前の「米クラウド法で情報開示要求 日本企業、板挟みの恐れ」のエントリで紹介した提出命令と個人情報保護法の板挟みというのは、大きくみると真実究明とプライバシーの相剋という問題と言いなおすことができるかと思っています。
この問題は、古くは、米国の提出命令とスイスの銀行の秘密保護法との対立とかがありましたが、現在では、米国の広汎なディスカバリ制度と欧州のデータ保護法の対立が出てきているようになっています。
前者の代表的な事案は、Marc Rich事件です。
Marc Rich case.
739 F2d 834 Marc Rich Co Ag Marc Rich Co Ag v. United States(1984)
Rich & Co.社がすべての株式を保有する子会社である Marc Rich & Co. International, は、Rich & Co.,宛の大陪審からの提出命令(subpoena duces tecum)の送達を受けた。その提出命令は、「1980年と1981年にわたる国外・国内クルードオイルの取引をさししめすすべての文書」を求めるものであった。スイスの法律では、要請された文書の提出は禁止されていた。数週間後、提出命令に応じられないと回答したRich & Co.に対して、民事裁判所侮辱として、Sand判事は、一日あたり、$50,000 の罰金を課した。これに対してスイス政府は、スイス刑事法違反の恐れがあるとして関連する文書を没収し、刑事司法共助のルートを用いて、提出されるべきと主張した。1984年に最終的に、150億ドルをIRSに支払った。
http://openjurist.org/print/281990
いま一つ、事件として有名なのは、Nova Scotia事件です。
Nova Scotia case
Nova Scotia銀行は、アメリカにおいて、大陪審から提出を求められた書面を有していた。ドラッグの密輸および脱税に関するものであった。銀行は、この提出命令に対して、提出命令を強制する根拠が不十分である、提出命令は、適切手続に反する、国際的な礼譲に違反するとして争った。 (事件としては、複数あります)
後者(現代的なディスカバリーとの相剋)の代表の例については、「デジタル法務の実務Q&A」(153頁) のQ21 国際的レビューのとくに (4)eディスカバリと国家主権の項目で触れています。
個人的には、余裕があるときに、エントリにまとめてみようかと思います。