責任分界点

電気通信業界・プロバイダー業界の人たちと話していて、戸惑う言葉の一つに「責任分界点」ということばがあります。

そもそも「責任」という言葉自体は、(1)行為をなすべき義務を負う、という場合と、(2)一定の問題が起きたときに、誰が責任を負うか(liable)か、という場合の二つの場合があります。

クラウドで、情報漏洩が起きたときに、その責任分界点は、どこなのか、とか、業界の人から聞かれて法律家としては「?」となるわけです。どうも、近頃では、ロボットや自動運転自動車にまで、このような用法が広がっているようです。Liablityを考えるときには、各行為者が、どのような予見可能性があって、具体的な回避可能性は、どうなのという具体的な事案に応じて、Liablityが決まっていくので、どこかの一点を基準に、行為者の責任が100対ゼロということにはなりません。なので、このような問題を検討する時には、「責任分界」という用語は、使うべきではないと思っています。(どうも、素人談義に聞こえてしまいます)

でもって、「責任分界」という概念は、法的な言葉ではない、というのか、というとそうでもないのです。特に通信とかの世界では、 設備についての技術基準適合義務を負うという意味では、よく使われる用語です。電気通信事業についてみていくと

電気通信事業法だと「第四十一条  電気通信回線設備を設置する電気通信事業者は、その電気通信事業の用に供する電気通信設備(略)を総務省令で定める技術基準に適合するように維持しなければならない。」という義務が定められているのですが、この5項で
「5  第一項、第二項及び前項の技術基準は、これにより次の事項が確保されるものとして定められなければならない。
(略)
五  他の電気通信事業者の接続する電気通信設備との責任の分界が明確であるようにすること。」
と責任分界点を明確にしないとしているのです。

具体的に
事業用電気通信設備規則
(昭和六十年四月一日郵政省令第三十号)
では、
(分界点)
第二十三条  事業用電気通信設備は、他の電気通信事業者の接続する電気通信設備との責任の分界を明確にするため、他の電気通信事業者の電気通信設備との間に分界点(以下この条及び次条において「分界点」という。)を有しなければならない。
2  事業用電気通信設備は、分界点において他の電気通信事業者が接続する電気通信設備から切り離せるものでなければならない。
と定められています。逐条解説によると「電気通信設備の故障等の場合にどこに原因があるのか明らかにし、かつ電気通信設備の保守等の範囲の切り分けをはっきりさせておくことをいう」だそうです(電気通信振興会のやつ 230ページ)

また、電気事業法関係も責任分界というのは、基本的な概念となっているようです。

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