シュミット先生の論文で、「国際人道法と非国家諜報関係者および物に対する目標化」(”International Humanitarian Law and the Targeting of Non-State Intelligence Personnel and Objects”)という論文が、今年の5月に公表されています。
サイテーションは、Michael N. Schmitt, International Humanitarian Law and the Targeting of Non-State Intelligence Personnel and Objects, 30 Duke Journal of Comparative & International Law 309-347 (2020)
Available at: https://scholarship.law.duke.edu/djcil/vol30/iss2/5
です。
タリンマニュアル2.0で、ほとんどの論点は、サイバーセキュリティと国際法の論点は、つくされた感じがしたわけですが、個人的には、非国家主体、特に、諜報活動の法的な位置づけが唯一残されたところかなと思っていたわけですが、シュミット先生によって、分析がなされました。
論文の構成としては、序、非国家諜報機能および組織、法的枠組、武力グループ諜報組織および構成員の地位、戦闘行為における文民の直接参加、非国家諜報行為における物の地位、結論となります。
序では、敵対行為に直接参加する文民についての解釈が紹介され、根本的なところで解釈が困難であること、国際赤十字におけるプロジェクトが重要なところで合意をえられずに、解釈指針で終わったことが述べられています。
そして、この論文が
この記事では、この問題の重要な側面の一つである、武力紛争に関与している非国家集団のために諜報機能を果たす個人と集団の標的性について検討する。
ことを説明しています。
また、「紛争の非国家的当事者(non-State party to the conflict)」は、国際紛争/非国際紛争の当事者における非国家主体をさすものとして利用されること、非国家集団は、「組織武力集団(OAG、organized armed group)」自体であるか、「混合グループ」であること、「総組織武力集団(overall OAG)」とは、交戦集団および混合非国家グループの支援組織のすべてであることの定義がなされています。
また、諜報(“intelligence”)とは、
外国、敵対的または潜在的に敵対的な勢力や要素、または実際のまたは潜在的な作戦の領域に関する利用可能な情報の収集、処理、統合、評価、分析、および解釈から得られた成果物。
を意味し、特段に区別していないかぎり、防諜(counterintelligence)を含むものとなっています。
2章 非国家諜報機能および組織
ここでは、OODA(observing, orienting, directing, and acting)ループにおいて、諜報活動が有意義であること(LeTの襲撃、アルカイダのCIA暗殺、など)が紹介されています。そして、テクノロジーがこれを強化しています。サイバー、ドローン、そして、グーグルアースなども組み合わせた能力の向上が著しいと指摘されています。
非国家諜報組織の内部構造は、千差万別であると論じられています。そして、国際人道法上による標的ステータスの問題については、非国家諜報組織は、種々の機能を果たしていることになります。
3章 法的枠組
法的な問題としては、武力紛争中に諜報活動に従事している非国家の個人の攻撃の対象となりうるか、ということになる。
法的には、攻撃を受ける可能性があるのは、国家の武装勢力の構成員、組織化された武装集団の構成員、および敵対行為に直接参加している文民の 3 つのカテゴリーに分類される個人である。
非国際紛争における組織武力集団のメンバーでない個人については、直接戦闘参加のルールが適用されます。
4章 武力グループ諜報組織および構成員の地位
国際武力紛争において、敵対行為に従事するすべての集団は、「戦闘員」の基準を満たさない限りにおいて、「組織武力集団」となること、戦闘行為における傭兵、ボランティアグループなどが含まれることが論じられています。
一方、非国際武力紛争においては、戦闘員のステータスが存在しないことから、組織武力集団を確定する基準がないことになります。
ここで、定義、混合集団、組織武力集団構成員の資格、標的とされうる構成員についての検討がなされます。
定義においては、「組織されていること」「武装されていること」「紛争に関すること」が必要なります。
混合集団というのは、非国家主体が、敵対行為に従事する場合に、他の政治的・司法的、社会的役割などをも果たすものであるいうことです。
解釈論としては、被害の閾値、直接原因、交戦関係の三つの要件を満たす場合には、諜報組織は、戦闘行為への直接参加のアナロジーで、組織武力集団の非国家集団の一部をなすものと解されるとしています。
このように考えたときに、この構成員の資格を満たすのは、どのような場合かという問題があり、諜報の性格を有する行為にすぎない構成員とどう区別するのか、いうことになります。はっきりとしたリクルートがなされている場合は、別として、困難な問題になります。明確な印しが、ない場合には、主従の関係が基準となるとされます。
また、困難な解釈論があるものの、構成員は、すべて標的となりうるとされています。
戦闘行為における文民の直接参加、非国家諜報行為における物の地位については、省略。
結論としては、組織武力集団であるのか、その構成員であるのか、ということで判断されるということになります。その意味では、現在の一般理論を整理して、諜報活動の意味のもとで整理し直したということになりそうです。