ITU憲章vs電波法vs電気通信事業法

憲法とブロッキングの話を考えていたら(動的ブロッキング・ライブブロッキングの「もつれ(エンタングルメント)」-著作権侵害に対するブロッキングの動向- 参照)、国際通信に対して、憲法ってどうかかわるのだろうということを考えました。そもそも、ITU憲章があって、それが、国内に、どのように影響するのか、と考えたところ、そういえば、電波法は、(国内法的にも)電波法よりも条約が優位するんだけど、電気通信事業法は?と考えたのでメモします。

電気通信事業法5条です。

(電気通信事業に関する条約)
第五条 電気通信事業に関し条約に別段の定めがあるときは、その規定による。

これについては、逐条解説電気通信事業法だと

本法に規定されない条約の規定を国内法化させる規定として本条が設けられている。憲法は(略)と規定しており(憲法98条2項)、本条の規定がなくとも条約が法律および命令に優先する都会されるのが通説である。従って、本状は電気通信事業について本法以外にも多くの条約の定めがあることを喚起するための為念的規定と解されている

というコメントがなされています。

ところで、電波法についても同様の規定があります。

(電波に関する条約)
第三条 電波に関し条約に別段の定があるときは、その規定による。

これに対して、電波法要説では

電波法の場合もその例に洩れない。しかし、条約改定に伴う国内法改正作業の遅延等で、条約と電波法の間に異なった規定が生じた場合、あるいは条約のみに規定がある場合などが出てくることがある。(略)この憲法の規定に対応して電波法第3条にも(略)とし、条約が電波法に優先して適用されることを規定している

電波法要説のほうが、さらに具体的な状況について検討しています。というのは、

条約優先といっても、条約の規定と電波法の規定との間に相違があるすべての場合に条約の規定を優先せしめるものではない。

として

  1. 条約の規定が各国を拘束する強制規定であるか
  2. 電波法が該当規定を書いているか
  3. 電波法に規定があるとして、条約の規定と相違しているか

等の事情を個々具体に厳密に検討して、その条約の規定によるかどうかが決められるものである、とされています。

同じ条文の書きぶりであっても、検討のレベルが相当違うなあ、という感想ですね。


電気通信事業法の「秘密の保護」とITU憲章34条の

電気通信の停止
1 構成国は、国内法令に従って、国の安全を害すると認められる私報又はその法令、公の秩序若しくは善良の風俗に反すると認められる私報の伝送を停止する権利を留保する。この場合には、私報の全部又は一部の停止を直ちに発信局に通知する。ただし、その通知が国の安全を害すると認められる場合は、この限りでない。
2 構成国は、また、国内法令に従って、他の私用の電気通信であって国の安全を害すると認められるもの又はその法令、公の秩序若しくは善良の風俗に反すると認められるものを切断する権利を留保する。

との関係については、当然ですが、検討はされていないところです。

この規定は、国内における事業者に対する「秘密の保護」の規定とどのような関係になるのか、という問題を考えることができるかと思います。

ITU憲章34条1項は、国家主権の対内的側面を定めていて、しかも、その定めは、国内法的にも、効力を有していると解することができるように思えます。

ITU憲章34条1項が、上のように明確に優先するのか、むしろ、国内法に直接は影響は与えないが、国内法は、その趣旨にあわせて解釈されるとするべきか、という問題はありそうです。

明確に優先して、電気通信事業法の規定を保持希有するとした場合、国内法的には、

  1. 国際的な通信にあっては、国の安全を害すると認められる場合、公の秩序若しくは善良の風俗に反すると認められる場合には、国家は、その通信の伝送を停止する権利を有している
  2. 国際的な通信にあっては、国の安全を害すると認められる場合、公の秩序若しくは善良の風俗に反すると認められる場合には、国家は、その通信を切断する権利を有している
  3. 上の1と2の国家の権利は、電気通信事業法4条の「秘密の保護」に優先する
  4. 上の1と2の国家の権利による結果については、原理的には、我が国における基本的人権侵害の問題を生じない

という結果を導くことも可能になるかと思います。

今後の研究課題になりますが、このような通信主権の国内法における現れと「通信の秘密」との関係によって、世界各国の国際通信に対する行政命令による遮断等が正当化されているような気がします。

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