佐々木良一先生より、「デジタル・フォレンジックの基礎と実践」の献本を受けました。ありがとうございます。
情報処理技術者向けに記載された本ということですが、企業の法務関係の方なども、技術的な背景について知りたいという時に、参考になるのではないかと思われます。
内容としては、入門(1章)、ハードディスクの構造とファイルシステム(2章)、OS入門(3章)、データの収集(4章)、データの復元(5章)、データの分析(6章)、スマートフォンなどのフォレンジック(7章)、ネットワークフォレンジック(8章)、応用(9章)、法廷対応(10章)歴史と今後の展開(11章)になります。
私達の関与しました「デジタル証拠の法律実務Q&A」が、法律家からのデジタル・フォレンジックスに対する手引き書であるのに比較して、技術者からの手引き書ということができるかと思います。その意味で、技術者に対する入門書ということができるかと思います。技術に関する面については、分かりやすく、基礎から、現代的な問題までふれています。その意味で、広く推奨することができる本になるかと思います。
技術的には、携帯端末のフォレンジックスについてきちんとふれられているなど、現代社会におけるフォレンジックスの教科書たりうる書籍と考えられます。ネットワーク・フォレンジックスについてもふれられています。
一方、技術的な面からみるとしても、11章の歴史のところは、あまりにも簡潔すぎて、読者の問題意識に答えるとは思えないのは残念です。また、いろいろなガイドラインの動向などについてふれられていないのは、残念です。
法的な見地からみると、現代社会におけるフォレンジックスの解説という観点からみるときに、いわゆる、法曹業界の密教とでもいうべき要件事実論に拘泥しすぎており、その部分は、あまりにも異質であり、書籍としての一体感を損なっているということがいえるかと思います。抗弁・再抗弁などを論じるのであれば、むしろ、SJG事件を解説したほうがはるかに読者のためになるものといえるでしょう。暗号技術と法執行の相剋も重要な課題でしょう。個人的には、要件事実論は、司法試験合格者を一定のレベルに引き上げるための合目的的かつ限られたコミュニティの議論であると感じているので、そのような観点がまっとうなアカデミズムの分野の本にでてくることには、ネガティブな評価しかできないと思っています。厳しい表現ですが、「美は細部に宿る」ので、書籍としての一体感を、大人の事情よりも優先してもらいたいところだったといえます。
そのようなところがあるにせよ、技術者の立場からのデジタル・フォレンジックスに対する手引き書たる、という目的は高いレベルで到達されているものといえるかと思います。この分野での必読の書になるかと思います。
高橋郁夫