経済安全保障の体系と経済安全保障一括法の内容(オムニバス)?

今年の流行語になる(なった)「経済安保」ですが、私のブログでも結構とりあげてます。

「経済安保、官民で協議会 自民議連提言、機密情報の流出防ぐ」(2021年5月29日)

経済安保の法-インフラの海外IT活用に規制 政府、法に安保基準 中国念頭に14業種対象」(同5月18日)

「経済安保2.0?-経済安保の担当役員設置、政府が主要企業に要請へ」(同5月8日)

などが代表的なものです。

ところで、現在「経済安全保障一括法」の制定にむけて調整に入ったという記事がでています。例えば、時事ドットコム「経済安保、一括法制定へ 半導体など供給網も強化―来年の国会提出で調整・政府」がその代表的な記事です(同7月28日)。

「経済安保一括法案の主なポイント」としては、

  • 外為法を軸に放送、航空、銀行など各業法の外資対応などを集約
  • 関係省庁の連携強化で技術、情報の流出防止
  • 半導体と先端電池、レアアース(希土類)、医薬品を戦略4品目として供給網強化を促進
  • 軍事転用可能な技術の特許出願を一定期間非公開にできる「秘密特許」を導入

が上がっています。

でもって、2020年12月22日 自由民主党政務調査会 新国際秩序創造戦略本部 「提言 『経済安全保障戦略策定』に向けて」」

が、戦略的自立性と戦略的不可欠性を二つの柱にしていること、はふれています。そして、令和3年5月27日には、「新国際秩序創造戦略本部 中間とりまとめ ~「経済財政運営と改革の基本方針2021」に向けた提言~」がまとめられてさらに具体化されるに至りました。

そこでは、「戦略的自立性の確保について」と「戦略的不可欠性の維持・強化・獲得」についての考え方が発展し、詳細に論じられています。
中間とりまとめは、政府に対して
 「経済安全保障戦略」を早急に策定すること
 その上で、各省庁が所管する業法の見直しを含め、2022年の通常国会における「経済安全保障一括推進法(仮称)」の制定を目指すこと
を求めています。

戦略的自立性の確保について
これについては、エネルギー、情報通信、交通・運輸、医療、金融の5分野を選択し、各リスク・シナリオについては、各産業が抱える固有のリスクに加え、サイバーセキュリティ、災害、サプライチェーンなど、各産業に共通するリスクも含めて検討した結果がまとめられています。
また、各産業に共通するリスクの把握・特定とその対策として、サイバーセキュリティ、災害と強鞣化、サプライチェーンなどの項目があげられています。

戦略的不可欠性の維持・強化・獲得
これについては、

政府がわが国の繁栄を長期的・持続的に支えていく個別の強みやその可能性を有する産業を具体的に把握し。それらを国際社会全体にとって不可欠な存在にするために、民間企業の努力を強力かつ効果的に後押しすべくその環境整備等、マクロ経済政策も含め必要な対応を検討・実施すべき

とされています。

要するに我が国の経済が、世界で、不可欠であるようにするとともに、それに対するリスクを把握して、他国にから、我が国経済に対する干渉に影響されないような体制を構築するということになります。「戦略的自立性の確保について」と「戦略的不可欠性の維持・強化・獲得」との関係については、私としては、以下の図で説明することができるかと考えています。

特に個人的には、現代社会が、情報社会・技術によって成り立っているということから考えると、重要技術というのがキーワードになるだろうと考えています。そうすると、おおきなストーリーとしては、以下のように論じることができるのではないかと考えます。

重要技術の優位性/卓越性の確保

重要技術の概念

これは、

国際社会全体の産業構造の中で、わが国の存在が国際社会にとって不可欠であるような分野を戦略的に拡大していくことにより、わが国の長期的・持続的な繁栄及び国家の安全を確保することの中核になるような技術やその技術領域

をいうことができます。

もともとは、米国が、1980年代の国際競争で、自国の競争力が低下したことから、注目された概念です。

具体的には、人工知能、量子コンピューティング、バイオテクノロジー、次世代通信などを挙げることができます。

重要技術の優位性/卓越性確保のための政策

これについては、以下のような論点を挙げることができます。

  • 科学技術・イノベーション基本政策
  • 各分野の政策(AI、量子、バイオ、次世代通信等)
  • 研究のインテグリティ確保
  • 安全保障貿易管理(外為法による移転禁止)
  • 営業秘密の保護

一方、

経済安保リスク対応

について考えます。

これについては、

  • 重要インフラと危機管理問題
  • 重要インフラに対する妨害活動に対する対応
  • 重要情報のセキュリティ
  • 重要情報のローカル化
  • 情報の配慮の範囲(サプライチェーン問題)
  • 対内投資と安全保障
    • 資本投資
    • 不動産への投資問題

という形で論点が洗い出せるのではないかと思います。

そうだとすると、上の

  • 外為法を軸に放送、航空、銀行など各業法の外資対応などを集約
  • 関係省庁の連携強化で技術、情報の流出防止
  • 半導体と先端電池、レアアース(希土類)、医薬品を戦略4品目として供給網強化を促進
  • 軍事転用可能な技術の特許出願を一定期間非公開にできる「秘密特許」を導入

というのは、ほんの一部の論点についてフォローしているのにすぎない問題であるということがわかると思われます。「一括法」というと問題点を「すべて」洗い出して、一定の方向を示すものと解されかねませんが、経済安全保障というのは、きわめておおきな概念であるということがいえるでしょう。

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