(越境財産たる)気球撃墜の法的擬律について-小型無人機飛行禁止法の適用範囲と主権絶対の原則の国内法への現れ

「気球「撃墜」高いハードル 日本は自衛権を厳格解釈、危害なければ武器使用は困難」という記事がでています。

NHKをみていたところ、気球は、航空機と国際法上なるということだそうです。では、国内法では、どうなのだろうかということになって、制定法をみてみます。

小型無人機等飛行禁止法は、正式な名称を「重要施設の周辺地域の上空における小型無人機等の飛行の禁止に関する法律(平成28年法律第9号)といいます。

この法は、国会議事堂、内閣総理大臣官邸その他の国の重要な施設等、外国公館等、防衛関係施設、空港及び原子力事業所の周辺地域の上空における小型無人機等の飛行を禁止することにより、これらの重要施設に対する危険を未然に防止し、もって国政の中枢機能等、良好な国際関係、我が国を防衛するための基盤並びに国民生活及び経済活動の基盤の維持並びに公共の安全の確保に資することを目的とする法律です(同法1条)。

この法律は、警察官等に対して、重要施設対する危険を未然に防止するために必要な措置をとる権限などを認めています。

小型無人機とは

「小型無人機」とは、飛行機、回転翼航空機、滑空機、飛行船その他の航空の用に供することができる機器であって構造上人が乗ることができないもののうち、遠隔操作又は自動操縦(プログラムにより自動的に操縦を行うことをいう。)により飛行させることができるものをいう。

となっている(同法2条3項)ので、確かに気球は、この概念にあたりそうです。

(ただし、日本の航空法では、気球は「浮遊物」としての扱いになり、「航空機」としての位置づけがなされていないため、法律上の操縦免許制度はありません。(だそうです。なるほど-)

対象施設
 小型無人機飛行禁止法は、重要施設として、小型無人機等の飛行が禁止される対象施設が定められています(2条)が、それらの施設の周辺地域の上空において小型無人機等の飛行が禁止されている(同法10条1項)のに違反して小型無人機等の飛行が行われていると認められる場合に認められる権限になります。
ここで対象施設としては、国の重要な施設等(国会議事堂・議員会館等、総理大臣官邸・内閣官房長官公邸、最高裁判所庁舎、皇居・御所、政党事務所)、外国公館等、防衛関係施設、対象空港、対象原子力事業所などが指定されています(同法2条1項)。

権限の内容
小型無人機等飛行禁止法は、小型無人機等の飛行が行われていると認められる場合には、当該小型無人機等の飛行を行っている者に対し、当該小型無人機等の飛行に係る機器を対象施設周辺地域の上空から退去させることその他の対象施設に対する危険を未然に防止するために必要な措置をとることを命ずることができるともに、命ぜられた者が当該措置をとらないとき、その命令の相手方が現場にいないために 当該措置をとることを命ずることができないとき又は同項の小型無人機等の飛行を行っている者に対し当該措置をとることを命ずるいとまがないときは、警察官は、対象施設に対する危険を未然に防止するためやむを得ないと認められる限度において、当該小型無人機等の飛行の妨害、当該小型無人機等の飛行に係る機器の破損その他の必要な措置をとることができるとされています(同法11条1項、2項)。

この権限について、国会審議において

「警察においては、対象施設等の上空を違法に飛行しているドローンを発見した場合において、当該ドローンの退去等を命じることができないときは、ジャミング装置、迎撃ドローン、ネットランチャー等の資機材を活用するなどして、違法に飛行するドローンによる危害を排除することとしております。」

という回答がなされています (河野政府参考人(第198回国会 内閣委員会 第12号(平成31年4月12日(金曜日)))(http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/000219820190412012.htm )。

従って、この場合、小型無人機飛行禁止法11条の権限として、警察官が、気球の通信機を破壊することはできそうです。「飛行に係る機器の破損」といえるでしょう。気球本体の破損をなすことが許容されるのかというと、妨害や捕獲はできそうです。迎撃ドローンは、迎撃ができるので、撃墜までできそうです。

行使主体
これらの権限は、警察官によって行使されることについては、上でみましたが、警察官に限られるものではありません。

同法11条3項においては、皇宮護衛官、海上保安官並びに自衛官(防衛関係施設を職務上警護する場合)に、上記権限が準用されています。また、同5項においては、この権限は、対象空港管理者の職務の執行について準用されています。

というと

何が問題なのか。

となり、外国からの主権侵害たる物理的な機材による情報取得行為であれば、その点に着目して、より広範に上記のような対応の権限をみとめていいということなのだろうと思います。国外の財産であり、わが国の情報を収集しようというのであれば、上記のような典型的な重要施設についての防衛以外でも、同様の行使権限をみとめてもいいように思います。これは、国内通信の秘密と越境通信とで、保護のレベルを変えることができるのではないか、主権絶対の原則の国内法へのクロスオーバーとでもいうべきものです。

その意味で、アクティブサイバー防禦・越境通信のブロッキングと同様の法理の必要性とシンクロするものだと分析します。

ちなみに、航空法との関係では、「航空機の飛行に影響を及ぼすおそれのある行為(気球の飛行・浮揚)」という記事があります。

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