クマムシの月への持ち込みと法的問題

イスラエルの宇宙探索ミッションの無人月面探査機ベレシートが月面着陸を試みて、月に衝突したが、乗せられていたクマムシ(tardigrades)が、月で生息している可能性がある、ということについての記事がでています。 勝手にベレシート事件ということにします。

民間宇宙団体(スペースIL)のミッションが、月面着陸に失敗した際(4月11日)に、クマムシが月で生息している可能性があるということだそうです。

そして、このような生物の他の衛星への持ち込みに法的な問題はないのか、とうことについての記事がでています

また、英語の記事ですと、「The curious case of the transgressing tardigrades   (part 1)」も参考になります。

まずは、基本的な知識になります。宇宙条約9条は、

条約の当事国は、月その他の天体を含む宇宙空間の探査及び利用において、協力及び相互援助の原則に従うものとし、かつ、条約の他のすべての当事国の対応する利益に妥当な考慮を払って、月その他の天体を含む宇宙空間におけるすべての活動を行うものとする。条約の当事国は、月その他の天体を含む宇宙空間の有害な汚染、及び地球外物質の導入から生ずる地球環境の悪化を避けるように月その他の天体を含む宇宙空間の研究及び探査を実施、かつ、必要な場合には、このための適当な措置を執るものとする。(略)

と定めています。

「宇宙ビジネスのための宇宙法入門」によると「地球から意識的または不注意で持ち出す生命体による宇宙空間の汚染への対処は、宇宙の探査利用の黎明期から宇宙機関や国際科学界の重大な関心事であった」ということです(62頁)。

1956年には、国際宇宙航行連盟(International Astronautical Federation (IAF))は、ローマでの会議で、国際協調が重要であるという声明を出しています。

1958年に国際科学連合評議会(ICSU)により、地球外探査による特別委員会(CETEX)が設立されました。委員会が提案した基準は、1958年10月にICSUにより採択されました。 ICSUは、国際的な委員会である宇宙空間研究委員会(COSPAR)に移管されることが推奨され、ICSU小委員会によって発行されたレポートは、惑星保護のための最初の行動規範を説明し、新たに設立された宇宙空間研究委員会(COSPAR)が惑星保護の問題についての責任を負うることを推奨しました。

それ以来、COSPARは「惑星検疫」および後に「惑星保護」という用語でこのような問題を議論するための国際フォーラムを提供し、惑星間生物および生物から保護するための国際標準として関連する実装要件を伴うCOSPAR惑星保護ポリシーを策定しました1967年以降、その地域での国連宇宙条約第IX条の遵守のガイドとして使用されています。
現在の惑星保護ポリシーは、こちらになります。月へのミッションは、カテゴリー2になって、報告の公開が必要とされます。

でもって、今一つ検討しておくべき規定は、月の環境保護の規定です。月協定がそれに該当します。日本語はこちらです。

第七条
1 締約国は、月の探査及び利用を行う上で、月の環境の悪化をもたらすことによる又は環境外物質の持ち込みによる月の有害な汚染による又はその他の方法によるを問わず月の環境の既存の均衡の破壊を防止する措置をとるものとする。締約国はまた、地球外物質の持ち込みその他の方法による地球の環境への有害な影響を防止する措置をとるものとする。

(略)

基本的な枠組みを把握したところで、このクマムシ事件へのあてはめです。

まずは、このクマムシは、このミッションの担当だった、アーチ・ミッション財団の担当者(Nova Spivak)が、スペースIL社さえへもいわなかった、いわば、密航だったということです。

米国は打ち上げ国であり、ミッションを承認した国家でした。 ミッションはアメリカの会社であるSpaceXロケットで打ち上げられ、FAAは打ち上げをレビューしました。 ロケットの打ち上げ、ならびに飛行中および軌道上の活動については、米国が規制当局でした。

打ち上げのための米国政府のペイロードは二次ペイロードであり、S5という名前のGEOに向かう宇宙状況認識(SSA)宇宙船でした。

現在まで、それは国連に登録されていません。 この立ち上げへのこのような関与とパートナーシップは、米国の土壌から、米国の規制当局の承認を得て、このミッションが米国の国家活動であり、米国の国際的な責任であることを示しています。ベレシートミッションの国際的な責任は米国にあり、これらの活動は米国の国家責任のおよぶ活動です。

では、他の国は、どうでしょうか。
まず、一時的なペイロードは、インドネシアテレコムの衛星でした。ベレシートについていえば、イスラエルの会社であり、イスラエル・エアロスペース産業が建造し、イスラエルの非営利組織(スペースIL)が、運営者でした。その結果、アメリカの国家活動であると同時に、イスラエルの国家活動でもあると考えられています。

この結果、米国とイスラエルが国家として、このクマムシ事件についての責任を負うことになります。

すなわち、

米国およびイスラエルは、宇宙条約9条の有害な汚染の禁止の不遵守や、 他の国家の対応する利益に適切な配慮をなすべき義務の不遵守にたいして国際的に対応しうるものとなる

ということになります。

関連記事

  1. 続・宇宙-サイバーセキュリティ法の最後のフロンティア その3
  2. 宇宙法部会2018/12/21
  3. 「アルテミス合意」週内にも署名
  4. ロケット安全基準
  5. 続・宇宙-サイバーセキュリティ法の最後のフロンティア その6
  6. 米国における月資源の考え方
  7. 宇宙ドメインと国際法-McGillマニュアル(ルール編)翻訳
  8. 続・宇宙-サイバーセキュリティ法の最後のフロンティア その7
PAGE TOP