1 報道等
2025年7月18日 トランプ大統領は、ステーブルコインに関する法-Genius法に書名しました。
新聞記事としては
- 米ステーブルコイン法が成立、トランプ氏「ドル基軸を維持」(日経新聞2025/7/19)
- ステーブルコインは「通貨」になるか 米新法が変える金融ビジネス(同)
- ステーブルコイン決済、米新法が号砲 カード大手「独占市場」に風穴(同 2025/7/16)
などがあります。また、法律の成立を契機に分析するものとしては
- 木内 登英 「米国で進むステーブルコインの規制整備(1):GENIUS法案の概要とステーブルコインを巡る競争」 「米国で進むステーブルコインの規制整備(2):銀行システムへの影響」「米国で進むステーブルコインの規制整備:GENIUS法が成立:ドル覇権の維持を狙うトランプ政権」(3)、「米国で進むステーブルコインの規制整備(4):国際決済の拡大でドル覇権の維持を狙う」 「米国で進むステーブルコインの規制整備(5):トランプ政権の暗号資産支援と深刻な利益相反の問題」 「米国で進むステーブルコインの規制整備(6):香港もステーブルコイン解禁でドルに対抗」「米国で進むステーブルコインの規制整備(7):世界のCBDC(中銀デジタル通貨)構想に影響」「米国で進むステーブルコインの規制整備(8):トランプ政権と暗号資産業界の蜜月関係に溝か」
- Forbes 「 米国初の暗号資産法「GENIUS法」が成立、ステーブルコインをドルに強制連動」
- コインデスク 「米ジーニアス法、暗号資産業界にとって何を意味するのか」 「ジーニアス法成立、米ステーブルコイン規制が前進──トランプ大統領が署名」
- コインポスト 「米国Web3規制の最新動向|CLARITY・GENIUS法案と企業参入の影響を徹底解説」
- 大和総研 「GENIUS法、銀行とステーブルコインの邂逅 ステーブルコインは支払決済手段として普及するのか?」
などがあります。
2 GENIUS法の概要
いろいろと解説がなされているGENIUS法(米国ステーブルコインのための国家イノベーションをガイドし、確立するための法律‘‘Guiding and Establishing National Innovation for U.S. Stablecoins Act’’ )(PUBLIC LAW 119–27)ですが、法的な観点から、分析しているものは、上ではないようです。で、概要ですが、全部で20条からできている法律です。
2.1 条文構成
まずは、条文本体のリンクは、こちら。これについての商務省の解説はこちらです。
条文としては、1条 題名、2条定義のあとは、以下のようになります。
No | Title (Japanese) | Title (English) |
---|---|---|
3 | 支払いステーブルコインの発行と取り扱い | Issuance and treatment of payment stablecoins |
4 | 支払いステーブルコイン発行の要件 | Requirements for issuing payment stablecoins |
5 | 預金保険付き金融機関の子会社および連邦認定ステーブルコイン発行者の承認 | Approval of Subsidiaries of Insured Depository Institutions and Federal Qualified Payment Stablecoin Issuers |
6 | 連邦認定ステーブルコイン発行者および預金保険付き金融機関の子会社に対する監督と執行 | Supervision and Enforcement with Respect to Federal Qualified Payment Stablecoin Issuers and Subsidiaries of Insured Depository Institutions |
7 | 州認定ステーブルコイン発行者 | State Qualified Payment Stablecoin Issuers |
8 | マネーロンダリング防止対策 | Anti-Money Laundering Protections |
9 | マネーロンダリング防止の技術革新 | Anti-Money Laundering Innovations |
10 | ステーブルコインの準備金および担保の保管 | Custody of payment stablecoin reserve and collateral |
11 | 破産したステーブルコイン発行者の取り扱い | Treatment of Insolvent Payment Stablecoin Issuers |
12 | 相互運用性基準 | Interoperability standards |
13 | 規則制定 | Rulemaking |
14 | 非支払いステーブルコインに関する調査 | Study on non-payment stablecoins |
15 | 銀行機関の権限 | Authority of Banking Institutions |
16 | 海外で発行された支払いステーブルコインの相互承認 | Reciprocity for payment stablecoins issued in overseas jurisdictions |
17 | 支払いステーブルコインは証券・商品ではないことの明確化と発行者が投資会社ではないことの修正条項 | Amendments to clarify that payment stablecoins are not securities or commodities and permitted payment stablecoin issuers are not investment companies |
18 | 外国のステーブルコイン発行者に対する例外規定と相互承認 | Exception for foreign payment stablecoin issuers and reciprocity for payment stablecoins issued in overseas jurisdictions |
19 | ステーブルコインの支払いに関する開示 | Disclosure Relating to Payment Stablecoins |
20 | 施行日 | Effective Date |
2.2 条文の逐条解説
商務省の解説の翻訳は、以下のようになります。
条項別解説:米国安定コインの国家イノベーションの指針と確立に関する法律(GENIUS法)S. 1582(GENIUS法)は、2025年5月1日にテネシー州選出の共和党上院議員ビル・ハガティ氏により提出されました。S. 1582は、米国における支払い用ステーブルコインの発行に関する明確な規制枠組みを定めています。GENIUS法は、2025年6月17日に米国上院で68対30の与野党共同賛成で可決されました。
第1条 略称
この法律は、「米国ステーブルコインの国家イノベーションの指針と確立に関する法律」または「GENIUS法」と称する。
第2条 定義
第2条は、本法における用語の定義を定める。
第3条 支払い用ステーブルコインの発行及び取扱い
第3条は、本法施行時に許可された支払い用ステーブルコイン発行者以外のいかなる者も、米国において支払い用ステーブルコインを発行することを禁止する。本法施行後3年を経過した後は、デジタル資産サービス提供者は、許可された支払い用ステーブルコイン発行者によって発行された場合を除き、支払い用ステーブルコインの提供又は販売を行うことを禁止される。デジタル資産サービス提供者は、外国の支払い用ステーブルコイン発行者が、第18条に定める外国の類似規制下でライセンスを取得した支払い用ステーブルコイン発行者が米国で支払い用ステーブルコインを提供するための手続きを定める同条に基づく法的命令または相互協定に準拠する技術的能力を有する場合を除き、外国の支払い用ステーブルコイン発行者が発行する支払い用ステーブルコインを提供または販売することを禁止されます。
第4条 支払い用ステーブルコインの発行要件
第4条は、許可された支払い用ステーブルコイン発行者に対する最低基準を定めます。
許可された支払い用ステーブルコイン発行者は、以下の資産で構成される資産と1対1の比率で準備金を維持しなければなりません:米国通貨;保険付預金機関に預けられた預金;短期国債、国庫証券、または国債;短期リポ契約および逆リポ契約;許可された支払い用ステーブルコイン準備金リストに包含される他の資産にのみ投資されたマネーマーケットファンド; 主要な連邦支払い安定コイン規制当局が承認した同様の流動性のある連邦政府発行資産;および上記いずれかの準備金をトークン化された形態で保有すること。
これらの準備金は、限定された目的を除き、再担保に供することはできません。許可された支払い安定コイン発行者は、償還に関するポリシーと手続を確立し、公開する必要があります。発行者は、毎月ウェブサイト上で準備金の構成を公表し、これらの報告書を毎月独立した登録公認会計士事務所に監査させ、発行者の主要な規制当局に対し、これらの報告書の真実性に関する最高経営責任者(CEO)および最高財務責任者(CFO)の証明書を毎月提出しなければならない。この節は、主要な連邦支払いステーブルコイン規制当局(州認定支払いステーブルコイン発行者の場合は、当該州の支払いステーブルコイン規制当局)に対し、準備資産の多様化、サイバーセキュリティ、運営、コンプライアンスに関する資本要件、流動性基準、リスク管理要件を定める規則を制定することを義務付けています。
さらに、許可された支払いステーブルコイン発行者は、銀行秘密法(BSA)の適用において金融機関として扱われます。第4節は、許可された支払いステーブルコイン発行者に対して、BSAの特化した義務を課します。これらの義務には、発行者がマネーロンダリング防止およびテロ資金供与防止プログラムを確立し維持すること、取引の適切な記録を保持すること、疑わしい取引を監視し報告すること、不正な取引をブロック、凍結、または拒否するための技術的能力と内部プロセスを整備すること、許可された支払いステーブルコインの初期保有者に対する有効な顧客識別プログラムを維持すること、および有効な制裁遵守プログラムを維持することが含まれます。
この条項は、許可された支払い用ステーブルコイン発行者の活動に制限を課し、許可された支払い用ステーブルコイン発行者が、顧客が追加の有料製品を取得するか、競合他社を利用しないことに同意することを条件にサービスを提供することを禁止しています。許可された支払い用ステーブルコイン発行者は、名称や支払い用ステーブルコインのマーケティングにおいて、米国政府に関連する用語を使用し、それが米国政府によって発行または保証されていると暗示する行為が禁止されます。
発行済みの支払い用ステーブルコインの残高が$50,000,000,000を超える許可された支払い用ステーブルコイン発行者は、一般に認められた会計原則に従った年次財務諸表を作成し、登録された公認会計士事務所による監査を受ける必要があります。当該財務諸表は、ウェブサイト上で公開され、主要な規制当局に提出されなければなりません。許可された支払い用ステーブルコイン発行者は、支払い用ステーブルコインに対して利息または利回りを支払うことも禁止されます。金融活動に主に従事していない公開会社および外国会社は、ステーブルコイン認証審査委員会から全会一致の承認を得ない限り、支払い用ステーブルコインを発行することはできません。
第4条では、財務長官が定める原則を満たすことが安定コイン認証審査委員会により認定された州の規制枠組みを通じて、発行済みの安定コインの合計額が$10,000,000,000以下の州認定支払い安定コイン発行者は、許可された支払い安定コインを発行することが認められます。州認定支払いステーブルコイン発行者で、許可された支払いステーブルコインの発行残高の合計が$10,000,000,000を超える場合、当該発行者は、以下のいずれかの措置を講じなければならない:州認定支払いステーブルコイン発行者の主要な連邦支払いステーブルコイン規制当局の連邦規制枠組みに移行する、連邦支払いステーブルコイン規制当局から州支払いステーブルコイン規制当局による単独監督を継続する許可を受ける、 または、$10,000,000,000の閾値を下回るまで新たな支払い安定コインの発行を停止しなければならない。
この条項は、許可された支払い安定コインが連邦預金保険公社(FDIC)の預金保険または国家信用組合管理庁(NCUA)のシェア保険の対象とならないことを明確にし、許可された支払い安定コイン発行者がこの情報をウェブサイト上で開示することを義務付ける。第4節は、特定の金融犯罪で有罪判決を受けた個人が、許可された支払いステーブルコイン発行者の役員または取締役を務めることを禁止します。最後に、第4節は、GENIUS法が、連邦政府倫理局および議会が管理する倫理関連法規において、国会議員および連邦政府の高級職員が公職在任中に支払いステーブルコインを発行することを禁止する既存の法規制や倫理規定の現状を変更しないことを明確にしています。
第5条 保険付預金機関および連邦資格を有する非銀行支払い安定コイン発行者の子会社の承認
第5条は、保険付預金機関および非銀行实体が子会社を通じて支払い安定コインを発行することを希望する場合、各主要連邦支払い安定コイン規制当局が申請を受理し、審査し、検討する手続きを定めています。この条項は、主要連邦支払い安定コイン規制当局が申請について一定期間内に決定を下すことを義務付けています。主要な連邦支払いステーブルコイン規制当局が期間内に決定を通知しない場合、申請は承認されたものとみなされます。主要な連邦支払い安定コイン規制当局が申請を審査する際考慮する要因には、支払い安定コイン発行者が第4条で定められた基準を満たす能力(発行者の償還方針を含む)、発行者の役員または取締役に重罪の有罪判決を受けた者がいるかどうか、発行者の経営陣の能力、経験、および信頼性、ならびに主要な連邦支払い安定コイン規制当局が定めるその他の要因が含まれます。規制当局は、申請者の能力が上記要因を満たすかどうかを判断し、申請者の活動が安全または健全でない場合のみ、申請を拒否することができます。規制当局は、拒否の理由を記載した書面による説明を提供しなければならず、その説明には申請の欠陥と、それらの欠陥を是正するための具体的な改善策が含まれなければなりません。支払いステーブルコイン発行者は、本法案で定める手続きに従い、拒否決定に対して異議を申し立てることができます。主要な連邦支払いステーブルコイン規制当局は、180日以上未処理で不備があると指摘された支払いステーブルコイン発行者の申請について、毎年議会に報告しなければなりません。主要な連邦支払いステーブルコイン規制当局は、申請の審査が開始された時点で議会に通知しなければならない。許可された支払いステーブルコイン発行者の申請が承認されてから180日後、各発行者は、主要な連邦支払いステーブルコイン規制当局(州認定発行者の場合は州支払いステーブルコイン規制当局)に対し、発行者が資金洗浄防止および経済制裁遵守プログラムを合理的に設計し、発行者が資金洗浄を助長しないようにするための措置を講じたことを証明する証明書を提出しなければならない。
第6条 連邦資格を有する支払いステーブルコイン発行者および保険付預金機関の子会社に対する監督および執行
第6条は、主要な連邦支払いステーブルコイン規制当局の監督下にある許可された支払いステーブルコイン発行者に対する監督および執行基準を定める。
連邦資格を有する許可された支払いステーブルコイン発行者は、主要な連邦支払いステーブルコイン規制当局の監督を受け、同当局の要請に応じて、発行者の業務および本法、銀行秘密法(BSA)および制裁義務への遵守状況に関する報告書を提出しなければならない。
執行規定は、連邦預金保険法(12 U.S.C. 1818)に基づく執行権限と類似しており、連邦支払いステーブルコイン規制当局に、許可された支払いステーブルコイン発行者またはその関連当事者に対する業務停止・禁止措置、 停止命令、および民事罰金を課す権限を付与しています。これは、主要な連邦支払いステーブルコイン規制当局が、当該許可された支払いステーブルコイン発行者またはその関連機関が、本法または本法に基づく規則または命令に違反していると判断した場合に適用されます。
第7条 州認定支払いステーブルコイン発行者
第7条は、州支払いステーブルコイン規制当局に対し、州認定支払いステーブルコイン発行者に対する監督、検査、および執行権限を付与する。州規制当局は、主要な連邦銀行機関と監督および執行を共同で実施するための覚書を結ぶことができ、これらの銀行機関と情報を共有しなければならない。緊急事態においては、連邦準備制度理事会(FRB)と通貨監督庁(OCC)は、州認定支払いステーブルコイン発行者またはその関連機関に対して執行措置を講じることができるが、これには事前に州規制当局への通知が必要である。
この条項は、州認定支払いステーブルコイン発行者が、発行承認を受けた州以外の州で事業を行うための基準も定める。第7条は、他州の州認定支払い安定コイン発行者が、当該州で事業を行う連邦認定許可支払い安定コイン発行者と同一の程度で、ホスト州の法律に準拠することを定めています。ホスト州の法律が適用されない場合、発行者が設立または免許を受けた州の法律が発行者に適用されます。これらの基準は、ステーブルコイン認証審査委員会により認証された制度を有する州にのみ適用されます。
第8条 資金洗浄防止措置
第8条は、デジタル資産サービス提供者が、外国の支払い用ステーブルコインの発行者が、法的命令の条件に準拠する技術的能力を有し、かつ準拠している場合を除き、外国の支払い用ステーブルコインの提供、販売、または利用可能化を禁止します。財務長官は、外国決済用ステーブルコイン発行者を非準拠と指定し、外国決済用ステーブルコインの二次取引に従事する米国人に対し、ケースバイケースで免除、一般ライセンス、または特定ライセンスを付与することができる。
第9条 資金洗浄対策のイノベーション
第9条は、財務長官に対し、規制対象の金融機関がデジタル資産に関連する不正行為を検出するために使用している、または使用する可能性のある革新的な方法、技術、または戦略を特定するため、公衆の意見を募集することを求めています。意見募集期間が終了した後、財務長官は、意見募集期間中に特定された方法に関する調査を実施しなければなりません。第9条はまた、財務長官に対し、デジタル資産に関連する不正行為を、テロリズムその他の不正資金調達対策に関する国家戦略の一部として考慮することを求めています。最後に、この条項は、金融犯罪取締ネットワークに対し、研究結果とリスク評価に基づき、公開指針および意見募集規則を策定することを義務付けています。
第10条 支払い用ステーブルコインの予備金および担保の保管
第10条は、許可された支払い用ステーブルコインの予備金、許可された支払い用ステーブルコインを担保として使用する、または許可された支払い用ステーブルコインの発行に用いられるプライベートキーの保管または管理サービスを提供する事業に関する基準を定めています。事業者は、主要な連邦支払い安定コイン規制当局、主要な金融監督機関、または特定の情報を理事会に提供している州の銀行または信用組合監督当局の監督または規制を受けている場合のみ、保管または管理サービスを提供する事業に従事できます。このような事業者は、顧客の財産を顧客の財産として扱い、債権者の請求から財産を保護するための措置を講じなければなりません。許可された支払い用ステーブルコインおよび顧客のその他の財産は、保管者の資金と混同されず、別個に会計処理されなければなりません。最後に、当該機関は、顧客資産の保護に関する業務運営およびプロセスに関する情報を、主要な連邦支払い安定コイン規制当局に提出しなければならない。本条の要件は、当該者が顧客の支払い安定コインまたはプライベートキーの保管または管理を顧客自身が行うためのハードウェアまたはソフトウェアの提供を唯一の事業として行う場合、当該者に対しては適用されない。
第11条 支払いステーブルコイン発行者の破産手続における取扱い
第11条は、許可された支払いステーブルコイン発行者の破産手続において、当該発行者が発行した支払いステーブルコインを保有する者の請求権は、当該発行者および当該発行者に対する他の請求権者に対する請求権に優先する旨を定めています。第11条はまた、主要な連邦支払い安定コイン規制当局に対し、許可された支払い安定コイン発行者の破産手続の可能性に関する調査を実施することを義務付けており、これには、許可された支払い安定コイン発行者に関する破産法および規則の既存の欠陥の検討が含まれる。
第12条 相互運用性基準
第12条は、主要な連邦支払い安定コイン規制当局に対し、国立標準技術研究所(NIST)、その他の関連する基準設定機関、および州政府と協力して、許可された支払い安定コインの相互運用性および互換性に関する基準を検討することを求めています。この基準は、米国国内および支払い安定コイン規制制度が類似する外国管轄区域における相互運用性を対象とします。
第13条 規則制定
第13条は、主要な連邦支払い用ステーブルコイン規制当局、財務長官、および各州の支払い用ステーブルコイン規制当局に対し、この法律を実施するため、適切な通知とコメントの手続きを経て規則を制定することを義務付けています。この条項は、これらの規制当局に対し、この法律を実施するための規則の制定において適切に調整し、法律の施行日から180日以内に、制定された規則を確認し説明する報告書を議会に提出することを求めています。
第14条 非支払い用ステーブルコインに関する調査
第14条は、財務長官が連邦準備制度理事会、OCC、FDIC、SEC、およびCFTCと協議の上、支払い用ステーブルコイン(内生的に担保化された支払い用ステーブルコインを含む)に関する調査を、本法の施行後1年以内に実施することを定めています。
第15条 報告書
第15条は、主要な連邦支払いステーブルコイン規制当局が、州の支払いステーブルコイン規制当局と協議の上、本法の施行日から1年以内に、支払いステーブルコイン業界の現状に関する報告書を議会および金融研究局局長に提出することを定めています。この報告書の結果は、金融安定監督評議会の年次報告書に反映されるものとする。
第16条 銀行機関の権限
第16条は、預金機関および信託会社(適切と判断される場合)が、預金のトークン化、分散型台帳技術を用いた帳簿記録の管理、および許可された支払い用ステーブルコインの保管サービスを提供するための権限を明確化する。さらに、この条項は、連邦機関が、保管中の資産を貸借対照表に計上することを要求することを禁止する; これらの資産に対して追加の規制資本を保有することを、適切な連邦銀行監督機関、NCUA、州銀行監督機関、または州信用組合監督機関が、保管または保管サービスに内在するオペレーショナルリスクを軽減するために必要と判断する場合を除き、禁止します;または、当該事業者が所有しないデジタル資産に関する活動またはサービスに関連する義務に関する負債を、当該義務に対応する費用として損益計算書に計上する結果、その負債が費用を超える場合、負債として認識することを禁止します。この規定は、SECまたは他の連邦規制当局がSECのSAB 121に類似する指針を発行することを防止する。
第17条 支払い用ステーブルコインが証券または商品に該当しないこと、および許可された支払い用ステーブルコイン発行者が投資会社ではないことを明確化する改正
第17条は、米国の証券法を改正し、 「証券」には、許可された支払い用ステーブルコイン発行者によって発行された支払い用ステーブルコインが含まれないことを明確化し、商品取引法(Commodity Exchange Act)を改正して、用語「商品」には、許可された支払い用ステーブルコイン発行者によって発行された支払い用ステーブルコインが含まれないことを明確化します。
第18条 外国の支払い用ステーブルコイン発行者に対する例外措置および海外管轄区域で発行される支払い用ステーブルコインに対する相互主義
第18条は、外国の支払い用ステーブルコイン発行者が、財務長官が本法に基づき確立された規制および監督体制と相当すると判断した外国の支払い用ステーブルコイン規制当局の規制および監督を受けており、OCCに登録されており、 米国金融機関に米国顧客の需要を満たす十分な準備金を保有し、かつ、米国による包括的制裁の対象となっていない国または主要な資金洗浄懸念地域に所在し、規制を受けている場合に限る。財務長官は、ステーブルコイン認証審査委員会の各委員がそのような勧告を行った場合のみ、このような決定を行うことができる。外国の支払い用ステーブルコイン発行者は、OCCが定める報告、監督、検査の要件に服し、執行に関する米国管轄権に同意しなければならない。
第19条 支払い用ステーブルコインに関する開示
第19条は、許可された支払い用ステーブルコイン発行者が発行する$5,000を超える支払い用ステーブルコインの保有を、連邦金融開示要件に追加します。
第20条 施行日
第20条は、この法律は、この法律の成立から18ヶ月後または主要な連邦支払い用ステーブルコイン規制当局が最終規則を発行した日から120日後のいずれか早い日に施行されるものと定めています。
3 リスクアプローチとしてのGenius法
3.1 仮想通貨をめぐるリスク
支払いのためのステーブルコインも、「データ自体に仮体した流通性のある決済手段」(最広義の仮想通貨)の一種ということがいえます。
前にこのような仮想通貨が、どのようなリスクをもとに考えないといけないかをまとめたことがあります。それを図にすると以下のようになります。
表としては以下のようになります。
この内容は、具体的には、以下のような内容があるということになるかと思います。
3.2.1流通性を有する金融商品であることから生じるリスクと対応
流通性
流通性を有するというのは、その金銭的価値が、不特定多数の者の間で支払手段として利用されているということになります。この結果、そのような金銭価値は、犯罪における資金の供給手段として利用されたり、また、犯罪の結果としての金銭を洗浄し、その痕跡を消すために利用されたりするリスクがあるのです。
これは、ステーブルコインであることによって、特段にリスクが変更するというものではないだろうと考えられます。
金融商品性
また、金融商品には、①発行者等の活動によってその商品の客観的な価値が変動すること、②サービスの範囲が広汎で種々の業者がサービスの各側面を担っていること、③一般の購入者が、その商品の価値について十分な情報を得ることが難しいこと、といった特徴があります。言い換えると、発行者等の行為によって貨幣価値が左右されるリスク、価値形成に関与する主体が多数存在するリスク、購入者が情報不足となるリスクが存在するということになります。
市場による取引
この金融商品は、市場によって取引される場合、その市場が公正な市場であるか、という問題もおこりえます。ステーブルコインであることによって、その取引は、むしろ、法定通貨での取引に類するものとしてリスクとしては、低下するものとかんがえることができると思われます。
社会のインフラ性
支払手段や価値保存手段として広く利用される場合、それは社会や経済の基盤を支えるインフラの一部となります。そのため、利用者の信頼を損なうような事態が生じれば、金融システムや社会全体に大きな影響を及ぼす可能性があります。したがって、安定性や安全性を確保するための適切な制度設計や監督が必要となります。これは、ステーブルコインであることによって、特段にリスクが変更するというものではないだろうと考えられます。
3.2.2 情報通信技術
情報通信技術の発展は、金融商品の仕組みや利用方法を大きく変化させています。一方で、技術的な脆弱性やサイバー攻撃のリスクも存在します。こうした技術面の特性を踏まえ、利用者保護と市場の健全性を維持するために、セキュリティ対策や標準化が求められるのです。これは、ステーブルコインであることによって、特段にリスクが変更するというものではないだろうと考えられます。
3.2.3 監督のための規定等
これらのリスクに対応するためには、発行者や関連事業者に対する監督体制の整備が欠かせません。監督当局は、登録制や業務規制、情報開示の義務付けなどを通じて、透明性の確保と不正防止を図る必要があります。さらに、適切な監督を行うことで、市場の信頼性を維持し、利用者保護と健全な発展の両立を実現することが期待されます。これは、ステーブルコインであることによって、監督方法が変更するというものではないだろうと考えられます。その意味で、リスクが低下している場合においては、そのような観点からなす規制がてきようされないことを明らかにするなどの方法が必要になるということだろうと考えられます。
3.3 Genius法の規定を見る
でもって、上の規定を見ながら、リスクの表を整理してみます。
3.3.1 定義
Genius法の規定は、2条において定義を定めているのは、上でみたとおりです。定められている定義は、以下のとおりです。
番号 | 用語タイトル |
---|---|
1 | 適切な連邦銀行監督機関 |
2 | 銀行秘密法 |
3 | 理事会(Board) |
4 | 監査役 |
5 | 法人 |
6 | デジタル資産 |
7 | デジタル資産サービス提供者 |
8 | 分散型台帳(distributed ledger) |
9 | 分散型台帳プロトコル(distributed ledger protocol) |
10 | 連邦支店 |
11 | 連邦適格決済ステーブルコイン発行者 |
12 | 州適格決済ステーブルコイン発行者 |
13 | 機関関連当事者 |
14 | 保険付信用組合 |
15 | 保険付預金機関 |
16 | 法令に基づく命令 |
17 | 金銭的価値 |
18 | 貨幣(マネー) |
19 | 国通貨(NATIONAL CURRENCY) |
20 | 非銀行事業体 |
21 | 提供 |
22 | 決済用ステーブルコイン(Payment Stablecoin) |
23 | 許可決済ステーブルコイン発行者 |
24 | 者(PERSON) |
25 | 主要連邦決済用ステーブルコイン規制当局 |
26 | 登録公認会計士事務所 |
27 | ステーブルコイン認証審査委員会 |
28 | 州(ステート) |
29 | 州認可預金機関 |
30 | 州決済ステーブルコイン規制当局 |
31 | 州認定決済ステーブルコイン発行者 |
32 | 子会社 |
33 | 保険付き信用組合の子会社 |
でもって、興味深いものとしては、22 決済用ステーブルコイン(Payment Stablecoin)、23 許可された決済ステーブルコイン発行者(permitted payment stablecoin issuer)があります。
「決済用ステーブルコイン」とは―
(A) 以下の条件を満たすデジタル資産をいう―
(i) 決済手段として使用される、またはそのように設計されているもの;かつ
(ii) その発行者が
(I) 固定金額の金銭的価値(固定金額の金銭的価値で表示されたデジタル資産を除く)に対して、変換、償還、または買戻す義務を負うもの; かつ
(II)当該発行者が、固定金額の貨幣価値に対する安定した価値を維持すること、または維持する合理的な期待を生じさせることを表明するもの。
(B) 以下のいずれかに該当するデジタル資産を含まないものとする。
(i) 国家通貨であるもの。
(ii) 預金(連邦預金保険法第3条(12 U.S.C. 1813)に定義されるもの)であって、分散型台帳技術を用いて記録された預金を含むもの; または
(iii) 1933年証券法第2条(15 U.S.C. 77b)、1934年証券取引法第3条(15 U.S.C. 78c)、または1940年投資会社法第2条(15 U.S.C. 80a–2)に定義される有価証券であるもの (15 U.S.C. 80a–2)に定義される有価証券であること。ただし、疑義を避けるために、許可された決済用ステーブルコイン発行者によって発行された債券、手形、債務証書、または投資契約は、本法第17条に準拠して、サブパラグラフ(A)に記載された条件を満たすことのみによって有価証券として認定されないものとする。
と定義されています。仮想通貨であって、(1)定金額の金銭的価値への買い戻し等の義務と(2)価値の維持表明という二つの要素が要件とされているのがポイントになります。
また、許可された決済ステーブルコイン発行者(permitted payment stablecoin issuer)は、
「許可された決済ステーブルコイン発行者」とは、米国において設立された者であって、以下のいずれかに該当する者をいう:
(A) 第5条に基づき決済ステーブルコインの発行を認可された保険付預金機関の子会社
(B) 連邦認定決済ステーブルコイン発行者
(C) 州認定決済ステーブルコイン発行者
となります。
その他にも、6 デジタル資産、7 デジタル資産サービス提供者、8 分散型台帳(distributed ledger)、9 分散型台帳プロトコル(distributed ledger protocol)、17 金銭的価値、18 貨幣(マネー)などがありますが、これらについては、また、別の機会にみます。
3.3.2 流通性
マネロン・テロ資金供与対策・あと、これについて業者の登録と監督がこの観点からは、重要になります。
マネロン・テロ資金供与対策
これは、上の表でみたように特段、リスクが低減されるものではありません。第8条 資金洗浄防止措置が、原則として、デジタル資産サービス提供者による外国の支払い用ステーブルコインの提供、販売、または利用可能化を禁止を定めていること、また、第9条が、デジタル資産に関連する不正行為を検出するために使用している、または使用する可能性のある革新的な方法、技術、または戦略を特定して、資金洗浄対策のイノベーションをしているのは、このような方向にあります。
業者の登録と監督
これについては、本法施行後3年を経過した後は、デジタル資産サービス提供者は、許可された支払い用ステーブルコイン発行者によって発行された場合を除き、支払い用ステーブルコインの提供又は販売を行うことを禁止されます。発行者に対する規制というよりは、基本的には、デジタル資産サービス提供者に対する法的枠組になり、2020年AML都下の問題になるかと思いますが、これについては、別の機会に検討します。
3.3.3 金融商品性
金融商品性は、この取引が、市場でなされること、商品の性質が、それ自体として、明らかではないこと、商品として、取引がなされることなどから検討される。
信頼の維持については、客観的な価値の維持という論点、金融商品についての代理人リスクの軽減および知識・情報が金融商品販売業者(以下業者)に比べて乏しい顧客に対して業者の説明が不十分なためにおきる問題に対する対応という観点からなされています。
信頼の維持
これについては、第3条で、支払い用ステーブルコイン発行者について、認可制度が採用されています。具体的な発行要件は、第4条であって、
- 米国通貨
- 保険付預金機関に預けられた預金
- 短期国債、国庫証券、または国債
- 短期リポ契約および逆リポ契約
- 許可された支払い用ステーブルコイン準備金リストに包含される他の資産にのみ投資されたマネーマーケットファンド
- 主要な連邦支払い安定コイン規制当局が承認した同様の流動性のある連邦政府発行資産
で構成される資産と1対1の比率で準備金を維持しなければならないとされている。そして、
- 毎月ウェブサイト上で準備金の構成を公表すること
- 報告書を毎月独立した登録公認会計士事務所に監査させること
- 発行者の主要な規制当局に対し、これらの報告書の真実性に関する最高経営責任者(CEO)および最高財務責任者(CFO)の証明書を毎月提出しなければならないこと。
さらに主要な連邦支払いステーブルコイン規制当局(州認定支払いステーブルコイン発行者の場合は、当該州の支払いステーブルコイン規制当局)は、
- 準備資産の多様化
- サイバーセキュリティ
- 運営
- コンプライアンスに関する資本要件
- 流動性基準
- リスク管理要件
を定める規則を制定することを義務付けています。
さらに、許可された支払いステーブルコイン発行者は、銀行秘密法(BSA)の適用において金融機関として扱われます。
その上、発行済みの支払い用ステーブルコインの残高が$50,000,000,000を超える許可された支払い用ステーブルコイン発行者について
- 一般に認められた会計原則に従った年次財務諸表を作成し、登録された公認会計士事務所による監査を受ける必要がある。
- 当該財務諸表は、ウェブサイト上で公開され、主要な規制当局に提出されなければなりません。
許可された支払い用ステーブルコイン発行者
- 支払い用ステーブルコインに対して利息または利回りを支払うことも禁止
金融活動に主に従事していない公開会社および外国会社
- ステーブルコイン認証審査委員会から全会一致の承認を得ない限り、支払い用ステーブルコインを発行することはできません。
金融商品についての代理人リスクの軽減および知識・情報が金融商品販売業者(以下業者)に比べて乏しい顧客に対して業者の説明が不十分なためにおきる問題に対する対応
これについては、ステーブルコインが、固定金額の貨幣価値に対する安定した価値を有することを意図されていることから、特段の規定は考えられていないと表現できるであろう。第17条は、「証券」には、許可された支払い用ステーブルコイン発行者によって発行された支払い用ステーブルコインが含まれないことが明確化されている。
また、商品取引法(Commodity Exchange Act)を改正して、用語「商品」には、許可された支払い用ステーブルコイン発行者によって発行された支払い用ステーブルコインが含まれないことを明確化している。
3.4 インフラとしての性格
これについては通貨主権の観点、対外的な政策の実現との関係が問題となる。ただし、Genius法自体には、具体的な規定はありません。
もっとも、第11条(支払いステーブルコイン発行者の破産手続における取扱い)において、
許可された支払いステーブルコイン発行者の破産手続では、
- 当該発行者が発行した支払いステーブルコインを保有する者の請求権は、当該発行者および当該発行者に対する他の請求権者に対する請求権に優先する旨が定めていること
- 主要な連邦支払い安定コイン規制当局に対し、許可された支払い安定コイン発行者の破産手続の可能性に関する調査を実施することを義務付けていること(許可された支払い安定コイン発行者に関する破産法および規則の既存の欠陥の検討が含まれる)。
は、注目されます。
3.5 情報通信技術の問題
価値が、権限なく消失/滅失したりしないこと、または、第三者に帰属したりしないこと、については、第10条(支払い用ステーブルコインの予備金および担保の保管)において、許可された支払い用ステーブルコインの予備金、許可された支払い用ステーブルコインを担保として使用する、または許可された支払い用ステーブルコインの発行に用いられるプライベートキーの保管または管理サービスを提供する事業に関する基準を定めることが定めらされています。
また、第12条(相互運用性基準)においては、主要な連邦支払い安定コイン規制当局に対し、国立標準技術研究所(NIST)、その他の関連する基準設定機関、および州政府と協力して、許可された支払い安定コインの相互運用性および互換性に関する基準を検討することを求めています。
3.6 規制の枠組
枠組としては、
- 連邦支払いステーブルコイン発行者
- 州認定支払いステーブルコイン発行者
があります。
連邦支払いステーブルコイン発行者に対する規制は、第6条、州認定支払いステーブルコイン発行者に対する規制は、第7条になっています。
4 まとめ
これを図示すると、このようになるかと思います。
ステーブルコインであることから、市場・情報の非対称性から生じるリスクについては、対応の必要が減少している状況が指摘されうるかと思います。その一方で、発行者に対する規制、金融にかかわるものからくるリスク対応は、依然として必要とされることが明らかになっています。