MPA/JIMCA主催の「知的財産の日」協賛にご招待されて新宿ピカデリーで映画を見てきました。
一昨年は、スーパーマリオ・ザ・ムービー(リンク)、昨年は、(All of Us Strangers-異人たち、リンク)、今年は、Micky 17(映画のリンク)です。
社会風刺であるとともに、SF的であり、エンターテイメントでもありで、とても面白かったです。人間のリプリントというのは、その人の人格のアップロード・永続とかのテーマとして、「チャッピー」(2016)のときよりもさらに現実的な問題になっています。 人それぞれ、いろいろな解釈ができるのかなと思いました。私は、AIとか、意識と体の関係とかは?とかを考えました。
映画の宣伝担当は、「逆襲ムービー」という切り口のようですが、何か単純すぎる見方なような気がします。政治批判・ポピュリズム批判というのは、ありですけどね。
それは、さておき、このイベントは、WIPOが協賛してくれているのですが、WIPOから、知的財産権を根拠としたブロッキングについての報告書がでているので、それを読んでみたいと思います。
序 WIPO「ウェブサイト・ブロッキング命令の実施の効果・法的技術的手段についての研究」報告書
「ウェブサイト・ブロッキング命令の実施の効果・法的技術的手段についての研究」(STUDY ON THE EFFECTIVENESS AND THE LEGAL AND TECHNICAL MEANS OF IMPLEMENTING WEBSITE-BLOCKING ORDERS)報告書になります(リンク)。
著者は、Mrs. Maria Fredenslund, Attorney-at-law and Director at the Danish Rights Alliance (RettighedsAlliancen), Mr. Graziano Giannini, PhD and Advisor at the Italian Communications Regulatory Authority (AGCOM) and Mr. Dean Marks, Attorney-at-law and Emeritus Director of the Coalition for Online Accountabilitになります。
概要としては
インターネットサービスプロバイダによる海賊版ウェブサイトのブロッキングは、オンライン著作権侵害に対する最も広く採用されている救済策の1つになりつつあります。ウェブサイトのブロッキングは、インターネットユーザーが違法なウェブサイトにアクセスすることを防止し、著作権で保護されたコンテンツを楽しむための合法的なサイトやサービスの利用を促進する上で効果的であることが証明されています。本調査では、ウェブサイト遮断命令(またはサイト遮断命令)の有効性とその実施方法、ウェブサイト遮断の法的根拠、著作権を侵害するサイトやサービスへのトラフィックを減少させる効率的な手段となっていることを検証する。ウェブサイトのブロッキングは、ある国では議論を呼んでいるが、他の国では日常的に行われている。この研究では、ブロッキングシステムを効果的にするものは何かを検討し、様々な法域におけるブロッキング命令の取得と実施に関する実践的なガイダンスを提供する。また、ブロッキングの有効性を維持するための法的・技術的な進展についても検討する。また、ブロッキング制度は、現在の技術やイノベーションに対応するために、静的なものではなく、動的なものでなければならないという前提に立ち、将来を見据えたブロッキング政策や技術的実施に関する提言も行っている。
となります。あとは、具体的にみていきます。(以下の番号は、パラグラフ数)
1 導入および範囲
オンラインにおける著作権侵害が課題となっていること(1)、犯罪者は、動機として犯罪をよりおこしやすいものとなっていること(2)。剽窃サイトは、無料かきわめて廉価であること/マルウエアを仕込んだり個人情報を窃取したりするものです(3)。デジタル剽窃が、創造的な努力からさ、金銭を売ることを困難にしていること、また、社会から、創造的な作品への投資をなすための経済的なインセンティブを失わせていること(4)、狡猾な侵害者が、たびたび海外の法域から運営をなし、ホスティングプロバイダなどのリソースを利用するので、オンライン著作権は、執行にあたり課題を有している(5)。法域から生じる問題等に対応するために有効な手段としてサイトブロッキングがあり(6)、現在までに、経済力のある国や経済発展途上の国を含め、世界 50 カ国以上がサイトブロッキングを採用している(7)。
情報技術・イノベーション財団は
著作権侵害を理由とするウェブサイトのブロッキングは、テレビ、映画、書籍、ビデオゲーム、音楽など、デジタル海賊版と闘い、合法的なコンテンツ制作者やサービスを支援するツールとして常態化している
と、述べています。これらの前提のもと、
- (a)著作権侵害サイトおよびサービスへのアクセスを減少させ、合法的な情報源から著作権で保護されたコンテンツの消費を増加させるという観点からのサイトブロッキングの有効性。
- (b) サイトブロッキング命令を課すための世界各国における法的根拠、および命令を取得するための法的手続
- (c) サイトブロッキング命令を実施するための技術的側面(関連する負担および費用、ならびに当該命令を回避するための技術的手段を含む)。
- (d) 世界中の裁判所が、サイトブロッキングが言論の自由やプライバシーなどの基本的権利に抵触するのではないかという懸念にどのように対処してきたか。
- (e) サイトブロッキング命令の今後の課題と、その有効性を維持するのに役立つメカニズムについての実践的分析。
が、この報告書の調査範囲とされています(パラ9)。
2 サイトブロッキングの有効性
2章は、「サイトブロッキング」の有効性です。サイトブロッキングについては、実際に導入しても回避手段があるとか、批判的なスタンスの人からいわれるのですが、個人的には、実際の(マスの)利用者のことを考えない空理空論だろうと思っていて、それをデータでみていくことが重要だろうと思います。
この報告書では、
- 20年ほど、実際の利用がなされており、90,000以上のドメイン名と27,000以上の海賊版ウエブサイトへのアクセスが不能になっていること(10)
- ブラジルやインドの報告書では、「海賊版を減少させ、適法なサービスの消費を増加させるるのに効果的なツールである 」という報告書がでていること(11)、ブラジルでは5パーセント、インドでは3.1パーセント適法なサービスでの消費を増大させていること(11、12)(The Impact of Online Piracy website Blocking on Legal Media Consumption )
- 反海賊版同盟(Coalition Against Piracy (CAP))ファンドの調査によると、サイトブロッキングによってインドネシアの62パーセント、マレーシアの64パーセントの消費者の行動が変化したこと(https://avia.org/2023-cap-consumer-surveys-continue-to-show-the-benefits-of-effective-site-blocking/)(13)
- 2014-15年の韓国の調査では、90パーセントほど、アクセスが減少していること(14)
- オーストラリアでは、適法なストリーミングサイトへのアクセスを5パーセント増大させていること、ブロックされているサイトへのアクセスが68.7パーセント減少していること、ブロックされてないところを含めても42パーセント減少していること(15)
- 英国では、2012年においては、ブロッキングが、海賊版サイトへのアクセスを減少させることには成功しなかったが、2013年には、海賊版サイトへのアクセスを減少させ、そのうえで適法なサイトの利用を増大させた(16)
- ノルディック諸国では、2021年から2023年の間に、「ストリーム・リッピング」のような新しい形の違法な利用が増大していること、動的ブロッキング差止ツールは、が過去数年の対応ツールになっていること(17)
が紹介されており
経験則によると、ISPに対してサイトブロック命令が発令された後、4~5ヶ月間で対象の違法サービスへの月間訪問者数が平均70%減少することが示されています。
とされています(18)。Information Technology and Innovation Foundation “A Decade After SOPA/PIPA, It’s Time to Revisit Website Blocking”は、サイトブロッキングの有効性を次のように要約しています:
「ある国が発行するブロッキング命令が、相当数の人気のある海賊版ウェブサイト(およびそのミラーサイトやプロキシサイト27)に適用されると、その国のユーザによる海賊版サイトへのアクセスが減少し、合法的なコンテンツウェブサイトやオンラインサービスの利用が増加します。デリー高等法院が指摘しているように、「ウェブサイトのブロッキングが多くの国で採用されているのには理由がある: ブロッキングは、海賊行為を削減し、合法的なコンテンツの消費を促すための合理的かつ有用な手段となり得るからである」。
とされています。なお、ここで、デリー高等法院とあるのは、UTV Software Communication Ltd. and others v. 1337X.To and others, High Court of Delhi,April 10, 2019, https://indiankanoon.org/doc/47479491/です
3 サイトブロッキング命令の法的根拠
報告書は、サイトブロッキングの法的根拠の議論になります。
A 国際条約
ここで紹介されているのは、「著作権に関する世界知的所有権機関条約」(WIPO Copyright Treaty)(CRICの翻訳)(パラ21-22)、TRIPS協定(22-23)があげられています。
B EU法
ここでは、情報社会指令(2001/29/EC)や執行指令(2004/48/EC)があげられています。これらについては、株式会社ITリサーチ・アートの報告書(「諸外国におけるインターネット上の権利侵害情報対策に関する調査研究の請負」)でもふれているので省略します。
報告書で興味深い表現としては、
というのも、「単なる導管」のような)適用除外は、仲介者の責任を規制するだけであり、仲介者に対する無過失の差止命令を禁止したり制限したりするものではないからで ある。 サイトブロッキングの差止命令は責任とは無関係であるため、責任の免除の影響を受けな い。
という表現です(パラ28)。 報告書で引用されている判決は、 Tobias McFadden v. Sony Music Entertainment, C-484/14, EU:C:2016:170。この点は、対応責任(Responsibility)と結果責任(Liability)は、別でしょ、という私の表現にも関連するところです。
あと、EU域内においても、一般的には、司法の命令によるブロッキングになりますが、ギリシア、イタリア、ポルトガルにおいては、行政当局の命令によるサイトブロッキングが定められています。イタリアでは、国の通信規制当局である AGCOM が、大規模な著作権侵害に関与するウェブサイトのための 特別な「迅速な」手続を定めており、AGCOM は 12 営業日以内にサイトブロッキング命令を出すか否かを決定しなけれ ばならない 。サイトブロッキングの行政手続は、多くの場合、あらかじめ確立された手続上及び物的基準に基 づいており、ブロッキングの要請後の決定について権利者に合理的な確実性を提供しています(パラ30)。
判例法としては、
- UPC Telekabel v. Constantin, Case C-314/12,
- Stichting Brein v. Ziggo, C-610/15, EU:C 2017:456
- Peterson v. YouTube and Elsevier v. Cyando, joint cases C-682/18 and C-683/18,EU:C:2021:503
があげられています。
C アジア太平洋
アジア太平洋地域において、同報告書では、9国が会要しているとされます。同報告書では
- オーストラリア
- 韓国
- インド
- インドネシア
がとりあげられています。
オーストラリア
オーストラリアの著作権法改正は、日本でも紹介されていますが(オーストラリアにおけるサイトブロッキング制度)、判決例としてRoadshow Films case(Roadshow Films Pty Ltd v. Telstra Corporation Ltd [2016], FCA 1503) があるそうです。
韓国
著作権法がサイトブロッキングの法的根拠となっていること、「情報通信ネットワーク利用促進及び情報保護に関する法律」(2012 年)に基づき、 当局は、著作権を侵害する、または侵害を助長するオンライン上の場所へのアクセスをブロックすることができること、裁判所は、著作権者が侵害行為に関連する新たなドメ インの詳細について宣誓供述書を提出できるようにすることで、その都度新たな裁判所命令を出す必要がない、動的なサイトブロッキング命令を採用していること、などが紹介されています。
興味深い事案としては韓国著作権保護院(Korea Copyright Protection Agency、KCOPA)対ネイバー社(Naver Corp.)、Bamtoki事件があります。
インド
著作権法および情報技術法第 79 条(3)(b)に基づき、著作権侵害に対す るサイトブロッキング命令が受け入れられています。UTV Software Communication Ltd. and others v. 1337X.To and others は、ヨーロッパ・シンガポール・オーストラリアなどの判決例・立法を検討した上で、「ローグ・ウェブサイト」に対して、インターネット媒介者の活動を解決策として導入し、海外の海賊版サイト対策とすべきと判断しています。
インドネシア
インドネシアでは、行政によるサイトブロッキングが法律で規定されており、通信情報省 (KOMINFO)によって実施される。司法手続の代わりに、著作権者は知的財産総局(DGIP)に申請書を提出し、著作権侵害サイトを特定し、その証拠/陳述書を提出する。DGIPが申請を承認すると、KOMINFOにブロッキング要請が転送され、KOMINFOはISPにサイトのブロッキングを命じるという仕組みになっています。
D ラテンアメリカ
サイトブロッキングは、ラテンアメリカの少なくとも 9 カ国で採用されており、報告書では、アルゼンチン、ブラジル、ウルグアイが取り上げられています。
アルゼンチン
権利者はCuevanaに対して民事訴訟を起こし 、連邦第一審裁判所は、アルゼンチンの著作権法である法律第11.723.66号の第79条に基づき、予防措置としてブロッキング命令を下したという2011年の事件が最初でした。また、、The Pirate Bayに対するブロッキングもなされています(48)。また、2022年には、動的ブロッキング命令もだされています(49)。その上、裁判所は、Androidシステムの主要な開発者およびシステム運営者であるグーグルに対し、アルゼンチンで登録されているすべてのAndroid端末において、既存のMagis TVアプリを無効化またはアンインストールするよう命じた(50)という事件もあります。その上に裁判所は.arのレジストリに対し、todotechno.com.arというドメインを検察庁に移管するよう命じる(51)というドメイン差押えもなされています。
ブラジル
ブラジルでは現在、サイトブロッキング命令は同国の著作権法の一般規定に基づいており、多くの場合、著作権侵害に関わる刑事捜査と連動して発令されています(52)。また、裁判所のみならず、国家電気通信庁(Agência Nacional de Telecomunicações – ANATEL)は、違法な IPTV サービスや、違法かつ非認証のセットトップテレビ ボックスにロードされた海賊版アプリ、および違法なテレビボックス自体に関して、行政的なサイトブロッキング命令を発出することかできます(53)。
ウルグアイ
ウルグアイでは、検察がROJADIRECTAがウルグアイの著作権法である法律第9.739号の刑事規定、特にその第46条に違反していると判断し、刑事裁判所に 「ROJADIRECTAと称するウェブサイトのアクセス遮断を命じるよう 」要請したのに応じて、社団の命令がなされたというのが、最初の事例です(2018年、55)。その後、2020年に公布された法律第19.924号の第712条は、政府電気通信機関である通信サービス規制ユニット(Unidad Reguladora de Servicios de Communicaciones – URSEC)に、このようなサイトブロッキング命令を出す権限を特に与えており(56)、さらに2022 年 10 月、ウルグアイは新しい法律(法律第 20075 号第 233 条)を可決し、URSEC がオンライン上のスポーツイベントの違法なライブ放送へのリアルタイムのアクセスを無効にするライブサイトブロッキング命令を発行できるようになりました(57)。
E サイトブロッキングの法的根拠と法的パラメーターに関する基本的結論
条約、法令、立法規定、判例の検討から得られた基本的な結論は以下のとおりであるとして、以下の事項が指摘されています。
(a) サイトブロッキング命令は、一般に、オンライン著作権侵害に関する民事上の救済措置 と考えられているが、著作権に関する刑事事件と関連して発令されることも多い。
(b) サイトブロッキング命令は、著作権侵害に対するインターネット仲介者に対する「無過失」 の差止命令による救済を規定する法令または立法規定、あるいは ISP に対してサイトブロッキング 命令を課すことを認める特定の法律に基づいて発令されることがある。しかし、そのような法的規定は、サイトブロッキングの前提条件ではない。裁判所は、差止命令による救済を規定する、より一般的な著作権法に基づいて、サイトブロッキング命令を出すこともできる。さらに、著作権侵害や、不正なIPTVボックスやアプリなどの違法機器の販売に関連する刑法に基づいて、裁判所からサイトブロッキング命令が出されることもある。
(c)インターネット仲介者の責任保護や「セーフハーバー」を規定する法律は、ISPに対するサイトブロッキング命令を排除も制限もしない。
(d) 著作権侵害を助長または促進することに主に専念しているウェブサイトやオンラインサービスは、その主たる目的または主たる効果に基づいて、サイトブロッキングに適している。侵害行為に関与し、または侵害行為を促進することのみを目的とする必要はない。侵害コンテンツをホストする必要はなく、インデックスサイトやリンクサイトなどでもよい。また、著作権侵害を促進・助長する製品の販売に特化したオンラインアプリ、サービス、ウェブサイトも含まれます。さらに、主要な目的は、特に、ウェブサイトまたはサービスの宣伝文句、特定を回避する努力、侵害コンテンツまたは当該コンテンツへのリンクの削除要求に対する効果的な対応の欠如、問題のウェブサイトまたはサービスに対して提起された過去の法的措置からも導き出すことができる。
(e)サイトブロッキングは、裁判所命令または行政手続きによって達成することができる。より多くの場合、サイトブロッキング命令は裁判所によって出される。
(f)権利者は、サイトブロッキング命令を得ることを目的として裁判所に提起される民事訴訟よりも、行政手続きの方が迅速で、負担が少なく、費用も少なくて済むことをしばしば見出している。
(g) サイトブロッキング命令を求める権利者は、ウェブサイトやサービスによる侵害の対象となっているコンテンツの権利を保有していることを証明する必要がある。しかし、ウェブサイトやサービスによって侵害されているすべてのコンテンツの関連する権利者のすべて、あるいは相当部分が訴訟に参加する必要はない。むしろ、サイトブロッキング命令を求める者は、サイトやサービスの主な目的または主な効果が、著作権侵害を助長することであることを立証する必要がある。
(h) サイトブロッキング命令の技術的実施の費用は、通常ISPが負担する。サイトブロッキング命令は、使用すべきブロッキング方法を規定することもできるし、ブロッキングを達成するために採用すべき方法をISPの裁量に委ねることもできる。一般に、有効性と実施コストの間で合理的なバランスが求められる。
(i) すでにブロッキング命令の対象となっているウェブサイトやサービスについて、新たなドメイ ン名やIPアドレスの追加を容易かつ迅速に許可する動的命令は、司法によるサイト ブロッキング命令と行政当局によるブロッキング命令の両方について可能である。このような動的な命令では、権利者は、元のブロッキング命令で特定された元のドメイン名やIPアドレスに加えて、新しいドメイン名やIPアドレスを迅速にブロッキングできるよう、加速されたプロセスの下で新しいドメイン名やIPアドレスを提出することができます。最近の研究で指摘されているように、サイトブロッキング命令を回避し、回避しようとする海賊行為者の努力は、「新たに作成されたドメインやウェブサイトを捕捉するために進化することができる動的なサイトブロッキングによって阻止することができる」。
(j)近年、一部の国では、サイトブロッキング制度の法的範囲を拡大し、アクセスプロバイダーである ISP だけでなく、インターネット仲介者に対する命令も含めるようになっている。
- そのうえで、 サイトブロッキング命令の手続きは、当該国の国内法によるとして、しばしば採用される手続的特徴は以下のとおりとされています。
- (a) 権利者は、著作権侵害を主な目的として、構造的に侵害しているサイトやサービスの証拠を収集する。
- (b) 可能であれば、サイトやサービスの所有者や運営者に対して、短い回答期限で通知を行う;
- (c)権利者が裁判所への提訴や行政当局への申請を行う;
- (d) 裁判所または行政当局に証拠を提出する;
- (e)裁判では、ISPと原告の権利者が参加して口頭審理が行われることがある;
- (f)裁判所または行政当局が判決または命令を下し、ISPがブロッキング命令の技術的実施費用を負担するかどうかを決定する;
- (g) ブロッキングはISPによって実施される。
- (h)ブロッキングされたウェブサイトやサービス、ISP、そして多くの場合、関連サイトやサービスの利用者が命令に異議を申し立てることができるよう、不服申し立ての選択肢が存在する。
Ⅳ サイトブロッキングの技術的手段
これについては、
- A インターネットの概観
- B 技術的サイトブロッキング
にわけて論じられています。B においては、
- Domain Name System94 (DNS) blocking;
- IP address blocking
- Uniform Resource Locator (URL) blocking
にわけて論じています。DNSブロッキングが、もっとも一般的なものですが詳細は、省略します。
Ⅴ サイトブロッキングと他の権利との潜在的な衝突
サイトブロッキングについては、言論の自由や事業を行う権利など、他の基本的権利に与える影響について疑問が投げかけられてきたとして、必要最小限についての考察(95)、言論やコミュニケーションの自由への影響、サイトブロッキング命令の実施に伴うコストや負担といった問題(96)、UPC Telekabelの判決の考察(97)がなされています。
結論としては
現在までに実施されているように、ウェブサイトのブロッキングは、著作権で保護されたコンテンツの大量かつ違法な流布に関与するサイトを標的とするための公正かつ効果的で、比例的な手段であり、人権、言論の自由、ネット中立性を損なうものではない
とされています。
Ⅵ 実際的な課題およびサイトブロッキングの有効性を維持する
この課題のもと以下の 2 つの重要な課題に対処するために進化しなければならなかったとされます。
- アクセス制限を回避するための海賊版事業者及びそれほどではないにせよ海賊版ウェブサイトの利用者による回避努力、及び
- コンテンツがオンラインで配信される技術的手段の進化(単一のソースからのダウンロード、ピアツーピア・ファイル共有、ストリーミングなど)
回避努力への対応
これに対しては、動的ブロッキング命令が認められていること(105)があげられています。その上、さらに対象が拡大されて 「海賊版ブランドサイトのブロッキング」と呼ばれていることが紹介されています(107)。構造的に特定する義務は、権利保有者に課せられること(110)がのべられている。その結果として基本原則として
(a)ダイナミック・サイト・ブロッキング命令および海賊版ブランド・サイト・ブロッキング命令の下でブロッ キングされるべき新しいウェブサイトの出現を監視することは、権利者の責任である。権利者は、新しいウェブサイト、そのドメイン名、関連するサブドメイン、IPアドレスを特定する必要がある。また、新しいウェブサイトが(i)構造的に侵害するサービスであること、(ii)権利者の著作権を侵害していることを確認する必要がある。さらに、権利者はこのような確証を裏付ける証拠を収集する必要がある。
(b) ダイナミック・サイトや海賊版サイトのブロッキング命令については、裁判所や行政当局に通知したり承認を求めたりすることなく、命令で定められた条件を満たす新たなウェブサイトを権利者がISPに直接通知できる場合が多い。これらの通知には、上記第1項に規定された確約と証拠を添付する必要がある。
(c) ISPは、権利者から適合する通知を受領した時点で、追加のウェブサイトをブロックしなければならない。
(d) 多くの場合、裁判所または行政当局は、ブロッキングを達成するためにどの技術的メカニズムまたはメカニズムの組み合わせ(DNSブロッキング、IPアドレス、URLブロッキングなど)を採用するかをISPに決定させる。これは、ブロッキング命令が静的なものであろうと、動的なものであろうと、海賊版ブランドに対するものであろうと同じである。
とされています(114)。
また、命令の対象も、アクセスプロバイダから、広範なインターネット媒介者(代替DNSリゾルバ、コンテンツ配信ネットワーク、その他のサービスプロバイダ)へと広がっていること、がのべられています(117)。
技術的進化の課題
ファイル共有技術によるダウンロードからストリーミングやストリームリッピングサービスへ、そしてウェブサイトを介した集中型サービスからアプリやメディアボックスを介した分散型サービスへ、これらの発展はすべて数年以内に起こったものであり、すべてが課題を提示しており、サイトブロッキングは、進化するオンライン技術やイノベーションに対応し、効果的であり続けるために、継続的に開発されなければならないとされています。
この具体例としてイベントが発生し、ストリーミングされている時点で、非常に迅速に実施する必要があることから、権利保有者は、違法IPTVストリームに関連するIPアドレスが権利保有者によって特定され次第、ISPに通知するという柔軟性をもって、ライブイベントの前に、関連する裁判所または行政当局から法的命令を求めて取得しなければならない(ライブ・ブロッキング命令)(121、122)。
サイトブロッキングの有効性を支援する手段
自主的な合意、情報共有、消費者教育・啓発など、追加的措置の一部は、サイトブロッキング制度の有効性を高めるために、特定の国ですでに採用されている、とされています。具体的には、自主的な合意については、デンマーク、ドイツ があげられています。
自主的な合意
デンマーク
デンマークでは、デンマークのある ISP が違法なサイトのブロッキングを命じられた場合、デンマークで運営されている他の ISP もそのサイトをブロッキングすることとしており、さらに、この行動規範は、著作権を侵害する特定のウェブサイトやサービスに対して使用される適切なブロッキング技術や方法について、権利者と ISP が協力することを認めるという自主的な行動規範を締結しています。この自主的な「ワンストップ・ショップ」アプローチは、権利者を代表してRettighedsAlliancen(デンマーク権利同盟)によって調整されています(124)。なお、ポルトガルの行動規範も同一です。
ドイツ
これは季刊Nextcomの「欧州における著作権侵害コンテンツに対する媒介プロバイダの対応責任の動向と わが国への示唆」でも触れたものですが、2021 年、ドイツでは ISP と権利者の間で CUII(Clearingstelle Urheberrecht in Internet)と呼ばれる自主的な取り決めが行われています。
情報共有
これについては、オーストラリア連邦裁判所はThe Pirate Bay(TPB)の多数のウェブサイトとドメイン名に一部適用されたサイトブロッキング命令において、他の法域の判断を参照していること、WIPO ALERTにおいて、WIPO 加盟国が意図的に著作権を侵害すると判断したウェブサイトの詳細を データベースに提出することを認めていること、EUにおける国境を越えたサイトブロッキング命令(131)、合法的なサービスを提供するランディングページの提供(134)が議論されています。
Ⅶ 結論
ということで結論としては
- オンライン著作権侵害を阻止する唯一の解決策や「特効薬」は存在しないが、サイト ブロッキングは効果的な手段であることが証明されていること。
- オンライン著作権侵害の救済手段としてのサイトブロッキングは、多くの場合、サイトブロッキングを具体的に取り上げた法令、またはオンライン著作権侵害に対するインターネット仲介者に対する無過失の差止命令による救済を規定する、より一般的な法令文言に基づいていること
- サイトブロッキングの有効性を維持するためには、ライブイベントやストリームリッピングのような新しい種類のオンライン著作権侵害に対応するために、サイトブロッキングを継続的に進化させる必要があること。
- サイトブロッキングの法的枠組みは、ライブ放送の海賊行為やストリー ムリッピングに対処するためのライブ差止命令だけでなく、動的差止命令や海賊ブランド差止 命令を柔軟に実施できるようにすべきであること。
- サイトブロッキング命令と連動して、裁判所や行政機関が他のインターネット仲介者(VPN、DNSリゾルバ、ソフトウェアシステム運営者、検索エンジン、リバースプロキシプロバイダ、コンテンツ配信ネットワークなど)に対して、海賊版ウェブサイト、海賊版アプリ、海賊版サービス、サイトブロッキング回避経路を無効化する措置を講じるよう命じる場合、サイトブロッキング命令の影響力と有効性が強化されること。
- サイトブロッキング制度は、裁判所への長引く訴訟とは対照的に、より迅速で費用のかからない行政措置を可能にするものであり、通常、より大きな効果をもたらすこと。
- 関連する利害関係者間の協力(行動規範、権利者と ISP 間の自主的合意など)、および/またはイタリアの海賊版シールドプラットフォー ムのような自動化されたプロセスを含む、十分に機能するサイトブロッキング制度は、サイト ブロッキング制度の効率性と有効性をさらに高めること。
- また、自主的な協力は、海賊版事業者による回避努力やユーザー行動に関する洞察の創出にも役立つこと。
- 消費者教育メッセージングを受け入れ、実施し、提供するサイトブロッキング制度は、 コンテンツにアクセスするための合法的な代替手段に関する情報を提供することで、合法的なコンテン ツサービスを利用し、違法なものを回避する方法についてユーザーの認識を高めること。
があげられています。