昨年来、なにかあると「通信の秘密」という言葉に関連して、報道されることが多くなってきました。
例えば、
(1)ISPによるブロッキングが、憲法の「通信の秘密」の規定に違反するおそれ
(2)NHKによる「総務省 IoT機器に無差別侵入し調査へ 前例ない調査に懸念も 」報道 (どうも、NHKの報道は消えていますね)
(3)捜査当局が、スマホからのデータ抽出は、「電話やメールの内容は憲法が定める「通信の秘密」に当たる。」
とかです。
個人的には、これらが、法的にきちんとした分析に基づいて「通信の秘密」という用語を用いてるのかなという疑念をもっています。
この点で、注意すべきことは、憲法における「通信の秘密」と電気通信事業法における「通信の秘密」が法律の概念としては、あって、それぞれの関係が不明であること、しかしながら、憲法の教科書では、ほとんど、同一であるとされる記述が一般であることです。
この点については、明確な検討がなされていないどいうことがいえるわけです。ただし、憲法の教科書の一般的なアプローチからは、憲法の通信の秘密も、(電気通信事業法と同じで)国内の遠隔通信に関して、電気通信事業者の取扱中にかかる通信に関する秘密を念頭において議論されているということになります。
(有線通信や無線通信はちょっとおきます)
ここで、電気通信事業者の取扱中というのは、「発信者が通信の発した時点から受信者がその通信を受けるまでの間をいい、電気通信事業者の管理支配下にある状態のものをさします」( 電気通信振興会 逐条解説 35ページ)。
例えば、スマホでいえば、そのスマホ内に物理的に保存されているデータは、利用者の管理支配下にあることになります。(利用者の宅内にある自営端末(略)は、「電気通信事業者の取扱中」とはなりえない)ちなみに、この物理的にどこで支配が変わるのか、というのが、責任分界点ですね。
なので、少なくても一般的な電気通信事業法の概念からいくと、例えば、改正NICT法での調査が、「通信の秘密」に違反するおそれとかいわれると?とおもうわけです。
(そもそも、根拠規定で、違法性が阻却されているだろうというのは、さておいてですが)
さらに、この話は、いま一つ、突っ込みがあるわけです。実は、逐条解説をみると、「蓄積機能を有する自営端末において、すでに蓄積された情報を事後に検閲する場合(略)などは、(電気通信事業法3条、4条-高橋の補充です 原文は3条)禁止している行為ではないものの、憲法21条2項および有線電気通信法9条違反に該当する行為となりうる」(35ページ)と記載されています。
なので、そのレベルで、解釈論をなしているのであれば、(2)および(3)は、嘘とはいえないということになります。もっとも、(2)および(3)ともに法的な根拠があってなしている行為なので、そもそも違法とは考えられないという根本的な問題をなぜに無視するのか、という当たり前の問題が残ることになります。