「イランのドローンを撃墜、米海兵隊のエネルギー兵器「LMADIS」の威力」という記事がでています。
記事を読んでいくと、これが、「エネルギー兵器」なのか、という感じがします。「妨害電波を発して、飛行体とその操縦元との間の通信を遮断する。」とか、「相手に照準を合わせると、LMADISは同じ周波数の電波を発してダメージを与える。相当量の「ノイズ」を発生させることで、交信を断たれたと敵方の無人機に思い込ませるのだ。」とか、記載されていて、これって、単なるピン・ポイントのジャミングなんじゃないのとか、いう感じがします。エネルギー兵器って、普通は、「指向性のエネルギーを直接に照射攻撃を行い、目標物を破壊したり機能を停止させる兵器」って定義されるので、ジャミングは、エネルギー兵器ではないですね。
それはそれとして、これを日本で購入したとして、日本国内法的に、電波法は、別として、どのような位置づけになるのと考えてみました。自衛隊なので、自衛隊の活動と、このような機器の利用が、法的に、どのように位置づけられるのか、ということですね。多分、自衛隊法とこのような機器の位置づけというのは、いままでになされていないような気がします。
というか、このような機器は、法的に、どのように位置づけられるのでしょうか。
「武器」というのは、法的な用語としてあります。警察官職務執行法7条は、武器の使用を認めています。ここで、武器というのは、「主として人の殺傷の用に供する目的でつくられた道具で現実に人を殺傷する能力を有するものをいう」をいうと解釈されています(古谷洋一編著「注釈 警察官職務執行法(四訂版)」(立花書房、2018)371頁。それでもって、自衛隊についていえば、職務遂行のための武器使用と、自然権的武器使用とがあるそうです(「日本の防衛法制」211頁)。前者においては、警察官職務執行法が準用されているので、それで、武器使用が正当化されることになりますね。
では、このようなジャマーは、武器なのか、というと、別にそれ自体、人を殺傷できないので、「武器」とはいえないでしょう。ほかに法的にどうなのか、というと、警察官職務執行法では、「制止」という行動があります。この「制止」というのは、「犯罪が行われようとするのを実力で阻止することをいう」とされています。この制止には、「一般的には、身体の一次的拘束、凶器の取り上げ等の措置が含まれるとされている。」となります。これは、犯罪者の身体に対する影響であって、引き留めのため警棒を肩に宛てる行為、放水車による放水、催涙ガス・催涙液を使用して制止する行為などが含まれるとされています。
もし、この「制止」という概念に該当すると、「「警察官は、犯罪がまさに行われようとするのを認めたときは、その予防のため関係者に必要な警告を発し、又、もしその行為により人の生命若しくは身体に危険が及び、又は財産に重大な損害を受ける虞があつて、急を要する場合」に限って、この措置が利用可能になりますね。
では、このような「無線通信干渉」って、どうなのでしょうか。警察官職務執行法としては、「制止」よりも、犯罪行為者への強制効果(?-coercive effectという感じ)は、さらに弱いでしょう。そうはいっても、犯罪者といえども、その通信は、保護されているはずなので、警察官職務執行の上では、法的に保護される意味があるはずですね。上のような制止レベルを求めるのか、それとも、犯罪にたいしてならば、いつでも、干渉をなしうるのか、ということになりそうです。
無人機等飛行禁止法は、これを立法論的に解決しています。
警察官は、小型無人機等の飛行が行われていると認められる場合には、当該小型無人機等の飛行を行っている者に対し、当該小型無人機等の飛行に係る機器を対象施設周辺地域の上空から退去させることその他の対象施設に対する危険を未然に防止するために必要な措置をとることを命ずることができる
命ぜられた者が当該措置をとらないとき、その命令の相手方が現場にいないために 当該措置をとることを命ずることができないとき又は同項の小型無人機等の飛行を行っている者に対し当該措置をとることを命ずるいとまがないときは、警察官は、対象施設に対する危険を未然に防止するためやむを得ないと認められる限度において、当該小型無人機等の飛行の妨害、当該小型無人機等の飛行に係る機器の破損その他の必要な措置をとることができる(同法10条1項、2項)。
この場合の「機器の破損その他の必要な措置」というのにジャミングが含まれるのは、国会審議でも認められているところですね。
要件を比較した場合に、「財産に重大な損害を受ける虞があつて、急を要する場合」というまではなくて、「対象施設に対する危険」の未然防止で足りることになります。(私には、無人機等飛行禁止法の要件のほうが、すこし緩いように見えます)
でもって、空港の施設管理者は、どうか、というと、航空法は、警察官の権限については、ノーコメントで(管轄からいえば、当然なのですが)、平成三十二年東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会特別措置法(平成二十七年法律第三十三号)31条2項において、小型無人機等飛行禁止法9条1項または3項本文の規定に違反して、小型無人機等の飛行が行われる場合には、
当該施設における滑走路の閉鎖その他の当該施設に対する危険を未然に防止するために必要な措置をとるものとする。
とされています。自ら、ジャミングできるのか、というのは、不透明な感じですね(理屈からいけば、自己の財産や航空機の安全な運行に対する正当防衛は、いけるはずですが)。では、警察官にジャミングを要請した場合に、制止として、この「財産に重大な損害を受ける虞があつて、急を要する場合」まで求められるのか、というのは、問題なのではないか、と思います。
要は、通信を用いてコントロールする有体物による犯罪に対する、その通信に対する干渉に対して、「制止」に限らず、「干渉」などの概念を設けて、警察官職務執行の要件を緩和するべきなのではないか、という感じをもっています。
また、その場合の干渉のための機器について、電波法の問題をクリアする規定(自衛隊法112条(電波法の適用除外))的なものを考えてもいいのではないか、という感じをもっていたりします。