日経新聞に、グローバル・ビジネス・コラムニスト ラナ・フォルーハー氏の「個人情報の価値 考え直せ」という論説が掲載されています。
主たる要旨は、
(1)米IT(情報技術)大手が独占的な力を有している
(2)消費者は、その対価をただで、その貴重な情報を譲り渡している
(3)市場の情報へのアクセスは平等とは言えない
(4)情報に対する対価という面でも透明性が確保されていない
(5)これらの問題点を克服するために、データから生み出されるあらゆる経済的価値についても明確な権利を持つべき
というものです。
(1)、(2)、(4)については、私としては、「プライバシーはなぜ難しいか」とか、「プライバシーパラドックス」でふれているとおりですし、また、IPAの研究報告書でも、その旨は、実際の実験とともに明らかにされているところですね。全くもって、同意します。
(これが公表されたのは、2010年なんですけどね)
(3)なのですが、ラナさんが、いっているのは、どの市場なのでしょうか。市場といっている以上は、価格をすこしあげても、他のところに移らないという一定の範囲になるわけです。
Googleに関していえば、オンライン広告市場というのは、確かに考えられるでしょう。しかしながら、その利用者は、企業であって消費者ではありません。
EUが、いろいろと認定している市場は、「一般的検索サービス市場」「ライセンス可能なスマートフォンOS市場」「アンドロイド・モバイルOS市場におけるアプリケーション・ストア市場」になるのですが、後ろ二つは、信者の存在を前提としての話になりますね。
「一般的検索サービス市場」は、消費者に対して、価値の分配をする競争者が現れるべきであるというのでしょうか。それは、そのとおりだと思いますし、消費者のプライバシーが安売りされているので、競争者がでて、1検索あたり、マイクロポイントがもらえるようになるべきだというのは、正論です。
しかしながら、それをどのように実現するのか、というところで、彼女は、いままでの鋭い分析が嘘のように、トリッギーな論説にいきます。
「データから生み出されるあらゆる経済的価値についても明確な権利を持つべき」というのです。消費者は、検索したときに、上記のようなマイクロポイントを有しているのだから、それを請求できるというのでしょうか。そのマイクロポイントのいくらが正当で、それをどのように実現しようというのでしょうか。それとも、Gは、分割されるべきというのでしょうか。まさに「固いパターナリズム」です。
IBMやMSとの分割をめぐる論争が、ほとんど何も生み出さなかった(弁護士業界には、利益があったでしょうけど)のを忘れてはいけないと思います。
要は、消費者のプライバシーが適正な価格で取引されるようにするためには、それは、消費者に対するナッジをする、もしくは、同意におけるデフォルト値を最適に設定するようにすることであって、それによって、適切な競争状態のもとで、取引がなされるように仕向けることが精一杯でしょう(いわゆる、ソフト・パターナリズムです)。
もっとも、プライバシーパラドックスは、どうせ解消できないので、いっそのこと、データに税金をかけて、それを、ベーシック・インカムの財源にすればいいのではないかという気もしますね。