電気通信事業法が改正されています。そして、そのなかで、クッキー規制ともいわれている「外部送信規律に関する総務省令」の案が出ています。
よく考えたら、2022年電気通信事業法改正は、よく読んでいなかったので、まとめてみます。
解説記事としては「電気通信事業法の適用可能性がますます拡大? 電気通信事業の定義と、検索・SNS事業に対する規律の拡大」(ビジネスローヤーズ)があります。
お約束の立法時の書類セットは、こちらです。概要は、こちら。基本的な柱としては、①情報通信インフラの提供確保、②安心・安全で信頼できる通信サービス・ネットワークの確保、③電気通信市場を巡る動向に応じた公正な競争環境の整備になります。
ということで、これらの柱ごとにみていきます。
1 情報通信インフラの提供確保
情報通信インフラの提供確保ってどういうことなのか、ということでいくと
一定のブロードバンドサービスを基礎的電気通信役務(ユニバーサルサービス)に位置付け、不採算地域におけるブロードバンドサービスの安定した提供を確保するための交付金制度を創設する。
ということです。
基礎的電気通信役務というのは、
国民生活に不可欠であるためあまねく日本全国における提供が確保されるべきものとして総務省令で定める電気通信役務
です(事業法7条)。この条文は、
(基礎的電気通信役務の提供)
第七条 基礎的電気通信役務(国民生活に不可欠であるためあまねく日本全国における提供が確保されるべきものとして総務省令で定める電気通信役務をいう。以下同じ。)を提供する電気通信事業者は、その適切、公平かつ安定的な提供に努めなければならない。
とされています。ユニバーサルサービスといわれているのは、上でふれたとおりです。
ユニバーサルサービスというのは、国民生活に不可欠な通信サービスであることから、利用者の利便性を確保できないおそれが生じる不採算地域においてもその提供が確保されるような仕組みが構築されないといけません。従来(2002年からとのことです)は、加入電話(基本料)又は加入電話に相当する光IP電話、第一種公衆電話(総務省の基準に基づき設置される公衆電話)、緊急通報(110番、118番、119番)及び災害時用公衆電話だったわけですが、これに一定のブロードバンドサービスが加わったということになります。サービスの制度の説明については、こちら(ユニバーサルサービス制度)。(歴史的な発展については、こちら)
今回の改正においては、上の条文は
一 電話に係る電気通信役務であつて総務省令で定めるもの(以下「第一号基礎的電気通信役務」という。)
二 高速度データ伝送電気通信役務(その一端が利用者の電気通信設備と接続される伝送路設備及びこれと一体として設置される電気通信設備であつて、符号、音響又は影像を高速度で送信し、及び受信することが可能なもの(専らインターネットへの接続を可能とする電気通信役務を提供するために設置される電気通信設備として総務省令で定めるものを除く。)を用いて他人の通信を媒介する電気通信役務をいう。第百十条の五第一項において同じ。)であつて総務省令で定めるもの(以下「第二号基礎的電気通信役務」という。)
とされています。そしてこれは、同法25条2項で
2 第二号基礎的電気通信役務を提供する電気通信事業者は、当該第二号基礎的電気通信役務の提供の相手方と料金その他の提供条件について別段の合意がある場合を除き、正当な理由がなければ、その業務区域における届出契約約款に定める料金その他の提供条件による当該第二号基礎的電気通信役務の提供を拒んではならない。
3 指定電気通信役務を提供する電気通信事業者は、当該指定電気通信役務の提供の相手方と料金その他の提供条件について別段の合意がある場合を除き、正当な理由がなければ、その業務区域における保障契約約款に定める料金その他の提供条件による当該指定電気通信役務の提供を拒んではならない。
とさています。
ちなみに、この提供義務の条文は、もとは、法34条でした。これに関するのが、NTT脅迫電報事件(大阪地判H16.7.7 大阪高判H17.6.3)です。この判決は、ヤミ金融業者から脅迫電報を送りつけられた原告が、被告であるNTT各社に対して、脅迫電報を差し止めるべき義務があったのにこれを怠ったとして、不法行為に基づく慰謝料の支払いを求めた事件でした。この判決は、
「法1条が、同法による『利用者の利益の保護』を、公正な競争を促進して電気通信役務の円滑な提供を実現することによって図ろうとするものであることや、法34条(当時)が、電気通信事業者に電気通信役務の確実かつ安定的な提供を義務付けることによって利用者の利益の保護を図ったものであることからすれば、法34条の「正当な理由」とは、〈1〉天災、地変、事故等により電気通信設備に故障を生じ役務提供が不能の場合、〈2〉役務を契約約款に違反する条件で受けようとする者又は料金滞納者に対する場合、〈3〉その申込みを承諾することにより他の利用者に著しい不便をもたらす場合、〈4〉正常な企業努力にもかかわらず、需要に対して速やかに応ずることができない場合等、電気通信役務の提供をすることが不可能なとき、あるいは、役務を提供することが将来の電気通信役務の確実かつ安定的な提供の妨げとなるときをいうと解するのが相当である。」として、「当該電報の内容がヤミ金融業者等において債務者を脅迫して債権の回収を図ろうとする違法なものであるか否かは、上記各要件のいずれにも該当しないから、当該電報の内容に違法なものが含まれていたとしても、これを受け付け、配達することを拒むことが、法34条所定の「正当な理由」に当たるとはいえない。」
とした事件でした。上のユニバーサルサービスによる法改正がなされたあとでも、ブロッキングをめぐる議論においては、ブロッキング反対派が、インターネット通信は、基礎的通信に匹敵するとして、その主張の根拠にしたようです(もっとも反対派は、法34条が法25条に改正がされたことにも触れていないようですが)。
ちなみに基礎的電気通信役務支援機関というのは、同法106条です
第百六条 総務大臣は、基礎的電気通信役務の提供の確保に寄与することを目的とする一般社団法人又は一般財団法人であつて、次条に規定する業務(以下「支援業務」という。)に関し次に掲げる基準に適合すると認められるものを、その申請により、全国に一を限つて、基礎的電気通信役務支援機関(以下「支援機関」という。)として指定することができる。
一 職員、設備、支援業務の実施の方法その他の事項についての支援業務の実施に関する計画が支援業務の適確な実施のために適切なものであること。
二 前号の支援業務の実施に関する計画を適確に実施するに足りる経理的基礎及び技術的能力があること。
三 支援業務以外の業務を行つている場合には、その業務を行うことによつて支援業務が不公正になるおそれがないこと
となります。
そして、今回の改正で、支援機関に関しては、
二 第百十条の三第一項の規定により指定された第二種適格電気通信事業者に対し、その全ての担当支援区域(同条第二項に規定する担当支援区域をいい、第二号基礎的電気通信役務(総務省令で定める規模を超える電気通信回線設備を設置して提供するものに限る。)を継続して提供している期間が総務省令で定める期間を超えるものに限る。以下この号において同じ。)における第二号基礎的電気通信役務の提供に要する費用の額が当該全ての担当支援区域における第二号基礎的電気通信役務の提供により生ずる収益の額を上回ると見込まれる場合において、当該上回ると見込まれる額の費用の一部に充てるための交付金(第百十条の二第一項に規定する一般支援区域に係る交付金にあつては、当該交付金の額を算定する年度(毎年四月一日から翌年三月三十一日までをいう。以下この節において同じ。)の前年度の第二号基礎的電気通信役務の提供に要した費用の額が当該前年度の第二号基礎的電気通信役務の提供により生じた収益の額を上回る当該第二種適格電気通信事業者に対して当該上回る額を限度として交付するものに限る。)を交付すること。
という第2種交付金の規定が整備されるとともに、「一般支援区域」、「特別支援区域」の指定/関連する、第二種適格電気通信事業者としての指定/第二種交付金の額の算定・交付方法等、負担金の聴衆(第110条の2ないし5関係)の規定が整備されています。
2 安心・安全で信頼できる通信サービス・ネットワークの確保
2.1 序
これは、総務省の概要によると
情報通信技術を活用したサービスの多様化やグローバル化に伴い、情報の漏えい・不適正な取扱い等のリスクが高まる中、事業者が保有するデータの適正な取扱いが一層必要不可欠となっ
ている。
ことから、
大規模な事業者が取得する利用者情報について適正な取扱いを義務付ける。
事業者が利用者に関する情報を第三者に送信させようとする場合、利用者に確認の機会を付与する。
というものです。
ちなみに上の不適正な取扱い等のリスクというのは、「国外の委託先から日本の利用者に係るデータにアクセス可能であった事案などが挙げられる。」とされています。これは、LINE事件のことをいっているのでしょうけど、個人的には、これを利用者の情報の透明性の問題と捉えているという点で問題点の認識ができていないとはおもいます。
それはさておき、このために、特定利用者情報を適正に取り扱うべき電気通信事業者として指定することができるとしています。もっとも、ここで、今回の改正で、「電気通信事業者概念の整理」とでもいうべき改正がなされているということが強調されなければなりません。ここで、この特定利用者情報を適正に取り扱うべき電気通信事業者を考える前に「電気通信事業者概念の整理」について触れます。
2.2 電気通信事業者概念の整理-第三号事業に関する制度の整備
上の概要では、とりたてて触れられていないのですが、いまひとつ、電気通信事業者概念の整理がなされており、特に、第三号事業に関する制度の整備が、今回の電気通信事業法の改正によってなされています。ひとつの柱として捉えることも可能なほどに意義があります。
第三号事業って何?というのは、今回の改正で、
第164条 この法律の規定は、次に掲げる電気通信事業については、適用しない。
一 専ら一の者に電気通信役務(当該一の者が電気通信事業者であるときは、当該一の者の電気通信事業の用に供する電気通信役務を除く。)を提供する電気通信事業
二 その一の部分の設置の場所が他の部分の設置の場所と同一の構内(これに準ずる区域内を含む。)又は同一の建物内である電気通信設備その他総務省令で定める基準に満たない規模の電気通信設備により電気通信役務を提供する電気通信事業
三 電気通信設備を用いて他人の通信を媒介する電気通信役務以外の電気通信役務(次に掲げる電気通信役務(ロ及びハに掲げる電気通信役務にあつては、当該電気通信役務を提供する者として総務大臣が総務省令で定めるところにより指定する者により提供されるものに限る。)を除く。)を電気通信回線設備を設置することなく提供する電気通信事業イ ドメイン名電気通信役務
ロ 検索情報電気通信役務
ハ 媒介相当電気通信役務
として定められたイ ドメイン名電気通信役務、ロ 検索情報電気通信役務、ハ 媒介相当電気通信役務です。定義としては2条7号です
イ 電気通信事業者又は第百六十四条第一項第三号に掲げる電気通信事業(以下「第三号事業」という。)(略)
もともとは、(旧)164条1項3号は
三 電気通信設備を用いて他人の通信を媒介する電気通信役務以外の電気通信役務(ドメイン名電気通信役務を除く。)を電気通信回線設備を設置することなく提供する電気通信事業
となっていました。
電気通信事業法の立て付けは、「「通信の秘密」外資にも適用の総務省有識者会議の報告書を読む」(19/10/2019)で触れました。これは、大学が、事業者の届け出をしなくてはならないのか、ということの議論の時に、結構、議論になりました。
そこでは、「実質的な電気通信事業者」という概念があるのではないか、ということをいいました。そもそも、電気通信事業者というのは、
五 電気通信事業者 電気通信事業を営むことについて、第九条の登録を受けた者及び第十六条第一項の規定による届出をした者をいう。
とされている(事業法2条5号)ので、法4条1項の
第四条 電気通信事業者の取扱中に係る通信の秘密は、侵してはならない。
という規定は、第9条の登録を受けた者及び第16条第1項の規定による届出をした者の間によると考えられるところです。
それでもって外資にまで及ぼすとなれば、この「実質的な電気通信事業者」の間に、4条1項を及ぼさないといけないのではないの?と問題を提起したわけです。
#(高橋)電気通信事業法の解釈本は、あまり多くはなく、そこでは、このような概念は、使われていません。
「実質的な電気通信事業者」の概念については、「電気通信事業参入マニュアル」が参考になります。電気通信役務というのは、「電気通信設備を⽤いて他⼈の通信を媒介し、その他電気通信設備を他⼈の通信の⽤に供することをいう。 」(2条3号)わけですが、そうだとすると、実質的な電気通信事業者というのを考えることができるわけです。「業として、電気通信役務を他人の需要に応ずるために提供する者をいう」ということになります。
これの要件としては、「業としていること」「他人の需要に応じること」「電気通信役務の提供」ということになります。
ところで、上の「「通信の秘密」外資にも適用の総務省有識者会議の報告書を読む」(19/10/2019)では、「実質的な電気通信事業者」に関して、Gメールのサービスについて検討しました。また、上のマニュアルでは、「電⼦メールやクローズド・チャットといったサービスのように、サービスの提供者がサーバ等の電気通信設備を⽤いて、利⽤者Aが利⽤者Bに伝えたい情報を、その内容を変更することなく利⽤者Bに伝達する場合、当該サービスの提供者は他⼈の通信を媒介していると判断される。」となるので、このような業者自体が、電気通信事業者であると解されることが示唆されているといえるとしました。
「電気通信役務の提供」というのは、
電気通信設備を用いて他人の通信を媒介し、その他電気通信設備を他人の通信の用に供することをいう。
ここで「媒介」というのは、
他⼈の依頼を受けて、情報をその内容を変更することなく、伝送・交換し、隔地者間の通信を取次、⼜は仲介してそれを完成させること
とされています。ここで、電子商取引指令の導管の定義も参照ください。(「インターネット媒介者の役割と「通信の秘密」の外延(検索エンジン・CDN)-EU「プロバイダーの注意義務と責任」報告書の示唆」)
電気通信役務は、媒介に限らないわけです。「その他電気通信設備を他人の通信の用に供すること」とされていることは、その意味です。これが、今回、改正でもって、媒介以外の業務について検索サービス、ドメイン名サービス(これは、前からはいっていた)、媒介相当電気通信役務がその範疇となることが明確になりました。
一 ドメイン名電気通信役務 入力されたドメイン名の一部又は全部に対応してアイ・ピー・アドレスを出力する機能を有する電気通信設備を電気通信事業者の通信の用に供する電気通信役務のうち、確実かつ安定的な提供を確保する必要があるものとして総務省令で定めるものをいう。
四 検索情報電気通信役務 入力された検索情報(検索により求める情報をいう。以下この号において同じ。)に対応して当該検索情報が記録されたウェブページのドメイン名その他の所在に関する情報を出力する機能を有する電気通信設備を他人の通信の用に供する電気通信役務のうち、その内容、利用者の範囲及び利用状況を勘案して利用者の利益に及ぼす影響が大きいものとして総務省令で定める電気通信役務
五 その記録媒体(当該記録媒体に記録された情報が不特定の者に送信されるものに限る。)に情報を記録し、又はその送信装置(当該送信装置に入力された情報が不特定の者に送信されるものに限る。)に情報を入力する電気通信を不特定の者から受信し、これにより当該記録媒体に記録され、又は当該送信装置に入力された情報を不特定の者の求めに応じて送信する機能を有する電気通信設備を他人の通信の用に供する電気通信役務のうち、その内容、利用者の範囲及び利用状況を勘案して利用者の利益に及ぼす影響が大きいものとして総務省令で定める電気通信役務
と定義されています。
このような「実質的な電気通信事業者」については、今回、上で触れた電気通信事業法4条1項/2項の「秘密の保護」の対称が広がったわけです。というのは、電気通信事業者の定義が
五 電気通信事業者 電気通信事業を営むことについて、第九条の登録を受けた者及び第十六条第一項(同条第二項の規定により読み替えて適用する場合を含む。)の規定による届出をした者をいう。
とされて、16条2項は
2 電気通信事業者以外の者が第百六十四条第一項第三号の規定により新たに指定をされた場合における前項の規定の適用については、同項中「その旨」とあるのは、「第百六十四条第一項第三号の規定により新たに指定をされた日から一月以内に、その旨」とする。
とされているので、結局、第164条第1項第3号の規定により新たに指定をされた場合には、「秘密の保護」との関係では、「電気通信事業者」となります。
規制の枠組との関係まで考えると極めて図示するのは、難しいのですが、このようになるかと思います。
この図は、
- 電気通信役務を提供するかということがポイントとなること
- 自己のためか、他人のためか、でわかれること
- 業務性があるか、がポイントとなること
- これらがイエスであると、基本的には、事業法の適用がある
- この場合、届出が前提となり、場合によって登録の必要があること
- が、一定の場合には、適用が除外されること
- ただし、除外されるといっても、検閲の禁止と秘密の保護の規定が及ぶこと
を意味しています。
2.3 3号事業者に対して適用される規定
ところで、164条は、(適用除外等)となっていて、電気通信事業法の適用除外がなさているわけです。が、それでも、
除外事業について適用される規定
第3条(検閲の禁止)及び第4条(秘密の保護)の規定
3号事業者に対して適用される規定
- 第27条の12(情報送信指令通信に係る通知等)
- 第29条第2項(第4号に係る部分に限る。)(業務の改善命令)
- 第157条の2(協定等に関するあっせん)
- 第166条第1項(報告/検査の権限)
- 第167条の2(違反者の氏名等の公表)
- 第186条(第3号中第29条第2項に係る部分に限る。)(罰金)
- 第188条(第17号中第166条第1項に係る部分に限る。)(罰金)
の規定は第三号事業を営む者について、それぞれ適用する、となっています。
ここで、今回、さらに注目されているのは、特定の事業者における情報送信指令通信についての利用者通知/容易知得化義務(第27条の12関係)ということになります。
上の図で、3号事業者に対して特に適用される規定があると示されているのは、そのような意味です。
この条文は、
(情報送信指令通信に係る通知等)第27条の12電気通信事業者又は第三号事業を営む者(内容、利用者の範囲及び利用状況を勘案して利用者の利益に及ぼす影響が少なくないものとして総務省令で定める電気通信役務を提供する者に限る。)は、その利用者に対し電気通信役務を提供する際に、当該利用者の電気通信設備を送信先とする情報送信指令通信(利用者の電気通信設備が有する情報送信機能(利用者の電気通信設備に記録された当該利用者に関する情報を当該利用者以外の者の電気通信設備に送信する機能をいう。以下この条において同じ。)を起動する指令を与える電気通信の送信をいう。以下この条において同じ。)を行おうとするときは、総務省令で定めるところにより、あらかじめ、当該情報送信指令通信が起動させる情報送信機能により送信されることとなる当該利用者に関する情報の内容、当該情報の送信先となる電気通信設備その他の総務省令で定める事項を当該利用者に通知し、又は当該利用者が容易に知り得る状態に置かなければならない。ただし、当該情報が次に掲げるものである場合は、この限りでない。一 当該電気通信役務において送信する符号、音響又は影像を当該利用者の電気通信設備の映像面に適正に表示するために必要な情報その他の利用者が電気通信役務を利用する際に送信をすることが必要なものとして総務省令で定める情報二 当該電気通信事業者又は第三号事業を営む者が当該利用者に対し当該電気通信役務を提供した際に当該利用者の電気通信設備に送信した識別符号(電気通信事業者又は第三号事業を営む者が、電気通信役務の提供に際し、利用者を他の者と区別して識別するために用いる文字、番号、記号その他の符号をいう。)であつて、当該情報送信指令通信が起動させる情報送信機能により当該電気通信事業者又は第三号事業を営む者の電気通信設備を送信先として送信されることとなるもの三 当該情報送信指令通信が起動させる情報送信機能により送信先の電気通信設備に送信されることについて当該利用者が同意している情報四 当該情報送信指令通信が次のいずれにも該当する場合には、当該利用者がイに規定する措置の適用を求めていない情報イ 利用者の求めに応じて次のいずれかに掲げる行為を停止する措置を講じていること。(1) 当該情報送信指令通信が起動させる情報送信機能により行われる利用者に関する情報の送信(2) 当該情報送信指令通信が起動させる情報送信機能により送信された利用者に関する情報の利用ロ イに規定する措置、当該措置に係る利用者の求めを受け付ける方法その他の総務省令で定める事項について利用者が容易に知り得る状態に置いていること。
となります。
そもそも、この規定がどのような趣旨になるのか、というのは、いまひとつはっきりしませんが「プラットフォームサービスに係る利用者情報の取扱いに関する WG とりまとめ(案)」によると
変化の激しいデジタル広告などを含めた通信関連プライバシーの保護のためには共同規制が有用である と考えられるがこの共同規制について外縁を明らかにして国内外事業者に対する実効性を高めるため、事業者に法律上の義務を課すことが有用であるとの指摘も踏まえ、電気通信事業法等における規律の内容・範囲等について、e プライバシー規則案の議論も参考にしつつ、cookie や位置情報等を含む利用者情報の取扱いについて具体的な制度化に向けた検討を進めることが適当であると考えられる
ということのようです(67頁)。まあ、Brexit派の私としては、e プライバシー規則案が望ましいものだと無条件にするのは、もういいかげんにしてもらいたいというしますけど、官僚にしては、何かやっている感を出すのには、最適というところなのでしょう。メディアも何かやることを応援する感じなんでしょうけど。
この規定を図示するとこのようになると思います。
ここで、この上の例外をみると、まず、電気通信事業者又は第三号事業を営む者であることが前提となって、内容、利用者の範囲及び利用状況を勘案して利用者の利益に及ぼす影響が少なくないものとして総務省令で定める電気通信役務を提供する者となるのか、ということが前提になります(論点1)。そして、その場合であっても性質上適用除外(1号、2号)になる場合に加えて同意(3号)、オプトアウト(4号イ)、容易知得化(4号ロ)が上がっているので、要するに当該通信によって送信されることとなる当該利用者に関する情報を
- ①総務省令で定めるところにより当該利用者に通知又は容易に知り得る状態に置く、
- ②同意を取得
- ③オプトアウトのいずれかの措置
ということです。そこで、これらの総務省令の案がでています。具体的には、「外部送信規律に関する総務省令案について 」になります。
論点1【電気通信事業法第 27 条の 12 柱書き】は、「内容、利用者の範囲及び利用状況を勘案して利用者の影響に及ぼす影響が少なくない電気通信役務」になります。
これについては、上の総務省令案スライド1によると
(利用者の利益に及ぼす影響が少なくない電気通信役務)
○ 法第二十七条の十二の総務省令で定める電気通信役務は、次のいずれかに該当する電気通信役務であつて、ブラウザその他のアプリケーション(利用者が使用するパーソナルコンピュータ、携帯電話端末又はこれらに類する端末機器において動作するものに限る。次条において同じ。)により提供されるものとする。一 他人の通信を媒介する電気通信役務
<利用者間のメッセージ媒介サービス等>
二 その記録媒体に情報を記録し、又はその送信装置に情報を入力する電気通信を利用者から受信し、これにより当該記録媒体に記録され、又は当該送信装置に入力された情報を不特定の利用者の求めに応じて送信する機能を有する電気通信設備を他人の通信の用に供する電気通信役務
<SNS・電子掲示板、動画共有サービス、オンラインショッピングモール等>
三 入力された検索情報(検索により求める情報をいう。以下この号において同じ。)に対応して、当該検索情報が記録された全てのウェブページ(通常の方法により閲覧ができるものに限る。以下次条において同じ。)のドメイン名その他の所在に関する情報を出力する機能を有する電気通信設備を他人の通信の用に供する電気通信役務
<オンライン検索サービス>
四 前号に掲げるもののほか、不特定の利用者の求めに応じて情報を送信する機能を有する電気通信設備を他人の通信の用に供する電気通信役務であつて、不特定の利用者による情報の閲覧に供することを目的とするもの
<各種情報のオンライン提供(例:ニュース配信、気象情報配信、動画配信、地図等)>
とされています。
性質上適用除外になるというのは、どういうことかというと、
- 利用者が当該電気通信役務を利用する際に送信することが必要な情報
これは、符号、音響又は影像を当該利用者の電気通信設備の映像面に適正に表示するために必要な情報その他の利用者が電気通信役務を利用する際に送信をすることが必要なものとして総務省令で定める情報となって、OS情報、画面設定、言語設定に関する情報 他 になります。
でもって、具体的には
(利用者が電気通信役務を利用する際に送信をすることが必要な情報)
○ 法第二十七条の十二第一号の総務省令で定める情報は、次に掲げるものとする。ただし、当該情報をその必要の範囲内において送信する場合に限るものとする。<通知又は公表を要しない事項>
一 電気通信役務において送信する符号、音響又は影像を当該利用者の電気通信設備の映像面に適正に表示するために必要な情報その他当該電気通信役務の提供のために真に必要な情報
二 利用者が当該電気通信役務を利用する際に入力した情報を当該利用者の電気通信設備の映像面に再表示するために必要な情報
三 利用者が当該電気通信役務を利用する際に入力した認証に関する情報を当該利用者の電気通信設備の映像面に再表示するために必要な情報
四 当該電気通信役務に対する不正な行為の検知等を行い、又は当該不正な行為による被害の軽減等を図るために必要な情報
五 当該電気通信役務の提供に係る電気通信設備の負荷を軽減させるために必要な情報その他の当該電気通信設備の適切な運用のために必要な情報
というのが提案されています(スライド 4枚目)。
- 当該電気通信事業者又は第三号事業を営む者が当該利用者に対し送信した識別符号
これは、具体的には、ファーストパーティクッキーをいうとされています。
具体的な状況で適用除外になるための事項としては
- ①総務省令で定めるところにより当該利用者に通知又は容易に知り得る状態に置く、
- ②同意を取得
- ③オプトアウトのいずれかの措置
となっていて、①については、通知と知得容易化の際の要件とその事項が明らかにされています。また、③については、知得容易化の際の事項が総務省令として提案されています。これらを見ていくと
論点2【電気通信事業法第 27 条の 12 柱書き】利用者に通知し又は容易に知り得る状態に置く際に満たすべき要件(スライド2)
○ 法第二十七条の十二の規定により利用者の電気通信設備を送信先とする情報送信指令通信を行おうとするときは、次の各号のいずれにも該当する方法により、次条各号に掲げる事項を当該利用者に通知し、又は当該利用者が容易に知り得る状態に置かなければならない。
<通知又は公表の方法に関する共通事項>
一 日本語を用い、専門用語を避け、及び平易な表現を用いること。
二 操作を行うことなく文字が適切な大きさで利用者の電気通信設備の映像面に表示されるようにすること。
三 前二号に掲げるもののほか、利用者が次条各号に掲げる事項について容易に確認できるようにすること。2 前項の利用者に通知する場合には、前項各号に掲げるもののほか、次の各号のいずれかに該当する方法により行わなければならない。
<通知の方法>
一 次条各号に掲げる事項又は当該事項を掲載した画面の所在に関する情報を当該利用者の電気通信設備の映像面に即時に表示すること(当該事項の一部のみを表示する場合には、利用者がその残部について容易に到達できるようにすること。)。
二 前号に掲げる方法と同等以上に利用者が容易に認識できるようにすること。3 第一項の利用者が容易に知り得る状態に置く場合には、第一項各号に掲げるもののほか、次の各号のいずれかに該当する方法により行わなければならない。
<公表の方法>
一 情報送信指令通信を行うウェブページ又は当該ウェブページから容易に到達できるウェブページにおいて、次条各号に掲げる事項を表示すること。
二 情報送信指令通信を行うアプリケーションを利用する際において、利用者の電気通信設備の映像面に最初に表示される画面又は当該画面から容易に到達できる画面において、次条各号に掲げる事項を表示すること。
三 前二号に掲げる方法と同等以上に利用者が容易に到達できるようにすること。
論点3【電気通信事業法第 27 条の 12 柱書き】利用者に通知し又は容易に知り得る状態に置くべき事項(スライド2)
(利用者に通知し、又は利用者が容易に知り得る状態に置くべき事項)
○ 法第二十七条の十二本文の総務省令で定める事項は、情報送信指令通信ごとに、次に掲げる事項とする。<通知又は公表を行う事項>
一 当該情報送信指令通信が起動させる情報送信機能により送信されることとなる利用者に関する情報の内容
二 前号に規定する情報の送信先となる電気通信設備を用いて当該情報を取り扱うこととなる者の氏名又は名称
三 第一号に規定する情報の利用目的
論点4【電気通信事業法第 27 条の 12 第4号ロ】オプトアウト措置の際に利用者が容易に知り得る状態に置く事項(スライド5)
(オプトアウト措置に関し利用者が容易に知り得る状態に置くべき事項)
○ 法第二十七条の十二第四号ロの総務省令で定める事項は、次に掲げるものとする。<オプトアウト措置に関する事項>
一 法第二十七条の十二第四号イに規定する措置(以下この条において「オプトアウト措置」という。)を講じている場合にあつては、その旨
二 オプトアウト措置が同法第二十七条の十二第四号イ⑴又は⑵のいずれの行為を停止するものであるかの別
三 オプトアウト措置に係る利用者の求めを受け付ける方法
四 利用者がオプトアウト措置の適用を求めた場合において、当該電気通信役務の利用が制限されることとなるときは、その内容
五 情報送信指令通信が起動させる情報送信機能により送信されることとなる利用者に関する情報(法第二十七条の十二第一号及び第二号に規定するものを除く。)の内容
六 前号に規定する情報の送信先となる電気通信設備を用いて当該情報を取り扱うこととなる者の氏名又は名称
七 第五号に規定する情報の利用目的
となります。
2.4 特定利用者情報を適正に取り扱うべき電気通信事業者
条文としては、
(特定利用者情報を適正に取り扱うべき電気通信事業者の指定)
第27条の5 総務大臣は、総務省令で定めるところにより、内容、利用者の範囲及び利用状況を勘案して利用者の利益に及ぼす影響が大きいものとして総務省令で定める電気通信役務を提供する電気通信事業者を、特定利用者情報(当該電気通信役務に関して取得する利用者に関する情報であつて次に掲げるものをいう。以下同じ。)を適正に取り扱うべき電気通信事業者として指定することができる。一 通信の秘密に該当する情報
二 利用者(第二条第七号イに掲げる者に限る。)を識別することができる情報であつて総務省令で定めるもの(前号に掲げるものを除く。)
になります。
この事業者については「情報取扱規程」の定めの義務(第27条の6)、「情報取扱規程」の変更命令等(第27条の7)、情報取扱方針の制定・公表義務(第27条の8関係)、特定利用者情報の取扱いの状況評価/情報取扱規程又は情報取扱方針の変更(第27条の9関係)、特定利用者情報統括管理者の選任/届出(第27条の10関係)、特定利用者情報統括管理者の誠実義務/事業者の意見尊重義務(第27条の11関係)、事故時の報告義務(第28条関係)、業務の方法の改善等の命令(第29条第2項関係)が定められています。これを図示すると、以下のようになります。
この特定利用者情報と上記の外部送信規律との関係については、解説等を待ちたいと思います。
Ⅲ 電気通信市場を巡る動向に応じた公正な競争環境の整備
これは
携帯大手3社・NTT東・西の指定設備を用いた卸役務に係るMVNO等との協議の適正化を図るため、卸役務の提供義務及び料金算定方法等の提示義務を課す。
加入者回線の占有率(50%)を算定する区域を都道府県から各事業者の業務区域(例えばNTT東は東日本、NTT西は西日本)へ見直す。
というものです。
ここで、特定卸電気通信役務というのが定義されています。具体的には
第一種指定電気通信設備又は第二種指定電気通信設備を用いる卸電気通信役務のうち、電気通信事業者間の適正な競争関係に及ぼす影響が少ないものとして総務省令で定めるもの以外のものをいう
を提供する電気通信事業者は、正当な理由がなければ、その業務区域における当該特定卸電気通信役務の提供を拒んではならないこととされました(第38条の2第2項関係)。
この特定卸電気通信役務を提供する電気通信事業者は、当該特定卸電気通信役務の提供に関する契約の締結の申入れを受けた場合において、当該特定卸電気通信役務に関し、当該申入れをした電気通信事業者の負担すべき金額その他の提供の条件について提示をする時までに、当該申入れをした電気通信事業者から、当該提示と併せて当該金額の算定方法その他特定卸電気通信役務の提供に関する契約の締結に関する協議の円滑化に資する事項として総務省令で定める事項を提示するよう求められたときは、正当な理由がなければ、これを拒んではならないこととした。(第38条の2第3項関係)
また、これに関して、業務方法の改善等の命令(第38条の2第4項)、当事者間の協議が調わないときの総務大臣の裁定の申請(第39条)が定められています。
4 ボトムライン
駒澤綜合法律事務所のブログでは、欧州における情報社会サービスの概念について、電子商取引指令の三分法について、その限界をみてきました。具体的には、「インターネット媒介者の役割と「通信の秘密」の外延(検索エンジン・CDN)-EU「プロバイダーの注意義務と責任」報告書の示唆」などのエントリです。
今回の電気通信事業法は、それに関しての日本なりの回答であるように思います。
個人的には、通信の秘密の拡大について、その有している意味をかんがえないで、「世界の傾向」(?)という議論には、きわめて違和感があるところですので、今後、機会があったら、詳しく考えたいと思います。
もっとも、では、このような実質的な定義をなした場合に、わが国の電気通信事業法が、どのような観点から、どのような主体のどのような行為と「実質的に関連」するのか、専門的には、どのような行為がわが国の立法管轄権のもとにあるのか、という論点が出てきます。これについては、条文上は、すぐに明らかにはできないようです。個人的には、今後の課題です。