DAOでステーブルコインを発行する場合の「電子決済手段」に関する規制の枠組

DAO法の勉強会で、DAOでステーブルコインを発行する場合の発行体の規制は、どうなるの?という質問がありました。

ステーブルコインについて「安定的かつ効率的な資金決済制度の構築を図るための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律」が成立・公布された(2022年6月)際に概念が「電子決済手段」として明確化されたものであることは、「サイバーペイメント・バースの3D分析-講学上の概念の整理」でふれました。2022年10月現在で、未施行です。以下、施行後の資金決済法の条文で論じます。

再度、概念をあげます。同法2条5項

5 この法律において「電子決済手段」とは、次に掲げるものをいう。

一 物品等を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されている通貨建資産に限り、有価証券、電子記録債権法(平成十九年法律第百二号)第二条第一項に規定する電子記録債権、第三条第一項に規定する前払式支払手段その他これらに類するものとして内閣府令で定めるもの(流通性その他の事情を勘案して内閣府令で定めるものを除く。)を除く。次号において同じ。)であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの(第三号に掲げるものに該当するものを除く。)

二 不特定の者を相手方として前号に掲げるものと相互に交換を行うことができる財産的価値であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの(次号に掲げるものに該当するものを除く。)

三 特定信託受益権

四 前三号に掲げるものに準ずるものとして内閣府令で定めるもの

この一号において財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されている通貨建資産に限)るとされています。しかしながら、まだ、概念を整理したところしかみていなかったので、具体的な「電子決済手段」に関する規制の枠組は、あまり良くみていませんでした。そこで、具体的に規制の枠組をみていきます。

1「電子決済手段等取引業」

1.1 「電子決済手段等取引」の概念

電子決済手段については、「電子決済手段等取引」という概念が中心になります。これを業として行うことは「電子決済手段等取引業」となります(同法2条5項)。

具体的に規制される行為としては、

(電子決済手段の交換等-一号と二号)

一 電子決済手段の売買又は他の電子決済手段との交換

二 前号に掲げる行為の媒介、取次ぎ又は代理

(電子決済手段の管理-三号)

三 他人のために電子決済手段の管理をすること(その内容等を勘案し、利用者の保護に欠けるおそれが少ないものとして内閣府令で定めるものを除く。)。

四 資金移動業者の委託を受けて、当該資金移動業者に代わって利用者(当該資金移動業者との間で為替取引を継続的に又は反復して行うことを内容とする契約を締結している者に限る。)との間で次に掲げる事項のいずれかを電子情報処理組織を使用する方法により行うことについて合意をし、かつ、当該合意に基づき為替取引に関する債務に係る債権の額を増加させ、又は減少させること。

イ 当該契約に基づき資金を移動させ、当該資金の額に相当する為替取引に関する債務に係る債権の額を減少させること。
ロ 為替取引により受け取った資金の額に相当する為替取引に関する債務に係る債権の額を増加させること。

となります。なお、電子決済手段の交換等又は電子決済手段の管理をあわせて「電子決済手段関連業務」といいます。

ただし、銀行等又は資金移動業者である場合には、第62条の6第1項第8号及び第9号に該当しない場合には、第62条の3の規定にかかわらず、その発行する電子決済手段について、電子決済手段等取引業(電子決済手段関連業務に限る)を行うことができるとされます(62条の8)。第62条の6第1項第8号及び第9号に該当しない場合というのは、それぞれ、第62条の6第1項第8号は、登録の取消から5年を経過しない法人等の規定、第9号は、特定資金移動業の廃止から五年を経過しない法人等の規定ですので、実質的には、電子決済手段関連業務、すなわち、一 電子決済手段の売買又は他の電子決済手段との交換、二 前号に掲げる行為の媒介、取次ぎ又は代理をおこなうことができるということになります。

これらの電子決済手段等については、資金決済法の「第三章の二 電子決済手段等」によってさだめられることになります。

1.2 電子決済手段等の発行との関係

ところで、資金決済法は、電子決済手段の発行についても概念を準備しています。同法62条の15は、

一 電子決済手段関連業務を行う場合 当該電子決済手段等取引業者が取り扱う電子決済手段を発行する者
二 第二条第十項第四号に掲げる行為を行う場合 同号の資金移動業者

を発行者等としして、電子決済手段等取引業者は、電子決済手段等取引業を行う場合には、原則として発行者等との間で、利用者に損害が生じた場合における当該損害についての賠償責任の分担に関する事項その他の内閣府令で定める事項を定めた電子決済手段等取引業に係る契約を締結し、これに従って当該発行者等に係る電子決済手段等取引業を行わなければならないとしています(62条の15)。

暗号資産等とも同様に発行者については、これらの規定以外には、特段の規定がないことになると思われます。

2 「電子決済手段等取引」に対する規制

電子決済手段は、ネットワークを通じて転々流通する決済手段であるとされますが、その一方で、電子決済手段については、それ自体が、法貨とのリンクが確保されるために、その価値が、変動するというリスクは、あまり高いものではないです。そのために、以下でみるように金融商品性からくるリスクについては、その規制を及ぼす必要は余り高くないという認識がなされているようです。

上の図は、ネットワーク性・決済手段性から生じる規定が及ぶものの、金融商品性からくる規制の枠外であることを示しています。

 2.1規制/執行の枠組

規制行為の枠組の問題については、「電子決済手段等取引」業という概念を定めて、以下に述べるような種々の管理に対する規制を適用しています。

そもそも、電子決済手段等取引業者は、内閣総理大臣の登録を受けた者でなければ、行ってはならないとされています(同法62条の3)。登録の申請について同法62条の4、登録簿(同62条の5)、登録の拒否(62条の6)があります。

監督規定については、62条の18ないし24でさだめられています。帳簿の保存義務があり(同法62条の18)、また、報告書作成義務があります(62条19)。また、内閣総理大臣は、電子決済手段等取引業の適正かつ確実な遂行のために必要があると認めるときは、電子決済手段等取引業者に対し当該暗電子決済手段等取引業者の業務若しくは財産に関し参考となるべき報告若しくは資料の提出を命じ、又は当該職員に当該電子決済手段等取引業者の営業所その他の施設に立ち入らせ、その業務若しくは財産の状況に関して質問させ、若しくは帳簿書類その他の物件を検査させることができます(63条の20)。そして、業務の運営又は財産の状況の改善に必要な措置その他監督上必要な措置をとるべきことを命ずることができ、(業務改善命令、63条の21)特定の場合に、登録の取消をなすことができます(63条の22)。

 2.2 利用者保護の観点

貨幣価値が、法定通貨が流通する場とは、異なった場で取引されることになると、その場合には、暗号資産は、金融商品的な性格を有することになります。金融商品的な性格は、一般の購入者は、その商品の価値についての情報を十分に知り得ないという情報の非対称性というべきリスクがあります。このリスクに対して資金決済法は、利用者の保護等に関する措置として

電子決済手段等取引業者は、内閣府令で定めるところにより、電子決済手段等取引業と銀行等、資金移動業者又は特定信託会社が行う業務との誤認を防止するための説明、電子決済手段の内容、手数料その他の電子決済手段等取引業に係る契約の内容についての情報の提供その他の電子決済手段等取引業の利用者の保護を図り、及び電子決済手段等取引業の適正かつ確実な遂行を確保するために必要な措置を講じなければならない

としています(63条の12)。

2.3 取引行為に対する規制

暗号資産の場合には、金融商品取引法上の「金融商品」の定義に暗号資産が、「金融指標」の定義に暗号資産の価格または暗号資産の利率等がそれぞれ追加(金融商品取引法2条24項3の二号、25項)されています。では、上の電子決済手段は、どうなるのかというと、金融商品取引法2条24項3の2は、暗号等資産として

資金決済に関する法律第2条第14項に規定する暗号資産又は同条第5項第4号に掲げるもののうち投資者の保護を確保することが必要と認められるものとして内閣府令で定めるものをいう。以下同じ。

が金融商品となるとされています。そうだとすると、条第5項第4号に掲げるものというのは、上でみたように電子決済手段になるので、通常のステーブルコインは、法貨へのリンクがきちんとなされている場合には、金融商品とは、されないということになります。

2.4 マネロン・テロ資金供与規制

犯罪収益移転防止法2条2項31の2号は、電子決済手段等取引業者を犯罪収益移転防止法上の特定事業者として追加しています。それによって、電子決済手段等取引業者は、本人確認義務(同法4条)、取引記録等の作成義務(同法6条)や疑わしい取引の届出義務(同法8条)等を負うことになります。

もっとも、上でみたように発行者については、このような規定は及ばないものと考えられます。

2.5 技術的リスク対応

また、ビットコインにおいては、コンピュータの脆弱性を利用して、ボットとしてコントロールして、マイニングさせる悪意あるプログラムがあることが報道されていますし、また、ビットコイン交換所に何者かが侵入してその価値が盗まれてしまうというリスクもあります。Mt.Gox社は、その民事再生申立事件に関して、自らの管理していたビットコインが、このような目にあったということを理由としていました。

資金決済法62条の10は、電子決済手段等取引業者の情報の安全管理について

電子決済手段等取引業者は、内閣府令で定めるところにより、電子決済手段等取引業に係る情報の漏えい、滅失又は毀損の防止その他の当該情報の安全管理のために必要な措置を講じなければならない。

としており、また、金銭等の預託の禁止や利用者財産の管理がさだめられています(同法62条の13、14)。

 

関連記事

  1. 2条電子署名は認印、3条電子署名は、実印-第11回 成長戦略ワー…
  2. 電子署名Q&Aについて
  3. 通貨主権とは何か
  4. Ulbricht裁判と刑事的インテリジェンス
  5. シンポジウム「電子契約の過去・現在・未来-書面・押印・対面の見直…
  6. 本人は誰だ?-電子署名法対民訴法
  7. Facebookの「リブラ」複数国のデータ保護当局が共同で懸念を…
  8. 8月23日渋谷で、DAO法(日本版DAO法を考える)第2回「DA…
PAGE TOP