「『匿流』メンバーの通信内容を分析」の比較法的考察 -脆弱性を利用した保存通信の取得(Playpen作戦、EnroChat事件、SkyECC事件、ProtectEUなど)

深刻化する「匿名・流動型犯罪グループ(匿流(トクリュウ))」による凶悪事件を未然に防ぐため、警察庁は捜査対象のスマートフォンの通信内容を分析する手法の導入に向けて検討に入った。

という報道がなされています(読売新聞 7月29日 リンク) 具体的な有識者委員会の開催について詳しくふれた記事はこちら(読売新聞 8月6日)。

この内容については、どのような行為を念頭に議論されているのかは、明確には、わかりませんが、犯罪者の通信機器の端末から、通信の通信情報や通信内容について、これを一定の法的手段をもって取得することが許されてしかるべきなのではないか、考えられます。

私のブログでもこの点について

などですこし触れてきました。ここで、日本においてどのような制度設計がなされるのか、比較法的に、claudeの助けもかりて見ていきたいと思います。個人的には、取得についてスナップショット型か、傍受型か、ということをわけて論じる必要があるともかんがえています。ここで、スナップショット型というのは、取得の時点におけるデータにアクセスするという意味で、一方傍受型というのは、時間的に連続的にデータにアクセスして取得するという意味です。

1 英国の例

これについては、機器干渉、国家トロイ、ボット武装解除、ビーコン-警察庁の新組織とダークサイドパワーでも簡単に触れました。

英国2016年調査権限法(IPA 2016)は、機器干渉令状(equipment interference warrant)をPart 5に規定しており、取得対象を(a)通信(第135条)、(b)機器データ(第100条)、(c)その他の情報の三類型に整理しています。

1.1 スナップショット型取得

保存通信(stored communication)の取得については、第99条第6項が重要な意味を持ちます。同項は、

IPA 2016 第99条第6項・第7項・第8項

リンクhttps://www.legislation.gov.uk/ukpga/2016/25/part/5


原文

(6) A targeted equipment interference warrant may not, by virtue of subsection (3), authorise or require a person to engage in conduct, in relation to a communication other than a stored communication, which would (unless done with lawful authority) constitute an offence under section 3(1) (unlawful interception).

(7) Subsection (5)(a) does not authorise a person to engage in conduct which could not be expressly authorised under the warrant because of the restriction imposed by subsection (6).

(8) In subsection (6), “stored communication” means a communication stored in or by a telecommunication system (whether before or after its transmission).


日本語訳

(6) ターゲット型機器干渉令状は、第(3)項の規定により、保存通信以外の通信に関して、適法な権限なしに行えば第3条第1項(違法傍受)の犯罪を構成するような行為を、ある者に許可しまたは要求することはできない。

(7) 第(5)項(a)は、第(6)項が課す制限のために令状によって明示的に許可することのできない行為を、ある者に許可するものではない。

(8) 第(6)項において、「保存通信」とは、電気通信システムに保存されている通信をいい、その伝送前・伝送後を問わない。

となっていて、「保存通信以外の通信」について違法傍受(第3条第1項)となる行為は機器干渉令状でも授権できないと規定しています。逆に言えば、「保存通信については機器干渉令状で取得できる」という設計です。特定時点における端末内の保存済みメッセージ・ファイル等の取得は、この枠組みで処理されます。

令状の発付についていえば、英国においては、発布の権限が、裁判所ではないことに留意が必要です。

情報機関向けは国務大臣の発付に加えて司法委員の承認(ダブル・ロック)が必要です(第102条・第108条)。法執行機関向けは、法執行機関の長(law enforcement chief)が発付し、やはり司法委員の承認を要します(第106条・第108条)。詳細は、以下のようになります。

発 付権限者 根 拠条文 必 要性の根拠 比 例性審査 司 法委員の承認
国務大臣(情報機関向け) 第102条 国家安全保障・重大犯罪・経済的 安寧(国安関連) 必 要 必要(ダブル・ロック)
スコットランド大臣 第103条 重大犯罪の防止・探知 必 要 必要
国防情報部長向け 第104条 国家安全保障のみ 必 要 必要
法執行機関(警察等)向け 第106条第1項 重大犯罪の防止・探知 必 要 必要
法執行機関(人命保護) 第106条第3項 死亡・負傷の防止・軽減 必 要 必要
出典:Investigatory Powers Act 2016, Part 5(legislation.gov.uk

必要性の根拠は「重大犯罪の防止・探知」であり、かつ比例性が求められます。有効期間は原則6か月で、更新可能です(第116条・第117条)。

1.2 傍受型(リアルタイム取得)

リアルタイムの通信傍受はPart 2の傍受令状(targeted interception warrant)によります。第99条第6項が機器干渉令状の範囲からリアルタイム傍受を除外しているため、継続的なモニタリングにはPart 2の傍受令状が必要です。傍受令状は国務大臣が発付し(第19条)、司法委員の事前承認(ダブル・ロック)が必要です(第23条)。これを一覧表にすると以下になります。

比較項目 内 容 根 拠条文
発付権限者 国務大臣のみ(スコットランド関 連はスコットランド大臣) 第19条・第21条
申請権限者 情報機関・NCA・メトロポリタ ン警察等に限定 第18条
必要性の根拠 国家安全保障・重大犯罪の防止探 知・経済的安寧(国安関連) 第20条第2項
証拠収集目的の除外 法的手続用証拠収集のみを目的と する場合は発付不可 第20条第5項
比例性審査 必要(国務大臣が判断) 第19条第1項(b)
保護措置 第53条・第54条の開示等保護 措置が必要 第19条第1項(c)
司法委員の承認 原則として事前承認必要(ダブ ル・ロック) 第19条第1項(d)・第23条
審査基準 司法審査と同一原則+プライバ シー配慮義務 第23条第2項
拒否時の書面理由 必要 第23条第4項
緊急の場合 事後承認可 第24条・第25条
有効期間 原則6か月(緊急令状は発付後5 営業日) 第30条
証拠としての使用 原則禁止(傍 受素材は刑事手続における証拠使用不可) 第56条
出典:Investigatory Powers Act 2016, Part 2(legislation.gov.uk

1.3 両者の法的性格の差異

傍受型(Part 2)とスナップショット型(Part 5)の最大の制度的差異は以下の二点です。

第一に申請権限者の限定です。Part 2は申請できる機関が第18条で厳格に限定されており、一般の地方警察は申請できません。これに対してPart 5の機器干渉令状は法執行機関の長(第106条)も申請できます。

第二に証拠排除原則です。Part 2の傍受素材は第56条により刑事手続における証拠として原則使用不可ですが、Part 5の機器干渉令状で取得した素材にはこの制限がなく、証拠として使用できます。これが実務上、法執行機関がスナップショット型取得を選好する最大の理由です。

2 米国の例

米国は、リアルタイム傍受と保存データ取得を明確に別個の法律で規律する三層構造を採っており、スナップショット型と傍受型の区分が最も明確に制度化されています。

2.1  傍受型(リアルタイム取得)——Wiretap Act(18 U.S.C. §§ 2510-2522)

リアルタイムの通信傍受は「タイトルIII」とも呼ばれるWiretap Actによって規律されます。要件は連邦法上最も厳格であり、以下を全て充足する必要があります。

– 令状申請は連邦検察官または州検事総長等が行い、連邦地裁または州裁判所判事が令状を発付すること
– probable cause(相当な根拠)の存在
– 対象犯罪が法定のリスト(重大犯罪)に含まれること
– 通常の捜査手段によっては証拠収集が困難であること(necessity要件)
– 傍受の期間は原則30日以内(更新可能)
– 傍受終了後に対象者への通知が原則として必要

この要件の厳格さから傍受令状が実務上ほとんど使われない理由とされています。具体的には、連邦裁判所行政局(AO)”Wiretap Report 2023″ によれば、2023年に認可された傍受令状は連邦・州合計で2,101件に過ぎない(https://www.uscourts.gov/statistics-reports/wiretap-report-2023)し、また、Orin S. Kerr, “The Next Generation Communications Privacy Act,” 162 U. Pa. L. Rev. 373, 378–79 (2014) は、Wiretap Actのnecessity要件が法執行機関にとって重大な手続的負担を課すものであることを指摘している。さらにCRS報告書(Congressional Research Service, “Cross-Border Data Sharing Under the CLOUD Act” (LSB10801, 2022) )は、テクノロジーの進化に伴い法執行機関の主要手段がWiretap令状からSCAに基づく保存データ取得へと移行したことを確認している。

2.2  スナップショット型(保存データ取得)——Stored Communications Act(保存通信法)(SCA、18 U.S.C. §§ 2701-2712)

保存された電子通信・データの取得は保存通信法(SCA)が規律します。取得手段は保存期間によって異なる段階的構造を持ちます。

180日以内に保存されたコンテンツデータ(電子メール本文等)については令状(warrant)が必要です。これは2018年のCarpenter v. United States判決以降、位置情報等への令状要件の拡大とともに判例法上の要件が強化されています。かつては180日を超えて保存されたデータについてはsubpoenaまたは裁判所命令で取得できるとされていましたが、実務上は大部分のケースで令状を使用することが定着しています。

Playpen作戦の提起した問題

問題は、端末の脆弱性を利用して、保存通信を取得するということが許容されるかという問題です。

これについては、—FBI「Playpen作戦」が参考になる事案を提供しています。「Playpen作戦」というのは、FBIはTorブラウザを利用した児童性的虐待素材(CSAM)配布サイト「Playpen」のサーバーを押収・掌握した上で、サイト訪問者のコンピュータのソフトウェアの脆弱性を利用してNetwork Investigative Technique(NIT)と呼ばれるマルウェアを秘密裏にインストールし、訪問者のIPアドレスその他の識別情報を収集したという一連の作戦をいいます。

この点について、EFFやACLUは、特集のページを有しています。

2015年2月、バージニア州東部地区の連邦治安判事がサイトの「いかなる利用者または管理者」のコンピュータに対するNITの設置を許可する単一の令状を発付し、FBIがサイトを運営した2週間でNITが数千人の利用者を特定し、130人以上が訴追されました。

FBIのNIT令状申請書は「ハッキング」「マルウェア」「エクスプロイト」という言葉を使用せず、「ウェブサイトが追加のコンピュータ命令でコンテンツを補強する」といった表現にとどまっており、脆弱性利用の実態が令状申請において明示されていませんでした。EFFの表現だと

現在、これらの起訴は、FBIの令状の法的根拠が脆弱であることや、検察側がFBIのマルウェアが具体的にどのように動作したかを被告側に開示することを拒否していることを理由に、異議が申し立てられている。

ということです。

判決例

この事件についての判決例としては、以下があげられます。

① United States v. Werdene(第3巡回区・2018年)(https://law.justia.com/cases/federal/appellate-courts/ca3/16-3588/16-3588-2018-02-21.html)

NIT令状はRule 41(b)違反でvoid ab initio(はじめから無効)だが善意の例外(good faith exception)を適用して証拠排除を否定した主要判例。


② United States v. Taylor(第11巡回区・2019年)(https://law.justia.com/cases/federal/appellate-courts/ca11/17-14915/17-14915-2019-08-28.html)

令状はvoid ab initioだが、法執行官の令状への合理的依拠を根拠に善意の例外を適用。


③ United States v. Moorehead(第6巡回区・2019年) (https://law.justia.com/cases/federal/appellate-courts/ca6/18-5216/18-5216-2019-01-09.html)

NIT令状の管轄外執行を認めつつ善意の例外を適用して上告棄却。


④ United States v. Harney(第6巡回区・2019年)(https://law.justia.com/cases/federal/appellate-courts/ca6/18-6010/18-6010-2019-08-14.html)

Tor使用者の特定のためNITを使用したPlaypen関連事案。令状の授権範囲・管轄を詳細に論じた。


⑤ United States v. Caraher(第2巡回区・2020年)(https://law.justia.com/cases/federal/appellate-courts/ca2/18-511/18-511-2020-08-25.html)

NIT令状に基づく証拠排除申立てを棄却、政府によるPlaypen運営は「outrageous government conduct」に当たらないと判示。


⑥ United States v. Henderson(第9巡回区・2018年)(https://us9thcircuitcourtofappealsopinions.justia.com/2018/10/23/united-states-v-henderson)

NIT令状はRule 41(b)違反だが善意の例外適用。2016年改正後のRule 41(b)(6)でこの類の令状が授権されたことも理由として言及。


⑦ United States v. Michaud(地裁:W.D. Wash.・3:15-cr-05351)(CourtListener(訴訟記録):https://www.courtlistener.com/docket/4411658/united-states-v-michaud/ 控訴審記録(第9巡回区・16-30163):https://www.courtlistener.com/docket/4490940/united-states-v-jay-michaud/)
証拠排除決定(2016年5月)。連邦判事がエクスプロイトコード不開示を理由に全NIT証拠を排除と判示したPlaypen事案唯一の地裁証拠排除判決。政府は訴追を取り下げた。


⑧ United States v. Horton(CourtListener)(https://www.courtlistener.com/opinion/4411453/united-states-v-steven-horton/ )
Playpen関連のアイオワ州事案。NIT令状の授権範囲・管轄外執行を詳細に論じる。

SCAとの直接的な抵触については、NITが取得するのが「保存された通信内容」か「識別情報(IPアドレス等)」かという性質決定が問題となります。IPアドレス等のメタデータはSCAの「コンテンツ」ではなくPen Register法の射程に属するとされましたが、NIT展開後にデバイス内の保存ファイルにアクセスする場合はSCAの問題が生じうるという点が学説上議論されました。

連邦証拠規則41条の問題と立法による解決

Playpen事案の防御側弁護士は、発付した治安判事の管轄外(バージニア州外)のコンピュータへの捜索を授権するNIT令状はRule 41(b)の管轄要件に違反しているとして令状の無効を主張し、複数の連邦裁判所がこの主張を認めました。ただしCSAM証拠の重大性から「善意の例外」が適用され、証拠排除には至らないケースがほとんどでした。これに対してミネソタ州の連邦裁判官はPlaypen関連事案において、FBI捜査員が令状発付の時点からRule 41の管轄要件を超えることを認識していたことを理由に、令状は署名された瞬間から無効であったと判示しました。

Playpen事案での管轄問題を受けて、司法省はJudicial Conferenceに働きかけてRule 41の改正を実現しました。

Rule 41(b)(6)(B)の条文テキスト

原文

(b)(6) a magistrate judge with authority in any district where activities related to a crime may have occurred has authority to issue a warrant to use remote access to search electronic storage media and to seize or copy electronically stored information located within or outside that district if—

(B) in an investigation of a violation of 18 U.S.C. § 1030(a)(5), the media are protected computers that have been damaged without authorization and are located in five or more districts.

【日本語訳】

(b)(6) 犯罪に関連する活動が生じた可能性のある任意の地区において権限を有する治安判事は、以下の場合に、当該地区の内外を問わず所在する電子記録媒体をリモートアクセスにより捜索し、電子的に記録された情報を差し押さえまたは複製するための令状を発付する権限を有する。

(B) 18 U.S.C. § 1030(a)(5)の違反の捜査において、当該媒体が無権限で損害を受けた保護コンピュータであり、かつ5以上の司法地区に所在する場合。

 2.3 メタデータのリアルタイム取得——Pen Register Act(18 U.S.C. §§ 3121-3127)

発信先電話番号・IPアドレス等のメタデータをリアルタイムで取得する場合はPen Register Actによります。裁判所命令(court order)が必要ですが、要件は「捜査に関連する情報が得られる」という低い基準であり、Wiretap Actの厳格性とは対照的です。

なお、プロバイダーに保存されている通信自体については、第三者に提供されていることから、その保護が、より低くてもかまわないのではないか、その文、「合理的な期待」が弱いのではないかということがいわれていたのですが、Carpenter v. United States (Carpenter v. United States, 585 U.S. 296, 138 S. Ct. 2206, 201 L. Ed. 2d 507 (2018))(138 S. Ct. 2206)(Justria)は、長期間の携帯電話位置情報(CSLI)の取得に令状を要求し、「第三者提供の法理」(third-party doctrine)の限界を示したとされます。この事案は、

FBI はデトロイトのRadio Shack・T-Mobile店舗強盗の共犯者の自白から Timothy Carpenter を特定し、SCA § 2703(d) に基づく裁判所命令(令状ではなく「相当な根拠」より低い「合理的な根拠」で足りる)により、携帯電話会社から127日間・12,898地点分の携帯基地局接続記録(CSLI)を取得した。このCSLIは1日約100回Carpenterの位置を記録しており、4件の強盗現場付近への所在を示していた。

Carpenterは証拠排除を申立てたが棄却されて有罪となり、第6巡回区控訴裁判所も「第三者提供の法理」を適用して合憲と判示した。連邦最高裁(ロバーツ長官執筆・5対4)は、継続的・網羅的な位置情報記録は「被告人の意思から独立した」第三者提供情報とは異なりプライバシーの合理的期待が及ぶとして、SCAの裁判所命令では不十分であり原則として令状が必要と判示し、第6巡回区を破棄差戻しとした。

です。

2.4 脆弱性を利用した問題について

2.4.1リソース

United States v. Michaud(地裁:W.D. Wash.・3:15-cr-05351)において興味深い議論がなされているのでみていきます。リンクについては、

訴訟記録(CourtListener・全ドケット)
https://www.courtlistener.com/docket/4411658/united-states-v-michaud/

控訴審記録(第9巡回区・16-30163)
https://www.courtlistener.com/docket/4490940/united-states-v-jay-michaud/

政府側準備書面(Dkt. 94・Rule 41違反に関する反論)
https://www.washingtonpost.com/news/volokh-conspiracy/wp-content/uploads/sites/14/2016/10/Michaud-Brief.pdf

政府側準備書面(Dkt. 74・ソースコード開示強制申立への反論)
https://s3.amazonaws.com/pacer-documents/184/218206/19716651399.pdf

報道(Courthouse News Service, 2016年5月)
https://www.courthousenews.com/without-code-judge-tosses-evidence-in-child-porn-case/

解説(連邦裁判所ニューハンプシャー地区・証拠排除に関する論考)
https://www.nhd.uscourts.gov/pdf/Crim_Session_Suppression_article.pdf

解説(Georgetown Journal of Law & Public Policy「Surveillance Technology and Graymail」)
https://www.law.georgetown.edu/public-policy-journal/wp-content/uploads/sites/23/2018/10/16-2-Surveillance-Technology.pdf

2.4.2 事実関係

NITによる感染

FBIは2015年、ノースカロライナ州レノアに設置されたPlaypenのサーバを押収しましたが、これをオフラインにせず、2015年2月20日から3月4日まで政府自身がサイトを運営しました。この期間中にサイトを訪問したコンピュータにNIT(Network Investigative Technique(NIT))が感染させられます。令状はバージニア州東部地区の連邦治安判事が発付したものでした。

Michaudはこれによって特定され、訴追されました。

訴訟の展開——三段階

第一段階 証拠排除申立の却下(2016年1月28日)

Michaudは証拠排除申立とFranks審尋の申立を行い、2016年1月22日の証拠調べ期日ではFBI特別捜査官Daniel Alfinと、ACLUの主任技術者Christopher Soghoianの証言が行われました。Bryan判事はFranks審尋の申立を口頭で却下し、次いで書面により証拠排除申立も却下しました。争点は令状の特定性(particularity)とRule 41(b)違反でしたが、いずれも認められませんでした。なお、この決定は後に第3巡回区のWerdene判決において、証拠排除を認めた事例と対比される先例として引用されています。

2016年1月28日 証拠排除申立却下決定(vLex 全文)
https://case-law.vlex.com/vid/united-states-v-michaud-888230741
引用:United States v. Michaud, No. 3:15-cr-05351-RJB, 2016 WL 337263 (W.D. Wash. Jan. 28, 2016)

第二段階 ソースコード開示の強制(2016年2月)

弁護側は戦術を転換し、NITのソースコードの開示を刑事訴訟規則16条に基づいて求めました。同条(E)(リンク)は、

(E) 文書および物件

被告人の請求により、政府は、書籍、書面、文書、データ、写真、有体物、建物もしくは場所、またはこれらの複製もしくは一部を、被告人が閲覧し、複写しまたは撮影することを許さなければならない。ただし、当該物件が政府の占有・保管・支配下にあり、かつ以下のいずれかに該当する場合に限る。

(i) 当該物件が防御の準備にとって重要(material to preparing the defense)であること

(ii) 政府が公判における主張立証(case-in-chief)において当該物件を使用する意図を有すること、または

(iii) 当該物件が被告人から取得され、または被告人に属するものであること

(F) 検査および試験の報告

被告人の請求により、政府は、身体的もしくは精神的検査の結果・報告、および科学的検査または実験の結果・報告を、被告人が閲覧・複写・撮影することを許さなければならない。ただし、(i) 当該物件が政府の占有・保管・支配下にあり、(ii) 政府側代理人がその存在を知っているか相当の注意により知りうるものであり、(iii) 当該物件が防御の準備にとって重要であるか、または政府が公判における主張立証において使用する意図を有する場合に限る。

となっています。Bryan判事はNITのソースコードがMichaudの防御にとって重要(material)であり、「防御にとって重要であることを示す立証責任を果たした」と認定し、開示強制の申立を認容しました(2016年2月17日)。

これに対し政府は、法執行特権(law enforcement privilege)を援用して開示を拒否しました。

(d) 証拠開示の規律

(1) 保護命令および変更命令

裁判所は、正当な理由がある場合にはいつでも、証拠開示もしくは閲覧を拒否し、制限し、もしくは延期し、またはその他の適切な救済を与えることができる。裁判所は、当事者が一方当事者のみの手続(ex parte)で裁判所が閲覧する書面によって正当な理由を疎明することを許すことができる。救済が与えられた場合、裁判所は当該当事者の陳述書の全文を封印して保存しなければならない。

(2) 不遵守

当事者が本条に従わない場合、裁判所は以下のことができる。

(A) 当該当事者に対し証拠開示または閲覧を許すよう命じ、その時期・場所・方法を特定し、その他正当な条件を定めること

(B) 期日を延期すること

(C) 当該当事者が開示しなかった証拠を提出することを禁止すること、または

(D) 事情に照らして正当なその他の命令を発すること

裁判所も同特権の適用自体は認めています。

第三段階 証拠の全面排除(2016年5月18日)

弁護側は訴訟の却下(dismissal)を強く求めましたが、Bryan判事はこれを認めず、代わりに

NITの証拠、NITに基づいて発付された捜索令状、および当該令状の果実は排除されるべきであり、公判において証拠として提出してはならない。(Dkt. 212)

と命じました。その結果、政府は事件を維持できなくなり、訴追を取り下げました。

3 EUの例

EU法は傍受権限を直接規律する統一規則を持たず、各加盟国が独自の傍受立法を維持しています。ただし、電子証拠の越境取得という観点からは2023年e-Evidence規則(Regulation (EU) 2023/1543)が2026年8月に適用開始されており、スナップショット型取得の枠組みとして参照価値があります。これについては、「電磁的記録提供命令について-国外の被疑者に対する命令の論点」で詳述しているので、そちらを参照ください。でもって、EUそれ自体においては、刑事訴訟法は、構成国の権限によるものになります。しかしながら、法執行機関が、無権限アクセスをなして通信に対してアクセスをすることがゆるさるのか、という議論がなされています。

3.1 欧州議会市民自由・司法・内務委員会(LIBE)報告書(2017)

欧州議会市民自由・司法・内務委員会(LIBE)は、2017年に「法執行機関のハッキングの法的枠組 引き別・評価および実務の比較(“Legal Frameworks for Hacking by Law Enforcement: Identification, Evaluation and Comparison of Practices”)作成者:Mirja Gutheil, Quentin Liger, Aurélie Heetman, James Eager, Max Crawford(Optimity Advisors)委託元:欧州議会 市民の権利・憲法問題政策局(LIBE委員会の要請による)という報告書を公表しています(リンク)。

この報告書は、第2章で法執行機関によるハッキングに関する国際的・EUレベルの議論を検討し、第3章でこの分野におけるEUの介入の法的根拠を分析した上で、第4章が本研究の主要な焦点である6つのEU加盟国(フランス、ドイツ、イタリア、オランダ、ポーランド、英国)および3つの非EU諸国(オーストラリア、イスラエル、米国)にわたる法的枠組みと実務の比較分析を行い、第5章で結論、第6章で具体的な勧告と政策提案を提示する構成となっています。

各国の良好な実践例として、2017年のイタリア法案がハッキングツールの広範な機能の過剰使用または濫用を防ぐためツールの機能を分離する努力を行っている点、およびオランダのComputer Crime III法案が各ハッキング要請について正式な比例性評価を実施する義務を課し、ハッキングを実行できる捜査官の授権と専門性について厳格なルールを設けている点を挙げています。

報告書は12の実行可能な政策提案と勧告を導出しています。具体的には、第一部 基本権としてのプライバシーに関する提案(提案1〜6)、と第二部 インターネットのセキュリティに関する提案(提案7〜12)からなりたちます。

  1. 政策提案1 (欧州議会は、法執行機関によるハッキング技術の使用を許可し規律する新法が提案される際に、加盟国がプライバシー影響評価(Privacy Impact Assessment)を実施するよう求める決議を採択すべきである。このプライバシー影響評価は、ハッキングツールの使用の必要性および比例性に焦点を当てるものでなければならず、各国データ保護当局からの意見の聴取を要件とすべきである。)
  2. 政策提案2(欧州議会は、法執行機関がハッキング技術を使用しようとする場合には、加盟国が明確かつ精密な法的根拠を採択する必要があることを再確認すべきである。)
  3. 政策提案3(欧州議会は、この主題についてより多くの研究を委託し、または欧州委員会その他の機関がより多くの研究を実施するよう促すべきである。スノーデン事件の暴露を受けて、欧州議会は、EU基本権機関(FRA)に対し、監視の文脈における基本権保護を徹底的に研究するよう求めた。全EU加盟国における法執行機関のハッキング技術の使用を規律する法的枠組みに関する同様の調査は、極めて価値の高い研究となるであろう。)
  4. 政策提案4(欧州議会は、法執行機関によるハッキングを許可する新たな立法規定の実務上の適用について、加盟国が評価および監視活動を実施するよう促すべきである。)
  5. 政策提案5(欧州議会は、EU基本権機関(FRA)に対し、法執行機関によるハッキングの規律に関する実務者向けハンドブックを作成するよう求めるべきである。このハンドブックは、弁護士、裁判官、検察官、法執行職員その他の各国当局と協働する者、ならびに当該ハンドブックが取り扱う領域における法的問題に直面する非政府組織その他の団体を対象とすべきである。取り扱う領域は、ハッキング技術の侵襲的性質、国際法およびEU法・判例法上の関連する保護措置、ならびに監督および統制のための適切な仕組みを含むべきである。)
  6. 政策提案6(欧州議会は、FRA、CEPOL、Eurojustといった EU機関に対し、上記ハンドブックと連携して、加盟国の司法関係者およびデータ保護当局に対し、加盟国において使用されているハッキングの技術的手段、その侵襲性の潜在的可能性、およびこれらの技術的手段に関する必要性・比例性の原則についての研修を提供するよう求めるべきである。)

インターネットとセキュリティに対する提案としては

  1. 政策提案7(欧州議会は、法執行機関によるハッキング技術の使用を規律する新規または既存の法律がインターネットのセキュリティに及ぼす影響を検討するための影響評価を実施するよう加盟国に求める決議を採択すべきである。)
  2. 政策提案8(欧州議会は、Europolおよび欧州ネットワーク・情報セキュリティ機関(ENISA)との協力を強化することを通じて、法執行機関によるハッキングというテーマに関する議論を踏まえた上で、強力な暗号化への関与を再確認すべきである。加えて、欧州議会は、情報技術インフラまたはサービスにおけるバックドアその他これに類する技術の実装への反対を再確認すべきである。)
  3. 政策提案9(ゼロデイ脆弱性の取扱いに関する議論の欠如に鑑み、欧州議会は、基本権およびインターネットのセキュリティに関するリスクを考慮した上で、ゼロデイ脆弱性の取扱いに対する適切な対応を開発するためにサイバーセキュリティ契約的官民パートナーシップ(PPP)の下でなされている取組みを支援すべきである。)
  4. 政策提案10(上記政策提案4を拡張して、提案されたFRAハンドブックは、ハッキング技術の使用がインターネットのセキュリティにもたらすリスクについても取り扱うべきである。)
  5. 政策提案11(政策提案5を拡張して、FRA、CEPOL、EurojustといったEU機関によって司法関係者に提供される研修は、ハッキング技術がインターネットのセキュリティにもたらすリスクについてもこれらの者を教育するものであるべきである。)
  6. 政策提案12(ハッキング実務がインターネットのセキュリティにもたらすリスクに関する議論の欠如に鑑み、欧州議会は、このリスクの理解およびその管理手法に特化した適切なフォーラムでの議論を促進すべきである。そのような議論には法執行機関の代表者が参加することが望ましい。)

となっています。

3.2 EncroChat事件

事実関係

EncroChateはフランスを拠点とする通信ネットワーク・サービスプロバイダーであり、組織犯罪、主に麻薬密売に利用されていた改造スマートフォンによるエンドツーエンド暗号化通信を提供していました。2020年、リール刑事裁判所の許可を得て、フランス国家憲兵隊とオランダの専門家からなる共同捜査チーム(JIT)がEncroChat端末をハッキングし、122か国のユーザーの暗号化データにアクセスしました。ハッキングの技術的手法は、マルウェアをアップデートに偽装して配布するというものであり、法的のプライバシー権を定めるECHR第8条との関係で、取得された証拠の適法性についての疑問が生じました。

なお、後述のオランダ最高裁の判決(2023年6月13日決定(ECLI:NL:HR:2023:913)(リンク))で事実関係が認定されているのでそれで時系列を示します。

Ⅰ EncroChat ― 捜査の経過

日付 主体 内容
2017年9月25日 オランダ検察 「26Bismarck」捜査開始。重大犯罪の被疑者から同社端末が発見されたことが端緒。EOBによりフランスからインフラのコピーを取得
2020年1月30日 フランスの裁判所 ルーベのOVH社に設置されたサーバーへの傍受装置設置を許可
2020年2月10日 オランダ検察 「26Lemont」捜査開始。フランスとの共同捜査チーム(JIT)協定を締結し、収集情報を共同捜査ファイルに統合することを合意
2020年3月13日 オランダ検察 フランスの装置設置に先立ち、刑訴法126uba条(自動化システムへの侵入)・126t条(通信の記録)に基づく命令発付の許可を請求
2020年3月27日 オランダ捜査判事 許可を付与。プライバシー侵害の限定と「フィッシング・エクスペディション」防止のため7条件を付す(下表参照)
2020年4月1日 フランス当局 傍受装置を設置。装置はSTNCJが設計し、フランス国家機密に該当
2020年4月1日
〜6月14日
フランス当局 端末からリアルタイム情報を収集。JITパートナーであるオランダと共有し共同捜査ファイルに追加
2020年4月1日
〜6月24日
オランダ警察 ユーザーデータを複製し、収集された新規データを遅滞なく自国の捜査ネットワークへ転送
その後 オランダ検察 刑訴法126dd条に基づきElrits・Shifter等の捜査チームとの情報共有を許可。共有に先立ち情報を捜査判事へ提出

オランダ捜査判事が付した7条件(2020年3月27日・EncroChat)

No. 内容
1 侵入方法をログおよび記述的調書に記録すること(既承認の介入手段を使用する場合、および他法域で技術的手段の動作に関する開示義務が存在しない場合を除く)
2 使用ソフトウェアの説明を調査に利用可能とし、後日の再現・実演に供しうるものとすること(同上の除外あり)
3 収集情報はハッシュ値等により完全性を保証する方法で保存し、検証・調査を可能とすること
4 調査は捜査報告書に記録された検索キー(キーワードリスト)によってのみ行い、当該キーを保管すること
5 弁護士の氏名・電話番号・メールアドレスを検索キーに含め、秘匿特権者の通信の有無を調査すること
6 検索終了後2週間以内に捜査判事へ提出し審査を受けること。それ以前に検察・警察へ提供しないこと
7 組織的枠組みで実行・計画され法秩序に重大な侵害をもたらす犯罪、またはテロ目的の犯罪の捜査に限り提供すること

CJEUへの先決裁定事件——Case C-670/22(MN事件)

これが争われたのが、Case C-670/22(MN事件)(2024年4月30日(大法廷))です。ドイツ連邦刑事局(Bundeskriminalamt)とフランクフルト検察庁は、EIO指令(Directive 2014/41)に基づく欧州捜査令状(EIO)を通じてこのデータの移転を要請しました。EncroChat単独で、122か国にわたる32,000人のユーザーに関連する数百万件のメッセージが収集され、EUでは6,500件以上の逮捕と3,800件の法的手続きにつながりました。

EUR-Lex(CELEX: 62022CJ0670) (https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=celex:62022CJ0670) 事件一覧ページ(審理経過・法務官意見等)https://curia.europa.eu/juris/liste.jsf?num=C-670%2F22 プレスリリース No 77/24(https://curia.europa.eu/site/upload/docs/application/pdf/2024-04/cp240077en.pdf) です

ベルリン地方裁判所は、ドイツ裁判所間でのEncroChate証拠の使用可能性をめぐる論争を受けてフランスの捜査官がハッキング技術を使用して収集したデータの移転に関するドイツのEIOが基本権と適合するかどうかについてCJEUに先決裁定を申請しました。CJEUが問われた主な論点は以下の三点です(詳細は、パラ54)。

  • ① フランスの捜査機関がハッキング技術を用いて収集したデータをドイツで証拠として使用することはEIO指令および基本権と適合するか。(発令当局の概念)
  • ② ドイツの検察官が裁判所命令なしにEIOを発付できるか(EIO指令第2条(c)の「司法当局」要件との関係)。
  • ③ EU法に潜在的に違反して収集された可能性のある証拠を刑事手続で使用した場合の結果はいかなるものか。

CJEUはベルリン地方裁判所からの先決裁定申請に応じて判断を示しました。その要旨としては

暗号化通信サービス「EncroChat」を利用した違法薬物密売に関するドイツの刑事手続において、欧州司法裁判所は、刑事事件における欧州捜査命令(EIO)に関する指令に基づく証拠の送付および利用に関する一定の条件を明確化した。したがって、他の加盟国によって既に収集された証拠の送付を求めるEIOは、一定の条件の下で、検察官によって発令されることがある。EIOの発令にあたっては、発令国における証拠収集に適用される条件が満たされている必要はない。ただし、関係者の基本権の尊重について、事後に司法審査を受けることが可能でなければならない。さらに、ある加盟国が別の加盟国の領土内において実施する通信傍受措置については、当該別の加盟国に対し、適時に通知されなければならない。また、刑事裁判所は、一定の条件下において、当該者がその証拠について意見を述べる立場にない場合、その証拠を排除しなければならない。

となります(プレスリリース)。結局、ハッキング技術を用いて収集したデータをドイツで証拠として使用することはEIO指令および基本権と適合するか、については、判決は

付託裁判所が本質的に問うているのは、指令2014/41第6条第1項が、執行国の所管当局が発行国の領土内において、特別なソフトウェアおよび改造されたハードウェアを用いてエンドツーエンド暗号化通信を可能にする携帯電話の全利用者の通信を傍受した結果として取得した証拠について、検察官が当該証拠の送付を求めるEIOを発行することを、どのような条件下で排除するか、あるいは排除しないかという点である

としてEIOの発行の必要性および比例性の評価は、発行国の国内法のみに照らして行われなければならない(88パラ)とした上で、

傍受措置の根底にある技術の機密性により、当該措置によって収集されたデータの完全性を検証できない場合であっても、その後の刑事手続において公正な裁判を受ける権利が保障されている限り、EIOの発付を妨げるものではない。

としました(パラ90)。また

発令当局が、欧州証拠令(EIO)を通じて、執行国の管轄当局がすでに保有している証拠の送付を確保しようとする場合、 発令当局は、執行加盟国が送付を求める証拠を収集した個別の手続の適法性を審査する権限を有しない。

としました(パラ100)。

もっとも、

また、

インターネットベースの通信サービスから通信データだけでなく、トラフィックデータや位置情報データを収集する目的で端末装置に侵入することは、指令2014/41第31条第1項の意味における「通信の傍受」に該当する。

問を解釈がしめされています(パラ114)。そこでは、欧州は、スナップショット取得と傍受を区別しないという特徴を有しているということができます。

また、上記の権限論以外にも、

刑事犯罪を犯した疑いのある者に対する刑事手続において、当該者がその情報および証拠について効果的に意見を述べる立場になく、かつ当該情報および証拠が事実認定に決定的な影響を及ぼすおそれがある場合には、国内刑事裁判所は当該情報および証拠を無視しなければならない、と解釈されなければならない。

という判断が示されています。

その後の法的処理について

連邦憲法裁判所(BVerfG)2024年11月1日決定——憲法異議棄却

2024年11月1日、ドイツ連邦憲法裁判所は、EncroChatデータを証拠として使用したことに基づく麻薬取引の有罪判決に対する憲法異議を棄却しました。これは、異議申立人が2024年4月30日のCJEU判決という法状況の変化を受けて憲法異議を適時に更新する義務を果たさなかったとして、異議を不適法としたものです。

ベルリン地方裁判所2025年7月判決——証拠能力を否定

2025年7月、ベルリン地方裁判所はEncroChatのハッキングによって得られたデータがドイツの刑事手続において証拠として許容されないと宣言する画期的な判決を下しました。判決は、EncroChatデータがドイツにおける司法的統制なしに、かつ個別の令状なしに収集されたことを強調しました。裁判長は、検察官がドイツの裁判所の承認を求めることを怠っており、かつドイツ法の下ではドイツの裁判所はEncroChatに対するハッキング作戦を承認しなかったであろうと認定しました。

オランダ最高裁判所 Hoge Raad 2026年4月14日判決(ECLI:NL:HR:2026:650)

(リンク)https://uitspraken.rechtspraak.nl/details?id=ECLI:NL:HR:2026:650  

全文https://linkeddata.overheid.nl/front/portal/document-viewer?ext-id=ECLI:NL:HR:2026:650

この判決においては、

最高裁は、自らの2023年6月13日先決決定(ECLI:NL:HR:2023:913)(リンク))の判示6.23.4を一点修正した。すなわち、指令2014/41/EU第31条は加盟国の主権保護のみならず、通信を傍受された個人の権利(私生活の尊重を受ける権利)をも保護するものである。したがって当該通知義務の違反があった場合、関係者はそれによって自らの権利を侵害されたことになり、この点は当該違反に法的効果を結びつけるべきかの判断において意味を持つ考慮要素となる。

もっとも、この修正は本件の結論を左右しない。最高裁は、JIT例外(指令第3条)が適用され第31条は本件に適用されないとする控訴院の判断を是認した。オランダはJITパートナーとして傍受を完全に認識しており、捜査判事を通じて126uba条・126t条の複合許可を適時に付与していた。したがっていかなる通知義務の違反も存在せず、調査請求の却下は正当である。

被告人が証拠に実効的に反論できない場合には防御権が保障されていないことになるが、本件においてはそのような状況は生じていない。

また、,CJEUへの先決裁定申請であった指令第31条第1項の解釈およびEU法に照らした証拠取得の適法性の評価について先決裁定を申請する理由は認められないこと、控訴院による記録の送付が遅延し、被告人が未決勾留中であるにもかかわらず上告提起から16か月を超えて判決に至った。ECHR第6条第1項にいう合理的期間の徒過にあたるため、これを独立の減刑事由として懲役6年9月を6年5月に減軽するとして、その余の上告は棄却しました。

3.3 Sky ECC事件

事案の概要

Sky ECCは、バンクーバーに拠点を置くSky Global社が提供していた暗号化通信ネットワークで、EncroChatが2020年に摘発された後、多くの利用者が乗り換えた「世界最大のクリプトフォンネットワーク」でした。全世界で約17万人の利用者を擁していました。フランス・ベルギー・オランダの警察は、フランスのルーベにあるOVHデータセンター内のSky ECCインフラに「中間者攻撃サーバー」(man-in-the-middle server)を設置してメッセージと暗号鍵を傍受し、2019年6月から2021年3月までの間に数億件のメッセージを解読しました。2021年2月中旬以降、当局は約7万人のSky ECC利用者の情報の流れを監視できるようになりました。

2021年3月9日の「Operation Argus」により、Sky ECCは閉鎖され、ベルギーとオランダで逮捕・家宅捜索・押収が行われました。ベルギーでは約1,600人の法執行職員が薬物・マネーロンダリング・贈収賄に関連する施設への強制捜査に参加しました。

具体的な刑事事件

なお、これに関して、具体的な刑事事件は、いくつかの事件があります。具体的には、

ア)イタリア破毀院(2022年9月7日 判決第32915号)

被告人がSky-ECCチャットの取得手法に関する資料の開示を求めたのに対し、検察がこれを拒否した事案です。破毀院は、検察の回答が捜査活動の「結果」と「採用された手続」とを混同していると指摘した上で、本案手続および勾留手続の双方において、サーバーからのチャット取得に用いられた手法が強行規定および基本原則に反しないかを具体的に評価する必要があると判示しました。取得方法の開示なくしては、被告人は異なる国の警察間で交換された情報の内容も、捜査がどのように行われたかも理解できないとしています。

解説(英語):https://www.devita.law/sky-ecc/?lang=en

イ)オランダ最高裁(Hoge Raad)2023年6月13日決定(ECLI:NL:HR:2023:913)(リンク)

EncroChatとSkyECCを一体として扱った先決決定であり、事件の全体像を把握するのに最も適した判例です。最高裁は、外国当局の決定は尊重されなければならず、原則として捜査は適法に行われたものと推定されるとした上で、裁判官が取得手法に注意を払わなければならないのは、証拠使用が公正な裁判を受ける権利と適合するかの判断にとって重要である場合に限られるという審査枠組みを示しました。

判決全文:https://uitspraken.rechtspraak.nl/details?id=ECLI%3ANL%3AHR%3A2023%3A913

この判決は、上で検討したEncroChat事件の事実関係もあわせて認定しているので、興味深いものといえます。

両事案の構造的相違

項目 EncroChat SkyECC
取得技術 フランスSTNCJ設計の傍受装置(フランス国家機密) メモリコピー技術・マン・イン・ザ・ミドル技術
技術の帰属 フランス オランダ(フランス諮問委員会が承認)
オランダの事前許可 フランスの設置・収集に先立って取得(2020年3月27日) 段階的に取得(2018年11月30日の限定許可 → 2020年12月・2021年2月の許可)
オランダの傍受認識 JITパートナーとして当初から認識 IPタップ設置に立会せず、事後に通知(2019年7月8日)
検証可能性の条件 「後日の再現・実演に供しうる」(他法域に開示義務がない場合は除外) 「裁判所および弁護側が事後的に再現・検証できる」

捜査の経過

日付 主体 内容
2018年10月30日 オランダ 「13Yucca」捜査開始。犯罪組織構成員が2015年8月以降SkyECCを利用していたことが判明
2018年11月30日 オランダ捜査判事 刑訴法126ug条2項に基づく請求を許可。「イメージ」作成を認めるが、収集情報は傍受・復号の技術的可能性の調査にのみ使用可能とし、メッセージ内容は捜査判事の明示的許可なく刑事捜査に使用不可と制限
2018年11月21日 ベルギー フランスへ同様のEOBを送付
2018年12月6日 オランダ フランスへEOB発出。サーバー「イメージ」取得、技術的構成の調査、組織構造の把握、顧客データ・サーバー技術データの提供を求める
2019年6月14日 フランスの裁判官 EOB執行によるアーキテクチャ分析を受け、サーバー間通信の傍受・記録・文字起こしを許可
2019年6月24日
・26日
フランス当局 IPタップを設置。オランダ当局は立会せず、7月8日に事後通知を受けた
2019年7月11日 オランダ IPタップのデータがオランダ側で利用可能に。第2のEOBはタップ接続を認識した上で取得データの提供を目的とする
リール地裁捜査判事 サイバー犯罪条約26条およびEU司法共助協定7条に基づき、データに基づく調査結果をフランスへフィードバックするよう要請
2019年11月1日 オランダ SkyECC社を被疑者として捜査「26Werl」開始
2019年12月13日 蘭・白・仏 三国JIT協定を締結。以降フランスの傍受データはJITに提供され共有される
2020年5月14日
・6月3日
フランス当局
(技術はオランダ開発)
オランダの技術者がJIT内で開発した、サーバーをオフラインにせずワークメモリをコピーする技術を活用
2020年12月18日 オランダ開発/
仏諮問委員会承認
オランダが開発した「マン・イン・ザ・ミドル」技術を接続・稼働。プライバシー・通信の秘密を侵害しうる機器を審査するフランスの諮問委員会の承認を経たもの
2020年12月11日 オランダ 捜査「26Argus」開始。組織的に重大犯罪を企図・実行するSkyECCのNNユーザーを対象
2020年12月15日
2021年2月7日・11日
オランダ捜査判事 126t条(盗聴)に基づく命令発付を許可(12月15日)、コンピュータシステム侵入に基づく命令発付を許可(2月7日・11日)。7条件を付す(下表参照)
2021年1月11日 オランダ捜査判事 126t条の許可を延長し、データ利用に関する追加許可取得の条件をさらに詳細化
2022年1月3日 オランダ検察 126dd条に基づき「26Argus」の情報を「Shifter」捜査チームと共有することを許可。その過程でEncroChatユーザーと関連付けられうるSkyECCアカウントが判明

オランダ捜査判事が付した7条件(2020年12月〜2021年2月・SkyECC)

捜査判事は、SkyECCデータ利用の適法性についてオランダ捜査判事の決定が必要かは事前に確定していないとしつつ、関係者のプライバシー保護の観点から比例性審査が適切であると述べた上で、以下の条件を付した。

No. 内容
1 事前に捜査判事へ提出した検索キーによってのみ調査可能(進行中捜査から得たユーザー・連絡先情報、組織的重大犯罪を示唆する検索語・画像等)
2 裁判所および弁護側が、検索によりどの結果・データセットが得られ、どのデータが捜査に提供されたかを事後的に再現・検証できるようにすること
3 弁護士を含む秘匿特権者の秘密保持権を尊重し、可能な限り積極的に除外すること
4 捜査判事に根拠となるフランスの司法決定の閲覧を許可すること
5 調査終了後、捜査判事に提出し、内容・範囲および具体的な犯罪嫌疑との関連性を審査すること
6 捜査判事の明示的許可を得た後にのみ提供し、どのデータが許可対象でどのデータが捜査チームに提供されるかを明確にすること
7 組織的連携の下で実行・計画され法秩序に重大な侵害をもたらす犯罪、またはテロ目的の犯罪の捜査のためにのみ提供すること

同 2024年2月13日判決(ECLI:NL:HR:2024:192)(リンク)

先決決定後の最初の本案判決です。EncroChatデータセットが逐語的に記録として編綴され被告人が防御できた以上、傍受ツールの技術情報が記録に編綴されていないことは結論を左右しないとし、ECtHRおよびCJEUへの先決裁定申請も不要としました。

解説:https://jjoerlemans.com/2024/03/03/eerste-hoge-raad-arrest-na-prejudiciele-vragen-over-encrochat-en-skyecc/


ウ)ベルギーアントワープ控訴院2023年6月14日判決

「ベルギーで控訴審レベルで初めてSky ECC問題を扱った判決」として重要です。同判決は、傍受・復号されたSky ECCメッセージに関して提起されたすべての手続的主張を理由を付して排斥し、第一審で証拠不十分により無罪とされた2名を、控訴審での欠落書類の補充後に最高刑である10年の拘禁刑と20万ユーロの罰金に処しました。

リンク:https://www.rechtbanken-tribunaux.be/nl/hof-van-beroep-antwerpen/news/2079

エ )ベルギー・ブリュッセル第一審裁判所(2024年10月29日 判決)

2023年12月に開始された「Encro」裁判の第一審判決です。128名の被告人に対し、犯罪組織への参加・誘拐・恐喝等の罪状が問われ、9名が無罪、119名が14か月から17年の拘禁刑を言い渡されました。判決文は約1,500頁に及び、ベルギー史上最大規模の刑事裁判の一つとされます。

報道:https://www.occrp.org/en/news/belgian-court-convicts-119-in-sky-ecc-case

なお本件の控訴審は2025年9月に開始されました。https://www.bruzz.be/actua/justitie/arrest-beroep-van-megaproces-sky-ecc-zal-begin-april-uitgesproken-worden-2025-10-30 判決は、現時点で確認されませんでした。


カ)チューリヒ上級裁判所(Obergericht Zürich)2025年8月15日判決

報道リンク

同裁判所第二刑事部は、Sky ECCの傍受メッセージを「絶対的に証拠能力なし」(absolut unverwertbar)と判示しました。スイスで第二審裁判所がSky ECCデータの証拠能力について判断を下したのは初めてです。

理由づけが極めて重要です。 上級裁判所は、フランス捜査機関が暗号鍵要素を取得した行為を、スイス刑事訴訟法第280条にいう技術的監視装置の使用にあたると評価しました。被告人は当時スイスに住所を有していたため、フランス捜査官による当該端末へのアクセスはスイス領域内で行われたことになります。技術的監視装置の使用は関係国が同意した場合にのみ許容されるところ、フランス当局は司法共助請求を行っていませんでした。したがって当該行為は主権および領土保全の侵害にあたり、国際法違反に等しいため、証拠は一切証拠能力を有しないと結論づけました。

キ) フランス破毀院(Cour de cassation)2025年9月16日 CJEUへの付託

Cass. crim., 16 septembre 2025, 24-84.262 (FS-D)

判決全文(Légifrance)
https://www.legifrance.gouv.fr/juri/id/JURITEXT000052303690/

フランスの裁判所がドイツ国民に対し、フランスのハッキング作戦の適法性をフランスの裁判所で争う権利を認めなかったことを受け、破毀院はEU市民がフランス法執行機関の取得した証拠の適法性を争う権利を有するかについてCJEUに判断を求めました。この判断は、Sky ECCおよびEncroChatによる証拠に基づいてEU域内で訴追されている個人に対する手続に重大な帰結をもたらすとされています。

報道:https://www.computerweekly.com/news/366631442/French-court-ruling-may-lead-to-legal-challenges-over-state-Sky-ECC-and-EncroChat-phone-hack

なお゛このCJEUでの事件は、Case C-625/25(Prudniez)として現在も係属中です。eucrim事件ページ(進行状況の追跡に最適)https://eucrim.eu/documentation/ecj-eu-criminal-law-cases-overview/c-625-25/

となります。

ク)バーゼル控訴裁判所(Appellationsgericht Basel)2025年10月3日判決

2025年10月3日、バーゼル控訴裁判所も第二審としてチャットの証拠能力を否定しました。事案は、コカインの世界的取引における重要人物とされるコロンビア人(50歳)に関するもので、2021年2月7日の逮捕までに少なくとも115キログラム・800万フラン超のコカインを自ら販売し、2020年1月から8月までの間に約9トンのコカインの国際輸送の組織・実行に関与したとされました。バーゼル刑事裁判所は2023年1月に10年9か月の拘禁刑および12年の国外退去を言い渡していました。

控訴裁判所の判断により、訴因には暗号化端末からの情報とは独立に捜査された点のみが含まれることになりました。なお、弁護側が生の傍受データではなく選別済みのフォレンジック出力しか受領しなかった点も理由の一つとされています。

報道リンク

ケ)ベルギー・アントワープ軽罪裁判所(2026年1月13日 判決)

VRT NWS(オランダ語・より詳細)
https://www.vrt.be/vrtnws/nl/2026/01/13/dikke-nordin-van-den-dam-uitspraak/

Nordin El Hajjioui(通称Dikke Nordin)に対する事件です。本件では2025年11月20日の審理において、検察がSky ECCファイルの内容変更に関する疑問に説明できず、証拠の信頼性が争われて審理が延期されました。2026年1月13日、同裁判所は被告人を犯罪組織の首謀者として12年の拘禁刑等に処しましたが、Sky ECCアカウント「NWA」からの指示という事実認定に加え、観察・通信捜査・共犯者供述という他の証拠によって大半の事実が立証されていると判示しており、Sky ECC証拠のみに依拠したものではありません(欠席判決)。なおベルギーでは軽罪裁判所判決は公開データベースに掲載されないため、判決文自体は入手できません。

コ)スペイン・バレンシア県裁判所(2026年1月23日 無罪判決)→ バレンシア州高等裁判所(2026年4月23日 破棄)→ 差戻審(2026年6月30日 有罪判決)

バレンシア港で1,650キログラムのコカインを搬入したとされる事案です。第一審は、フランス当局が欧州捜査令状に応じて送付したデジタル証拠が原本において電子署名を欠き真正性・完全性を保証しないとして、14名全員を無罪としました。しかし州高等裁判所(判決第118/2026号)は、生データへのアクセスがないことはそれ自体では防御権侵害と同視できないとし、弁護側の主張が「どのデータが有利でありうるか」の具体性を欠くと批判して無罪判決を破棄しました。生データが約7万人の利用者に関わり一部が国家機密とされている点も考慮されています。差戻審は2026年6月30日、全員に7年から16年の拘禁刑を言い渡しました。

差戻審:有罪(2026年6月30日)(報道:https://www.elespanol.com/valencia/20260630/audiencia-valencia-condena-penas-anos-carcel-acusados-narcotrafico-puerto/1003744304797_0.html)

3.4 「ProtectEU」ロードマップ

EUの新しい域内治安戦略「ProtectEU」が、ロードマップを策定しており、そこで、この問題について触れています。ここで、その経過をみていくことにします。

3.4.1 High-Level Group on Access to Data for Effective Law Enforcement(HLG)

2023年にスウェーデン議長国が提出した「LEON文書」(Law Enforcement – Operational Needs for Lawful Access to Communications)が、法執行機関の運用上のニーズの包括的リストを提示していましたのですが、2023年6月、欧州委員会と理事会議長国により、実効的な法執行のためのデータへのアクセスに関するハイレベル・グループが設置されました(設置決定Commission Decision C(2023) 3647 )。委員会とEU理事会の輪番議長国が共同議長を務め、加盟国代表、委員会、EU機関・エージェンシー、EU対テロ調整官によって構成されます。設立の問題意識は、課題が適切に対処されなければ「犯罪者が『ダーク化』し、被害者・潜在的被害者を犠牲にして犯罪者の匿名性が保障されるオンラインの不処罰の聖域が生まれる現実のリスクがある」というものでした。

このグループのリンクはこちら。推奨事項と結論報告書が、公表されています。結論報告書は、

  • 合法アクセス-主たる課題
  • デジタルフォレンジックス
  • データ保持
  • 合法的傍受

について論じています。

合法アクセス-主たる課題

報告書は、証拠が捜査機関の手に届かない理由を5類型に整理しています。

類型 内容

    • データが存在しない 削除済み。一貫性を欠くデータ保存規則。SIRIUS調査(2023年)で捜査官の約半数が調和的なデータ保存制度の欠如を最大の障害と回答
    • データを取り出せない 端末からの抽出の失敗。技能・ツール・製造業者の協力の不足
    • データを読めない 暗号化。適法に傍受しても解読不能
    • データを分析できない 大量データの選別・分析の技術・人的資源の不足

にわけて論じており、そのうえで

  • 法執行機関はデジタル情報への合法的アクセスをますます必要としていること
  • 合法アクセスは、厳しい条件でのみ許されること
  • 厳しい説明責任は重要であること
  • 会社やサービスプロバイダーは、法執行機関と協力するのをためらうこと
  • 脆弱性をもとにする解決策が唯一の選択肢になること
  • 法執行機関がデータにアクセスできないと司法システムに対する公的トラストを損なうこと
  • 法執行や司法は、デジタル時代に適合しなくてはならないこと

が一般論としてあげられています。

「デジタルフォレンジックス」「データ保持」の部分については、省略します。

第3章 合法的傍受

この部分は、さらに「問題点は何か」という部分と「考えられる解決策」の部分にわけて論じられています。

問題点は何かの部分の前提としては、「合法的傍受」概念の再定義として以下の三段階を「合法的傍受」概念に包含します。

  • 利用者の端末上 情報が送信される前
  • ネットワークレベル 従来の電話・SMSの傍受
  • 宛先レベル メッセージがクラウドに保存されている場合

いずれもリアルタイムまたはほとんど遅延なくアクセスされるデータに関するものと限定されています。

その上で、報告書は、通信事業者が実装する傍受技術と、法執行機関が自律的に展開できる技術とを区別することが重要であると明言しています。

類型 内容 ETSI規格の定義に含まれるか
事業者ベースの傍受(provider-based) 事業者による技術システムの設置を要する 含まれる
戦術的傍受(tactical interception)  IMSIキャッチャー、スマートフォン上のデータを傍受するソフトウェア等。ネットワークへの恒久的な物理的設置を要しない  含まれない
量的前提について
  • 全モバイルメッセージの約97%がWhatsApp、Facebook Messenger、WeChat等を経由し、SMS/MMSはわずか約3%
  • 2023年にはOTT通信の90%超がエンドツーエンド暗号化サービス経由
  • ある専門家によれば、99%のケースで従来型の合法的傍受ではコンテンツデータを入手できない
犯罪者の移行の三段階

①従来の通信事業者から主流のOTTサービスへ → ②専用の犯罪ネットワーク(EncroChat、Sky ECC)へ → ③2020年以降、主要な暗号化犯罪ネットワークの壊滅を受けて通常のエンドツーエンド暗号化OTTサービスへ回帰

逆説的帰結

伝送中データへのアクセス制限は、以下の帰結をもたらすとされます。

  1. 犯罪の防止・組織の把握・帰属の特定の困難
  2. 「特殊技術」の使用の増加——司法当局が対象者の近くにカメラやマイクを設置するよう命じる等、よりプライバシー侵害的で職員にとって危険を伴う手法
  3. 対象を絞り込めない捜査手法の増加——通信内容や正確な位置情報にアクセスできないため、容疑者と関連するすべての人物を捜査せざるを得ない

課題の四類型

課題を四類型にわけて論じており、その上で、それぞれに解決策を推奨しています。

HLG最終報告書 第III章「合法的傍受」——課題の四類型

課題類型 内容
Ⅰ 非伝統的な通信事業者を通じた通信の傍受 EECC(2018年)が「電子通信サービス」の定義にNI-ICS(番号非依存型個人間通信サービス)を含めたことにより、加盟国はOTTプロバイダーに直接依存して合法的傍受を実施することが可能になった。しかし加盟国の活用は不均一で、OTTを除外している国もある。

実際には、主要なOTTサービスは主に法的な理由から、EU加盟国当局からの合法的傍受要請に対応するための技術的仕組みを整備していない。統計による裏付けがないのは、各国当局が成果が得られないことを知っているため要請自体が極めて稀だからである。

これと対照的に、英国は調査権限法(IPA)に基づきOTT通信の合法的傍受のための枠組みを構築しており、英米データアクセス協定の採択により米国拠点のOTTサービスにも適用される。英国当局によれば、これが犯罪の予防・捜査に大きな違いを生んでいるとされる。

各国当局の専門家らは、脆弱性の悪用に基づく戦術的傍受は、OTTプロバイダーに適用される強制力のある合法的傍受規則に代わる効果的かつ望ましい代替手段ではなく、比例原則を確保するために国内法で定義された強力な保障措置を講じた上で、特定の事例に限定されるべきであることを明らかにした。

Ⅱ 越境要請 司法共助(MLA)は、数日・数週間ではなく数時間以内に承認と実施を要する緊急の傍受には現実的でない。専門家は、越境の合法的傍受が実施される前に事件が終結した例、MLA未処理案件が8か月以上滞留した例に言及している。

欧州捜査令状(EIO)は改善をもたらしたが、なお不十分。傍受対象者所在国には標準様式で通知され、96時間以内に異議申立ての機会が与えられる。

CJEU判決C-670/22が「通信の傍受」概念を広く解釈し、インターネットベースの通信サービスからトラフィックデータ・位置情報・通信データを収集する目的で端末機器に侵入することは「通信の傍受」に該当すると判断した。

技術的アーキテクチャの不足——転送すべきデータ量が安全な通信チャネルの帯域幅を上回る事例がある。

管轄権の問題——OTTでは要請当局、傍受対象、物理的実施場所、企業設立地が複数の管轄区域にまたがりうる。アイルランド法はOTTプロバイダーによるリアルタイム傍受を禁止しており、他の加盟国の要請と矛盾する。

Ⅲ 技術 5Gの仮想化・ネットワークスライシング・エッジコンピューティング。特にホームルーティングとRCSが課題とされる。

6G(2030年以降)はプライバシー強化機能でさらに進み、エンドツーエンド暗号化が標準となる可能性がある。IoT、衛星通信、量子コンピューティングも新たな課題をもたらす。

エンドツーエンド暗号化が最大の技術的課題。ただし専門家は、これが市民を犯罪から効果的に保護する堅牢なセキュリティ対策であることでも一致している。

法執行機関は企業に平文データへのアクセス提供を義務づけるアプローチを望むが、サイバーセキュリティ専門家はそれがサイバーセキュリティを損なうとの懸念を表明した。

Ⅳ 犯罪を目的とした通信プロバイダー(CCCs) EncroChat・Sky ECCに加え、Phantom Secure、Excluが摘発済み。多くの小規模プラットフォームが依然として稼働中である。

この種のプロバイダーには事業者ベースの傍受は選択肢となり得ず、法執行機関は戦術的傍受能力を必要とする。ただし専門家は以下を強調した。

これらの技術は拡張性がなく、最も重要な事件のために留保されるべき
・ツールの監督・評価・認証の改善、脆弱性管理に関する堅固な枠組みの構築が必要
・加盟国の手続的自律性および国家安全保障に関する排他的権限を完全に尊重すること

また、他の加盟国で傍受されたデータを証拠として使用する要件はEU内で大きく異なり、ある加盟国が実施した作戦について法的不安定性が生じ多くの加盟国に影響しうると指摘されている(Sky ECC諸判決の分岐を予見した記述である)。

出典:Concluding Report of the High-Level Group on access to data for effective law enforcement, 15 November 2024, Chapter III “Lawful interception”(PDF

解決策Ⅰ 三段階アプローチ

ステップ1——共通原則の合意

(勧告クラスター7)

  • ブダペスト条約等に従い合法的傍受の定義と範囲を明確化
  • LEON文書を参考に共通の運用要件を定義
  • 必要な保護措置の特定
  • いかなる措置も、利用者のサイバーセキュリティに悪影響を及ぼす方法でICTシステムを調整する義務をプロバイダーに課してはならない
  • 領土管轄権の概念を明確化し、加盟国間の戦術的傍受措置から得られた証拠の証拠能力を認めるEUレベルの最低基準の採用を促進

先例として1995年1月17日の合法的傍受に関する理事会決議が挙げられ、これがETSI規格の指針となったことから、同様のアプローチ(委員会または理事会の勧告)が有益でありうるとされています。

主要行動

:欧州委員会は2025年にリアルタイムアクセスに関する勧告を発出すべき。

ステップ2——公平な競争環境を確保し、国境を越えた協力を強化するためのEUによる支援の提供

(勧告クラスター8)

  • EIO(欧州捜査令状)の制約評価と運用効率の向上
  • 越境交換の技術的制約への対処——データ構造の標準化、信頼メカニズムおよびデータフィルタリングの標準化(無関係なデータの送信を回避し、目的限定・比例性・データ最小化の原則を遵守するため)、送信手段の設計と容量確保
  • SPoC(単一窓口)の指定・育成。SIRIUSプロジェクトが重要な役割
  • 第三国、特に米国との二国間協定の締結促進。現在交渉中のEU・米国間協定は事業者ベースの傍受に限定されているため

ステップ3——合法的な傍受に関する法的手段の導入可能性の評価

(勧告クラスター9)

将来の枠組みについては、特に

HLGの専門家らは、あらゆる種類のECS(電子通信サービス)に対して合法的な傍受規則を促進または課すいかなる取り組みにおいても、違法に運営している、および/または法執行機関とのいかなる形態の協力も拒否する通信事業者に対して措置を講じるための、明確かつ執行可能な枠組みを併せて設けるべきであることに合意した。

とした上で、以下を満たすべきとされます。

  • クラスター7の原則に従うこと
  • 技術中立性の確保
  • 非協力的なECSに対する懲役刑を含む刑事法措置のEUレベルでの調和
  • 基本権および刑事事項・国家安全保障における国家主権への十分な考慮
  • 電子証拠規則の作業を参考にすること
  • 令状受領後、サービス提供者に特定機能の有効化・無効化義務を課すこと(例:対象ユーザーの位置情報の保存)
  • デジタルサービス法に沿った制裁の仕組み

なお、法的義務を履行していないOTTプロバイダーと、犯罪活動に合わせたサービスを意図的に提供しているECSとを区別すべきとされています。

解決策Ⅱ 技術的課題への対処(勧告クラスター10)

二つの特有要素

① メタデータの利用拡大
AIを活用したメタデータ利用の研究・イノベーションが、コンテンツデータへのアクセス不足を緩和する手段として求められる一方、大量の個人メタデータに対する大規模なAI処理に伴うプライバシーリスクにも言及されています。ただし専門家は、意図を立証する上でメタデータだけでは通信コンテンツの証拠価値を完全に代替できないと明言しました。

② 戦術的傍受の位置づけ

すでに多くの法執行機関が通信エンドポイントでの傍受を認める法的枠組みの下で活動しており、技術も保有しているとされます。EU内で開発されたツールの支援が選択肢として挙げられています。

しかし、以下の限界が明示されています。

法執行の専門家らは、戦術的傍受は拡張性がなく、問題も伴うため、この手法を証拠収集の主要な手段として拡大すべきではないと指摘した。例えば、対象者の所在地に基づいて管轄権の問題が生じる可能性がある。さらに、開示できない脆弱性を利用することは、必然的にサイバーセキュリティの中核的原則と矛盾する。

「設計段階からの合法的アクセス」(Lawful Access by Design)への慎重論

法執行機関の専門家自身が慎重なアプローチを提言しています。業界関係者に、サービスの全ユーザーに対して一般的かつ体系的な方法で暗号化を弱体化させる可能性のあるシステムを統合するよう求めるべきではなく、合法的アクセスは通信ごとに個別に対象を絞った形で維持されるべきとされます。

勧告クラスター10の内容

技術ロードマップは以下を含むべきとされます。

  • 技術・サイバーセキュリティ・プライバシー・標準化・セキュリティの専門家の結集
  • 復号機能を含むデータ取得ツールおよびAI分析機能の研究開発
  • 標準化への協調的アプローチ(IoT・コネクテッドカー・衛星通信を含む)
  • 新たな義務・基準が、直接的または間接的にプロバイダーに通信セキュリティを弱体化させる義務を課さないこと
  • 「設計段階からの合法的アクセス」がハードウェア・ソフトウェアのセキュリティ態勢に悪影響を及ぼさないこと
  • EU資金支援により、対象を絞った合法的アクセスの開発・取扱い・利用に関する方法論を策定すること
主要行動

欧州委員会は2025年までに技術ロードマップを策定・実施すべき。

3.4.2 司法内務理事会合(2024年12月12日)

2024年12月12日の司法内務理事会合が開催され、そこで理事会文書が採択されています。プレスリリースは、こちらです。この内容ですが、

理事会結論16448/24(2024年12月12日採択)は、わずか9パラグラフの短い文書で、HLGの最終報告書(15941/24)を受けて委員会に2025年第2四半期までのロードマップ提出を求めるものです。ロードマップは、徹底的な影響評価の結果として必要と判断される場合には立法を含みうるとされる一方、国家安全保障へのいかなる干渉も排除するという限定が付され、各措置について正確な日程表・実施方法・必要資源の分析を含むことが要求されています。実施の調整・監視はCOSIがCATSと協力して担うこととされました。注目すべきは脚注2で、HLG専門家グループの構成が法執行機関・内務省出身43名に対し、学界3名・サイバーセキュリティ専門家1名という著しい偏りを示している点であり、市民社会による「警察主導の政策形成」との批判を裏づける一次資料となっています。また第6項は、加盟国等に対し「共通のコミュニケーション・ナラティブ」を通じて法執行のニーズを説明し世論の支持を集めるよう求めており、制度内容とは別に世論形成自体を政策目標に組み込む異例の構造を示しています。

とのことです(claudeのまとめ)

3.4.3 ProtectEU(EU域内治安戦略)

ProtectEU——EU域内治安戦略(正式名称:ProtectEU: a European Internal Security Strategy) 文書番号:COM(2025) 148 final 日付:2025年4月1日(ストラスブール)です。リンクは、こちらです。

この戦略は、安全で安心でき、レジリエンスのあるEUというビジョンを提示するもので、紛争、人為的・自然災害、および危機への備えに関する統合的な「あらゆる災害に対応する」アプローチを定めた「備えの連合戦略」、ならびに外国の敵対勢力を抑止するためのEU全域における防衛能力の開発・取得を支援する「欧州防衛準備態勢に関する白書2030」⁶を補完するものです。また、欧州委員会は、EU内の民主主義のレジリエンスを強化するため、「欧州民主主義シールド」を提案する予定である。

具体的な章の構成は、

ProtectEU(COM(2025) 148 final)の構成

表題 主な内容
1 ProtectEU:欧州域内治安戦略 脅威状況の概観、三つの指導原則(セキュリティ文化の変革/全政策への主流化/投資の増大)、新たな域内治安ガバナンス
2 統合された状況認識と脅威分析 定期的なEU域内治安脅威分析の作成、SIACを通じた情報共有の強化、統合セキュリティ運用センター(ISOC)の設置
3 EU安全保障能力の強化 データへの合法的アクセス(ロードマップ2025年・データ保存の影響評価・暗号化に関する技術ロードマップ2026年)、Europolの抜本改革、Eurojust・Frontexの強化、欧州重要通信システム(EUCCS)
4 ハイブリッド脅威等への強靭性 重要インフラ・海底ケーブルの保護、サイバーセキュリティ法の改正、ICT供給網の安全、ランサムウェア対策、技術主権と耐量子暗号、オンライン安全(DSA執行)、輸送安全、CBRN対策
5 重大組織犯罪への包囲網 犯罪予防と若年層のリクルート防止、組織犯罪法制の刷新(2026年)、資金追跡(AMLA・資産没収)、薬物・銃器・人身取引・オンライン詐欺・環境犯罪対策、欧州捜査令状および欧州逮捕状の強化の必要性の評価
6 テロリズム・暴力的過激主義との闘い 新たなEUアジェンダ(2025年)、過激化防止とオンライン保護、テロ資金対策、公共空間の防護、対ドローン対策、外国人テロ戦闘員への対応
7 治安のグローバルアクターとしてのEU 拡大・近隣諸国、ラテンアメリカ、地中海地域等との地域協力、Europol・Eurojustの国際協定、CFSP/CSDPの活用、ビザ政策への治安考慮の統合
8 結論 域内治安に関する発想の転換と新たなEU治安文化の醸成の呼びかけ
出典:European Commission, ProtectEU: a European Internal Security Strategy, COM(2025) 148 final, 1 April 2025(EUR-Lex

となっています。

上記第3章において

ハイレベル・グループの勧告を踏まえ、欧州委員会は2025年前半に、データへの合法的かつ効果的なアクセスを確保するために提案する法的・実務的措置を定めたロードマップを提示する。このロードマップのフォローアップとして、欧州委員会は、EUレベルでのデータ保存規則の影響評価および暗号化に関する技術ロードマップの作成を優先し、 法執行当局が、サイバーセキュリティと基本権を保護しつつ、合法的な方法で暗号化されたデータにアクセスできるようにする技術的解決策を特定・評価する。

とされています。

そのほか、第3章を中心に

  • Europolの抜本的改革(2026年立法提案)——「真に運用的な警察機関」への転換。現行マンデートが妨害行為・ハイブリッド脅威・情報操作といった新たな脅威を含まないことが理由とされます
  • Eurojust強化(2026年立法提案)
  • Frontex強化(2026年立法提案)——欧州国境沿岸警備隊を将来的に3万人に3倍増
  • 欧州重要通信システム(EUCCS)の創設(2026年立法提案)
  • 欧州捜査令状(EIO)および欧州逮捕状のさらなる強化の必要性の評価——第5章の主要行動に記載

なども提案されています。

3.4.4 法執行のためのデータへの合法的・効果的アクセスのロードマップ

法執行のためのデータへの合法的・効果的アクセスのロードマップ(名称:Roadmap for lawful and effective access to data for law enforcement)文書番号:COM(2025) 349 final 理事会文書番号:10806/25は、 上記欧州委員会の結論に答えるものです。ロードマップへのリンクは、こちら。

ロードマップの6つの重点領域として

Ⅰ デジタル証拠の利用可能性の確保——データ保存 (Ensuring the availability of digital evidence: data retention)

Ⅱ システムおよび法域を越えた証拠の取得——合法的傍受 (Obtaining evidence across systems and jurisdictions: lawful interception)

Ⅲ 捜査において押収された端末からの証拠の取り出し——デジタル・フォレンジック (Retrieving evidence from devices seized in investigations: digital forensics)

Ⅳ 証拠が読めることの確保——データの復号 (Ensuring that evidence can be read: decrypting data)

Ⅴ 技術と合法的アクセスの調和——標準化 (Reconciling technology and lawful access: standardisation)

Ⅵ 証拠の実効的かつ適法な分析——AI (Analysing evidence effectively and lawfully: AI)

があげられています。そのなかで、本件でふれているのに関連する事項としては

Ⅱ システムおよび法域を越えた証拠の取得——合法的傍受

主体 措置の内容 時期
欧州委員会 既存の手段による越境の合法的傍受要請の効率を改善する措置を提案する。欧州捜査令状(EIO)のさらなる強化の必要性の評価を含む 2027年まで
欧州委員会 合法的傍受義務の執行について、あらゆる種類の通信事業者に公平な競争条件を創出する措置を検討する
欧州委員会 非協力的な通信事業者に対処するための最も効率的なアプローチを決定する
欧州委員会 加盟国・Europol・その他の治安機関の間の安全な情報共有能力の展開を支援する(大量データのリアルタイム転送を可能とする帯域の確保) 2026年〜2028年
加盟国 欧州捜査令状ならびに二国間・多国間協定など既存の仕組みを活用し、越境の合法的傍受措置を実施することが奨励される

※ 本節にいう「合法的傍受」には、通信事業者によって実施される技術のみならず、法執行当局が自律的に展開しうる技術も含まれると脚注21で明示されている。最終的な目標として、加盟国が、伝統的な電気通信事業者かインターネットベースの事業者かを問わず、また所在地を問わず、国内でサービスを提供するすべての通信事業者に対して合法的傍受義務を執行できるようになるべきであるとされる。

Ⅳ 証拠が読めることの確保——データの復号

主体 措置の内容 時期
欧州委員会 暗号化に関する技術ロードマップを提示する。専門家グループ(法執行・サイバーセキュリティ・暗号・通信技術・標準化・基本権の各専門家で構成)に準備の支援を委嘱し、技術的研究と概念実証によって裏づける 2026年第2四半期
欧州委員会 新たな復号能力の研究開発を支援し、Europolに次世代の復号能力を装備させる 2030年から

※ 技術ロードマップが特定すべき対象は二つとされる。第一に、暗号化データを適法に発見・取得・分析するために法執行当局が現在および将来必要とするツールであり、これはデジタル・フォレンジック、復号、遠隔データ収集(remote data collection)、犯罪分析を可能とするものでなければならない。第二に、6Gや耐量子暗号といった将来の情報通信技術が、基本権とサイバーセキュリティの遵守を確保しつつ、法執行当局の適法なデータアクセス能力を害さないことを担保する技術である。
※ 本節は、当局が端末上の復号鍵にアクセスするためしばしば脆弱性を利用しており、これが「デフォルトでのサイバーセキュリティ確保という政策目標との間に緊張を生じさせうる」と明記している。また加盟国の蓄積データの復号成功率は15〜20%から66%超までと大きな差があるとされる。

3.4.5 動きに対する批判について

2024年12月11日(理事会結論採択の前日)に、市民社会の55団体が司法内務理事会宛の公開書簡でHLGの勧告と最終報告書に懸念を表明しています。法執行機関に個人データへの最大限のアクセスを付与するというHLGの全体的目標に照らして、大規模監視のリスクとセキュリティ・プライバシーへの重大な脅威を指摘するものです。

eucrimの記事に経緯がまとめられています。
https://eucrim.eu/news/high-level-group-recommendations-on-law-enforcement-data-access/

かと思います。

4  ドイツ

ドイツの例としては、スナップショット型取得と傍受型取得の双方について独自の法制度を持っています。

4.1.1 スナップショット型取得(静態的)——StPO第94条以下(差押)

端末内の保存データは差押(Beschlagnahme、第94条以下)または任意提出(第95条)によって取得します。捜索(Durchsuchung、第102条以下)と組み合わせて行うのが典型的な運用です。日本の刑事訴訟法と類似した構造を持ちます。

通信源監視とオンライン捜索という二つの制度が、2017年に設けられています。この点については、後述の憲法裁判所判決のパラ127からが、その必要性を論じています。そのまま引用します。

127 2017年8月17日の「刑事手続のより効果的かつ実務に適した整備に関する法律」により、刑事訴訟法において、通信源監視(第100a条第第1項第2文及び第3文)およびオンライン捜索(刑事訴訟法第100b条第1項)の法的根拠が初めて設けられた。法案の趣旨説明によれば、これらの新たな権限は刑事訴追の効率を高め、それによって機能的な刑事司法の運営を保障することを目的としている。情報技術の進展に伴い、情報技術システム(以下「ITシステム」という)が至る所に存在し、その利用が大多数の市民の生活において極めて重要な役割を果たしていることが確認された。これはとりわけ、スマートフォンやタブレットPCといったモバイル端末の利用に当てはまる。それらの性能は向上しただけでなく、メモリ容量や、それらに接続された記憶媒体の容量も増加しており、後者についてはいわゆる「クラウド」上の外部ストレージがますます一般的になっている。インターネットは利用者に利用者に膨大な情報へのアクセスを可能にし、数多くの新しい通信サービスを提供している。従来の遠隔通信の形態は、広範囲にわたりインターネットへと移行しつつある(BTDrucks 18/12785、46頁参照)。その広範な普及により、ITシステムは犯罪の捜査においても重要な役割を果たしている。

128 この点において、現行の刑事訴訟法第100a条の規定は不十分である。同条には、公衆電気通信網において伝送過程中に監視・記録可能な通信内容を取得するための法的根拠は含まれている。しかし、現在では通信の大部分がインターネットプロトコルに基づいて行われており、数多くの「Voice-over-IP」やメッセンジャーサービスが通信内容を暗号化しているため、捜査当局に提供されるデータは暗号化されたものばかりとなっている。その復号は不可能であるか、あるいは非常に時間がかかり、コストもかかる。効果的な刑事訴追を行うためには、こうした技術的変化に立ち向かい、捜査措置を技術の進歩に合わせて適応させなければならない(BTDrucks 18/12785、48頁参照)。したがって、「通信源監視」および「オンライン捜索」を通じて、すでに危険防止のために許容されている監視技術を刑事訴訟法に導入すべきである(BTAusschussdrucks 18<6>334、A参照)。これら両方の措置により、通信に対してすでに「発生源」、すなわち送信者側での暗号化前、あるいは受信者側での復号化後に、密かにインストールされたソフトウェアを通じてアクセスすることが可能となる(BTDrucks 18/12785、48頁以下参照)。さらに、オンライン捜索により、ITシステム上に保存されたすべてのコンテンツおよび個人の利用行動の全容を監視することも可能となる(BTDrucks 18/12785、54頁参照)。

4.1.2 通信源監視-StPO第100a条(通信傍受)

刑事訴訟法(StPO)第100a条は、電気通信の傍受および記録を規律します。条文は、

刑事訴訟法(StPO)第100a条 通信監視
(1) 当事者の知らぬ間であっても、以下の条件を満たす場合には、通信の監視および記録を行うことができる。
1.特定の事実により、ある者が加害者または共犯者として、第2項に規定する重大な犯罪を犯した、またはその未遂が処罰対象となる場合にはその未遂を試みた、もしくは犯罪行為によってその準備を行ったとの疑いが生じる場合、
2.当該犯罪が個別の事案においても重大であり、
3.事実関係の解明または被疑者の所在の特定が、他の方法では著しく困難となるか、あるいは見込みが立たない場合。
通信の監視および記録は、特に暗号化されていない形式での監視および記録を可能にするために必要である場合、技術的手段を用いて当該者が使用する情報技術システムに介入する方式で行うこともできる。当該者の情報技術システムに保存されている通信の内容および状況は、公衆電気通信網における伝送過程の最中においても、暗号化されていない形式で監視および記録することが可能であった場合には、監視および記録することができる。
(2) 第1項第1号にいう重大な犯罪とは、以下のものをいう:
1.刑法における以下の犯罪:
a)第80a条から第82条、第84条から第86条、第87条から第89a条、第89c条第1項から第4項および第8項、第94条から第100a条に規定される、平和に対する反逆罪、国家反逆罪、民主的法治国家に対する脅威、ならびに国家反逆罪および対外的安全保障に対する脅威の犯罪、
b)第108e条に規定される公職者の収賄および贈賄、
c)第109d条から第109h条に規定される国防に対する犯罪、
d)第127条第3項および第4項ならびに第129条から第130条に規定される公の秩序に対する犯罪、
e)第146条および第151条(いずれも第152条と併せて適用される場合を含む)ならびに第152a条第3項および第152b条第1項から第4項に規定する通貨および有価証券の偽造、
f)第176条、第176c条、第176d条、および第177条第6項第2文第2号に規定される要件の下での第177条に定める、性的自己決定権に対する犯罪、
g)第184b条、第184c条第2項に基づく児童・青少年ポルノコンテンツの頒布、取得および所持、
h)第211条および第212条に基づく殺人および過失致死、
i)第232条、第232a条第1項から第5項、第232b条、 第233条第2項、第233a条、第234条から第234b条、第239a条および第239b条に規定される個人の自由に対する犯罪、
j)第244条第1項第2号に規定される集団窃盗、第244条第4項に規定される住居侵入窃盗、および第244a条に規定される重大な集団窃盗、
k)第249条から第255条に規定する強盗および恐喝の罪、
l)第260条および第260a条に規定する営利目的の盗品隠匿、組織的盗品隠匿および営利目的の組織的盗品隠匿、
m)第261条に基づく資金洗浄(その前罪が第1号から第11号に掲げる重大な犯罪のいずれかである場合)、
n)第263条第3項第2文に規定される要件を満たす詐欺およびコンピュータ詐欺、ならびに第263条第5項の場合(いずれも第263a条第2項と併せて適用される場合)、
o)第264条第2項第2文に規定される要件を満たす補助金詐欺、および第264条第3項の場合において第263条第5項と併せて適用されるもの、
p)第265e条第2文に規定される要件を満たすスポーツ賭博詐欺およびプロスポーツ競技の八百長、
q)第266a条第4項第2文第3号または第4号に規定される要件を満たす賃金の不払いおよび横領、
r)第267条第3項第2文に規定される要件の下での文書偽造罪、および第267条第4項の場合には、それぞれ第268条第5項または第269条第3項と併せて適用されるもの、ならびに第275条第2項および第276条第2項に基づくもの、
s)第283a条第2文に規定される要件を満たす破産、
t)第298条に基づく競争に対する犯罪、および第300条第2文に規定される要件を満たす場合における第299条に基づく犯罪、
u)第306条から第306c条、第307条第1項から第3項、第308条第1項から第4項、第309条第1項から第4項、第310条第1項、第313条、第314条、 第315条第3項、第315b条第3項、ならびに第316a条および第316c条に規定される
v)第332条および第334条に規定される収賄および贈賄、
2.租税法典より:
a)第370条第3項第2文第1号に規定される要件を満たす脱税(ただし、犯人が第370条第1項に規定する犯罪を継続的に犯すことを目的として結託した集団の一員として行動する場合に限る)、または第370条第3項第2文第5号に規定される要件を満たす脱税、
b)第373条に規定する、営利目的かつ暴力を伴う組織的な密輸、
c)第374条第2項に規定する場合の脱税幇助、
3.アンチ・ドーピング法:第4条第4項第2号bに規定する犯罪、
4.難民法:
a)第84条第3項に規定する、濫用的な庇護申請への教唆、
b)第84a条に規定する、営利目的かつ組織的な濫用的な庇護申請への教唆、
5.在留法:
a)第96条第1項、第2項及び第4項に基づく、外国人及び「移動の自由法/EU」の適用を受ける者の密入国、
b)第97条に基づく、死亡を招いた密入国及び営利目的・組織的な密入国、
5a.前駆物質法より:第13条第2項に規定する犯罪、
6.対外経済法より:対外経済法第17条および第18条に基づく故意の犯罪、
7.麻薬法より:
a)第29条第3項第2文第1号で言及される規定に基づく、同項に定める要件を満たす犯罪、
b)第29a条、第30条第1項第1号、第2号及び第4号並びに第30a条及び第30b条に規定される犯罪、
7a.嗜好用大麻法:
a)第34条第3項第2文第1号で言及される規定に基づき、同項に規定される要件を満たす犯罪、
b)第34条第4項に規定する犯罪、
7b.医療用大麻法に基づくもの:
a)第25条第4項第2文第1号で言及されている規定に基づき、同規定に定める要件の下で成立する犯罪、
b)第25条第5項に基づく犯罪、
8.原料物質監視法に基づくもの:第19条第1項に基づく犯罪で、同条第3項第2文に規定される要件を満たすもの、
9.戦争兵器規制法に基づくもの:
a)第19条第1項から第3項、第20条第1項及び第2項、並びに第20a条第1項から第3項に規定する犯罪(いずれも第21条と併せて適用されるもの)、
b)第22a条第1項から第3項に規定する犯罪、
9a.「新規向精神薬法」:第4条第3項第1号aに規定する犯罪、
9b.「爆発物法」:第40条第3a項に規定する犯罪、
10.「国際刑事法典」:
a)第6条に規定するジェノサイド、
b)第7条に基づく人道に対する罪、
c)第8条から第12条に基づく戦争犯罪、
d)第13条に基づく侵略犯罪、
11.銃器法:
a)第51条第1項から第3項に基づく犯罪、
b)第52条第1項第1号及び第2号c・d、並びに第5項及び第6項に規定する犯罪、
12.違法就労防止法:第9条に規定する犯罪。
(3) 当該命令は、被疑者、または特定の事実に基づき、被疑者のために、あるいは被疑者から発信された特定の通信を受信または転送していると推定される者、あるいは被疑者がその回線または情報技術システムを利用していると推定される者に対してのみ発せられるものとする。
(4) 電気通信の監視及び記録の命令に基づき、電気通信サービスを提供する者又はこれに協力する者は、裁判所、検察庁及び警察職務に従事するその捜査官(裁判所組織法第152条)に対し、これらの措置を可能にするよう協力し、必要な情報を直ちに提供しなければならない。このためにどのような措置を講じるべきか、またその範囲については、電気通信法および電気通信監視規則に基づいて決定される。第95条第2項が準用される。
(5) 第1項第2文及び第3文に基づく措置については、技術的に以下の点が確保されなければならない。
1.以下のもののみが監視及び記録の対象となり得ること:
a)進行中の電気通信(第1項第2文)、または
b)第100e条第1項に基づく命令の時点から、公衆電気通信網における伝送過程の最中においても監視および記録が可能であった通信の内容および状況(第1項第3文)、
2.情報技術システムに対しては、データ収集に不可欠な変更のみが行われ、
3.措置の終了時に、技術的に可能な範囲で、行われた変更は自動的に元に戻されること。
使用される手段は、技術の水準に従い、不正使用から保護されなければならない。複製されたデータは、技術の水準に従い、改変、不正な削除、および不正な閲覧から保護されなければならない。
(6) 技術的手段を使用するたびに、以下の事項を記録しなければならない。
1.技術的手段の名称およびその使用日時、
2.情報技術システムの識別情報および当該システムに加えられた一時的でない変更の内容、
3.収集されたデータを特定することを可能にする情報、および
4.当該措置を実施した組織単位。

この制度について上記憲法裁判所決定パラ130以下は

130 a)従来の通信監視(刑事訴訟法第100a条第1項第1文)が、通信の秘密を保持した状態での監視および記録をを可能とするものであるが(特に、電気通信サービスを提供する者またはそれに協力する者を巻き込む場合(aa))、発信源における電気通信監視においては、ITシステム自体へのアクセスが行われる。この点において、ここで問題となっている発信源における電気通信監視に関する2つの権限は、ITシステムへのアクセスを通じて行われる進行中の電気通信(刑事訴訟法第100a条第第1文第2句(bb))か、システムに保存された、かつて行われていた通信(刑事訴訟法第100a条第1項第3文)(cc)のいずれを監視・記録するかを基準として区別される。

131 aa)刑事訴訟法第100a条第1項第1文は、特定の事実により、ある者が加害者または共犯者として、同法第刑事訴訟法第100a条第2項に規定される重大な犯罪を犯し、犯そうとし、または犯罪によってその準備を行ったという疑いを裏付ける特定の事実が存在する場合、当該者の通信の秘密監視および記録が許可される(刑事訴訟法第100a条第1項第1文第1号参照)。また、当該犯罪は個別の事案においても重大なものでなければならず、かつ、事実関係の解明または被疑者の所在の特定が、他の方法では著しく困難となるか、あるいは見込みがないものでなければならない(刑事訴訟法第100a条第1項第1文第2号及び第3号)。刑事訴訟法第刑事訴訟法第100a条第3項によれば、監視命令の対象は、被疑者、または特定の事実に基づき、被疑者宛ての、あるいは被疑者から発信された通信を受信または転送すると推定される者(いわゆる「通信仲介者」)、もしくは被疑者がその回線またはITシステムを使用していると推定される者(いわゆる回線・端末提供者)である。刑事訴訟法第100a条第4項によれば、電気通信サービスを提供する者またはその提供に関与する者は、命令に基づき、監視措置を可能にし、必要な情報を提供すること、すなわち、監視対象の通信内容および状況を捜査当局に転送する義務を負う。(略)

133 bb)刑事訴訟法(StPO)第100a条第1項第2文に基づく通信源監視は、同法第100a条第1項第1文第3項に定める要件の下、技術的手段を用いて関係者が利用するITシステムに介入する方式による通信の監視および記録を認めている。この監視は、単なる通信監視では暗号化のせいで解析できない、あるいは少なくとも実用的に許容できる労力では解析できないような通信内容も捕捉することを目的として行われる。このような場合、アクセスは暗号化送信端末において、あるいは復号後の受信端末において行われることができる。この目的のため、警察は技術的手段を用いて当該者が使用するITシステムに介入することが許される。特に、監視用ソフトウェア(いわゆるトロイの木馬;BTDrucks 18/12785、48頁以下)の使用が認められている。ただし、システムへの介入は、技術的措置によって、進行中の通信のみが監視・記録されることが確保されている場合に限り行われることができる(刑事訴訟法第100a条第5項第1文第1号a参照)。また、刑事訴訟法第100a条第1項第2文に基づき、システムへの介入は、特に暗号化されていない形式での通信の監視および記録を可能にするために必要でなければならない。この点において、通信源監視の命令は補助的なものである(BTDrucks 18/12785、51頁も参照)。(略)

137 cc)これに対し、刑事訴訟法第100a条第1項第3文に基づく発信源通信監視は、同法第100a条第1項第1文および第3項に定める要件の下で、対象者のITシステムに保存された通信の内容および状況を監視・記録することを許可するものであり、これもまた、技術的手段を用いてITシステムにに介入する方式によるものである。立法者の意図によれば、刑事訴訟法第100a条第1項第3文は、同法第100a条第1項第2文に基づく通信源監視を、伝送過程がすでに完了しており、かつ当該者のITシステム上のアプリケーションに依然として保存されている通信の内容や状況に対してもアクセスが許容されるという点において補完するものである(BTDrucks 18/12785、51頁参照)。これにより、国家によるアクセスは直接的な送信過程から切り離されることになるが、刑事訴訟法第100a条第5項第1文第1号bに基づき、裁判官の命令が発令された時点から、進行中の通信過程の最中においても監視可能であった通信の内容および状況のみが監視対象となるよう確保されなければならない(BTDrucks 18/12785、51頁以下も参照)。保存されたデータにまで拡大された発信元通信監視により、立法者は、捜査当局が刑事訴訟法第第100a条第1項第2文に基づく源通信監視の実施における技術的困難を補うことを意図している。これは、同条に基づく命令が発令されてから監視が開始されるまでに一定の期間が経過し得るためである。したがって、刑事訴訟法第100a条第1項第3文の趣旨は、その時点までに発生した通信データのみを抽出できるようにすることにある(BTDrucks 18/12785、51頁以下;Hauck、Löwe-Rosenberg編『刑事訴訟法』、第27版2019年、第100a条注釈140、142)。

138 したがって、刑事訴訟法第100a条第1項第3文に基づく通信源監視は、措置の命令後に発生し、アクセス時点でまだ保存されている通信の内容および状況のみを対象とする(注釈235参照)。電話通話などの、一時的で保存されていない通信内容は、抽出することはできない(これについてはGDDの意見、注98を参照)。

と説明しています。

4.1.3 オンライン捜索——StPO第100b条(Online-Durchsuchung)

2017年刑事訴訟法改正によって導入された第100b条(オンライン捜索)です。「情報技術システムの秘密のリモート検索」として定義されており、容疑者が使用するシステムに秘密裏にアクセスし、そのシステムからデータを抽出することを可能にするものです。条文は、リンク

刑事訴訟法(StPO)
第100b条 オンライン捜索
(1) 以下の場合には、当該者の知るところでなくとも、技術的手段を用いて当該者が利用する情報技術システムに介入し、そこからデータを収集することができる(オンライン捜索)。
1.特定の事実により、ある者が第2項に規定する特に重大な犯罪の加害者または共犯者として犯行を行った、あるいは未遂が処罰対象となる場合には犯行を試みたとの疑いが生じている場合、
2.当該犯罪が個別の事案においても特に重大であり、かつ
3.他の方法による事実関係の解明または被疑者の所在の特定が著しく困難となるか、あるいは見込みがない場合。
(2) 第1項第1号にいう特に重大な犯罪とは、以下のものをいう:
1.刑法における以下の犯罪:
a)第81条、第82条、 第89a条第1項から第7項、第89c条第1項並びに第3項及び第4項に規定される犯罪(第1項に該当する行為である場合に限る)、第94条、第95条第3項及び第96条第1項(いずれも第97b条と併せて適用されるもの)、並びに第97a条、 第98条第1項第2文、第99条、ならびに第100条、第100a条第4項に基づき、
b)第127条第3項および第4項に規定する場合におけるインターネット上の犯罪的取引プラットフォームの運営。ただし、当該インターネット上の取引プラットフォームの目的が、a号およびc号からo号、ならびに第2号から第10号に掲げる特に重大な犯罪を可能にするか、または助長することを目的としている場合に限る。
c)第129条第1項(第5項第3文と併せて適用)に基づく犯罪組織の結成、および第129a条第1項、第2項、第4項、第5項第1文の第1の選択肢に基づくテロ組織の結成(いずれも第129b条第1項と併せて適用)、
d)第146条および第151条(いずれも第152条と併せて適用されるもの)ならびに第152a条第3項および第152b条第1項から第4項に規定する通貨および有価証券の偽造、
e)性的自己決定権に対する犯罪(第176条第1項、第176c条、第176d条、および第177条第6項第2文第2号に規定される要件の下での第177条に規定される場合)、
f)第184b条第1項第1文および第2項に規定される児童ポルノコンテンツの頒布、取得および所持、
g)第211条、第212条に規定する殺人および過失致死、
h)第232条第2項および第3項、第232a条第1項、第3項、第4項、ならびに第5項後半、第232b条第1項、第3項および第4項に規定する個人の自由に対する犯罪、 同条を第232a条第4項および第5項の後半と併せて適用する場合、第233条第2項、第233a条第1項、第3項および第4項の後半、第234条および第234a条第1項・第2項、ならびに第239a条および第239b条に規定される犯罪、
i)第244条第1項第2号に規定する組織的窃盗及び第244a条に規定する重大な組織的窃盗、
j)第250条第1項又は第2項、第251条に規定する重大な強盗及び死亡を伴う強盗、
k)第255条に基づく強盗的恐喝、および第253条第4項第2文に規定される要件を満たす第253条に基づく特に重大な恐喝、
l)第260条、第260a条に基づく営利目的の盗品受領、組織的盗品受領、および営利目的の組織的盗品受領、
m)第261条に基づくマネーロンダリングの特に重大な事案(第261条第5項第2文に規定される要件を満たすもの。ただし、先行犯罪が第1号から第7号に掲げる特に重大な犯罪のいずれかである場合に限る)、
n)第263a条第2項(第263条第5項と併せて適用される場合)に規定されるコンピュータ詐欺、
o)第335条第1項に基づく収賄および贈賄の特に重大な事案であって、第335条第2項第1号から第3号に規定される要件を満たすもの、
2.難民法に基づくもの:
a)第84条第3項に基づく、不正な難民申請の教唆、
b)第84a条第1項に規定する、営利目的かつ組織的な不正な庇護申請の教唆、
3.在留法に基づくもの:
a)第96条第2項に規定する外国人の密入国斡旋、
b)第97条に規定する、死亡を招いた密入国斡旋、または営利目的かつ組織的な密入国斡旋、
4.対外経済法に基づくもの:
a)第17条第1項、第2項及び第3項に規定する犯罪(それぞれ第6項又は第7項と併せて適用される場合を含む)、
b)第18条第7項及び第8項に規定する犯罪(それぞれ第10項と併せて適用される場合を含む)、
5.麻薬法より:
a)第29条第1項第1文第1号、第5号、第6号、第10号、第11号または第13号、ならびに第3項に規定する犯罪のうち、第29条第3項第2文第1号に規定される要件を満たす特に重大な事案、
b)第29a条、第30条第1項第1号、第2号、第4号、第30a条に規定する犯罪、
5a.大麻使用法:第34条第4項第1号、第3号または第4号に規定する犯罪、
5b.医療用大麻法:第25条第5項第1号、第3号または第4号に規定する犯罪、
6.『戦争兵器規制法』に基づくもの:
a)第19条第2項または第20条第1項に規定する犯罪(いずれも第21条と併せて適用される場合を含む)、
b)第22a条第1項(第2項と併せて適用される場合)に規定される特に重大な犯罪、
7.「基礎物質監視法」に基づくもの:第19条第3項に規定される犯罪、
8.「新規向精神薬法」に基づくもの:第4条第3項第1号に規定する犯罪、
9.国際刑事法典:
a)第6条に規定するジェノサイド、
b)第7条に規定する人道に対する罪、
c)第8条から第12条に規定する戦争犯罪、
d)第13条に定める侵略犯罪、
10.銃器法に基づくもの:
a)第51条第1項及び第2項に規定する特に重大な犯罪、
b)第52条第1項第1号及び第5項に規定する特に重大な犯罪。
(3) 当該措置は、被疑者に対してのみ向けられるものとする。他の者の情報技術システムへの介入は、特定の事実に基づき、以下のことが推定される場合に限り許容される。
1.第100e条第3項に基づく命令で指定された被疑者が、当該他の者の情報技術システムを使用していること、および
2.被疑者の情報技術システムへの介入のみでは、事実関係の解明または共犯者の所在の特定につながらないことが、特定の事実に基づき推認される場合に限る。
本措置は、他の者が不可避的に影響を受ける場合であっても実施することができる。
(4) 第100a条第5項および第6項は、第5項第1文第1号を除き、準用される。

重要な論点として、第100b条は継続的なモニタリングも一回的なスナップショット型取得も双方を包含しうる規定となっています。ただし、第100b条第1項第2号は「その都度の通信(laufende Kommunikation)」の取得も含むことを明示しており、この点で傍受類似の機能を持ちます。

これに対し、連邦憲法裁判所は2008年の「コンピュータ基本権」(IT-Grundrecht)判決において、情報技術システムの完全性と秘密性に対する権利を新たな基本権として確立し、秘密リモート捜索には厳格な要件が必要であると判示していました。第100b条はこの判決を踏まえた立法です。特に「秘密リモート捜索」(Online-Durchsuchung)の明文化によって機器干渉を正面から法制化した国として参照価値が高いです。

憲法裁判所の決定によると

139 b)刑事訴訟法第100b条第1項に基づくオンライン捜索は、特定の事実が以下の疑いを裏付ける場合、被疑者が使用するITシステムに介入し、そこからデータを収集することを認めている、誰かが加害者または共犯者として、刑事訴訟法第100b条第2項に規定される特に重大な犯罪を犯した、または犯そうとしたと疑われる場合である(刑事訴訟法第100b条第1項第1号参照)。その際、当該犯罪は個別の事案においても特に重大なものでなければならず、かつ、他の方法による事実関係の解明または被疑者の所在の特定が著しく困難となるか、あるいは見込みがないものでなければならない(刑事訴訟法第100b条第1項第2号および第3号参照)。したがって、オンライン捜索の命令は補助的な措置であり、その実施に先立ち、例えば、通常の捜索および押収が検討可能かどうかを検証しなければならない(BTDrucks 18/12785、55頁参照)。刑事訴訟法第100b条第4項によれば、同法第100a条第5項および第6項(同法第100a条第5項第1文第1号を除く)が準用される(これについては脚注10参照)。

と説明がなされています。

4.2 連邦憲法裁判所2025年6月24日決定

連邦憲法裁判所2025年6月24日決定(1 BvR 180/23)(リンク)が、第100b条について次のとおり判示しました。

2017年8月17日の刑事手続の実効的かつ実務適合的な形成に関する法律およびその後の法律による刑事訴訟法第100b条は、基本法第10条第1項と第19条第1項第2文とは両立しない(unvereinbar)。同規定は新規定が制定されるまでの間、なお効力を有する。

同時に、第100a条第1項第2文・第3文(源泉通信傍受、Quellen-TKÜ)の一部は無効(nichtig)とされました。第100b条については無効ではなく「不両立」とされ、暫定的な効力継続が認められています。

この事件は(第1申立人)弁護士、調査報道記者、および国際人権連盟の評議員、(第2申立人)重大かつ極めて重大な犯罪で告発されている者や、その家族と日々連絡を取り合っている弁護士および刑事弁護人、(第3申立人)人々をデジタルを通じて「エンパワーメント」することを目的として芸名「(…)」として活動しているものであり、利用者がインターネット上で匿名性を保てるようにするTorサーバーを運営しているらが提起しました。以下、法的な解釈を示すB以下の要約です。

B 適法性

1 一部却下

  • 第100b条第2項第1号l(旧規定)については、2021年改正により実体的意義を伴う変更がなされたため権利保護の必要を欠く
  • 異議申立人3)は芸名のみを用いており、表示内容の作成者への確実な帰属ができないため方式違背

2 適法とされた範囲

対象 適法な主張
第100a条第1項第2文・第3文 対象犯罪の重大性が不十分であるとの主張
第100b条第1項 引用要件違反および中断義務欠如による中核領域保護の不足

3 重要な不適法判断——第100a条第1項第3文と通信の秘密

異議申立人は、拡大源泉通信傍受について通信の秘密への介入の可能性を十分に主張していないとされました。理由は明快です。

基本法第10条第1項は、空間的に離隔した通信に伴う特有の危険からのみ保護する。……基本権保護は、進行中の通信過程の外において被対象者の支配領域内に——すなわち伝送過程の完了後に——保存された通信の内容および状況には及ばない。

異議申立人は、保護必要性を基礎づける伝送過程が既に完了しデータが被対象者の支配領域内にあるという点に取り組んでいないと批判されています。


Ⅴ 理由C——本案判断

1 第100a条第1項第2文(源泉通信傍受)

(1) 介入の重大性

介入の重大性を決定する要素として、データの種類・範囲・想定される利用・濫用の危険、被影響者の数、秘密性継続期間、人格がどこまで捕捉されうるか、データ収集の態様それ自体が挙げられます。

(a) データの種類と範囲——生データストリーム全体の抽出を可能にし、暗号化にもかかわらず完全に評価可能。今日の情報技術の条件下で並外れた射程を有する。日常に深く及ぶ、極めて私的かつ即興的な通信過程、保存された画像・文書を含む。ウェブ上の利用行動とそこに現れる関心・願望・嗜好も捕捉される。クラウドサービスとの全データ交換も監視される。命令期間中にクラウドバックアップが行われれば、ITシステムに保存されていた静止データのすべてが通信として捕捉されうる

(d) 保護機構の意図的な回避——暗号化技術という情報的自己防衛の挫折が介入の重大性を高める。ひとたびITシステムに侵入すれば、スパイ行為・監視・操作のための決定的な技術的障壁は克服される。

(e) 完全性への危険

ITシステムへの侵入において純粋に読み取るだけのアクセスは存在しない。捜査機関も実施を委託された第三者も、データを誤ってまたは意図的な操作により削除・変更・新規作成しうる。……捜査機関は特に監視ソフトウェアにより対象システムにアクセスし、そのために未知のITセキュリティ脆弱性(いわゆるゼロデイ・エクスプロイト)を利用してよい。したがって、この権限が存在すること自体が、捜査機関にとって、既知のセキュリティホールを侵入に利用できるよう開いたままにしておく誘因を作り出すという点が介入の重大性に影響する。その帰結として、捜査機関が他の機関に対しセキュリティホール閉鎖の措置を促すことを怠り、あるいは積極的にホールが発見されないよう働きかける危険が存在する。

(g) 総合評価——源泉通信傍受は、進行中の通信への対象的限定が介入を軽減する要素として働くことを認めつつ(オンライン捜索と異なりITシステム全体のリアルタイム監視は不可能)、なお極めて重大な介入を基礎づけます。裁判所は明示的に、BVerfGE 141, 220の従前の評価を変更すると述べています。

(2) 要求される犯罪の重大性

比例性の観点から、源泉通信傍受は特に重大な犯罪の訴追に限定されなければなりません。

裁判所が示した四段階の枠組みは以下のとおりです。

措置 要求される犯罪の重大性
住居監視 特に重大な犯罪(基本法第13条第3項)
通信傍受 重大な犯罪
GPS等による観察 相当な意義を有する犯罪
一般の捜査措置 あらゆる犯罪

源泉通信傍受は最上位の特に重大な犯罪を要求します。理由として、第100a条第1項第1文第1号の加重された初期嫌疑は特段顕著な介入閾値を画するものではないこと、補充性留保も規範的な広さゆえにその効果を過大評価してはならないことが挙げられています。

また、立法者が源泉通信傍受を古典的傍受の機能的等価物として構成したことも結論を左右しません。今日この措置で収集しうるデータの種類と範囲、ならびにシステムアクセスに伴う完全性侵害と秘密性の危殆化ゆえに、もはや古典的通信傍受とは比較しえないとされました。

(3) 違憲とされた具体的構成要件

最長刑3年以下の以下の構成要件が挙げられています。

刑法第85条第2項、第86条第1項・第2項、第97条第2項、第97b条第1項第1文と第97条第2項の結合、第109g条第1項と第4項第1文の結合、第109g条第2項、第129条第1項第2文(犯罪的結社)、第129条第1項第2文と第129b条の結合、第130条第2項・第4項・第5項(民衆扇動)、第310条第1項第4号と第309条第6項の結合、第313条第2項と第308条第6項の結合、対外経済法第17条第5項、同第18条第5a項、麻薬法第30b条と刑法第129条第1項第2文の結合、同第129b条との結合。

重要な判示として、危険防止法と異なり、単純犯罪領域の構成要件は補充的な法益考察になじまず、個別事案でテロ犯罪として追加的に性質決定されても意味を持たないとされました。

(4) 自己使用でない場合

対象ITシステムが自己使用でなくIT基本権が及ばない場合、第10条第1項のみへの介入となり、その介入の重大性は古典的傍受に近いため、「重大な犯罪」への限定で足り、正当化されるとされました。


2 第100a条第1項第3文(拡大源泉通信傍受)

(1) 情報自己決定権に関する判例変更

情報自己決定権は、個々のデータ収集からのみならず、大規模でそれゆえ典型的に特に内容豊かなデータ集合へのアクセスからも保護する。……2008年2月27日判決(BVerfGE 120, 274 <313>)におけるこれと異なりうる判例を、法廷は維持しない。

理由として、情報自己決定権の保護対象は個々のデータのみならず、近代的情報技術および複数の源泉からの個別データの結合による包括的な人格の危殆化であることが挙げられています。そうでなければ、大規模で内容豊かなデータ量へのアクセスが、IT基本権も第10条第1項も及ばない場合に特殊的な基本権保護を受けなくなる、という懸念が示されました。

(2) IT基本権のlex specialis性

もっとも、技術的手段でアクセスされるITシステムからのデータ収集を授権する規範においては、IT基本権が情報自己決定権を排除します。

理由づけは以下のとおりです。IT基本権は自己使用ITシステムという対象化された保護領域に結びつく形式的な連結点を持つのに対し、情報自己決定権はデジタル空間の内外を問わず一般的に保護する。またIT基本権は、データ収集によって侵害される秘密性のみならず、この秘密性保護を前倒しし、具体的なデータ収集の前段階における抽象的・システム関連的な秘密性期待を保護範囲に取り込む。

情報自己決定権が単独の審査基準となる余地は残ります。ITシステムが十分に資格を備えていない場合、自己使用でない場合、あるいは第三者の通信データがシステム上に保存されている場合などです。

(3) 介入の重大性

第2文よりもやや軽減されるとされました。理由は、①第100a条第5項第1文第1号bにより、命令時点以降に発生しなお保存されている通信に限られること(命令前に保存されたデータの収集は排除される)、②実務上は数日から数週間しか実効性を持たないこと、③揮発性の通信データ(音声・ビデオ通話の内容等)は捕捉できないこと、④第10条第1項に保護された進行中の通信を捕捉しないことです。

他方、システムアクセスは著しく介入を強める要素であり、監視ソフトウェアは保存された通信データを発見・抽出するために構造上ITシステムの記憶領域全体にアクセスできるし、しなければならないため、技術的な危険潜在性はむしろ第2文より高いとまで述べられています。


3 第100b条(オンライン捜索)

(1) 引用要件違反

基本法第19条第1項第2文の引用要件は、警告機能と自省機能を有します。立法者が意識している介入のみを行い、その影響について自らを納得させることを確保する趣旨です。判示の核心は以下です。

引用要件は、立法者が保護範囲の特定の解釈に基づいてある基本権を関係しないと考え、それゆえ制限されるものとして掲げなかった場合にこそ侵害される。というのも、その場合には、基本権に介入する権限を授けているという意識と、その影響について自らを納得させようという意思が欠けているからである。加えて、立法者はそれによって、基本権介入の必要性と規模が明らかにされるべき公的討議から自らを免れることになる。

2017年法は第17条で第100a条の改正に関してのみ第10条第1項を引用しており、第100b条については引用していませんでした。

憲法適合的解釈は不可能とされました。立法資料が明示的に「ITシステムのオンライン捜索により個人の利用行動全体を監視する」としている以上、第10条第1項に介入しないとの解釈は立法者の明白な意思と矛盾するからです。

(2) 中断義務は不要

中核領域保護について、オンライン捜索の特殊な性格ゆえに法律上の中断義務は要求されないとされました。理由は三点です。

第一に、ITシステムへの技術的アクセスにおけるデータ収集は技術的理由から大部分が自動化されており、収集段階で中核領域関連データを区別することが困難です。

第二に、リアルタイムでの並行的な聴取・閲読による場合でも、外国語や聞き取りにくいインターネット上の会話、あるいは通信相手が相互にいかなる人的関係にあるか判断できないといった実際上の困難があります。

第三に、最も重要な点として、ITシステムの監視では多数の異なるデジタル・アプリケーションが並行してデータストリームを生成するため、住居内の発話の監視と異なり明確に把握しうる基準点を欠くとされました。ある利用から中核領域関連データが捕捉されても、同じシステムは中核領域と無関係な多数の目的に使用されうるため、部分的な中断もその射程を実際上意味のある形で画定・実施することがほとんどできないというのです。


Ⅵ 理由D——結論と法律効果

1 第100a条第1項第2文・第3文——違憲かつ無効

同等の規律内容を有する合憲的規定を、立法者は補正によっても作り出すことができないとされました。

BVerfGG第78条第2文により、その後のすべての法改正版についても法的明確性の利益から憲法不適合が宣言されます。条文の位置が改正で移動した場合(第100a条第2項第1号tが同号uに改称された等)も影響しません。

2 第100b条——違憲だが無効ではない

違憲の理由は授権の中核ではなく、その法治国家的成立過程の個別の一側面に関わるものであるため、不適合宣言にとどめられました。

立法者は、基本法第19条第1項第2文の要求に従い、オンライン捜索の権限を第10条第1項に照らしても規律しなければならないことを自覚し、その旨につき自らを納得させることによって、憲法上の瑕疵を除去することができる。

暫定的効力継続の理由として、オンライン捜索が情報技術の発展を考慮すると刑事訴追にとって大きな意義を有し、無効宣言または暫定的失効によって相当の危険を冒すことになること、新規定の制定が見通しうることが挙げられています。

なお、第100b条第1項の不適合宣言により第2項〜第4項には独自の適用領域が残らないため、第100b条全体が憲法不適合とされました。

5コメント

アメリカの 事件、欧州のEncroChat事件やSkyECC事件、ドイツの憲法判断にしても、なおも、きわめて流動的といえることができるでしょう。

場所 被疑者端末 被疑者端末 通信途上
取得方法 スナップショット 継続的取得 継続的取得
代表的な手法 無権限アクセス マルウエア感染 中間者攻撃
代表的な事件 EncroChat SkyEcc

現時点において学ぶべきことは

  • 各国において、重大な犯罪に限ってではあるものの、機器への無権限アクセスもしくはマン・イン・ザ・ミドルの方法をもちいて、犯罪者の通信に関するデータ・通信内容に対してのアクセスが認められるようになってきていること
  • それらの手法が特に国境をまたいで行われる場合、各国において手法に対する法的要件が異なることもあって、その証拠の許容性については、法的な解釈問題が期めて多いこと
  • 上記手法は往々にして国家機密として証拠を要請する国に対して、開示されがたい性質を有していること
  • 被告人の手続き保障との関係で、手法の重要な点が、秘匿のままで、刑事手続きを進めうるのかという問題がある。
  • 各国の実務を通じての調査研究のためにファンドが10年前に提供されていたこと(うらやましい?)
  • 法執行のためのデータへの合法的・効果的アクセスのロードマップが公表されて、具体的な問題の解決のための作業がなされているところである。
  • もっとも、具体的には、批判もあるところであるし、報告書自体も、特に脆弱性の利用をする「積極的な傍受」については、セキュリティとのバランスで難しいことがあることを認めている。

さらに個人的には、安易に「通信の秘密」という用語が用いられているが、

端末に対するアクセスは、電気通信事業者の取扱中の通信ではないので、「通信の秘密」(電気通信事業法4条)とは、関係がないので、法律家的には、間違いであること

憲法の議論をもってきても、この理は同様であること、さらに、立法的対応をした場合に、その対応をする法律が違憲となるとは到底思えないので、そのような「プロパガンダ」はいい加減にやめるべきであること

あたりもいえるだろうと思っています。

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