小西葉子先生より著書の「現代の諜報・捜査と憲法 自由と安全の日独比較研究」をいただきました。
小西先生は、「通信の秘密の数奇な運命(国際的な側面)と「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」報告書」でもご紹介しています。能動的サイバー防御の有識者会議でもドイツの情報機関の統制という観点から触れています(「通信の秘密」の日独比較 2024年6月20日 小西葉子(関西学院大学総合政策学部 専任講師))。
上記書籍の所収の論文の一覧は、ネットにでていないようなので、あげます。
第一部
第一章
「テロリズムに対抗するための国家の愉報収集活動の統制システムと憲法一日独比較の観点からー」一橋大学(博士論文) (2020年)の序章及び第一章を基礎に、序章及び第一章を加筆修正。
第二章
「プラットフォームを支えるビッグデータと公共圏」情報法制研究8号(20 20) 86-96頁
第三章
「国家の情報収集活動に関わる自動データ処理の法的課題」情報ネットワーク・ローレビュー21号(2022) 1 -13頁
第二部
第一章
「行政機関の透明性一欧州各国の諜報機関法制を題材としてー」総合法政策研究会誌5号(2022) 48-65頁
第二章
「基本権の「客観法的」側面と憲法訴訟-ドイツ連邦情報局法外国間通信偵察違憲判決を契機としてー」一橋法学20巻1号(2021) 269-314頁
第三章
「テロリズムに対抗するための国家的監視活動の統制一諜報機関の統制機構としての基本法10条審査会を中心にー」一橋法学18巻3号(2019) 465-522頁
第四章
「国家による秘密裡の情報収集等の違憲性を争う訴訟一大垣警察市民監視事件を題材としてー」判例時報2597号(2024) 12 – 21頁
第三部
第一章
「暗号化通信の傍受に関する憲法上の課題-ドイツ刑事訴訟法上の端末通信傍受を題材としてJ NextcomVol. 42 (2020) 36-45頁
第二章
「プラットフォーマーから刑事訴追機関への情報提供の法的課題-ドイツのSNS対策法5条を題材としてー」情報通信政策研究5巻2号(2021) 51-72頁
第三章
「国際司法共助により得た証拠の刑事手続における使用と憲法上の権利一Encro-Chatへの欧州合同捜査を契機としてー」高知大学学術研究報告70号(2021) 127-138頁
第四章
「憲法学の観点から一主権侵害の違法性と憲法秩序一」指宿信・板倉陽一・郎(編)『越境するデータと法-サイバー捜査と個人情報保護を考えるー』(法律文化社・2023) 212 – 224頁
第四部
第一章
「テロリズムに対抗する予防的警察活動と比例原則(1)je-desto公式と、法的概念としての「安全」」一橋法学16巻3 IJ- (2017) 449-490頁、「テロリズムに対抗する予防的警察活動と比例原則(2・完)je-desto公式と、法的概念としての「安全」」一橋法学17巻 1号(2018) 27-63頁
第二章
「テロリズムに対抗するためのデータに関する立法と立法評価」一橋法学18巻1号 (2019) 169-213頁
第三章
「テロリズムに対抗するための国家の情報収集活動の統制システムと憲法-日独比較の観点からー」一橋大学(博士論文) (2020)の第三部を加筆修正
となります。
時間との関係で、ちょって目を通したかぎりですが、各部ごとをみていくと、以下のような感じでしょうか。
第一部は、「自由と安全」というテーマのもとに、哲学的・概念的な観点からの論考ということになるのでしょうか。
第二部 「諜報」は、本当に勉強になりそうです。サイバーセキュリティが、国家の情報活動と切っても切れない関係になっているので、いろいろと情報機関の活動について、調査することもあるのですが(例えば、ハックのライセンス-英国サイバーフォース「実践-責任あるサイバーパワー」の公表 )、いままで、体系的に学習していなかったこともあって、今後とも参考にさせてもらいます。
基本権保障が、外国間の通信に対しても及ぶかという論点についての「ドイツ連邦情報局法外国間通信偵察違憲判決」についての論考やドイツの情報機関やその個別的統制機関の論考は、今後もお世話になるかと思います。
ちなみに169頁で、注27で「通信の秘密の数奇な運命(国際的な側面)」について取り上げていただきました。ありがとうございます。
第三部は、「捜査」ですが、暗号化通信の傍受、プラットフォームの情報提供の問題、海外保存の証拠の問題を扱っていて、現代社会の問題にリアルに取り組んでいます。
特に通信端末からの通信傍受については、個人的に興味のあるところです。Bundestrojaner (連邦トロイの木馬)というのは、名前も覚えやすいですし、英国のdevice interferenceの規定も比較対照にそでてきそうです。日本だと、端末なので、「電気通信事業者の取扱中」ではないよな、とかいろいろと考えがおよぶところです。(だとすると、「通信」(tele-communication ) の秘密ではないよなとかとか思ったりします。立て付けとしては、GPS捜査に近いか?)
個人的には、通信傍受を「通信」という用語を発信者の意思の表明から受信者の意思表示の受領までにひろげて、傍受の概念のなかに端末へのアクセスという形で整理した方が実際としてはみとめられやすいよな、とか考えたりします。
プラットフォームからの法執行機関に対する情報提供についてもドイツのFacebook事件やNetzDGに触れて論じています。
第四部は、「諜報・捜査の共通課題と統制システム」です。ここででてくるje-desto公式というのは、「憲法上の権利に対する制限が重大であればなるほど、その制限を正当化する公益は重要でなければならない」というものだそうです。
個人的には、憲法13条は、public welfareを「公共の厚生」と訳していたら、憲法の解釈論は同変わっていただろうかなと思っているのですが、そう思ってこの部分を読んでいくのは、おもしろいかもしれません。ただし、アメリカの反トラスト法の消費者厚生原則からの考え方になじんでいるとドイツの議論は概念が大きな立場を占めているなあという感想をもちそうです。
安全とプライバシーの「もつれ」をどのように解決していくのか、という問題に、ドイツからも、興味深いアプローチがあるんだなあという感じです。
本当に斜め読みなので、申し訳ないですが、今後、いろいろと参照させていただくことになりそうだと考えています。本当にありがとうございます。
遠隔通信におけるセキュリティとプライバシーのもつれ、というテーマを考えたいという読者にとっては、マストな書物のような気がします。ありがとうございます。