユーザーの選好を実証的に分析するものです。ここで用いられているコンジョイント調査表は以下のとおりです。

属性 水準
対価 5ユーロ 25ユーロ 50ユーロ 75ユーロ
データタイプ ロケーションデータ 医療歴 SNSプロフィール 金融口座データ
匿名化のレベル 完全匿名化 5分の1 2分の1 匿名化なし
データ受領者 金融機関 公共機関 非政府組織 オンライン会社
アプリセキュリティ パスワード保護 二重のパスワード保護 指紋スキャナー 顔認証

研究Iでは、ユーザーのプライバシーのメンタルモデルとデータ共有に対する選好を明らかにすることを目的とした。

研究IIでは、データ市場におけるプライバシーの動機、障壁、条件を定量化し、確認した。最後に、コンジョイント研究において、データ共有の意思決定を形成する決定的な属性間のトレードオフを分析しています。

この調査において、プライバシーへの関心が高いユーザーグループと低いユーザーグループとの違いが観察されています。

その結果、匿名化レベルがデータの共有意欲に最も大きな影響を与え、次いでデータの種類が影響を与えることが示された。プライバシーの懸念が高いユーザーは、データ市場でデータを共有することに積極的ではなく、より多くのプライバシー保護を望んでいる。この結果は、プライバシー保護されたデータ市場をユーザーの好みに合わせて設計する方法の理解に貢献するものである。

4.6 User preferences for privacy features in digital assistants(2021)

Frank Ebbersほか(2021)は、いわゆるデジタルアシスタントにおけるユーザーの選好について考察しています。そこでは、

属性
アシスタントの決定の説明可能性 説明無 データの取扱い アルゴリズム
利用者に開示される情報の量 プライバシーポリシー ビジュアル化 予測分析(個人データに対しておこりうる分析を受領する)
UIのゲーム化の程度 遊びの影響はない ゲーム化の影響あり 真剣なゲーム化
価格(月額・ユーロ) 無料 5 10 30 59

という属性・水準を用いて分析がなされています。そこでは、消費者は、関係するデータに基づくDAの決定についての説明を求めているされ、ユーザーはアルゴリズムの詳細な説明を望んでおらず、6位にとどまっている。また、データは、アイコンや図を使うなど、視覚的な方法で提示されるべきである。さらに、ユーザーの大多数は前向きな分析を好む。データ処理の効果や範囲に関する説明として、テキストによる提示(プライバシーポリシー)が適切であると考える回答者はわずかである(ランク5)。これは、プライバシーポリシーが長すぎて読みにくいと考えられることが多いためかもしれない(Gluck et al.) さらに、ユーザーはアシスタントのプライバシー機能との遊び心のあるインタラクションを重視する。これは、ゲーム化された要素を使用するか、シリアスなゲームを開発することによって達成することができる。ゲーム化された要素を持たないDAは、13位にランクインしているに過ぎない。コストに関しては、ユーザーは、ゲーム化された要素のないオプションと比較して、23.8%多く支払うことを望んでいる(21.39ユーロ対16.29ユーロ)。

このような調査結果からDAのプライバシー機能の設計に関して、ゲーム化された要素が、潜在的に価値を有しているのではないかとしています。また、3つのセグメントを発見し、主要なセグメントにさらに2つのクラスターを特定した、ともしています。

4.7 Users’ Preferences for Smart Home Automation – Investigating Aspects of Privacy and Trust(2021)

Schomakersほか(2021)は、スマートホームにおけるプライバシーとトラストの観点から、スマートホームという技術の受容を妨げるものを考察するものです。このコンジョイント表は、こちらになります。

 

属性 水準
適用範囲 エネルギー管理 ホームセキュリティ 娯楽 健康・加齢対応
データタイプ 動作データ 位置データ 画像データ 音声データ
データ保存の場所 ローカルデータ保管 パーソナルクラウド 業者クラウド 公的機関のクラウド
自動化の信頼性 100% 95% 80% 65%
利用の意識 個人経験 推奨 顧客のレーティング 広告
自動化の水準 マニュアル 半自動 完全自動

その結果、完全に自動化されたスマートホーム技術よりも、半自動化されたシステムの方が好まれることがわかりました。

自動化の信頼性が最も重要な受容決定要因であり、次いでデータの保存場所である。一方、利用に対する意識(例えば、推奨)、データの種類、応用分野は、スマートホームの全体的な利用意欲にとってそれほど重要な要因ではない。という結果が得られています。

4.8 US Privacy Laws Go Against Public Preferences and Impede Public Health and Research: Survey Study(2021)

Schmit Cほか(2021)は、個人のプライバシーと公共の利益の適切なバランスを見つけるためには、有権者の意見が不可欠であるとして、調査は選択肢ベースのコンジョイント分析を用いて米国の5つのデータ保護法(Health Insurance Portability and Accountability Act、Family Educational Rights and Privacy Act、Privacy Act of 1974、Federal Trade Commission Act、Common Rule)に基づいて、選択肢ベースのコンジョイント属性とレベルを選択させる方法で調査を行っている。

その結果、参加者は、公衆衛生や研究のためのデータ再利用を、営利目的、マーケティング、犯罪探知活動よりも強く希望した。また、参加者は、企業や政府によるデータ利用よりも、大学や非営利団体によるデータ利用を強く希望した。参加者は、利用するデータの種類(健康、教育、政府、経済データ)については、かなり無関心であったという結果が得られている。

4.9 User Preferences of Privacy-Enhancing Attributes of a Smart Speaker(2022)

Hanbyul Choi,ほか(2022)“User Preferences of Privacy-Enhancing Attributes of a Smart Speaker”は、スマートスピーカーのプライバシーを向上させる属性が、デバイスを選択する際のユーザーの選好にどのような影響を与えるかを検証しようというものです。4つのプライバシー向上機能(パラサイト機能、データ保存方法、セキュリティ通知、話者認識機能)と、消費者の意思決定に影響を与える2つの典型的な要因(ブランドと価格)を扱い、コンジョイント・アプローチから分析しています。

 

属性 説明 水準
パラサイト機能 スマートスピーカーに内蔵された機能で、ユーザーがウェイクアップワードを呼び出した後にのみデータを収集できる。 サポートされていない サポートされている
データ保存機能 この条件以外では、デバイスにホワイトノイズを発生させることでデータ収集を防ぐ。
対応(1) データ保存方法 デバイス スマートスピーカー使用時に、生成されたデータをどのように保存・管理するか。(1)デバイス:デバイス本体にデータを保存し、ユーザーが直接削除・管理できる。(2)クラウド:サービス事業者のサーバーにデータを保存。利用者は個別にサービス提供者にデータ削除・管理を申請できる。
デバイス クラウド
セキュリティ通知  半年ごとにセキュリティ情報やデータ使用量の更新をスマートスピーカーユーザーに通知する機能 未対応(0) 対応(1
スピーカー判別機能 スマートスピーカーが個々のスピーカーを認識・区別する機能。 未対応(0) 対応(1)
ブランド ブランド グーグル KT(GiGA Genie) Navor(Clova)
価格 5万ウォン 8万ウォン 11万ウォン

516人の消費者を対象とした調査から得られたデータでは、価格という属性を除けば、パラサイト機能が最も好まれる属性としてランク付けされていることが確認されました。また、調査結果は、3つのユーザー・クラスターで比較することができるとされています。なお、論文は、スマートスピーカーについての文献レビューも行っています。

4.10 Valuation of Differential Privacy Budget in Data Trade: A Conjoint Analysis(2023)

Khavkin, M., Toch, E. (2023)は、本研究では、差分プライバシーの評価、シナリオ特性、およびデータ取引における個人の好ましい差分プライバシーレベルの間のトレードオフを調査するものです。

属性 説明 水準
機微な開示データ 収集データ (医療)ダイアベティスの存在 (金融)収入 (行動)ウェブ閲覧履歴
保持期間 データの保持期間 無限 一時
共有目的 個人データが収集される目的 調査 利潤獲得のため サービスの向上のため
データ共有の補償価格 個人が個人情報を共有するために受取ってもいいと思う最低額 1ドルないし100ドル
差分プライバシーレベル データ取扱者による想定される差分プライバシーレベル 1 (1.0 ≤ ε ≤ 2.0); 2 (0.5 ≤ ε ≤ 1.0); 3 (0.2 ≤ ε ≤ 0.5);
4 (0.1 ≤ ε ≤ 0.2);
5 (0.05 ≤ ε ≤ 0.1)

この調査の結果については、

仮説通り、プライバシーの異なるデータ分析の一部として、より実質的な動揺(pertubation)が適用されればされるほど、個人はデータ共有のためにデータ収集者から要求する支払いは、より低いことがわかった。さらに、回答者は、非商業的な目的で一時的に保持されるデータよりも、利益創出のために無期限に保持されるデータの方が、より低いε値(より多くのプライバシーを必要とする)のシナリオを選択した。この結果は、データ処理者が、個人のプライバシー評価と文脈の特性に基づいて、データ分析のための差分プライバシーバジェットをよりよく調整するのに役立つかもしれない。

とされています。

4.11  A construal level theory approach to privacy protection: The conjoint impact of benefits and risks of information disclosure. Journal of Business Research

Butori(2023)は、企業は、個人情報の開示に伴うメリットとリスクの両方を伝える必要があるという透明性の要請と消費者が開示に同意する個人情報の量に悪影響を及ぼす可能性について研究するものです。

3つの実験がなされており、消費者が具体的な(対抽象的な)プライバシーリスクにさらされた場合、個人的な質問をより敏感なものとして認識し(研究1)、個人情報を開示する可能性が低くなる(研究2)ことが確認された。しかし、(プライバシーリスクそのものではなく)プライバシー保護に関する声明に接した場合、その声明が具体的であれば、消費者はより多くの情報を明らかにする(研究3)とされています。

また、情報共有のベネフィットとリスクの間には交互作用があり、情報開示のベネフィットが具体的である場合にのみ、リスクの抽象度が情報開示に影響すること、消費者の脆弱性に対する感情も媒介変数として作用し、情報開示プロセスの説明における解釈レベル理論の妥当性を裏付けていること、が説かれています。

5 新型コロナウイルス対応と情報プライバシーの関係におけるコンジョイント分析

ところで、新型コロナウイルスに対して、コンタクトトレーシングアプリケーションを利用して、その万円を抑えることができるのではないか、ということが議論されたのを機に、世界的には、このようなプライバシーとその他の利益に対する消費者の行動を経験主義的なアプローチを利用して分析するアプローチは、(日本以外の国で?)盛んに議論されるようになります。

グーグルスカラーで、「conjoint covid privacy contact tracing」という単語で検索して、検索ヒットしたものから、ほんの一部を抜き出すと以下のようになります。今後、これらの論文を急いで分析していくことにしたいと思います。

略称 引用
Wiertz 2020 Wiertz, Caroline, et al. “Predicted adoption rates of contact tracing app configurations-insights from a choice-based conjoint study with a representative sample of the UK population.” Available at SSRN 3589199 (2020).
Buder 2020 Buder, Fabian, et al. “Adoption rates for contact tracing app configurations in Germany.” Nuremberg Institute for Market Decisions (2020).
Frimpong 2020 Frimpong, Jemima A., and Stephane Helleringer. “Financial incentives for downloading COVID–19 digital contact tracing apps.” (2020).
Guillon, 2020 Guillon, Marlène, and Pauline Kergall. “Attitudes and opinions on quarantine and support for a contact-tracing application in France during the COVID-19 outbreak.” Public health 188 (2020): 21-31.
Horvath 2020 Horvath, Laszlo, Susan Banducci, and Oliver James. “Attitudes to digital contact tracing: citizens do not always prioritise privacy and prefer a centralised NHS system over a decentralised one.” British Politics and Policy at LSE (2020).
Jonker 2020 Jonker, Marcel, et al. “COVID-19 contact tracing apps: predicted uptake in the Netherlands based on a discrete choice experiment.” JMIR mHealth and uHealth 8.10 (2020): e20741.
Naous, 2020 Naous, Dana, et al. “Towards Mass Adoption of Contact Tracing Apps–Learning from Users’ Preferences to Improve App Design.” arXiv preprint arXiv:2011.12329 (2020).
Zhang 2020 Zhang, Baobao, Sarah Kreps, and Nina McMurry. “The Covid-19 pandemic.” Lifestyles, and the Built Environment: towards an Inclusive Future for Planetary Health2022Springer (2020).
Zhang, 2020 Zhang, Baobao, et al. “Americans’ perceptions of privacy and surveillance in the COVID-19 pandemic.” Plos one 15.12 (2020): e0242652.
Jacob 2021 Jacob, Steve, and Justin Lawarée. “The adoption of contact tracing applications of COVID-19 by European governments.” Policy Design and Practice 4.1 (2021): 44-58.
Li 2021 Li, Tianshi, et al. “What makes people install a COVID-19 contact-tracing app? Understanding the influence of app design and individual difference on contact-tracing app adoption intention.” Pervasive and Mobile Computing 75 (2021): 101439.
Walrave 2021 Walrave, Michel, Eline Baert, and Koen Ponnet. “Adoption of and attitudes towards Coronalert, Belgium’s COVID-19 contact tracing app: summary of research results.” (2021).
Abramova 2022 Abramova, Olga, et al. “One for all, all for one: Social considerations in user acceptance of contact tracing apps using longitudinal evidence from Germany and Switzerland.” International Journal of Information Management 64 (2022): 102473.
Chopdar 2022 Chopdar, Prasanta Kr. “Adoption of Covid-19 contact tracing app by extending UTAUT theory: Perceived disease threat as moderator.” Health Policy and Technology 11.3 (2022): 100651.
Horvath 2022 Horvath, Laszlo, Susan Banducci, and Oliver James. “Citizens’ attitudes to contact tracing apps.” Journal of Experimental Political Science 9.1 (2022): 118-130.
Simko 2022 Simko, Lucy, et al. “COVID-19 contact tracing and privacy: A longitudinal study of public opinion.” Digital Threats: Research and Practice (DTRAP) 3.3 (2022): 1-36.
Ayalon 2023 Ayalon, Oshrat, Dana Turjeman, and Elissa M. Redmiles. “Exploring Privacy and Incentives Considerations in Adoption of {COVID-19} Contact Tracing Apps.” 32nd USENIX Security Symposium (USENIX Security 23). 2023.

 

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